相続放棄却下の抗告許可申立・・・

相続放棄却下の抗告許可申立・・・

高等裁判所がした相続放棄の申述受理却下決定に対しては、特別抗告の場合のほか、その高等裁判所が民事訴訟法337条2項の規定により許可したときに限り、最高裁判所に特に抗告をすることができます。

(特別抗告)
民事訴訟法第336条 地方裁判所及び簡易裁判所の決定及び命令で不服を申し立てることができないもの並びに高等裁判所の決定及び命令に対しては、その裁判に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、最高裁判所に特に抗告をすることができる。
2 前項の抗告は、裁判の告知を受けた日から5日の不変期間内にしなければならない。
3 第1項の抗告及びこれに関する訴訟手続には、その性質に反しない限り、第327条第1項の上告及びその上告審の訴訟手続に関する規定並びに第334条第2項の規定を準用する。

(許可抗告)
民事訴訟法第337条 高等裁判所の決定及び命令(第330条の抗告及び次項の申立てについての決定及び命令を除く。)に対しては、前条第1項の規定による場合のほか、その高等裁判所が次項の規定により許可したときに限り、最高裁判所に特に抗告をすることができる。ただし、その裁判が地方裁判所の裁判であるとした場合に抗告をすることができるものであるときに限る。
2 前項の高等裁判所は、同項の裁判について、最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは抗告裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある場合その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる場合には、申立てにより、決定で、抗告を許可しなければならない。
3 前項の申立てにおいては、前条第1項に規定する事由を理由とすることはできない。
4 第2項の規定による許可があった場合には、第1項の抗告があったものとみなす。
5 最高裁判所は、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるときは、原裁判を破棄することができる。
6 第313条、第315条及び前条第2項の規定は第2項の申立てについて、第318条第3項の規定は第2項の規定による許可をする場合について、同条第4項後段及び前条第3項の規定は第2項の規定による許可があった場合について準用する。

高等裁判所は、最高裁判所の判例と相反する判断がある場合その他法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる場合には、申立により、決定で、抗告を許可します。

高等裁判所がした熟慮期間を争点とする相続放棄の申述受理却下決定に対して、その当否を許可抗告により、最高裁判所の判断を求めることができます。

①申立期間

抗告許可の申立は、裁判の告知を受けた日から5日の不変期間内にしなければなりません。

②許可の手続

抗告許可申立に理由があるときは、決定で、抗告を許可します。

高等裁判所は、抗告許可をする場合、抗告許可申立の理由中に重要でないと認めるものがあるときは、これを排除することができます。

この場合、抗告許可決定において、排除するものを明らかにしなければなりません。

抗告許可があった場合、民事訴訟法337条6項、318条に規定により排除されたもの以外のものを許可抗告の理由とみなされます。

抗告許可申立においては、特別抗告の事由を理由とすることはできません。

(上告受理の申立て)
民事訴訟法第318条 上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。
2 前項の申立て(以下「上告受理の申立て」という。)においては、第312条第1項及び第2項に規定する事由を理由とすることができない。
3 第1項の場合において、最高裁判所は、上告受理の申立ての理由中に重要でないと認めるものがあるときは、これを排除することができる。
4 第1項の決定があった場合には、上告があったものとみなす。この場合においては、第320条の規定の適用については、上告受理の申立ての理由中前項の規定により排除されたもの以外のものを上告の理由とみなす。
5 第313条から第315条まで及び第316条第1項の規定は、上告受理の申立てについて準用する。

民事訴訟法337条2項の規定による許可があった場合には同条1項の抗告があったものとみなされます。

抗告許可があった場合には、事件は最高裁判所に送付されます。

最高裁判所に送付された抗告事件には、特別抗告の提起に関する手続が準用されています。

この場合、調査の範囲の規定の適用については、上告受理の申立の理由中民事訴訟法318条3項の規定により排除された場合の調査の範囲に関する同条4項後段の規定が準用されています。

最高裁判所は、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるときは、原裁判を破棄することができます。

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相続放棄者の財産管理義務・・・

相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その管理を継続しなければならない義務があります。

(相続の放棄をした者による管理)
民法第940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
2 第645条、第646条、第650条第1項及び第2項並びに第918条第2項及び第3項の規定は、前項の場合について準用する。

「自己の財産における」とは、「固有財産における」と同様の意味と解されています。

(限定承認者による管理)
民法第926条 限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。
2 第645条、第646条、第650条第1項及び第2項並びに第918条第2項及び第3項の規定は、前項の場合について準用する。

相続放棄者は、相続開始の時から相続人とならなかったことになりますが、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めるまでの空白状態を生ずるまで、その間、相続人、相続債権者、受遺者などの利害関係人に利益を害することのないよう、熟慮期間に引き続いて管理を継続する義務を負います。

相続財産を管理してしていた共同相続人が放棄した場合も、その者は、他の共同相続人が相続財産の管理を始めるまでの間、同様の義務を負います。

放棄者の管理行為は、保存行為、利用行為、改良行為をなしうるに止まり、もし義務を怠って相続財産に損害を生じたときは、その賠償をする責任を負います。

被相続人が生前手形債務の支払に代えて自己所有の不動産権を譲渡してその移転登記が未了の場合、相続放棄者は譲受人の所有権移転登記請求には応訴し、防御することも管理事務に属するとして、原告の請求を認め所有権移転登記手続きを命じた事例があります。

相続放棄者の財産管理には、民法の委任に関する規定の準用があります。

その結果、相続放棄者は、委任者に対して、相続財産の管理状況の報告義務、相続財産の引渡義務を負い、また、管理費用を利息付で請求することができ、管理に際して債務を負担したときは、弁済又は担保の供与を請求することができます。

この場合、委任者は相続人ないし相続財産法人と解されます。

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相続放棄の財産保存・管理処分の申立 ・・・

相続放棄者が相続財産の管理をすることができなかったり、その管理が不適当だったりして、相続財産の価値を減ずるおそれが生じた場合、家庭裁判所は、利害関係人や検察官の申立により、いつでも相続財産の保存に必要な処分を命ずることができます。

(相続の放棄をした者による管理)
民法第940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
2 第645条、第646条、第650条第1項及び第2項並びに第918条第2項及び第3項の規定は、前項の場合について準用する。

(相続財産の管理)
民法第918条 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
2 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
3 第27条から第29条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。

民法940条2項に基づく相続財産の保存・管理処分の申立は、甲類審判事項です。

①申立権者

利害関係人又は検察官です。

②管轄

相続開始地の家庭裁判所です。

③添付書類

申立人・被相続人・相続人及び管理人候補者の戸籍謄本及び住民票、ほかに申立人の利害関係を証明する資料など。

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相続放棄の取消し・・・

相続放棄の申述が家庭裁判所によって受理されて相続放棄の効力を生ずると他の相続人や第三者の地位を不安定にしないために、その撤回は許されないのが原則です。

次の場合には、一定の期間内に相続放棄をした者から、その取消しを家庭裁判所に申述することが認められています。

(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
民法第919条 相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない。
2 前項の規定は、第1編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
3 前項の取消権は、追認をすることができる時から6箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から10年を経過したときも、同様とする。
4 第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

①総則編の規定による取消事由は、次になります。

未成年者が法定代理人の同意を得ないでした場合

成年被後見人本人がした場合

被保佐人が保佐人の同意又はこれに代わる家庭裁判所の許可を得ないでした場合

詐欺又は強迫によってした場合

②親族編の規定による取消事由は、次になります。

後見人が被後見人に代わって民法13条1項に掲げる行為をし、又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、後見監督人があるときは、その同意を得なければなりません。

(保佐人の同意を要する行為等)
民法第13条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
1.元本を領収し、又は利用すること。
2.借財又は保証をすること。
3.不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
4.訴訟行為をすること。
5.贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成15年法律第138号)第2条第1項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
6.相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
7.贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
8.新築、改築、増築又は大修繕をすること。
9.第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。
2 家庭裁判所は、第11条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
3 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
4 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

相続の放棄はこれに該当します。

後見人が民法864条の規定に違反して又は同意を与えた相続の放棄は、被後見人又は後見人が取消すことができます。

(後見監督人の同意を要する行為)
民法第864条 後見人が、被後見人に代わって営業若しくは第13条第1項各号に掲げる行為をし、又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。ただし、同項第1号に掲げる元本の領収については、この限りでない。

取り消しについては、民法121条から126条までの規定が準用されます。

(取消しの効果)
民法第121条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

(取り消すことができる行為の追認)
民法第122条 取り消すことができる行為は、第120条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。ただし、追認によって第三者の権利を害することはできない。

(取消し及び追認の方法)
民法第123条 取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その取消し又は追認は、相手方に対する意思表示によってする。

(追認の要件)
民法第124条 追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にしなければ、その効力を生じない。
2 成年被後見人は、行為能力者となった後にその行為を了知したときは、その了知をした後でなければ、追認をすることができない。
3 前2項の規定は、法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をする場合には、適用しない。

(法定追認)
民法第125条 前条の規定により追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。
1.全部又は一部の履行
2.履行の請求
3.更改
4.担保の供与
5.取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
6.強制執行

(取消権の期間の制限)
民法第126条 取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

未成年後見人が未成年被後見人に代わって親権を行なう場合、民法864条の規定が準用されます。

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