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無権代理人による保険契約者貸付と民法478条・・・
最判平成9年4月24日(債務不存在確認請求事件)
民集51巻4号1991頁、判時1603号69頁、判夕941号126頁
<事実の概要>
XとY保険会社は、Xを保険契約者兼被保険者、保険金額を800万円、Xの妻Aを保険金受取人とする生命保険契約を締結した。
本件契約に適用される普通保険約款には、保険契約者は、契約者貸付制度に基づいて、解約返戻金の9割の範囲内でYから貸付を受けることができ、貸付金額は保険金もしくは解約返戻金の支払の際に元利金から差引決済される旨の定めがあった。
AはYに対し、Xに無断で契約者貸付を申し込み、貸付を受けたが、Xはこの事実を知らなかった。
貸付の後、XはAと離婚したが、その頃、Yから送付された本件貸付に関する払込通知票を受領し、AがYから契約者貸付を受けた事実を知るに至った。
そこでXは、本件訴訟を提起し、Yに対し、本件貸付契約上の債務が存在しないことの確認を求めた。
これに対するYの主張は、Aの有権代理、民法110条の表見代理の成立のほか、YがAをXの代理人と信じて契約者貸付を実行したことに関する無過失を理由に、民法478条の類推適用により本件貸付の効力がXに及ぶべきというものである。
第1審は、表見代理の成立を認め請求棄却。
原審は、表見代理の成立は否定したが、民法478条類推の主張を採用し、控訴棄却。
これに対しXが上告。
<判決理由>上告棄却。
「原審の適法に確定したところによれば、本件生命保険契約の約款には、保険契約者はY社から解約返戻金の9割の範囲内の金額の貸付を受けることができ、保険金又は解約返戻金の支払の際に右貸付金の元利金が差し引かれる旨の定めがあり、本件貸付は、このようないわゆる契約者貸付制度に基づいて行なわれたものである。
右のような貸付は、約款上の義務の履行として行なわれる上、貸付金額が解約返戻金の範囲内に限定され、保険金等の支払の際に元利金が差引計算されることに鑑みれば、その経済的実質において、保険金又は解約返戻金の前払いと同視することができる。
そうすると、保険会社が、右のような制度に基づいて保険契約者の代理人と称する者の申し込みによる貸付を実行した場合において、右の者を保険契約者の代理人と認定するにつき相当の注意義務を尽くしたときは、保険会社は、民法478条の類推適用により、保険契約者に対し、右貸付の効力を主張することができるものと解するのが相当である。
これと同旨をいう原審の判断は、正当として是認することができる。
論旨は採用することができない。」
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解約返戻金請求権の差押と差押債権者による解約権行使・・・
最判平成11年9月9日(取立債権請求事件)
民集53巻7号1173頁、判時1689号45頁、判夕1013号100頁
<事実の概要>
AはY保険会社との間で、自らを被保険者とし、保険金受取人をBとする生命保険契約を締結した。
本件生命保険契約には、保険契約者はいつでも保険契約を解約でき、その場合Yは保険契約者に所定の解約返戻金を支払う旨の特約があった。
X株式会社は、Aに対して債務名義を有しており、AがYに対して有する本件生命保険契約の解約返戻金支払請求権について債権差押命令を得、この命令正本はA及びYに対し送達された。
XはYに対し、本件保険契約を解約する旨の意思表示をし、この意思表示はYに到達した。
本件は、Xが、差押債権者はその取立権(民事執行法155条1項)に基づき債務者が有する解約権を行使できるとして、第三債務者であるYに対し、解約返戻金の支払を求める取立訴訟である。
原審は取立権に基づく解約権の行使を認め、Xの請求を認容した。
Yは上告した。
<判決理由>上告棄却(反対意見がある)。
「生命保険契約の解約返戻金請求権を差押さえた債権者は、これを取り立てるため、債務者の有する解約権を行使することができると解するのが相当である。
その理由は、次のとおりである。
金銭債権を差押さえた債権者は、・・・その債権を取り立てることができるとされているところ、その取立権の内容として、差押債権者は、自己の名で被差押債権の取立に必要な範囲で債務者の一身専属的権利に属するものを除く一切の権利を行使することができるものと解される。
生命保険契約の解約権は、身分法上の権利と性質を異にし、その行使を保険契約者のみの意思に委ねるべき事情はないから、一身専属的権利ではない。
また、生命保険契約の解約返戻金請求権は、保険契約者が解約権を行使することを条件として効力を生ずる権利であって、解約権を行使することは差押さえた解約返戻金請求権を現実化させるために必要不可欠な行為である。
したがって、差押命令を得た債権者が解約権を行使することができないとすれば、解約返戻金請求権の差押を認めた実質的意味が失われる結果となるから、解約権の行使は解約返戻金請求権の取立を目的とする行為というべきである。
他方、生命保険契約は債務者の生活保障手段としての機能を有しており、その解約により債務者が・・・不利益を被ることがあるとしても、そのゆえに民事執行法153条により差押命令が取消され、あるいは解約権の行使が権利の濫用となる場合は格別、差押禁止財産として法定されていない生命保険契約の解約返戻金請求権につき預貯金債権等と異なる取り扱いをして取立ての対象から除外すべき理由は認められないから、解約権の行使が取り立ての目的の範囲を超えるということはできない。」
反対意見の要件は、①条件付権利を差押さえた差押債権者が解約権を行使することにより無条件の権利を差押さえたのと同じ効果を認めることは相当ではない、②付随的権利を差押さえた差押債権者が解約権を行使することにより保険契約者又は保険金受取人が有する基本的な権利を消滅させることを認めることは相当ではない、③解約権の行使を認めると、債務者が生命保険契約上有する期待権を著しく侵害する場合がある、④取立権に基づく解約権の行使を認められないとしても、解約返戻金請求権を差押さえたことの意義自体は何ら損なわれるものではない、というべきものである。
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傷害保険における偶発(然)性の立証責任・・・
最判平成13年4月20日(保険金請求事件)
民集55巻3号682頁、判時1751号163頁、判夕1061号65頁
<事実の概要>
X株式会社は、Y保険会社との間で、Aを被保険者とし、Xを受取人とする災害割増特約の付加された生命保険契約を締結した。
災害割増特約の法的性質は、傷害保険である。
契約で用いられた約款においては、災害割増特約の対象となる不慮の事故(保険事故)とは偶発的な外来の事故とされていると同時に、被保険者による故意の事故招致を保険者に免責事由と定めていた。
AはXの代表取締役であるが、工事に立ち会った後に、5階建て建物の屋上から転落死したとして、XがYに保険金を請求した。
これに対しYが、Aの死亡は自殺であること等を主張して、災害死亡保険金の支払を拒んだ。
第1審では約款解釈により偶発性の立証責任を保険金請求者に課し、事実認定として、偶発的な事故であるか自殺であるか判断できないとして、請求を棄却。
原審では、主契約が自殺を免責事由としているのに対して割増特約では保険事故の定義に偶発性を組み込んでいることについての約款の文理解釈、人的密接性を理由とした立証の難易、並びにモラル・リスク防止の必要性から、Aの死が偶然の事故であることについての立証責任はXにあると判断したほかは原審の認定を引用し、控訴を棄却した。
Xは上告した。
<判決理由>上告棄却(補足意見がある)。
「本件約款に基づき、保険者に対して災害割増特約における災害死亡保険金の支払を請求する者は、発生した事故が偶発的な事故であることについて主張、立証すべき責任を負うものと解するのが相当である。
けだし、本件約款中の災害割増特約に基づく災害死亡保険金の支払事由は、不慮の事故とされているのであるから、発生した事故が偶発的な事故であることが保険金請求権の成立要件であるというべきであるのみならず、そのように解さなければ、保険金の不正請求が容易となるおそれが増大する結果、保険制度の健全性を阻害し、ひいては誠実な保険加入者の利益を損なうおそれがあるからである。
本件約款のうち、被保険者の故意により災害死亡保険金の支払事由に該当したときは災害死亡保険金を支払わない旨の定めは、災害死亡保険金が支払われない場合を確認的注意的に規定したものにとどまり、被保険者の故意により災害死亡保険金の支払事由に該当したことの主張立証責任を保険者に負わせたものではないと解すべきである。」
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他保険契約の告知義務・通知義務・・・
東京高判平成5年9月28日(保険金請求控訴事件)
判時1479号140頁、判夕848号290頁
<事実の概要>
Xの妹Aは、自らを被保険者とし、Xを保険金受取人とする傷害保険契約をY保険会社との間で締結した。
本件契約の前日(①契約)及び2ヶ月後(②契約)に、AはB保険会社とそれぞれXを保険金受取人とする傷害保険契約を締結している。
Aが上記3契約の締結後に何者かにホテルで殺害されたためXが保険金を請求したところ、Yは、①契約に関する他保険契約の告知義務及び②契約の締結前にYの承認を受けなければならないとする重複保険の通知義務の違反を根拠に、本件保険契約を解除する旨主張し、保険金の支払を拒んだ。
これに対しXが、解除の無効等を主張して保険金を請求した。
原審は、他保険契約の告知義務・通知義務違反が解除権を生じさせるのはそれが不正な保険金取得の目的に出たなど解除が社会通念上妥当と解される場合に限ると約款を制限解釈し、そのような事情を否定して契約の解除を無効とし、請求認容。
Yは控訴した。
<判決理由>原判決取消、請求棄却。
「約款が、保険契約者に対して、傷害保険の締結に際して他の保険契約締結の有無について事前の告知義務を課し、さらに事後の他の傷害保険契約を締結し、またはその存在を知ったときの通知義務を定めた趣旨は、・・・生命保険に比して保険料は低額であり、支払われた保険料と保険事故が起きた場合の保険金との乖離が極端に大きいことから、・・・保険事故を招致して保険金を取得しようとする危険が高いという経験則に基づき、保険者としては、このような重複保険の成立を回避ないし抑制するため、当該保険契約締結の前後に重複契約に関する情報を開示させ、道徳的危険の強いものかどうかを見極めて、当該保険契約を締結しなかったり、解除するために、これらの告知義務、通知義務が設けられているものと考えられる。」
「他方、・・・特に傷害保険の分野・・・においては、同一人を被保険者とする同一の保険事故に関する複数の保険契約に競合して加入することが珍しくない。
このような状況のもとで、保険契約上重複保険の告知、通知義務が定められ、その懈怠が契約の解除という重大な結果をもたらすものとされているのに、一般公衆には、重複保険契約及びその不告知、不通知がそれほど重大なもんと意識されているとはみられない。
・・・それにもかかわらず、保険約款が、その各条項についての契約当事者の知、不知を問わず、特段の意思表示がない限り当然に契約内容となって当事者を拘束するいわゆる附合契約とされていることからすると、約款の規定があるからといって直ちにその契約上の効果をすべて無条件に認めることは、一般の保険契約者に対して、社会通念に照らし相当性を欠く不利益を与えるものであって当を得ないものと解される。
保険契約の解除は、保険事故が生じた後においてもすることができるところ・・・、保険事故発生前の保険契約の解除の場合は、保険契約者は、重複保険の事実を告知した上で新たに保険契約を締結する等の途が残されているのに比し、保険事故発生後の保険契約の解除の場合は、保険契約者はそのような手段を講ずることができず、特に不利益を与えるものである。
そこで、右告知・通知義務の存在理由と右保険契約解除による不利益を考量し、保険会社は、約款に定められた者において重複保険の不告知又は不通知が契約解除事由となることを認識した上で、又は重過失により右の点を認識せずに、重複保険の存在を事前に告知せず、又は事後に通知をしなかった場合に限り・・・、当該保険契約を解除することができるものとすべきである。
さらに、その不告知ないし不通知が不正な保険金取得の目的に出た場合をはじめ、事案の全体を眺めて、不告知ないし不通知を理由として保険契約を解除することが、保険会社による解除権の濫用とならないと認められる場合に限ってその効力を認めるのが相当である。」
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