単純承認・限定承認・放棄の判例・・・

単純承認・限定承認・放棄の判例・・・

申述人らの行為が法定単純承認事由に該当するとして相続放棄申述受理申立を却下した審判に対する即時抗告において、被保険者死亡の場合はその相続人に支払う旨の約款により支払われる死亡保険は、特段の事情のない限り、被保険者死亡時における相続人であるべき者の固有財産であるから、抗告人らによる死亡保険金の請求及び受領は、相続財産の処分に当たらないと解した事例があります。

申述人らの行為が法定単純承認事由に該当するとして相続放棄申述受理申立を却下した審判に対する即時抗告審において、抗告人らの固有財産である死亡保険金をもって行なった被相続人の相続債務の一部弁済行為は、相続財産の一部の処分に当たらないと解した事例があります。

相続財産の破産の制度は、相続財産による公平、平等な弁済を実現する手段にすぎず、免責の場合を除いては相続債務の性質を変化させるものではないから、破産法が相続財産破産の場合に相続財産と相続人の固有財産を分別したことから、直ちに破産手続終了後における債務相続と相続人の固有財産を分別したことから、直ちに破産手続終了後における債務相続の一般的効果を否定し、相続債権者らは相続人の固有財産に対し、責任追及することはできないと結論付けることはできないとして、相続財産に対し破産宣告がされた場合、被相続人の租税債務は相続を単純承認した相続人に承継されると解した事例があります。

相続財産に対して破産宣告がされた場合、単純承認した相続人は破産手続の中で弁済されなかった債務を自己の固有財産から弁済する責任を負います。

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単純承認の方式・・・

単純方式の方式について、特別の定めはありません。

相続人が相続財産の処分、熟慮期間の徒過、相続財産の隠匿等の行為をしたとき、又はしなかったとき、相続人は、単純承認をしたものとみなされます。

(単純承認の効力)
民法第920条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

(法定単純承認)
民法第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
1.相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
2.相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
3.相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

判例は、この規定を相続人の黙示の意思表示を擬制したものと解しますが、これには、相続人が限定承認又は放棄をしない場合に与えられる法定効果を定めたと解する学説があります。

(限定承認)
民法第922条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

(共同相続人の限定承認)
民法第923条 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

(限定承認の方式)
民法第924条 相続人は、限定承認をしようとするときは、第915条第1項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。

(相続の放棄の方式)
民法第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

(相続の放棄の効力)
民法第939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

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単純承認 相続財産の処分 ・・・

相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき、相続人は、単純承認をしたものとみなされます。

(法定単純承認)
民法第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
1.相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
2.相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
3.相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

この処分は限定承認・放棄前の行為をいいます。

また、処分には売却等の法律行為の外、建物の取り壊しなどの事実行為も含みます。

被相続人はその存命中自己の名義で独立して呉服類の行商をなし、売掛代金債権を有していたが、自己の借財が上告人に覚知されるや家出し、自殺したこと、上告人は被相続人の死亡による相続が開始されるや家庭裁判所に相続放棄の申述をなし、受理されたこと、上告人は相続開始後相続放棄申述の受理前に売掛代金債権中のA分を取り立てて収受領得したが、この相続債権の収受領得行為は民法921条本文にいう相続財産の一部を処分した場合に該当するから、上告人は右処分行為により右法条に基づき相続を単純承認したものとみなされるとした事例があります。

相続債務の弁済請求訴訟を提起された相続人が相続放棄の抗弁をしたところ、原告の「相続人は本件相続により建物賃借権を承継したことの確認別件訴訟を提起しているから相続を単純承認している」旨の再抗弁が認められた事例があります。

この訴訟で建物賃借権確認訴訟は保存行為である旨の相続人の主張は認められませんでした。

また、その後、この別件訴訟を取下げたとしても、その処分行為性は失われないとされます。

相続人が被相続人の上着とズボン各1着を元使用人に与えた場合、これらは使用に堪えないものではないにしても、もはや交換価値はないというべきであり、その経済的価値は皆無とはいえないとしても、もはや交換価値はないというべきであり、その経済的価値は皆無といえないとしても、いわゆる一般的経済的価値あるものとはいえないから民法921条1号の規定の趣旨に照らせばかようなものの処分をもってはいまだ単純承認とみなされるという効果を与えるにたりないと解した事例があります。

預貯金など被相続人の財産がある場合、相続債務の存在が不明なまま遺族がこれを利用して、仏壇や墓石を購入することは、自然な行動であり、本件の場合、これらは社会的にみて不相当に高額のものと断定できない上、購入費用の不足額を遺族が自己負担していることなどからすると、「相続財産の処分」に当たるとは、断定できないとして、相続放棄の申述を却下した原審判を取消して、申述を受理した事例があります。

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単純承認 熟慮期間の徒過・・・

相続人が熟慮期間内に限定承認又は放棄をしなかったとき、相続人は、単純承認したものとみなされます。

(法定単純承認)
民法第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
1.相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
2.相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
3.相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

共同相続人乙は、共同相続人甲が相続させる公正証書遺言により被相続人の遺産全部を相続するので、相続放棄もせず、遺留分減殺請求もせず、また、遺言に記載されない土地は遺産分割協議書により甲に取得させたが、本件債務につき催告を受けたので相続放棄を申述した事案で、認定事実によれば、抗告人は被相続人が死亡した時点でその死亡した事実及び抗告人が被相続人の相続人であることを知ったが、被相続人の本件遺言があるため、自らは被相続人の積極及び消極の財産を全く承継することがないと信じたものであるところ、本件遺言の内容、遺言執行者**銀行の抗告人らに対する報告内容に照らし、抗告人がこのように信じたことについて相当な理由があったというべきであり、抗告人において被相続人の相続開始後所定の熟慮期間内に単純承認若しくは限定承認又は放棄を選択することはおよそ期待できなかったものであり、被相続人の死亡の事実を知ったことによっては、いまだ自己のために相続があったことを知ったものとはいえないというべきであり、そのすると抗告人が相続開始時において本件債務等の相続財産が存在する事を知っていたことをもって直ちに同熟慮期間を経過した不適法なものとすることは相当ではないといわざるを得ず、抗告人は平成**年**月**日に至って住宅金融公庫から催告書の送付を受けて初めて、本件債務を相続すべき立場にあることを知ったのであり、上記認定の経過に照らすと、それ以前にそのことを知らなかったことについては相当な理由があるから、同日から所定の熟慮期間内にされた本件申述は適法なものであると解し、原審判を取消して、差し戻した事例があります。

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