財産分与請求に基づく債権者代位権・・・

財産分与請求に基づく債権者代位権・・・

離婚の事案

夫と妻は婚姻し、夫は、妻方にいわゆる婿入りとして、妻の氏を称した。

夫と妻との間には、二子が生まれた。

妻の父は、個人経営で製麺、パン粉製造業を営んでいたが、一人娘の妻と夫の結婚後は、その事業を夫妻に任せるようになった。

夫と父は、共同で工場新設のための敷地として(1)ないし(5)の土地を購入し、(1)ないし(4)の土地は夫名義に、(5)の土地は妻名義に登記した。

(1)ないし(4)の土地は夫から妻に贈与による所有権移転登記がされた。

父は、(1)ないし(5)の土地に、(6)の工場と(7)の居宅を建築し(土地、建物あわせて本件不動産)、その名義も妻とした。

(7)居宅は未登記。

この建築について父と夫の意見が対立したことから、夫と妻は不和となり、別居し、協議離婚した。

離婚に先立ち、(1)ないし(5)の土地及び(6)の建物について、夫が知らない間に真正なる登記名義の回復を原因として妻から妻の母名義に所有権移転登記がされた。

夫は妻に対して財産分与請求等の調停を申し立てたが、分与の基礎となる本件不動産の帰属について争いがあったため、不調となった。

夫は、妻、母に対して、本件不動産全部が妻の所有であることの確認と(1)ないし(6)の不動産について妻から母への所有権移転登記の抹消登記手続きを求める本件訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は、妻から母への所有権移転登記の抹消手続については、夫の請求を棄却した。

②控訴審は以下のように述べて、一審判決の一部を変更して、(1)ないし(5)の土地が妻の所有であることの確認と同土地についての所有権移転登記の抹消手続を認めた。

財産分与請求権は、債権者代位権の被保全権利となりうるものと解すべきであり、しかもその具体的内容が定まるまでは金銭債権ではないから、代位につき債務者の無資力を要件としないというべきである。

本件の場合、夫が分与を求める対象となる財産の中心は(1)ないし(5)の土地であるところ、同物件は理由なく第三者である母の名義に無効の登記がなされているのであり、かくては、さらに登記名義が変えられると複雑な関係が生じ、結局分与対象財産が散逸して、財産分与の審判が確定してもその実現が困難となる可能性が大きい。

したがって、夫は、右各土地につき妻の登記抹消請求権を代位行使して真実の登記名義を確保する必要性があるものと判断する。

ただし、前記の意味でまだ具体的内容の定まらない請求権であるから、もとより民法423条2項の制限を受けるわけであるが、前記のごとき代位行為は、同項但書に定める保存行為に準ずるものとして、これを許すことができると解するのが相当である。

(債権者代位権)
民法第423条 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。

③上告審は、以下のように述べて、夫の所有権移転登記の抹消登記手続請求を認容した控訴審判決部分を破棄し、同訴えを却下した。

離婚によって生ずることあるべき財産分与請求権は、一個の私権たる性格を有するものではあるが、協議あるいは審判等によって具体的内容が形成されるまでは、その範囲及び内容が不確定・不明確であるから、かかる財産分与請求権を保全するために債権者代位権を行使することはできないものと解するのが相当である。

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負担した婚姻費用の清算金・・・

離婚の事案

妻と夫は、婚姻届をなし、長女二女が生まれた。

妻は、夫の女性関係、夫の経歴、資格を詐称していたこと、素行が悪く更正の意欲がないこと等のため、離婚を決意して実家に帰った。

妻は、別居に当たり、額面300万円の割引興業債券を持ち帰った。

妻は、別居後7年以上にわたり、自己及び2人の子供の生活費、教育関係費として、合計約1000万円程度支払った。

妻は夫に対して、離婚、子供らの親権者を妻と定める、慰謝料1000万円、財産分与600万円の支払を求めた。

離婚の判例

①一審は、妻の請求を全て認めたが、慰謝料は200万円とした。

②控訴審で、妻は、財産分与の額を夫所有名義の不動産の時価の4分の1以下である1000万円、別居後に妻が支出した子らを含めた生活費教育関係費1000万円の合計2000万円に拡張した。

③最高裁は、離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであることは民法771条、768条3項の規定上明らかであるところ、婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様は右事情のひとつにほかならないから、裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するのが、相当であるとして控訴審判決を維持した。

(協議上の離婚の規定の準用)
民法第771条 第766条から第769条までの規定は、裁判上の離婚について準用する。

(財産分与)
民法第768条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

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離婚の財産分与と詐害行為・・・

離婚の事案

夫と妻は、婚姻し、二男三女をもうけた。

夫は、本件土地(1)上の夫の父所有の建物でクリーニング業を始めたが、ある女性と交際して、女性との間に子供が生まれた。

夫は、クリーニング業は妻に任せ、自分は不動産業、金融業を始めるようになった。

夫は、信用組合と信用組合取引契約を結び、手形貸付、手形割引等を受けていたが、手形の不渡りを出して倒産した。

信用組合は、夫に対して約1億2442万円の手形元本債権を有している。

妻は夫と協議の結果、妻が家業であるクリーニング業を続けることによって子供らの面倒をみることにし、夫は、本件土地(1)及び(2)(併せて本件土地)を慰謝料を含めた財産分与として妻に譲渡することとし、協議離婚し、離婚に際して本件土地について代物弁済を登記原因として妻に移転登記がなされた。

なお、本件土地(1)は、クリーニング業の利益で購入し、所有権移転登記手続をなし、本件土地(2)も同じくクリーニング業の利益で取得した。

信用組合は、夫に対して、本件土地の代物弁済契約等は詐害行為であるとして、その取消等を求める本件訴訟を提起した。

離婚の判例

①一審は、本件土地を離婚に伴う財産分与及び慰謝料の支払のために妻に譲渡した行為は詐害行為とはならないとして、信用組合の請求を棄却した。

②控訴審も一審判決を維持した。

③上告審も以下のように述べて、上告を棄却した。

離婚における財産分与は、夫婦が婚姻中に有していた実質上の共同財産を清算分配するとともに、離婚後における相手方の生活の維持に資することにあるが、分与者の有責行為によって離婚をやむなくされたことに対する精神的損害を賠償するための給付の要素をも含めて分与することを妨げられないものというべきであるところ、財産分与の額及び方法を定めるについては、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮すべきであることは民法768条3項の規定上明らかであり、このことは、裁判上の財産分与であると協議上のそれであるとによって、なんら異なる趣旨のものではないと解される。

(財産分与)
民法第768条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

したがって、分与者が、離婚の際既に債務超過の状態にあることあるいはある財産を分与すれば無資力になるということも考慮すべき右事情のひとつにほかならず、分与者が負担する債務額及びそれが共同財産の形成にどの程度寄与しているかどうかも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するべきであるから、分与者が債務超過であるという一事によって、相手方に対する財産分与を全て否定するのは相当でなく、相手方は、右のような場合であってもなお、相当な財産分与を受けることを妨げられないものと解すべきである。

そうであるとするならば、分与者が既に債務超過の状態にあって当該財産分与によって一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても、それが民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為として、債権者による取消しの対象となり得ないものと解するのが相当である。

本件土地は妻の経営するクリーニング店の利益から購入したものであり、その土地取得についての妻の寄与は、夫のそれに比して大であって、もともと妻は実質的に夫より大きな共有持分権を本件土地について有しているものといえること、妻と夫との離婚原因は同人の不貞行為に基因するものであること、妻にとっては本件土地は従来から生活の基盤となってきたものであり、妻及び子供らはこれを生活の基礎としなければ今後の生活設計の見通しが立て難いこと、その他離婚期間、妻の年齢などの諸般の事情を考慮するとき、本件土地が夫にとって実質的に唯一の不動産に近いものであることを斟酌してもなお、妻に対する本件土地の譲渡が離婚に伴う慰謝料を含めた財産分与として相当なものということができるから、これを詐害行為にあたるとすることができないとした原審の判断は、正当として是認することができる。

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