遺産分割の遡及効・・・
遺産分割は、相続開始の時に遡って効力を生じます。
しかし、相続が開始してから遺産分割までの間において、相続人から遺産の共有持分を譲り受けたり、抵当権の設定を受けたりした者がある場合、それらの者の権利を害することはできません。
(遺産の分割の効力)
民法第909条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
遺産が共有関係存続中に共同相続人全員が遺産である不動産に抵当権を設定し、その登記を経ないうちにこれを分割し、1人の相続人の単独所有とした場合には、右不動産の遡及効は制限され、右抵当権者に関する限りは遺産の共有関係はなお存続するものとみなされ、共同相続人は抵当権設定登記をなす義務を負い、共同相続人の1人がその共有持分を譲渡し、又はこれに差押を受けたのち遺産分割をした場合も同様であり、このような場合には、遺産分割後にもなお遺産の共有関係が相対的に存続するとされます。
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共同相続人の担保責任・・・
遺産分割によって各共同相続人が負う担保責任については、民法911条から913条にその定めがあります。
(共同相続人間の担保責任)
民法第911条 各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。
(遺産の分割によって受けた債権についての担保責任)
民法第912条 各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。
2 弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。
(資力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担)
民法第913条 担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力のある者が、それぞれその相続分に応じて分担する。ただし、求償者に過失があるときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができない。
各相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負います。
共同相続人は「売主と同じ」担保責任を負いますから、代金の減額、解除、損害賠償がその内容となります。
既に遺産に属さなくなった不動産を遺産分割の対象とした審判が確定したときは、審判により当該不動産を取得するものとされた相続人Aは、他の共同相続人に対して民法911条、563条3項により損害賠償を請求することができ、この場合、審判時に相続人Aが右事実を知っていたとしても、審判は家庭裁判所が行なうものであるから、右相続人が同法563条にいう「善意」でないとしてその損害賠償請求権の取得を否定されることはないとした事例があります。
(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)
民法第563条 売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の場合において、残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は、契約の解除をすることができる。
3 代金減額の請求又は契約の解除は、善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。
確定判決により、遺産分割審判の対象物件の一部が遺産でないとされた場合、特段の事情のない限り、遺産でないとされた物件についての前の審判による分割の効力のみが否定され、その余りの物件についての分割は有効であると解すべきであり、本件では、特段の事情はないとして、遺産分割審判の無効を理由とする再分割申立を却下した事例があります。
この場合、遺産でないとされた物件を取得するとされた相続人は、民法911条に基づき、他の相続人に対し、その相続分に応じた担保責任を求めることになると解しています。
民法563条の権利は、権利者が善意の時は事実を知った時から、悪意のときは契約の時から1年以内に行使しなければなりません。
民法第564条 前条の規定による権利は、買主が善意であったときは事実を知った時から、悪意であったときは契約の時から、それぞれ1年以内に行使しなければならない。
遺産分割審判の民法911条、564条の除斥期間は、債権者が既にその財産が売却されたため相続人において取得できないこと、それを債権者に取得させる家庭裁判所の審判がされたこと、その審判が確定したことの3つを知った時から進行するとした事例があります。
瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の適用があり、この消滅時効は、買主が売買の目的物の引渡を受けた時から進行します。
控訴人ら各自は、損害額に被控訴人ら各自の具体的相続分の全体に対する割合を乗じた額を被控訴人ら各自に請求できることになるところ、その額は控訴人らの被控訴人らに対する請求額を上回っているとして請求を認めた事例があります。
民法911条から913条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは適用されません。
(遺言による担保責任の定め)
民法第914条 前3条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、適用しない。
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遺産分割協議書の作成の必要性・・・
遺産分割の協議が成立したとき、必ずしも、遺産分割協議書を作成することを要しません。
共同相続人の間で、法定相続分の割合で遺産を分割する趣旨の合意が黙示的に成立し、遺産分割の協議が調っていたことを認めた事例があります。
しかし、遺産分割協議書を作成しておくと、合意が成立したことを証明する有力な資料となります。
相続人の指印のある「覚書」が遺産分割協議として真正に成立したことの確認を求めた訴えが却下された事例があります。
協議書を作成する場合には、その合意の内容を具体的かつ正確に記載するとともに、その真正を担保するために、当事者がそれぞれ署名又は記名し、印鑑登録をしたいわゆる実印を用いて押印します。
遺産分割協議により被相続人名義の不動産の所有権を取得した共同相続人の1人は単独で相続登記を申請することができますが、その登記申請書には、他の共同相続人の印鑑証明書を添付しなくてはなりません。
他の共同相続人が印鑑証明書の交付を拒んでいる場合にはこれに対して相続による所有権移転登記手続を求めることができこの判決を添付して相続登記を申請します。
数次相続における亡き甲から亡き乙への所有権移転を証明する唯一の資料がその記載内容から遺産分割協議書である場合、亡き甲の相続人と亡き乙の相続人との間にはこの協議書の成立の真否について確認の利益があり、相続登記をするのに必要な協議をした他の相続人の印鑑証明書を得られないときは、これに代えて、遺産分割協議が真正に成立したことを確認する判決を添付して相続登記申請をすることができます。
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遺産分割協議の黙示的成立・・・
遺産分割協議には方式について格別の定めがありませんので、「相続分のないことの証明書」を交付したことにより、その成立が認められることがあります。
相続分のないことの証明書とは、法定相続人の中に、亡くなった被相続人から遺贈を受けたり、生前に、結婚、養子縁組や生計のために贈与を受けていた場合、受けた価額が法定相続分の価額に等しいか、または、これを超えるときは、これを受けた相続人が相続分を受けることができない、という場合の証明書です。
この証明書に、該当する相続人が署名、実印を押印し、印鑑証明書を付けます。
相続開始後30年近い年月を経ている場合、少なくとも暗黙のうちにこれを通常の共有にするという方法で分割するという相続人全員の意思の合致があったと推認できるとして、遺産分割協議の黙示的成立を認めて共有物分割をした事例があります。
30年以上も前に共同相続人Aが単独申請した相続登記は法定相続分によること、そのことを共同相続人BがAから聞かされた際にも、自ら何らかの意見を述べたり、また他の相続人に話し、そこから問題化したりすることもなかったこと、法定相続分による相続登記された他の土地が他に売却された際にも、本件土地を含め相続分が相続人間で問題化されたことはなかったこと、被相続人の遺産の分割について共同相続人間で紛争が生じ始めたのは3年前にAが死亡して被相続人の相続人がBだけになった後であることからみて、本件土地については共同相続人Cが死亡した頃までに、相続人の間で、法定相続分の割合で遺産を分割する趣旨の合意が黙示的に成立して遺産分割の協議が調っていたと認められた事例があります。
「相続分のないことの証明書」を交付しても遺産分割協議の黙示的成立が認められなかった事例もあります。
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