親権者からの子の引渡し請求・・・

親権者からの子の引渡し請求・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻し、長男、長女が生まれた。

妻は、スナックを経営し、妻、夫、子らは、その収入で生活していた。

妻は、自分が経営するスナックの男性客と不貞関係を持つようになり、これが夫に発覚したことから、妻は夫に対して離婚を申し出、妻が離婚届を提出して、協議離婚した。

なお、妻と夫は、子らの親権者を誰とするかを実質的に協議したことはなく、妻が離婚届の際に、自らを親権者として届出をした。

妻は、1人で家を出て、横浜市の実家に帰った。

妻は、夫宅を訪れ、子らを引き取ろうとしたが、長男が夫の住所地である山梨県に残りたいと言ったため、長女のみを引き取った。

妻は、長男の誕生日を祝うため1週間だけ、長男を横浜市に連れて行ったが、その後妻が、長男を夫のもとに帰さなかったことから夫と口論となり、妻は、子らを夫のもとに連れて行った。

妻は、夫に対し、子らの引渡しを求める調停申立をしたが、長女を横浜に連れて帰った。

夫妻は相互に子らと面接交渉することを認め、長男の小学校入学前に長男の養育について協議すること等の調停が成立した。

夫は、妻の了解を得て長女も夫宅に連れ帰った。

妻は、夫に対し、子らの引渡しを求める調停申立をなし、本件審判に移行した。

離婚の判例

①原審は、以下のように述べて、長男の引渡しを求める申立を却下し、長女の引渡しのみを認めた。

妻と夫との離婚後、ほぼ一貫して行なわれる夫による長男の養育が安定した状態にあり、かつ長男が再三にわたり、妻の下ではなく、夫の下で生活したいとの意向を表明していることからすれば、長男は未だ6歳ではあるけれども、その意向を尊重せず、長男を妻に引き離すのが相当であるのは、妻の下で養育されることが、夫の下で養育されるよりも、明らかに長男の福祉にかなうと認めるに足りる事情が存在することが必要であると解される。

この点、本件においては、妻と夫との間で、長男に対する愛情や監護意欲、経済的状況、物質的環境等の点で、現時点において明らかな優劣があるとは認められない。

本件においては、長男の意思と夫が長男を継続して養育監護しているとの事実を尊重し、長男が夫に養育されているとの状況を変化させないのが、現在の長男にとって最善の利益であるというべきである。

②抗告審は、以下のように述べて、長男に関する原判決を取消し、長男への妻への引渡しを認めた。

本件は、協議離婚において、未成年者らの親権者となった妻が、非親権者であって監護権者でもない夫に対して子の引渡しを求めるものであるところ、夫は長男を監護する権限を有するものではなく、夫には長男の引渡しを拒絶しえる法律上の根拠はないのであるから、子の福祉を実現する観点から、妻の本件申立が長男の福祉に反することが明らかな場合等の特段の事情が認められない限り、本件申立を正当として認容すべきものであると解される。

上記のとおり長男は、夫のもとでの生活を望んでおり、その意思には十分配慮する必要があるが、未だ小学校1年生で可塑性がある上、妻側が受入態勢を十分に整え、新たな生活環境に1日も早く適応できるよう支援し、種々配慮することによってこの問題を解決することは可能であると考えられる。

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子の引渡しの審判前の保全処分・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻し、長男、二男、三男が生まれた。

夫は、ガソリンスタンドを経営しており、妻は専業主婦である。

夫が女性従業員と旅行に出かけたことが発覚したことから、妻は離婚を決意し、当時医師から治療に専念する必要があると言われたことからやむなく、単身で実家に帰り、夫と別居した。

妻は、夫に対して婚姻費用分担調停と離婚調停申立をした。

しかし、夫は、協議離婚届に子らの親権者を夫と記載して、協議離婚の届出をした。

子らと妻との面接交渉が行なわれたが、その後は面接交渉は実現しなかった。

妻は、夫に対して離婚無効確認、夫の不貞行為等を理由とする離婚、子らの親権者を妻と定めること等を求める訴訟を提起した。

妻は、子らの引渡しを求める審判の申立をした。

そして、妻は、本案事件の審判前の保全処分として、子らの引渡しを求めた。

離婚の判例

①原審は、以下のように述べて、妻の申立を認めた。

現在夫の下で生活している子らは、母別居後の生活面に特には問題はなく、表面上は一応安定しているかに思える生活をしているが、父母である妻と夫が子らの前で不和となり、父が母に暴力を振るったりし、父が他の女性と付き合い、その女性を家に連れてくるなどの行為をさまざま見聞きしてきたものであり、これらの夫の言動が感受性豊かな年代の子らに与える影響は無視し得ないものがあり、これからの子らの成長過程にあって、心理的な環境の改善は極めて重要といえる。

子らの養育についての客観的、経済的環境の整備については、妻側、夫側ともさしたる差異がない状況であるから、こうした精神的、心理的環境の側面において、夫のもとでよりも妻のもとで監護養育したほうが一層子らの福祉に資し、妥当であるといえる。

さらに、妻と夫との身分関係の訴訟の進行状況、本件本案についての終局的行方等にはなお日時を要するとすると、その間日々の生活をしている子らの状況を現状のまま放置しておくことはその福祉に著しく反するから1日も早く、子らを夫のもとから妻のもとに引き渡すことが緊急の要請であるといえる。

②抗告審は、以下のように述べて、原審判を取消し、本件申立を却下した。

審判前の保全処分を認容するには、民事保全処分と同様に、本案の審判申立が認容される蓋然性と保全の必要性が要件となるところ、家事審判規則52条の2は、子の監護に関する審判前の保全処分に係る保全の必要性について、「強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するための必要があるとき」を定めている。

そして、子の引渡しを求める審判前の保全処分の場合は、子の福祉が害されているため、早急にその状態を解消する必要があるときや、本案の審判を待っていては、仮に本案で子の引渡しを命じる審判がされてもその目的を達することができないような場合がこれに当たり、具体的には、子に対する虐待、放任等が現になされている場合、子が相手方の監護が原因で発達遅滞や情緒不安を起している場合などが該当するものと解される。

子らは、現在、夫の下で一応安定した生活を送っていることが認められ、上記保全の必要性を肯定すべき切迫した事情を認めるに足りる疎明はないから、その余りの点について判断するまでもなく、本件審判前の保全処分の申立は理由がない。

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子の引渡しを求める家事審判・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻し、長男、二男、三男が生まれた。

夫は、ガソリンスタンドを経営しており、妻は専業主婦である。

夫が女性従業員と旅行に出かけたことが発覚したことから、妻は離婚を決意し、当時医師から治療に専念する必要があると言われたことからやむなく、単身で実家に帰り、夫と別居した。

妻は、夫に対して婚姻費用分担調停と離婚調停申立をした。

しかし、夫は、協議離婚届に子らの親権者を夫と記載して、協議離婚の届出をした。

子らと妻との面接交渉が行なわれたが、その後は面接交渉は実現しなかった。

妻は、夫に対して離婚無効確認、夫の不貞行為等を理由とする離婚、子らの親権者を妻と定めること等を求める訴訟を提起した。

妻は、子らの引渡しを求める審判の申立をした。

離婚の判例

①原審は、以下のように述べて、妻の申立を認めた。

②抗告審も、以下のように述べて、夫の抗告を棄却し、原審判を維持した。

戸籍の上では、夫と妻は協議離婚が成立しており、夫が子らの親権者とされており、妻は非親権者であるが、協議離婚の成立自体に疑義がある上、少なくとも子らの親権者の指定については、協議離婚届提出前に両者の間で協議が調うに至っていたとは認め難く、子らの親権については、未だ夫と妻が共同してこれを行使する状態にあるものとみる余地が十分にあるというべきである。

そして、本件記録によれば、夫が合意に反して面接交渉の実施に非協力的な態度を取り続けるため、合意に基づいて面接交渉の実施を求める妻との間で日程の調整をめぐって頻繁に紛争が生じ、そのため夫と妻の対立が更に悪化するという事態に陥っており、夫のこのような態度が早期に改善される見込みは少ないことが認められる。

このような父母の状況が子らの情緒の安定に影響を及ぼし、夫と妻の対立に巻き込まれ、両者の板ばさみになって両親に対する忠誠心の葛藤から情緒的安定を失い、その円満な人格形成及び心身の健全な発達に悪影響を及ぼすことが懸念される。

これに加えて、長男は中学2年生、二男は小学校5年生、長女は小学校3年生であり、いずれも人格形成にとって重要な時期にあることを考慮する必要がある。

そうすると、夫との面接交渉について柔軟に対応する意向を示している妻に監護させ、夫に面接交渉させることにより、子らの精神的負担を軽減し、父母双方との交流ができる監護環境を整え、もって子らの情緒の安定、心身の健全な発達を図ることが望ましいというべきである。

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