婚約なしの肉体関係で妊娠の慰謝料・・・
婚約をしたのに正当な事由なしに婚約を解消されたときは、当然に慰謝料を相手方に対し請求することができます。
しかし、男女間に婚約に至らない状態で肉体関係があり、妊娠してしまった場合に、女性の方から慰謝料請求できるかどうかが問題となります。
婚約をしていない以上、婚約の不履行とはなりませんが、男性が「結婚しよう」という趣旨の言葉を言っているような場合には、女性としてはそれを信じて男性から騙された結果、そのような状態になったわけですから、貞操侵害による不法行為があったとして、慰謝料を請求することはできそうです。
男女間の肉体関係が遊び半分であるようなものであれば、お互いの合意によるものであり、自業自得とされ法の保護を受ける範囲外となり、慰謝料は認められないとされます。
事例として、太郎は妻と同居していますが不仲であったので、職場の部下である花子に対し、結婚する意思がないのに、妻と別れて花子と結婚するといってだましたため、花子は太郎の言葉を信じ、肉体関係をもち、花子は妊娠しました。
その後、太郎は花子と交際を断ったので、花子は太郎に対し慰謝料を請求したのに対し、裁判所は、「女性が肉体関係を結んだ当時、男性に妻あることを知っていたとしても、そのことによって女性の男性に対する貞操等の侵害を理由とする慰謝料の請求が認められないということはなく、女性が肉体関係を結んだ動機が、主として男性の詐言を信じたことに原因がある場合に、詐言の内容について、女性がどう認識したかという事情を考慮して、肉体関係を誘起した原因が主として男性にあり、女性の動機に内在する不法の程度に比較して男性の方の違法性が大きい場合には、女性の男性に対する貞操等の侵害を理由とする慰謝料請求は許される」としました。
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妻と別れる婚約の慰謝料・・・
男性が女性に対し「妻と別れて君と結婚する」ということを言って、女性が男性のその言葉を信用して付き合い、肉体関係を結ぶに至ったが、男性は妻とは離婚しないような場合、その女性は男性に対して慰謝料を請求できるかが問題となります。
判例は、当初は男に妻があることを知って結んだ婚約は、婚姻における一夫一婦制を破壊するものであり、公序良俗に反するものであるから無効のものであるといっておりましたが、その後、男のほうで妻と事実上の協議離婚をしているか、それに類する状態であれば、必ずしも公序良俗違反とはいえず、婚約が成立しているから、慰謝料を請求することができるとしています。
事例として、花子はバーでアルバイトをしており、そこに客としてあらわれた太郎は、花子に対し内縁の妻と同棲していることを隠して、「結婚して欲しい」と申入れ、更に太郎は花子に戸籍謄本と婚姻届の用紙を持参して肉体関係を迫ったので、花子も太郎の言葉を信じて肉体関係を結びました。
その後、花子が太郎の家に行った際、太郎に内縁の妻がいることを知り太郎を責めたところ、太郎は「必ず内縁の妻と別れて結婚する」と言ったので太郎の言葉を信じました。
その後、花子は妊娠したので太郎にその旨を告げたところ、意外にも太郎は「堕せ」と冷たい態度を取ったので、花子はやむなく妊娠中絶の手術をしました。
それ以来、太郎の花子に対する態度が急激に冷たくなり、花子から逃げるようになったので、花子は太郎に対し、金300万円の慰謝料の請求を裁判所に提出しました。
裁判所は慰謝料として金200万円を支払うことを命ずる判決を出しました。
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離婚協議中の夫婦間の契約取消・・・
夫に女ができ、1,000万円出すので別れてくれと言ってきたので、妻は承知したのですが、別居後、離婚届を出す寸前になって、夫はそんなお金はないと言い出し、夫婦間の約束は効力がないと言い出したのですが。
夫の主張は、民法754条の規定を根拠にしているのだと考えられます。
(夫婦間の契約の取消権)
民法第754条 夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
法律上は、離婚届を出すまでは夫婦であり、夫婦としての権利義務を負うのですが、離婚を前提として別居している夫婦、別居という事実状態がなくとも離婚することが必然的な夫婦が、民法754条で規定されている夫婦といえるかが問題となります。
民法で規定しているのは、正常な夫婦間を前提として、夫婦の間では、約束が恣意的で真情によらない場合が多いことを考慮して、それを逐次裁判所に持ち出して一方を強制することは好ましくないからです。
ですので、正常な夫婦でない場合には、民法754条の適用はないとされ、別居期間が長く、事実上離婚状態にある夫婦は、正常な夫婦ではないとされます。
判例では、「このように夫婦関係が事実上破綻し、離婚することを当事者双方が了解しているような場合には、正常な夫婦とはいえず、夫婦間の契約を取消しても、その効果は生じない」としました。
また、「民法754条の「婚姻中」とは、形式的にも実質的にも婚姻が継続している場合をいうと解すべきであるから、実質的に婚姻が破綻している場合には、契約の取消しは許されない」としています。
客観的にみて、当事者間で、離婚を前提として、離婚の条件等の話し合いの中で出た契約は、民法754条によって取消すことはできないと解すべきであり、正常な夫婦関係の維持を前提とするものでないとされるのです。
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