取締役解任の取締役会決議と特別利害関係・・・

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取締役解任の取締役会決議と特別利害関係・・・

最判昭和44年3月28日(債権譲渡無効確認、譲渡債権請求事件)
民集23巻3号645頁、判時553号74頁、判夕234号130頁

<事実の概要>

X株式会社はY株式会社と特約店契約を結んで水あめ菓子類を一手販売させるとともにY社から原材料を買い入れる継続的な取引を行ってきた。

X社の取締役Aは、昭和30年4月28日に、X社を代表して、X社が有する債権をY社に譲渡する契約を締結した。

X社は、本件債権譲渡の当時、AにはX社を代表する権限がなかったと主張して、本件債権譲渡が無効であることの確認を求めた。

X社の主張は次のとおりである。

AはかつてX社の代表取締役であったが、昭和30年1月5日に開催されたX社の取締役会においてAの代表取締役からの解任が付議された。

この取締役会には、取締役であるA・B・C・Dの4名が出席し、A・Bが解任に反対し、C・Dが解任に賛成した。

X社の主張によると、Aは解任決議については特別利害関係人に当るから、Aの反対投票は賛否の数に算入すべきではなく、Aの解任決議は賛成2、反対1で可決された。

これに対しY社は、Aは本件決議につき特別利害関係人ではなく、その結果、Aの解任は賛成1、反対2で否決され、Aは引き続き代表取締役の地位を有すると主張した。

第1審判決は、X社の請求を棄却したので、X社が控訴した。

控訴審においてY社は、次のような本案前の主張をした。

X社は、定款所定の存続期間の満了によって、昭和34年11月13日に解散し清算会社となったが、清算人としてX社を代表すべき資格のない代表取締役Cの名で控訴が申し立てられているから、不適法として却下されるべきである。

控訴審判決は、まず、前商法417条1項、258条を類推適用し、CはX社の解散と同時に清算人の権利義務を有するにいたったとしてY社の本案前の主張を斥けた。

次に、昭和30年1月5日の取締役会におけるAの解任決議について、Aは特別利害関係人に当り決議に参加し得ないから、解任決議は賛成2、反対1で可決されたとして、第1審判決を取り消し、債権譲渡が無効であることを確認した。

Y社は上告した。

<判決理由>上告棄却。

「原判決の判示するところによると、X社の代表取締役Cは、X社の解散前すでに取締役としての任期を満了していたが、後任の選任が行われなかったから、右解散当時商法258条により依然取締役の権利義務を有していたというのである。

したがって、同人は、その解散と同時に当然X社の清算人としての権利義務を有するに至ったものというべきであって(商法430条2項、258条、417条1項本文参照)、同法417条2項の規定が適用されないと解するのが相当であり、これと同旨の原判決の判断は、正当である(論旨引用の判例は本件に適切でない)。」

「代表取締役の解任に関する取締役会の決議については、当該代表取締役は、商法260条の2第2項により準用される同法239条5項にいう特別の利害関係を有する者にあたると解すべきである。

けだし、代表取締役は、会社の業務を執行・主催し、かつ会社を代表する権限を有するものであって(商法261条3項・78条)、会社の経営、支配に大きな権限と影響力を有し、したがって、本人の意志に反してこれを代表取締役の地位から排除することの当否が論ぜられる場合においては、当該代表取締役に対し、一切の私心を去って、会社に対して負担する忠実義務(商法254条3項・254条の2参照)に従い公正に議決権を行使することは必ずしも期待しがたく、かえって、自己個人の利益を図って行動することすらあり得るのである。

それゆえ、かかる忠実義務違反を予防し、取締役会お決議の公正を担保するため、個人として重大な利害関係を有する者として、当該取締役の議決権の行使を禁止するのが相当だからである。

それゆえ、原判決が、X社の代表取締役Aの解任に関する取締役会の決議について、同人をいわゆる特別利害関係人にあたるとして、その議決権の行使を排除したのは、正当である(論旨引用の判例は、株主総会の決議に関するものであって本件に適さない)。」

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取締役の注意義務と経営判断原則・・・

東京地判平成16年9月28日(損害賠償請求権査定の決定に対する異議事件)
判時1886号111頁

<事実の概要>

被告Y株式会社は、百貨店の営業を主たる業とする会社であり、X1らは、昭和37年4月から平成6年5月までY社の代表取締役社長、平成6年5月から平成12年4月までY社の代表取締役会長を、X2は、昭和63年5月、Y社の代表取締役副社長に就任し、平成元年3月から平成11年4月までY社の海外事業室の担当取締役を、X3は、平成元年5月から平成7年5月までY社の取締役であり、取締役在任中Y社の海外事業室の担当取締役を務めていた者である。

X1らY社の幹部は、駐日トルコ共和国大使からイスタンブール市への出店要請を受け、海外事業の一環として、イスタンブール市への百貨店の出店を検討することとなった。

X2は、平成2年4月、イスタンブール市を視察したが、その際日本でビルメンテナンス等を営む会社のトルコ現地法人P社に本件用地の取りまとめを依頼した。

Y社は、P社との間で「金銭消費貸借に関する契約書」を結び、Y社の関連法人Q社から、合計1500万米ドルの融資を行った(「本件第1貸付」)。

P社は、平成2年11月にAブロック用地(本件用地に含まれる3つのブロックのうちの一つ)の所有権を取得し、平成2年11月20日、同用地に権利者をQ社、極度額を500億トルコリラ(当時約2000万米ドル)とする根抵当権の設定登記をした。

その後、Y社は、P社からの要請に基づき、同社に対し、新たに1500万米ドルを融資することとし、同年12月12日、Q社から1500万米ドルを送金した(「本件第2貸付」)。

本件第2貸付に際し、同月13日付で、新たな契約書が起案されたが、これはP社側が署名せず、Aブロック用地の根抵当権の極度額の変更も行われなかった。

その直後、P社からY社に対し、用地買収につきコストが増加したため、買収総額が2000万米ドル増加すること、残余金が先に支払われなければ買収は困難であることの申し入れがあったがX1は増額を承諾しなかった。

Y社は、平成3年1月28日、X3名義の書面をもってP社社長に対し、本件計画については当面しばらく様子を見る旨の通知をした。

結局、Y社のトルコ出店事業計画は実現することなく、また本件貸付の担保となっていたAブロック用地も、Y社役員等の知らない間に第三者に譲渡されてしまっており、Y社に大きな損害をもたらした。

東京地方裁判所は、平成12年7月26日、Y社に対し、民事再生手続開始決定をした。

Y社は、同年10月5日、Xらに対し本件第1、第2貸付に関する損害賠償請求権の額の査定申立てを行い、再生裁判所は、同年12月8日、Xらの損害賠償債務は16億2570万円であるとの査定決定をした。

これに対してXらが異議の訴えを提起した。

異議審においては、本件第2貸付を中止するか、P社に対する確実な保全措置を執るべき義務があったかが争点となった(これら以外にも争われた問題があるが省略する)。

<判決理由>損害賠償査定決定取消。

裁判所は「企業の経営に関する判断は不確実かつ流動的で複雑多様な諸要素を対象にした専門的、予測的、政策的な判断能力を必要とする総合的判断であり、また、企業活動は、利益獲得をその目標としているところから、一定のリスクが伴うものである。

このような企業活動の中で取締役が萎縮することなく経営に専念するためには、その権限の範囲で裁量権が認められるべきである。

したがって、取締役の業務にについての善管注意義務違反又は忠実義務違反の有無の判断に当っては、取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況及び会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢の下において、当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として、前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か及びその事実に基づく行為の選択決定に不合理と評価されるか否かによるべきである。」と一般論を述べた上で、本件第2貸付に関する諸事情を詳細に認定した後、「本件第二貸付を中止することは、本件計画を断念することに匹敵する事態であり、そのような判断を当時行うだけの事情はなかったと言うべきである。

また、貸付に当っての債権保全措置に前記のとおり遺漏があったことは認められるが、経営者としては弁護士を含む事務担当者の適切に処理することを期待することは相当であり、原告ら役員に義務違反があったとは言えない」とした。

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法令違反の業務執行行為と取締役の責任・・・

最判平成12年7月7日(取締役損失補填責任追及請求控訴及び共同訴訟参加事件)
民集54巻6号1767頁、判時1729号28頁、判夕1046号92頁

<事実の概要>

A株式会社は我が国最大手の証券会社であり、BはA社の大口顧客である。

Bは、Cとの間で、Bを委託者、Cを受託者とする特定金銭信託契約を締結し、これに基づきCがA社に取引口座を開設して、有価証券の売買によるBのための資金運用が開始された。

Bはこの取引につき投資顧問業者との間で投資顧問契約を締結しておらず、もっぱらA社がBに代わってCに指図するいわゆる営業特金による取引であった。

Bのため特金勘定取引口座には、平成元年末頃に約2億7000万円の損失が生じており、平成2年1月頃からの株式市況の急激な悪化によって、更に損失が拡大し、期間満了を待たずに取引を終了させた同年2月ころには、損失額は約3億6000万円となっていた。

当時、証券会社による大口顧客への巨額の損失補填が報道される中、大蔵省は、日本証券業協会会長宛に、法令上の禁止行為である損失保証・特別の利益提供による勧誘はもとより事後的な損失補填や特別利益提供も厳に慎むこと、特定勘定取引についても顧客と投資顧問業者の間に投資顧問契約を締結すること等を証券会社に徹底する旨の証券局長通達を発し、日本証券業協会もこれにあわせて公正習慣規則の改正を行った。

しかし、A社を始めとする証券会社は、この通達の趣旨の主眼は早急に営業特金の解消を求める点にあると理解し、株式市況が急激に悪化する中で顧客との関係を良好に維持しつつ営業特金の解消を進めていくためには、損失補填を行うこともやむを得ないという考え方が大勢を占めるようになった。

A社の担当者は、本件通達の直後から、Bの財務部長らと営業特金の解消について交渉したが解決に至らず、損失補填をしなければ今後の取引関係に重大な影響が生ずると考えて、専務取締役で管理部門の最高責任者であったY1に対し、損失補填の必要がある旨の報告をした。

Y1は、Bの営業特金については、有価証券市場が好況であった当時から損失が生じており、将来のBの証券発行に際して主幹事証券会社の地位を失う恐れがあることも考慮して、損失補填を実施する必要があると判断した。

平成2年3月、A社の代表取締役であるYらが出席したA社の専務会において、Bほかの顧客に生じた損失について補填を実施することが提案され了承され、その結果Bは3億6019万1127円の利益を得て、営業特金による損失が補填され、営業特金も解消された。

なお、Yらは、上記損失補填の実施を決定するに当り、その違法性の有無につき法律家等の専門家の意見を徴することをしなかった。

ちなみに本件損失補填後、A社とBとの取引関係は維持され、Bが平成4年7月に300億円、平成5年3月に200億円の社債を発行した際、A社は、その主幹事証券会社として1億2000万円余の手数料を得るなど、既に相当額の収入を得ており、かつ今後も得られる見込である。

A社の株主であるXは、本件損失補填につき、当時A社の代表取締役であったYらが取締役としての義務に違反して会社に損害を被らせたものであると主張して、Yらの責任を追及する株主代表訴訟を提起した。

<判決理由>上告棄却。

「株式会社の取締役は、取締役会の構成員として会社の業務執行を決定し、あるいは代表取締役として業務の執行に当るなど職務を有するものであって、商法266条は、その職責の重要性に鑑み、取締役が会社に対して負うべき責任の明確化と厳格化を図るものである。

本規定は、右の趣旨に基づき、法令に違反する行為をした取締役はそれによって会社の被った損害を賠償する責めに任じる旨を定めるものであるところ、取締役を名宛人とし、取締役の受任者としての義務を一般的に定める商法254条3項(民法644条)、商法254条の3の規定(以下、併せて「一般規定」という。)及びこれを具体化する形で取締役がその職務遂行に際して遵守すべき義務を個別的に定める規定が本規定にいう「法令」に含まれることは明らかであるが、さらに、商法その他の法令中の、会社を名宛人とし、会社がその業務を行うに際して遵守すべきすべての規定もこれに含まれるものと解するのが相当である。

けだし、会社が法令を遵守すべきことは当然であるところ、取締役が、会社の業務執行を決定し、その執行に当る立場にあるものであることからすれば、会社をして法令に違反させることのないようにするため、その職務遂行に際して会社を名宛人とする右の規定を遵守することもまた、取締役の会社に対する職務上の義務に属するというべきだからである。

したがって、取締役が右義務に違反し、会社をして右の規定に違反させることとなる行為をしたときは、取締役の右行為が一般規定の定める義務に違反する行為をしたときに該当することになるものと解すべきである。」

「しかしながら、株式会社の取締役が、法令又は定款に違反する行為をしたとして、本規定に該当することを理由に損害賠償責任を負うには、右違反行為につき取締役に故意又は過失があることを要するものと解される(最高裁昭和・・・51年3月23日第三小法廷判決・裁判集民事117号231頁参照)。」

以上の一般論に続けて、Yらが損失補填を決定・実施したことは独占禁止法に違反し、前商法266条1項5号にいう法令に違反する行為に該当するが、Yらがこれらの行為の決定・実施の当時において、それが独占禁止法に違反するという認識を有するに至らなかったことにはやむを得ない事情があったとして、その責任を否定した。

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大和銀行株主代表訴訟事件・・・

大阪地判平成12年9月20日(株主代表訴訟事件、共同訴訟参加請求事件)
判時1721号3頁、判夕1047号86頁、金判1101号3頁

<事実の概要>

本件は、A銀行の株主であるXらが、同行の行員Bが、昭和59年から平成7年までの間、同行に無断かつ簿外で米国財務省証券の取引を行って損失を出し、この損失を隠蔽するために顧客、A銀行所有の財務省証券を無断かつ簿外で売却して、A銀行に約11億ドルの損害を与えたことについて、①当時代表取締役及びニューヨーク支店長の地位にあった取締役に関しては、行員による不正行為を防止するとともに、損失の拡大を最小限にとどめるための内部統制システムを構築すべき善管注意義務・忠実義務があったのにこれを怠ったことを理由として、②その余の取締役及び監査役に関しては、代表取締役らが内部統制システムを構築しているか監視する善管注意義務・忠実義務があったのにこれを怠ったことを理由として、損害賠償を求めた。

(乙事件)A銀行が、ニューヨーク支店において本件無断取引等により約11億ドルの損害が発生したことを米国当局に隠蔽していたなどとして、米国において刑事訴追を受け、そのうち一部の訴因について有罪の答弁を行って、罰金を支払ったことについて、①当時代表取締役及びニューヨーク支店長の地位にあった取締役に関しては、内部統制システム構築義務違反、米国における法令を遵守する義務の違反を理由として、②その余の取締役及び監査役に関しては、内部統制システムの構築に関する関し義務違反、米国における法令を遵守しているかについての監視義務違反を理由として、A銀行が支払った罰金3億4000万ドル及び当該刑事事件に関し支払った弁護士報酬1000万ドルの合計3億5000万ドル等を同行に賠償するよう求めた。

<判決理由>

判示は、「健全な会社経営を行うためには、目的とする事業の種類、性質等に応じて生じる各種のリスク、例えば、信用リスク、市場リスク、流動性リスク、事務リスク、システムリスク等の状況を正確に把握し、適切に制御すること、すなわちリスク管理が欠かせず、会社が営む事業の規模、特性等に応じたリスク管理体制(いわゆる内部統制システム)を整備することを要する。

そして、重要な業務執行については、取締役会が決定することを要するから(商法260条2項)、会社経営の根幹に係わるリスク管理体制の大綱については、取締役会で決定することを要し、業務執行を担当する代表取締役及び業務担当取締役は、大綱を踏まえ、担当する部門におけるリスク管理体制を具体的に決定するべき職務を負う。

この意味において、取締役は、取締役会の構成員として、また、代表取締役又は業務担当取締役として、リスク管理体制を構築すべき義務を負い、さらに、代表取締役及び業務担当取締役がリスク管理体制を構築すべき義務を履行しているか否かを監視する義務を負うのであり、これもまた、取締役としての善管注意義務及び忠実義務の内容をなすものというべきである。

監査役は、商法特例法22条1項の適用を受ける小会社を除き、業務監査の職責を担っているから、取締役がリスク管理体制の整備を行っているか否かを監査すべき職務を負うのであり、これもまた、監査役としての善管注意義務の内容をなすものと言うべきである。」と一般論を述べた上で、「ニューヨーク支店における財務省証券取引及びカストデイ業務に関するリスク管理体制は、当法廷に提出された証拠上は、大綱のみならずその具体的な仕組みについても、整備されていなかったとまではいえない」としつつ、「A銀行本部(検査部)、ニューヨーク支店及び会計監査人が行っていた財務省証券の保管残高の確認は、その方法において、著しく適切さを欠いていたものと評価され」「A銀行のリスク管理体制は、この点で、実質的に機能していなかったものと言わなければならない。」とした。

その上で、(1)検査部及びニューヨーク支店長を務めた5名の業務担当取締役あるいは使用人兼務取締役のうちニューヨーク支店長を務めた3名について任務懈怠の責任を認め、(2)代表取締役頭取・副頭取については「頭取あるいは副頭取はは、各業務担当取締役にその担当業務の遂行を委ねることが許され、各業務担当取締役の業務執行の内容につき疑念を差し挟むべき特段の事情がない限り、監督義務懈怠の責を負うことはないものと解するのが相当である。」とした。

(3)また、検査部及びニューヨーク支店の指揮系統に属さない取締役について、ニューヨーク支店における財務省証券の保管残高の確認方法について疑念を差し挟むべき特段の事情がない限り、不適切な検査方法を採用したことについて、取締役としての監視義務違反を認めることはできないとした。

(4)最後に、監査役については、ニューヨーク支店に往査し、会計監査人の監査に立ち会った監査役についてのみ責任を認めた。

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