日本非居住の韓国人夫に対する離婚請求・・・

日本非居住の韓国人夫に対する離婚請求・・・

離婚の事案

妻は、もと日本人であったが、当時の中華民国上海市において朝鮮人夫と婚姻し、同市において同棲を続けた後、終戦と共に朝鮮に帰国し夫の家族と同居した。

妻は、慣習、環境の相違からその同居に堪えられず、夫の事実上の離婚の承諾をえて、日本に引揚げてきた。

以来夫から1回の音信もなく、その所在も不明である。

妻は、引き揚げから15年経過した後に、上記の事実は、韓国親族相続法840条5号の配偶者の生死が3年以上明らかでないとき及び同条6号の婚姻を継続し難い重大な事由があるときに該当するとして、夫に対して離婚を求める訴訟を、妻の住所地の高松地方裁判所丸亀支部で提起した。

離婚の判例

①一審は、以下のように述べて、妻の訴えを却下した。

外国人間の離婚訴訟については、原告がわが国に住所を有する場合でも、少なくとも被告がわが国に最後の住所を有したことをもってわが国の裁判所に裁判権を認める要件となすべきであって、わが国に渡来したことのない被告に対してまでわが国の裁判所に裁判権を認めることは被告に対して事実上応訴の途を封ずる結果となり不当であるというべきである。

本件において、妻の主張によれば、夫はわが国に渡来したことがないというのであるから、本件離婚訴訟については、わが国の裁判所には裁判権はないものといわなければならない。

②控訴審も、妻の控訴を棄却した。

③上告審は、以下のように述べて、原判決を破棄し、一審判決を取消し、本件を東京地方裁判所に移送した。

離婚の国際的裁判管轄権の有無を決定するにあたっても、被告の住所がわが国にあることを原則とすべきことは、訴訟手続き上の正義の要求にも合致し、また、いわゆる跛行婚の発生を避けることににもなり、相当に理由のあることではある。

跛行婚(はこうこん)とは、国際結婚の場合には一方の国で婚姻が成立していても一方の国では成立していない状態のことをいいます。

しかし、他面、原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合その他これに準ずる場合においても、いたずらにこの原則に膠着し、被告の住所がわが国になければ、原告の住所がわが国に存していても、なお、わが国に離婚の国際的裁判管轄が認められないとすることは、わが国に住所を有する外国人で、わが国の法律によっても離婚の請求権を有すべき者の身分関係に十分な保護を与えないこととなり、国際私法生活における正義公平の理念にもとる結果を招来することとなる。

本件離婚請求は妻が主張する前記事情によるものであり、しかも妻が昭和21年12月以降わが国に住所を有している以上、たとえ夫がわが国の最後の住所をも有しない者であっても、本件訴訟はわが国の裁判管轄権に属するものと解するを相当とする。

もっとも、本件訴訟がわが国の裁判管轄権に属するといっても、いかなる第一審裁判所の管轄に属するかは別個の問題であって、妻は原告の住所地の地方裁判所の管轄に属するものとして本訴を提起しているが、本訴は人事訴訟手続法1条3項、昭和23年最高裁判所規則第30号の定めるところにより、東京地方裁判所の管轄に専属すると解するのが相当である。

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日本居住の韓国人夫婦の子の親権者の指定・・・

離婚の事案

妻と夫は、いずれも大韓民国の国籍を有し日本に居住し、2人の子がいる。

妻は、夫から不当な待遇を受け、両者間の婚姻関係は破綻し、準拠法である大韓民法840条1項6号に定める「婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」にあたるとして、夫に対して離婚、子の親権者を妻と定めることを求める本件訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は、妻の離婚請求を認容したが、子の親権者については、以下のように述べて、親権者を指定しなかった。

大韓民国民法は、父母の離婚に伴う子の親権者に関してはすでに法定されているのみならず、同法は、その第837条において子の養育に関するものであれば、法院(裁判所)は当事者の請求により必要事項を定めることができると規定しているが、親権者指定に関しては、裁判所に対し離婚の判決においてこれを指定する権限を付与していないため、親権者を指定することはできないので、右言渡しはしない。

②控訴審は、妻の離婚請求を認容し、子の親権者についても以下のように述べて、妻の親権者と指定した。

離婚の場合の未成年者の子の親権者の指定は、離婚を契機として生ずる親子関係にほかならないから、法令第20条によるが、同条の定めるとことによると、親子間の法律関係は父の本国法によるとされるところ、大韓民国渉外私法第22条によると、「親子間の法律関係は父の本国法による」とあり、法令第29条による反致条項を適用する余地はない。

そうすると、本件離婚にともなう未成年者の子の親権者の指定の準拠実質法は、大韓民国民法にほかならないことになる。

大韓民国民法によると、離婚にともなう未成年者の子の親権者の指定に関しては、法律上自立的の父と定めることになっており、母は親権者に指定される余地はなく、本件の場合、いかに外国人間の離婚の問題とはいえ、父の本国法である大韓民国法に準拠すると、わが国ではすでに廃止された旧民法時代の親子関係が復活することになり、子の福祉についてみても、扶養能力のない父に子を扶養する親権者としての地位を認め、現在実際に扶養能力を示している母からその地位を奪うことになり、法令第30条にいわゆる公序良俗に反するものということができる。

そこで、わが国の民法819条第2項を適用し、妻を親権者と定める。

(離婚又は認知の場合の親権者)
民法第819条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
5 第1項、第3項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。

③上告審も、以下のように述べて、控訴審判決を支持し、上告を棄却した。

本件離婚にともなう未成年者の子の親権者の指定に関する準拠法である大韓民国民法909条によると、右指定に関しては法律上自動的に父に定まっており、母が親権者に指定される余地はないところ、本件の場合、大韓民国民法の右規定に準拠するときは、扶養能力のない父である夫に子を扶養する親権者としての地位を奪うことになって、親権者の指定は子の福祉を中心に考慮決定すべきものとするわが国の社会通念に反する結果をきたし、ひいてはわが国の公の秩序または善良の風俗に反するものと解するのが相当であり、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。

したがって、本件の場合、法令30条をにより、父の本国法である大韓民国民法を適用せず、わが民法819条2項を適用して、妻を親権者と定めた原審の判断はもとより正当である。

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イギリス人父と日本居住の子との面接交渉・・・

離婚の事案

イギリス人の夫と日本人の母は、婚姻し、東京都内で生活を始めた。

なお、夫には、妻との婚姻前に2度の婚姻暦がある。

長男が生まれた。

夫と妻は、一家で香港に転居したが、夫婦喧嘩が絶えず、長男を連れて日本に帰り、夫と別居した。

妻は、東京家庭裁判所に離婚調停の申立をなし、長男の親権者を妻と定めて調停離婚が成立した。

調停調書には、夫と長男との面接交渉の条項は特にもうけられていなかったが、妻が夫に対して面接交渉を求める旨の合意が事実上成立していた。

夫は、離婚後しばらくは長男と面接交渉を行なっていたが、夫が、妻の親友と交際したことがきっかけとなり、妻は夫と長男を合わせなくなった。

夫は、面接交渉を求める調停申立をなし、本件審判に移行した。

なお、夫は、ロンドンから東京に転居し、妻の親友と結婚した。

離婚の判例

裁判所は、次のように述べて、以下の審判を下した。

①主文

夫は、長男が高等学校を卒業するまで、長男が通学する学校の春期及び冬期の休暇の各期間中の1日を、同じく夏季の休暇の期間中の3日間を、それぞれ長男の所在する場所を訪問して長男と面接することができる。

夫は、長男が妻のもとを離れて夫と面接することを希望する場合には、妻の監護権を侵害しない範囲内で第1項に定める期間を、長男の希望に従う方法で面接することができる。

この場合は、妻は夫と長男との面接交渉に協力しなければならない。

特に、第1項に定めるもののうち、夏期の休暇の期間中の3日間を旅行する方法で面接する場合には、夫と妻とは旅行先及び日程につき十分協議するものとし、この場合の旅費その他の費用は夫の負担とする。

②未成年者の監護に関する問題については未成年者の住所地の裁判所に裁判管轄があるとするのが各国国際私法の原則と解されるところ、長男の母である妻はもちろんのこと、長男の父である夫は日本に住所を有し、長男も妻のもとに居住するものであるから、長男本人の監護に関する裁判については日本の裁判所が裁判権を有し、かつ、その住所地を管轄する当裁判所が管轄権を有していると解される。

そして、未成年者の監護に関する問題は、親子間の法律関係に属するものと解されるから、本件準拠法は法令20条により父の本国法によることになる。

ところが、父の本国法であるイギリスの国際私法原則によると、当事者の双方は一方が住所を有する地の法律を適用すべきものと解されるから、本件については法令29条により結局日本の法律が適用されることになる。

長男が現在日本の小学校に在校する児童であり、妻の長男の教育方針としてはおそらくここしばらくは日本において学校教育を受けさせるであろうこと、更に、長男が日本人と英国人との混血と一見して分かる風貌を有していることなどから、長男は日本の社会内にとどまらず、将来、より広く国際人として活躍し始めるかも知れないことは、妻が考えるとおりであること、仮にそうであるとすれば長男が日本の高等学校を卒業するころがその将来の生き方を決定する一つの転機となる時期であろうこと、現在、長男は英語の会話能力はないがその時期に至ればその能力の有無も判断できるであろうこと、その他諸般の事情を総合して判断すると、夫としては、長男と面接するにあたってイギリスまで連れて行きたい意向を有しているであろうが、当裁判所は、とりあえず、長男が日本の高等学校を卒業する時期までは日本においての面接交渉について定めることとし、それ以降の面接交渉については改めて当事者間において協議して定めるのを相当と判断するものである。
したがって、妻の夫に対する子ら未成年者3名の引渡し請求を認容すべきである。

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