手形の除権判決と除権判決前の善意取得者の権利・・・

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手形の除権判決と除権判決前の善意取得者の権利・・・

最判平成13年1月25日(約束手形金請求事件)
民集55巻1号1頁、判時1740号85頁、判夕1055号104頁

<事実の概要>

X株式会社は、振出人Y株式会社、受取人A株式会社で、Xまで裏書の形式的連続(第一裏書人A、第二裏書人B、第三裏書人C)のある約束手形の所持人である。

Xは本件手形を平成9年4月21日にCより割引き取得した。

本件手形はAがYより振出交付を受け、裏書をしないまま保管していたところ何者かによって盗取されたものであり、Aは平成10年1月27日に本件手形につき除権判決を得ている。

Xは支払呈示期間内に本件手形を支払場所に呈示したが、支払が拒絶されたため、Yに対して手形金の支払を求めて提訴。

Yは抗弁として、Xは本件手形を善意取得しておらず無権利者である、仮に善意取得していても除権判決によりXは手形上の権利を喪失したと主張した。

第1審・第2審ともYの抗弁を排斥し、Xの請求を認容した。

Yが、「除権判決前に善意取得した者も権利の届出をしなかった限り、除権判決がなされることによってその権利を喪失するものと解すべき」として上告。

<判決理由>上告棄却。

「手形について除権判決の言渡しがあったとしても、これよりも前に当該手形を善意取得した者は、当該手形に表章された手形上の権利を失わないと解するのが相当である。

その理由は、次のとおりである。

手形に関する除権判決の効果は、当該手形を無効とし、除権判決申立人に当該手形を所持するのと同一の地位を回復させるにとどまるものであって、上記申立人が実質上手形権利者であることを確定するものではない(最高裁昭和・・・29年2月19日第二小法廷判決・民集8巻2号523頁参照)。

手形が善意取得されたときは、当該手形の従前の所持人は、その時点で手形上の権利を喪失するから、その後に除権判決の言渡しを受けても、当該手形を所持するのと同一の地位を回復するにとどまり、手形上の権利までを回復するものではなく、手形上の権利は善意取得者に帰属すると解するのが相当である。

加えて、手形に関する除権判決の前提となる公示催告手続における公告の現状からすれば、手形の公示催告手続において善意取得者が除権判決の言渡しまでに裁判所に対して権利の届出及び当該手形の提出をすることは実際上困難な場合が多く、除権判決の言い渡しによって善意取得者が手形上の権利を失うとするのは手形の流通保護の要請を損うおそれがあるというべきである。」

「そうすると、Xが本件手形について除権判決の言い渡しがされる前にこれを善意取得したとの事実に基づき、XのYに対する手形金請求を認容した原審の判断は正当として是認することができる。」

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利得償還請求権の発生と原因債権との関係・・・

最判昭和43年3月21日(約束手形金請求事件)
民集22巻3号665頁、判時516号73頁、判夕221号134頁

<事実の概要>

Y株式会社はAに対して、請負代金債務の支払のために本件2通の約束手形(以下、(イ)(ロ)とする)を振出し、またBに対してやはり請負代金債務の支払のために本件1通の約束手形(以下、(ハ)とする)を振出した。

(イ)(ロ)の各手形はAからXに、(ハ)の手形はBからCを経て順次Xに裏書譲渡された。

Xは、A及びCに対して、各手形の額面に相当する金額を支払って譲り受けたものであり、同人らに対する原因関係においてはなんらの権利も有しておらず、振出人であるYに対してもなんらの原因債権を有していない。

本訴提起当時において、本件手形(イ)~(ハ)はいずれも満期後3年以上を経過したことによってYの振出人としての前記各手形債務は時効によって消滅し、またA及びBのXに対する償還義務も満期後1年の時効期間の経過によって消滅していた。

そこでXがYに対して利得の償還を求めて本訴を提起した。

原審は、①A及びBが本件各手形を裏書譲渡した段階では、裏書人としての償還義務を負担しており、これによりYに対する原因債権(請負代金債権)が消滅しYにおいてその支払を免れたものと解することはできず、さらにAらは、償還義務者としての責任を追及された場合にはYに対して原因債権を行使することも考えられるため、Yに利得が発生したとはいえない、②またA及びBのXに対する償還義務が満期後1年の時効期間経過で消滅することにより、AらがXより得た対価の取得は決定的なものとなり、その結果Yに対する原因債権もまた消滅し、Yは原因債権の支払を免れるに至ったものというべきであるが、これによる利益の享受は、Aらの償還義務の時効消滅というYによる本件各手形の振出とは直接関係のない別個の法律上の原因に基づくものであるから手形法85条に定める利得にあたらない旨判示し、Xの請求を斥けた。

Xが上告した。

<判決理由>破棄差戻し。

「原審の確定した前記事実によれば、YはA及びBに対して、同人らに対する請負代金債務の支払のために本件各手形を振出し、右AらはこれをXに対しその額面に相当する金員を取得して裏書した後、Xの本件手形上の権利がすべて時効により消滅したというのであるから、Xはもはや同人らに対し償還請求権を行使することはできず、ひいて本件手形の受取人であるAらがYに対して有していた原因債権もまた消滅に帰し、振出人たるYは本件手形振出の原因たる請負代金債務を免れることにより現実に利得をしたものということができる。

Yの右利得は、Xの有する手形上の権利の時効消滅により生じたものであって、手形法85条にいわゆる利得に当るものと解しなければならない。

しからば、右見解と異なり、Yに手形法85条にいわゆる利得がないとした原判決は、同条の解釈を誤ったものというべく、この誤りは原判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。

そして、本件は、さらにその利得の範囲について審理判断する必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。」

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手形債権と原因関係上の債権との行使の順位・・・

最判昭和23年10月14日(貸金請求事件)
民集2巻11号376頁、金判529号1頁、法曹新聞25・26号8頁

<事実の概要>

XはYに対し、(1)昭和19年7月7日、金1万円を弁済期度同年8月7日と定め、(2)同年7月9日、金1万円を弁済期同年8月9日と定め、(3)同年7月10日、金1万5000円を弁済期同年8月10日と定め、いずれも利息を定めずに貸与した。

YはXに対し、3口の貸金債権の支払確保のために、金額、振出日、満期が前記3口の貸金の金額、貸与日、弁済期にそれぞれ照応し、支払地、振出日を共に福岡市、支払場所をX宅とする約束手形3通を振り出した。

Xは、本件手形について手形金請求訴訟を提起していたが、臨時財産調査令による手形債権の所轄税務署への申告を怠っていたので、判決前に訴えを取り下げ、あらためて原因債権である貸金請求訴訟を提起していた(当時、手形債権については臨時財産調査令施行規則13条に基づく申告を行なわなければならず、これを怠った場合手形債権の支払を請求することはできなかった)。

第1審はXの請求を棄却したが、原審はXの訴えを認容した。

これに対してYが、Xは手形債権から行使すべきである等と主張して上告した。

<判決理由>上告棄却。

「手形がその原因関係たる債務の支払確保のため振出された場合に、当事者間に特約その他別段の意思表示なく債務者自身が手形上の唯一の義務者であって他に手形上の義務者がない場合においては、手形は担保を供与する趣旨の下に授受せられたものと推定するを相当とすべく、従って債務者は手形上の権利の先行使を求めることはできないものと解するのを相当とする。

すなわち、債権者は両債権の中いずれを先に任意に選択行使するも差し支えないものと言わねばならない。

そして本件手形は前述のごとく支払場所をX宅としたY振出の約束手形であり、授受の際特約その他別段の意思表示がなく、既存の貸金債務者と手形上の義務者とがいずれも同一人たるYなのであるから債権者たるXは本件貸金と右手形債権とのいずれを選択行使するも差し支えないものと言わねばなら」ない。

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賭博による債務支払のための小切手の交付・・・

最判昭和46年4月9日(小切手金請求事件)
民集25巻264頁、判時630号58頁、判夕263号200頁

<事実の概要>

AはXと賭碁をした結果、Xに対し賭金150万円を支払わねばならなくなった。

Aは賭金支払のためYにその実情を泣訴して本件小切手(小切手金額100万円)を借受けXに交付した。

その後この小切手は不渡となったため、XはYと折衝の結果、本件小切手が以上のような経緯によって振出されたものであることを知りながら、昭和44年4月16日、次のような内容の和解契約を行なった。

すなわち、①YがXに対して55万円の支払義務のあることを認め、即日10万円を、同月23日に45万円を支払う、②Yが支払を終えた場合には本件小切手をXに返還するというものである。

Yはこの和解契約に基づいて10万円を支払ったが残金45万円を支払わなかったため、Xが本件訴訟を提起した。

第1審、控訴審ともXの請求を斥けたため、Xが上告した。

<判決理由>上告棄却。

「原審の適法に確定したところによれば、XとYとの間で、XがAから交付を受けたY振出しにかかる本件小切手の支払に関して和解契約が成立し、YからXに対して金55万円を支払う旨を約したが、右小切手は、賭博によって右Aが負うことになった金銭給付義務の履行のために、同人からXに交付されたものであったというのである。

してみれば、本来、XがY対して右小切手金の支払を求めることは、公序良俗に違反するものとして許されないところというべく、右和解上の金銭支払の約束も、実質上、その金額の限度でXをして賭博による金銭給付を得させることを目的とするものであることが明らかであるから、同じく、公序良俗違反の故をもって、無効とされなければならない。

このことは、右合意が、論旨のいう創設的なものとして、すなわち、小切手金支払債務の存否と無関係に金銭支払義務を負担すべきものとする趣旨でなされたものとしても、異なるところはない。

右契約の実質に存する不法性は、当事者の合意によって払拭しうるものではないからである。」

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