放火が疑われる場合の火災保険金請求訴訟における主張立証責任・・・

自分で会社設立しますか?
ご自分で会社を設立するならまずはクリック!!

放火が疑われる場合の火災保険金請求訴訟における主張立証責任・・・

最判平成16年12月13日(保険金請求事件)
民集58巻9号2419頁、判時1882号153頁、判夕1173号161頁

<事実の概要>

Xは、自己所有地上に建物を所有し、本件建物において、長男及び長女と共に居住し、本件建物を店舗、倉庫等として使用していた。

Xは、平成11年12月2日、Y保険会社との間で、保険の目的を本件建物、家財一式及び商品・製品等一式、保険金額を建物2億円、家財一式7000万円、商品・製品等一式2億円、保険料を48万6300円とする店舗総合保険契約を締結し、保険料を支払った。

本件保険契約に適用される保険約款(以下「本件約款」という)1条1項には、保険金を支払う場合として、火災によって保険の目的について生じた損害に対して損害保険金を支払う旨が規定され、また、同2条1項(1)には、保険金を支払わない場合として、保険契約者、被保険者又はこれらの者の法定代理人の故意もしくは重大な過失又は法令違反によって生じた損害に対しては保険金を支払わない旨が規定されている。

平成11年12月7日午前11時頃、本件建物内で火災が発生し、本件建物4階の居室20平方メートルを焼損し、他の階の各室にも消化活動による水損等の被害が生じたほか、本件建物内に保管されていたX及びその家族の所有する家財、Xの経営する店舗の商品等についても、一部に焼損又は水損等の被害が発生した。

本件は、XがYに対し、本件火災により損害を被ったと主張して、本件保険契約に基づき、火災保険金及びその遅延損害金の支払を求めるものである。

原審は、放火であることの立証責任はYにあるとしたうえで、出火原因を不明として請求認容。

Yは上告した。

<判決理由>上告棄却。

「商法は、火災によって生じた損害はその火災の原因いかんを問わず保険者が填補する責任を負い、保険契約者又は被保険者の悪意又は重大な過失によって生じた損害は保険者が填補責任を負わない旨お定めており(商法665条、641条)、火災発生の偶然性いかんを問わず火災の発生によって損害が生じたことを火災保険金請求権の成立要件とするとともに、保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって損害が生じたことを免責事由としたものと解される。

火災保険契約は、火災によって被保険者の被る損害が甚大なものとなり、時に生活の基盤すら失われることがあるため、速やかに損害が填補される必要があることから締結されるものである。

さらに、一般に、火災によって保険の目的とされた財産を失った被保険者が火災の原因を証明することは困難でもある。

商法は、これらの点に鑑みて、保険金の請求者(被保険者)が火災の発生によって損害を被ったことさえ立証すれば、火災発生が偶然のものであることを立証しなくても、保険金の支払を受けられることとする趣旨のものと解される。

このような法の趣旨及び・・・本件約款の規定に照らせば、本件約款は、火災の発生により損害が生じたことを火災保険金請求権の成立要件とし、同損害が保険契約者、被保険者又はこれらの者の法定代理人の故意又は重大な過失によるものであることを免責事由としたものと解するのが相当である。

したがって、本件約款に基づき保険者に対して火災保険金の支払を請求する者は、火災発生が偶然のものであることを主張、立証すべき責任を負わないものと解すべきである。

これと結論において同旨をいう原審の判断は正当である。

本件と事案を異にし、本件に適切でない。」

スポンサードリンク

事故発生通知義務と約款規定・・・

最判昭和62年2月20日(保険金請求事件)
民集41巻1号159頁、判時1227号134頁、判夕633号248頁

<事実の概要>

A有限会社はY保険会社と自家用自動車保険契約を締結していた。

Aの従業員であるBは、A保有の自動車でCを轢き殺した。

これによりAは、Cの妻子であるX1、X2、X3に対し、自動車損害賠償保障法3条による損害賠償責任を負うことが、X1らとAとの間の別訴により確定していた。

本件保険約款は、保険契約者又は被保険者が事故の発生を知ったときには、事故発生の日時、場所、事故の状況等を遅滞なく書面で保険者に対して通知すべきであると規定し、また、対人事故の特則として、保険者がこの事故通知を受けずに事故発生の日から60日を経過したときは、その事故にかかわる損害を填補しないが、保険契約者等が過失なしに事故の発生を知らなかったとき、または、やむを得ない事由によりこの期間内に通知できなかったときはこの限りではない旨が定められていた。

Aは事故発生の約1年8ヶ月後にYに通知した。

X1らは、AのYに対する保険金請求権を債権者代位権に基づいて行使する訴訟を提起した。

Yは上記通知義務の違反による免責などを主張した。

原審判決は、通知義務の趣旨からして、通知の義務違反の場合でも、Yの適正な填補額の決定に支障がない限りYは免責されることはなく、本件では支障がないとしてYの免責を認めなかった。

Yは上告した。

<判決理由>上告棄却。

上記約款「規定をもって、対人事故の場合に右の期間内に事故通知がされなかったときには、右例外に当らない限り、常に保険者が損害の填補責任を免れうることを定めたものと解するのは相当ではなく、保険者が損害の填補責任を免れうることを定めたものと解するのは相当でなく、保険者が損害の填補責任免れうる範囲の点についても、また、事項通知義務が懈怠されたことにより生じる法律効果の点についても、右各規定が保険契約者及び被保険者に対して事故通知義務を課している目的及び右義務が法的性質からくる制限が自ら存するものというべきであるところ、右各規定が、保険契約者又は被保険者に対して事故通知義務を課している直接の目的は、保険者が、早期に保険事項を知ることによって損害の発生を最小限度にとどめるために必要な指示を保険契約者又は被保険者等に与える等の善後措置を速やかに講じることができるようにするとともに、早期に事故状況・原因の調査、損害の費目・額の調査等を行なうことにより損害の填補責任の有無及び適正な填補額を決定することができるようにすることにあり、また、右事故通知義務は保険契約上の債務と解すべきであるから、保険契約者又は被保険者が保険金を詐取し又は保険者の事故発生の事情の調査、損害填補責任の有無の調査もしくは填補額の確定を妨げる目的等保険契約における信義誠実の原則上許されない目的のもとに事故通知をしなかった場合においては保険者は損害の填補責任を免れうるものというべきであるが、そうでない場合においては、保険者が前記の期間内に事故通知を受けなかったことにより損害の填補責任を免れるのは、事故通知を受けなかったことにより損害を被ったときにおいて、これにより取得する損害賠償請求権の限度においてであるというべきであり」、上記規定もかかる趣旨を定めた規定にとどまるものと解するのが相当である。

本件事故は即死に近い事故であって、被保険者等が損害の拡大をくいとめる余地はほとんどないとうえ、事故に基づく損害額はX1らとAとの間の別件訴訟の確定判決により適正に算定されており、また、Yは、原審において、A及び被保険者が前示のような目的のもとに本件事故につき通知しなかったこと、また、本件事故についての通知義務の懈怠により損害を被ったことについても主張・立証していなかったところであるから、Yは、右事故通知義務の懈怠を理由として、本件事故による損害についての填補責任を免れない。

スポンサードリンク

所得補償保険と請求権代位・・・

最判平成元年1月19日(損害賠償請求事件)
判時1302号144頁、判夕690号116頁、金判814号3頁

<事実の概要>

X1、X2は自動車を運転中にY1運転のトラックに追突され、障害を受けた。

X1はA保険会社の所得填補保険に加入しており、Aは就業不能に対してX1に保険金1442万円を支払った。

X1らは、Y1とその使用者であるY2株式会社に対して損害賠償を請求する本件訴えを提起した。

X1が主張する損害には、事故による休業損害も含まれていた。

Y1らは、X1はAから所得補償保険金の支払を受けており、所得補償保険は損害保険であるから、商法662条により支払われた保険金の額を限度としてX1はY1らに対する損害賠償請求権を失っており、休業損害額からこの受領した保険金の額を控除するべきであるなどと主張した。

第1審では、Y1らの損害賠償責任は認められたが、X1につき休業損害額からの保険金相当額の控除が認められた。

X1のみ控訴。

原審判決では、所得補償保険は損害保険の一種と解されるので、商法662条が当然適用されるとして、支払保険金額は休業損害1392万6816円を上回るので、X1は休業損害賠償金全額をもはや請求することはできないとされた。

X1は上告した。

<判決理由>上告棄却。

「本件に適用される所得補償保険普通保険約款には、保険者代位の規定はないが、(1)被保険者が傷害又は疾病を被り、そのために就業不能になったときに、被保険者が被る損失について保険金が支払われるものである(1条)、(2)保険金の額は、就業不能期間1ヶ月に付き、保険証券記載の金額あるいは平均月間所得額の小さい方である(5条2項)、(3)原因及び時を異にして発生した身体障害による就業不能期間が重複する場合、その重複する期間については重ねて保険金を支払わない(7条)、(4)重複して所得補償保険契約を締結してあり、保険金の支払われる就業不能期間が重複し、かつ、保険金の合算額が平均月間所得額を超える場合には、保険金を按分して支払う(27条)、(5)約款に規定しない事項については日本国の法令に準拠する(32条)との趣旨の規定があるというのであるから、本件所得補償保険は、被保険者の傷害又は疾病そのものではなく、被保険者の傷害又は疾病のために発生した就業不能という保険事故により被った実際の損害を保険証券記載の金額を限度として填補することを目的とした損害保険の一種というべきであり、被保険者が第三者の不法行為によって傷害を被り就業不能となった場合において、所得補償保険金を支払った保険者は、商法662条1項の規定により、その支払った保険金の限度において被保険者が第三者に対して有する休業損害の賠償請求権を取得する結果、被保険者は保険者から支払を受けた保険金の限度で右損害賠償請求権を喪失するものと解するのが相当である。

保険会社が取得した被保険者の第三者に対する損害賠償請求権を行使しない実情にあったとしても、右の判断を左右するに足りるものではない。」

スポンサードリンク

被保険者の運送人に対する損害賠償請求権の放棄・・・

最判昭和43年7月11日(損害賠償請求事件)
民集22巻7号1489頁、判時530号70頁、判夕225号91頁

<事実の概要>

運送会社であるY株式会社は、A株式会社から研磨機の運送の委託を受けた。

Yは、運送する機械類が高価品であるのに対し、会社の資本金が少なく、運送中の事故によって発生する損害の賠償能力に欠けるものであったところから、運送の引受に当り、荷主の申し出た運送品の価額を保険価額及び保険金額としてB保険会社と損害保険契約を締結することの承諾を荷主から得た上で、Yが保険契約者となり荷主を被保険者としてBと損害保険契約を締結し、運送中の事故による損害は保険金により填補し、Yは荷主に対して損害賠償責任を負担しないこととしていた。

本件研磨機の運送に当って、YとAの間で、研磨機の価額を400万円と見積り、これを保険価額及び保険金額として損害保険契約を締結することの合意が成立し、YはBと、Aを被保険者とし、保険金額を400万円とする損害保険契約を締結した。

AはYに無断で、自己を被保険者とし、本件研磨機を目的物とする、保険金額100万円の運送保険契約をX保険会社と締結した。

運送中の事故により研磨機が大破し、Xは500万円の価額の本件研磨機につき約416万円の損害が生じたとして、按分比例により保険金約83万円をAに支払った。

Xは、保険金支払により、AがYに対して有する損害賠償請求権を商法662条に基づき支払保険金額の限度で代位取得したとして、Yに損害賠償金の支払いを求めた。

原審判決では、Aは運送品の価額400万円を保険価額及び保険金額としてYが締結する損害保険契約の利益に与る旨の意思表示をしたものであり、これによりAはYに対する一切の損害賠償請求権を予め放棄したとされ、Xの請求は認められなかった。

Xは上告した。

<判決理由>破棄差戻し。

仮に原審の認定のように、AがYに運送を委託するに当り、趣旨を了承した上で、Yに対し、運送保険契約を締結するように申し出て、その保険契約の利益に与かる旨の意思表示をしたとしても、「そのことだけから、直ちに、AがYに対し、右研磨機の運送中の事故によって発生することのあるべき一切の損害の賠償請求権を予め放棄する旨の意思表示をしたものと解釈することは困難である。

けだし、運送保険契約の被保険者は、その保険者から保険金の支払を受ける前においては、商法662条に規定するいわゆる保険者代位の対象となる被保険者の運送人に対する損害賠償請求権を放棄することも可能であり、かつ、自由であるが、もし右被保険者が右保険者から保険金の支払を受ける前に右損害賠償請求権を放棄した場合には、保険者は、右法規がなければ商法の右規定により被保険者に代位して運送人に対して取得することのできた右損害賠償請求権の全額の限度において、保険金の支払の義務を免れるものと解するのが相当であるところ、もし、原判示のように、AがYに右研磨機の運送を委託した際、Yに対し、右研磨機の運送中の事故に関する運送保険契約にもとづく保険金の支払の義務を全く免れることになり、したがって、AはYから右損害の賠償を受けることができなくなるのはもちろん、Bからも右損害を填補すべき保険金の支払を受けることができず、また、仮にAがその後すでにBから保険金の支払を受けているとしても、これを返還しなければならないことになり、結局、右損害はその全部を、最終的に、A自身において負担しなければならないという、Aにとっては、極めて不利益かつ不都合な結果が生じることになるわけであって、Aがそのような不利益かつ不都合な結果を甘受して、右損害の賠償請求権を予め放棄する旨の意思表示をするということは、経験則上、極めて特種異例の事象に属し、よほど特段の事情のない限り、生起し得ないことといわなければならないからである。」

仮にAが一切の損害賠償請求権をあらかじめ放棄すれば、前記のような極めて不利益な結果となることを知らないで、「Yに対し、右研磨機の運送中の事故によって発生することのあるべき損害については、YがBとの間に締結する運送保険契約に基づいて支払われる保険金のみをもって填補する旨の意思表示をしたとしても、それは、たかだか、Aが少なくともBからの右保険契約に基づく保険金の支払だけは確定的に受けうることを条件にして、右保険金の金額を超える損害部分の賠償請求権のみを放棄する旨の意思表示をしたにすぎないと解すべきであろう。」

スポンサードリンク