建築請負契約に基づく敷地に対する商事留置権の成否・・・

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建築請負契約に基づく敷地に対する商事留置権の成否・・・

東京高決平成10年12月11日(不動産競売手続取消決定に対する執行抗告事件)
判時1666号141頁、判夕1004号265頁、金判1059号37頁

<事実の概要>

X銀行は、A株式会社の所有する土地(以下、「本件各土地」)に根抵当権を有する抵当権者である。

平成8年5月、Xは上記根抵当権に基づき、本件各土地の競売を東京地方裁判所(以下、「執行裁判所」)に申立て、執行裁判所は競売開始決定した。

評価人は、執行裁判所の評価命令に基づき本件各土地の評価をなし、平成9年1月、評価額1億355万円とする評価書を執行裁判所に提出した。

平成10年2月24日、執行裁判所はXに対し、本件各土地の評価額が、引受となる留置権の被担保債権額(4億1634万余円)を下回るとの理由で、民事執行法63条1項の規定に基づく無剰余通知をした。

これに対しXが同条2項に定める手続を行なわなかったため、同年3月9日、執行裁判所は本件競売手続を取消す旨の決定ををした(原決定)。

原決定が引受となると解した留置権は、B株式会社がAに対して有する建築工事請負残代金を被担保債権とするものである。

平成2年8月、BはAとの間で、本件各土地上に鉄骨造8階建て建物を建築するという建築工事請負契約(請負代金5億9946万円)を締結し、建築工事に着手した。

ところが平成3年9月、Aが破産宣告(破産手続開始決定)を受けたため、工事は、躯体及び三方の外壁は完成、建物の前面は3階以上がサッシュ施行済み・ガラス工事未施工、2階以下がサッシュ・ガラス工事とも未施行という状態で、中止された。

上記破産宣告における請負残代金は、元本及び破産宣告時までの約定遅延損害金を合わせて、4億1634万余円であった。

Bは、本件各土地上に建築中の建物を万能板で囲い、出入り口を施錠するなどしている。

また、本件各土地はAの破産宣告により、いったん破産財団に属したが、平成7年12月、破産管財人がこれを放棄し、Aの所有に戻っている。

以上のような事実関係のもと、Xが原決定の取消を求めて抗告したのが本件である。

<判決理由>原決定取消し(確定)。

「商事留置権が成立するためには、債務者所有の物がその債務者との間における商行為によって債権者の占有に帰したことを要する(商法521条)。

ところで、建物建築工事請負人は請負契約の趣旨に従って建築する建物の敷地である土地に立ち入り建築工事をするのが通常であり、工事の着工からその完成と注文主への引渡しまでの間の請負人による土地の使用は、他に別段の合意があるなどの事情がない限り、使用貸借契約などの独立の契約関係に基づくものではなく、請負人が請負契約に基づき建築工事をして完成した建物を注文主に引き渡す義務の履行のために、注文主の占有補助者として土地を使用しているにすぎないというべきであり、土地に対する商事留置権を基礎付けるに足りる独立した占有には当たらないと解するのが相当である。

また、本件においては、Aが破産宣告を受けたため建築工事が中止されたが、Bは、その時点までに躯体が完成した建築中の建物の所有権を原始取得しており、右建築中の建物の所有することによりその敷地である本件各土地の占有を取得したと解される。

しかし、この場合の土地の占有は、当初の請負契約に基づく請負人の土地使用とは別個のものであり、請負人と注文主との間の商行為としての建物建築請負契約に基づくものともいえないから、請負人であるBが右占有を基礎として敷地に対する商事留置権を主張することはできないというべきである。

なお、Bは、本件各土地に建築中の建物を万能板で囲い出入り口を施錠するなどして建築中の建物を占有しているが、右占有によって本件各土地を占有したことにはならないし、仮に万能板で囲い出入り口を施錠したことにより直接本件土地の占有を取得したと解しえる場合があったとしても、右占有が商行為によって生じたものでないことは明らかである。

そうすると、前記別段の合意があるなどの事情を認めるに足りる資料もない本件においては、Bが本件各土地に対し前記請負残代金を被担保債権とする商事留置権を有するものと認めることはできないから、Bが右留置権を有することを前提として本件各土地の評価額が右留置権の被担保債権を下回ることを理由に本件競売の手続を取消した原決定は相当でない。」

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債務者の破産宣告と商事留置権の効力・・・

最判平成10年7月14日(損害賠償請求事件)
民集52巻5号1261頁、判時1663号140頁、判夕991号129頁

<事実の概要>

平成3年3月25日、A株式会社は銀行取引約定書(以下、「本件約定書」)を差し入れて、Y銀行と取引を開始した。

本件約定書5条1項には、Aが手形交換所の取引停止処分を受けたときには、AのYに対する一切の債務について当然に期限の利益を失う旨、4条4項には、AがYに対する債務を履行しなかった場合には、Yが占有するAの動産、手形、その他の有価証券は、Yが取立て・処分でき、その取得金から諸費用を差し引いた残額を法定の順序にかかわらず債務の弁済に充当できる旨、規定されていた。

平成5年1月25日、YはAに対し、手形金額98万余円の約束手形(以下、「本件手形」)の割引を申し込んだ。

Yは信用照会の結果を見てから本件手形の割引を実行することとして、本件手形を預ったが、翌25日、Aが振り出した決済見込みのない手形が手形交換から回ってきたので、本件手形の割引を見送った。

Aは、同日と翌26日に手形を不渡とし、同月31日に銀行取引停止処分を受け、遅くともこの時点において、上記貸付金債務について期限の利益を失った。

Aは、同月30日に破産の申立をし、同年4月15日に破産宣告(破産手続開始決定)を受け、Xが破産管財人に就任した。

同年5月、XはYに対し本件手形の返還を求めたが、Yはこれを拒絶し、本件手形の支払期日である同年6月10日に手形交換によって本件手形を取り立て、上記貸付金債権の弁済に充当した。

そこで、Xは、Yが本件手形の返還を拒絶したうえ、本件手形を支払期日に取り立ててYのAに対する債権の弁済に充当したのは不法行為に該当するとして、Yに対し、本件手形金額相当の損害賠償を請求した。

原審は、Yが本件手形について取得した商事留置権は、Aが破産宣告を受けたことにより特別の先取特権とみなされるが(改正前破産法93条1項。現行破産法66条1項に相当)、この場合、留置権としての効力は失効し、本件約定書4条4項の処分権はAの委託に基づくものであって、Aの破産により当該処分権は消滅する、としてXの請求を認容した。

これに対してYが上告した。

<判決理由>破棄自判、Xの控訴棄却(結果として、Xの請求は棄却された)。

「Yは、本件手形の占有を適法に開始し、遅くともAが銀行取引停止処分を受けた平成5年3月31日には本件手形に対して商事留置権を取得したものということができ、・・・そして、Aに対する同年4月15日の破産宣告は、破産法93条1項によって、右商事留置権が破産財団に対して特別の先取特権とみなされることになる。

そこで、検討するに、破産財団に属する手形の上に存在する商事留置権を有する者は、破産宣告後においても、右手形を留置する権能を有し、破産管財人からの手形の返還請求を拒むことができるものと解するのが相当である。

けだし、破産法93条1項前段の・・・「之を特別の先取特権と看なす」という文言は、当然には商事留置権者の有していた留置権能を消滅させる意味であるとは解されず、他に破産宣告によって右留置権能を消滅させる旨の明文の規定は存在せず、破産法93条1項前段が商事留置権を特別の先取特権とみなして優先弁済権を付与した趣旨に照らせば、同項後段に定める他の特別の先取特権者に対する関係はともかく、破産管財人に対する関係においては、商事留置権者が適法に有していた手形に対する留置機能を破産宣告によって消滅させ、これにより特別の先取特権の実行が困難となる事態に陥ることを法が予定しているものとは考えられないからである。

そうすると、商事留置権を有するYは、Aに対する破産宣告後においても、Xによる本件手形の返還請求を拒絶することができ、本件手形の占有を適法に継続し得るものというべきである。」

本件約定書4条4項は、文言上、取引先が破産宣告を受けて銀行の有する商事留置権が特別の先取特権とみなされた場合にどのような効果をもたらす合意なのか明確でない上、かかる先取特権は他の特別の先取特権に劣後する(改正前破産法93条1項後段。現行破産法66条2項)ことに鑑みれば、同条項を根拠として、直ちに法律に定めた方法によらず銀行が占有する手形等を処分することができるということはできない。

しかしながら、支払期日未到来の手形については、民事執行法に基づく執行官の取り立ても銀行による取立ても、取立て者の裁量等が介在する余地がない手形交換制度を利用して行なわれるという点で同様である。

「そうであれば、銀行が右のような手形について、適法な占有権原を有し、かつ特別の先取特権に基づく優先弁済権を有する場合には、銀行が自ら取り立てて弁済に充当し得るとの趣旨の約定をすることには合理性があり、本件約定書4条4項を右の趣旨の約定と解するとしても必ずしも約定当事者の意思に反するものとはいえないし、当該手形について、破産法93条1項後段に定める他の特別の先取特権のない限り、銀行が右のような処分等をしても特段の弊害があるとも考え難い。

・・・以上に鑑みれば、本件事実関係の下においては、・・・Yの行為は、Xに対する不法行為となるものではない。」

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利息制限法違反による不当利得返還請求権と消滅時効・・・

最判昭和55年1月24日(不当利得金返還請求事件)
民集34巻1号61頁、判時955号52頁、判夕409号73頁

<事実の概要>

昭和39年4月30日、XはYから700万円を借り受けた。

利息は月7分で翌月から毎月々末限り支払う、弁済期は昭和40年4月30日との約定であった(以下、「本件消費貸借」)。

同日、Xは、1ヶ月分の利息として49万円を天引されて651万円の交付を受けた上、Yに対し、同年5月から昭和40年4月まで毎月末日に約定利息49万円を支払ったほか、弁済期日である同年4月30日に元本分として700万円を支払った。

昭和50年1月30日、Xは、本件消費貸借の約定利息は利息制限法の制限を越えるものであるから、超過支払分は元本に充当され、結局Yは574万余円を不当に利得したとして、その返還を求めて訴えを提起した。

これに対しYは、Xは借受当時、各所で飲食店等を経営しており、店舗の購入資金としてYから700万円を借り受けたのであるから、本件消費貸借はXの付属的商行為にあたり、仮にXのした弁済に過払いがあるとしても、その返還請求権は5年間の消滅時効(商法522条)に服すると主張した。

原審は、過払い分の返還請求権は、Xが、本件消費貸借に基づく債務が完済されて債務が存在しないにのその弁済として支払ったことによって生じたものであるから、本件消費貸借が商行為であるか否かとは関係がなく、Y主張のように商行為によって生じた債権ということはできないのであって、消滅時効の期間は、民事上の一般債権として10年(民法167条1項)と解すべきであるとして、Yの消滅時効の抗弁を認めなかった。

Yは上告した。

<判決理由>上告棄却。

「商法522条の適用又は類推適用されるべき債権は商行為に属する法律行為から生じたもの又はこれに準ずるものでなければならないところ、利息制限法所定の制限をこえて支払われた利息・損害金についての不当利得返還請求権は、法律の規定によって発生する債権であり、しかも、商事取引関係の迅速な解決のため短期消滅時効を定めた立法趣旨からみて、商行為によって生じた債権に準ずるものと解することもできないから、その消滅時効の期間は民事上の一般債権として民法167条1項により10年と解するのが相当である。」

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不特定物売買と商法526条の適用・・・

最判昭和35年12月2日(石炭代金請求事件)
民集14巻13号2893頁、裁判集民事47号87頁

<事実の概要>

X株式会社は石炭の採掘・販売を業とする会社である。

昭和28年8月12日、XはY株式会社に対し石炭330トンを売り渡す契約を締結した。

代金1トンあたり4100円(合計135万3000円)、品質紋珠洗粉炭で6200カロリーのものというのが約定であった。

同月25日、XはYに対して約定の引渡場所で石炭330トン(以下、「本件石炭」)を引き渡した。

引渡しにはYの従業員が立会い、約定どおりの品質を有しているとしてこれを受領した。

ところが、Yが本件石炭を転売先に納入したところ、X・Y間の契約で定められたところより品質が粗悪であることが判明し、Yは転売にあたり相当の代金減額を余儀なくされた。

YはXに対し68万8000円を支払ったが、残金の支払をしないので、Xは、残金の支払及び遅延損害金を求めて本件訴訟を提起した。

これに対しYは、本件石炭が粗悪品だったことにより、転売先へ代金減額分の得べかりし利益を喪失し、これに相当する損害を被ったとして、当該損害賠償請求権を自働債権とする相殺を主張している。

原審は、「商人間の売買において(本件当事者双方がいずれも商人であることは互に明らかに争わないところである)買主がその目的部を受け取ったときは遅延なくこれを検査し、もし瑕疵があることを発見したときは直ちに売主にその通知を発しなければその瑕疵を理由として代金の減額ないし損害賠償の請求をすることはできないものと解すべきであるが、本件売買の目的物である石炭のごときは分析により容易にその品質を検査することができるものであり、又その取引のなされた後転売等に際し他の石炭と混合されるようなこともあり得ることであるから、買主においてなすべき前記検査及び通知は目的物を受け取った後直ちにこれをなさなければならないものと解するを相当とする」として、YがXになした通知は時機を失しており、YはXに対して目的物の瑕疵を理由として損害賠償を請求することはできず、相殺の抗弁は認められないとした。

これに対し、Yは、商法526条は不特定物売買には適用がないと解すべきであるとして、上告した。

<判決理由>上告棄却。

「商法526条の規定は、不特定物の売買の場合にも適用があると解するのを相当とするから、原審が本石炭の売買につき同条を適用したのは正当である。」

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