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搭乗者傷害保険金と損益相殺・・・
最判平成7年1月30日(損害賠償請求事件)
民集49巻1号211頁、判時1524号48頁、判夕874号126頁
<事実の概要>
AはY1運転の自動車に同乗中、Y2運転の自動車との衝突事故により傷害を受け死亡した。
Aの相続人であるXは、Y1がB保険会社と締結した自家用自動車保険契約に適用される保険約款中の搭乗者傷害条項に基づき、Bから死亡保険金1000万円を受領した。
その上でXは、Y1Y2に対して、自動車損害賠償法3条に基づきAの死亡により被った損害の賠償を求めて訴えを提起した。
原審は、Xの損害を約5000万円とした上で、Bにより支払われた保険金はY1Y2がXに対して支払うべき損害を填補するものであることを理由に、これを控除してXらに対して支払うべき損害を填補するものであることを理由に、これを控除してXらによるY1Y2への請求を一部認容した。
これに対しXは、搭乗者傷害保険は定額の保険金を支払うものであり、しかも約款上、保険代位が排除されていることを理由に、搭乗者傷害保険金には損害填補の性質がなく、損益相殺をすべきではないとして上告した。
<判決理由>破棄自判(搭乗者傷害保険金を控除せずにXの損害賠償請求を認容)。
「原審の適法に確定した事実によれば、(1)本件保険契約は、Y1運転の前記自動車を被保険自動車とし、保険契約者(Y1)が被保険自動車の使用等に起因して法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害を填補するとともに、保険会社が本件条項に基づく死亡保険金として1000万円を給付することを内容とするものであるが、(2)本件保険契約の細目を定めた保険約款によれば、本件条項は、被保険自動車に搭乗中の者を被保険者とし、被保険者が被保険自動車の運行に起因する急激かつ偶然の外来の事故によって傷害を受け、その直接の結果として事故発生の日から180日以内に死亡したときは、保険会社は被保険者の相続人に対して前記死亡保険金の全額を支払う旨を定め、また、保険会社は、右保険金を支払った場合でも、被保険者の相続人が第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得しない旨の定めがある、いうのである。
このような本件条項に基づく死亡保険金は、被保険者が被った損害を填補する性質を有するものではないというべきである。
けだし、本件条項は、保険契約者及びその家族、知人等が被保険自動車に搭乗する機会が多いことに鑑み、右の搭乗者又はその相続人に定額の保険金を給付することによって、これらの者を保護しようとするものと解するのが相当だからである。
そうすると、本件条項に基づく死亡保険金を右被保険者の相続人であるXの損害額から控除することはできないというべきである。」
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船舶先取特権を生ずる債権・・・
最判昭和59年3月27日(配当異議事件)
判時1116号133頁、判夕527号99頁、金法1062号38頁
<事実の概要>
A合資会社所有の遠洋漁船M丸についての船舶任意競売事件において、本件船舶に対して燃料油、食料等を補給したY漁業共同組合の代金債権についてYが商法842条6号に基づき本件船舶の上に船舶先取特権を有するとして配当表が作成された。
これに対して、金融機関でありM丸につき船舶抵当権を有していたX金融公庫が異議を申し立てる本訴を提起し、Yの先取特権は認められるべきでないと主張した。
原審判決は、Yの先取特権を認めた。
Xは上告した。
<判決理由>上告棄却。
1「原審の適法に確定した事実によれば、M丸は、本邦を出港してから本邦に帰港するまで約1年にわたり、インド洋を主な漁場として刺身用鮪の漁獲に従事し、漁獲した刺身用鮪を冷凍保存のうえ本邦に帰港してその水揚げをするという約300トン級のA所有の遠洋鮪漁船であって、その全航海を一航海とするものである、というのである。
したがって、M丸は、漁船であって商行為を目的として航海をするものではないが、航海の用に供する船舶であることは明らかであるから、船舶法35条により商法第4編(現行第3編)の規定である商法842条6号の準用があるものと解するのが相当であり、また、同船が本邦を出港して遠方洋上に向かう航行、海外基地と漁場とを往復する航行及び漁獲を終えて漁獲物を本邦に持ち帰る航行は、いずれも同船が遠洋鮪漁をするための航行としてその間に実質的な相違はないというべきであるから、所論のように漁獲を終えて漁獲物を本邦に持ち帰る航行だけが同号所定の航海にあたるものと解すべき理由はなく、本邦を出港し再び本邦に帰港するまでの航行は、その間の漁獲に従事した際の航行をも含め、同号所定の航海に該当するものと解するのが相当である。」
2「今日のように通信制度、送金制度及び代理店制度が発達している状況のもとにおいては、航海の途中において、船長が外国の商人と直接契約を締結して燃料油や食料等の補給を受けなくても、船長から連絡を受けた船舶所有者が、代金決済の方法を講じた上、外国の商人又は我が国の承認と契約を締結して船舶に燃料油や食料等の補給をすることができるところ、その場合の船舶所有者がする契約は陸上における通常の契約と異なるところはないから、その限度において今日では商法842条6号所定の債務に船舶先取特権を認めて債権者の保護を図るべき必要性は減少しているものと解される。
しかも、船舶先取特権は公示方法なくして船舶抵当権に優先するものとされているから(商法849条)、船舶先取特権を広く認めることは、船舶抵当権者の利益を害し、ひいて船舶所有者が金融を得るのを困難にするものであるところ、この点は、船舶先取特権が認められる場合を制限する国際条約が締結されていることにみられるとおり、国際的な問題でもあって、これを批准していない我が国においても先取特権に関する商法の規定を解釈するにあたり十分に斟酌すべき事柄であるといわなければならない。
したがって、これら諸点に照らして考察すると、船舶先取特権が認められる債権の範囲は厳格に解釈すべきものと考えられるが、右商法の規定が存する以上、これを無視するような解釈をすることの許されないことはいうまでもない。
のみならず、商法842条6号所定の債権に先取特権が認められているのは、右債権の発生原因である燃料油や食料等の補給が船舶所有者の総債権者の担保である船舶の維持ないしは保存に役立つものであることにもよるのであるから、船舶所有者に対する総債権者の共同の利益のために生じた債権であるというだけでは同号所定の債権にあたらないとする所論は当を得ないものといわなければならない。
したがって、原判決が、本件のように我が国において船舶所有者が締結した契約に基づき航海中の我が国の船舶に燃料油や食料等の補給がされたことによって生じた債権であっても商法842条6号所定の債権として船舶先取特権の被担保債権たりうるものと解し、また、前示のとおり、M丸が本邦を出港し再び本邦に帰港するまでの全航行が同号所定の航海に該当するものであると解したとしても、所論のように右商法の規定の解釈を誤ったものとすることはできない。」
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船主責任制限の対象となる債権の範囲・・・
最判昭和60年4月26日(損害賠償請求事件)
民集39巻3号899頁、判時1155号296頁、判夕557号120頁
<事実の概要>
X株式会社所有のM丸とY1株式会社所有のN丸とが、昭和54年4月22日、稚内港検疫錨地において、N丸の船長であるY2の操船上の過失によって衝突し、M丸は沈没した。
Y1は、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和57年法律第54号による改正前のもの。以下「法」という。)17条に基づき、本件事故により生じた損害に基づく債権につき、Y2を受益債務者として、旭川地方裁判所に対し責任制限手続開始の申立をし、昭和54年10月29日、責任制限手続開始の決定がされ、この決定は確定した。
Xは、沈没したM丸につき、稚内港長から港湾法12条1項及び稚内市港湾管理条例8条による撤去命令をそれぞれ受けたため、サルベージ会社に請け負わせて上記沈没船を事故現場から除去させ、その費用として3900万円を支払うなどの損害を被った。
Xは本訴においてY1・Y2に対して上記損害の賠償請求をしたが、Y1らはXの請求する債権は責任制限の対象となる債権であると主張した。
原審判決は、Xの請求する債権は責任制限法3条1項2号にいうその他の権利に対する侵害による損害に基づく債権として責任制限の対象となるとした。
Xは上告した。
<判決理由>上告棄却。
1「他の船舶との衝突事故により沈没した船の所有者が、右沈没船を除去すべき法令上の義務を課され、これを履行することによって被った損害は、右事故と相当因果関係のある損害というべきであるから、右沈没船の所有者が、相手方船舶の所有者等又は船長等に対して有する右損害の賠償請求権は、・・・法律3条1項2号所定の同項1号に掲げる物及び当該船舶以外の物の滅失若しくは損傷による損害に基づく債権に該当すると解するのが相当であり、したがって、相手方船舶の所有者等又は船長等は、右損害賠償請求権につきその責任を制限することができるものというべきである。」
2(条約1条)「(C)所定の難破物の除去に関する法令によって課される義務又は責任は、自己の責任を制限することができる海上航行船舶の所有者がその義務又は責任の主体となるものをいうのであって、自己の責任を制限することができる船舶所有者等及び船長等以外の者が、法令により難破物除去の義務又は責任を課され、これを履行することによって被った損害について右船舶所有者に対してその賠償を求める債権は、同(C)所定の難破物の除去に関する法令によって課される義務又は責任を原因として生ずる債権に当るものでもなく、むしろ、条約1条(1)が海上航行船舶の所有者においてその責任を制限することができる債権として定めるもののうち、同(B)所定の同(A)に規定する財産以外の財産の滅失若しくは損傷を原因として生ずる債権に当るものと解するのが相当である。
そして、我が国が条約批准に際し条約1条(1)(C)の規定の適用を排除する権利を留保し、法がこれを制限債権としなかったのは、難破物の除去に関する法令によって難破した船舶の所有者等に対して課される義務又は責任を原因として生ずる債権を制限債権とすると、難破した船舶除去の代執行の費用が制限債権となり、右船舶所有者等にとっては自発的に除去しない方が有利となるため、その義務又は責任の履行が円滑に行なわれなくなるおそれのあることに主たる理由があったものである。
このような条約の規定の内容並びに右の留保の理由及び立法上の考慮に鑑みると、自己の責任を制限することができる船舶所有者等及び船長等以外の者が、法令により難破物除去の義務又は責任を課され、これを履行することによって被った損害について右船舶所有者に対して賠償を求める債権は、右の留保に基づき法が制限債権としなかったものに当らないというべきである。」
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定期傭船者と衝突責任・・・
最判平成4年4月28日(損害賠償請求事件)
判時1421号122頁、判夕786号142頁、金判897号3頁
<事実の概要>
航行区域を沿海区域とする汽船であるM丸が、航行区域を平水区域とするいわゆる内水船であるN丸を曳き、その後に無機力運貨船(バージ)を曳いて、神戸港の東神戸航路の沖合いから同航路を進入した際、M丸及びN丸の船長の過失により、無機力運貨船が、海上自衛隊阪神基地隊東岸壁に係留されていたX(国)所有の掃海艇に衝突し、これを損傷させた。
なお、原審判決は、N丸が内水船であっても、M丸、N丸及び無機力運貨船全体に商法第4編(現行第3編)の関係規定の適用があるとした。
M丸及びN丸の船舶所有者とY株式会社との間では、Yが船舶所有者から両船を定期傭船することとし、「定期傭船契約書」と題する契約書が取交わされていた(その内容については判決理由を参照)。
Xは本訴において、定期傭船者であるYに対して商法704条の準用があるとして、上記衝突事故による損害について商法690条に基づく損害賠償を請求した。
原審判決はXの請求を認容した。
Yは上告した。
<判決理由>上告棄却。
「定期傭船者の衝突責任などの権利義務の範囲については、商法を始めとする海商法の分野での成文法には依拠すべき明文の規定がないので、もっぱら当該契約の約定及び契約関係の実体的側面に即して検討されなければならないところ、前記の各契約書はそれぞれ本文1枚の極めて簡略なものであって、そこには、「船舶の使用に関する一切の命令指示等の権限はYに属する。」、「傭船料は1ヶ月50万円(M丸分)、52万円(N丸分)とし、Yは、航海数に応じ、船長らに対し繁忙手当を支給する。」、「本契約の有効期間は向こう1年とし、契約当事者から解約の申出がない場合は、自動的に更新される。」などの約定の記載があるにとどまっている。
次いで、その契約関係の実体についてみるのに、・・・右約定に係る定額の傭船料は実際には支払われたことがなく、対価はすべて運行時間に応じて算出されており、燃料費は船舶所有者において負担し、Yには船長の任免権があるともいえず、また、Yが各船舶を直接自己の占有下に置いてはいなかった、というのである。
しかしながら他方、各船舶は、専属的にY営業の運送に従事し、その煙突には、Yのマークが表示されており、その運航については、Yが日常的に具体的な指示命令を発していたのであって、Yとしては、各船舶をYの企業組織の一部として、右契約の期間中日常的に指揮監督しながら、継続的かつ排他的、独占的に使用して、Yの事業に従事させていた・・・。
原審は、これらの事実関係の下において、Yは、船舶所有者と同様の企業主体としての経済的実体を有していたものであるから、右各船舶の航行の過失によってX所有の掃海艇に与えた損害について、商法704条1項の類推適用により、同法690条による船舶所有者と同一の損害賠償義務を負担すべきであるとしたが、この判断は、正当として是認することができる。」
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