保証渡し・・・

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保証渡し・・・

東京地判平成8年10月29日(損害賠償請求事件)
金法1503号97頁

<事実の概要>

中国のA会社及びB会社は、平成7年1月頃、日本のC株式会社に対し、冷凍鶏肉を売り渡し、その引渡しのために、海上運送業者であるY株式会社との間で、陸揚港を日本の東京港等として、各冷凍鶏肉についての船舶による各物品運送契約を締結した。

Yは、昭和7年1月下旬に、中国の港において各運送品をそれぞれ船積し、運送人として、荷送人であるA及びBに対し、各運送品の船積船荷証券を交付した。

A及びBは、荷為替手形をD銀行で買取ってもらい、その後日本のX銀行は、Cのために発行していた信用状に基づき、Dに対しに為替手形の支払を行い、荷為替手形の付属書類である本件運送契約にかかる各船荷証券及び商業送り状を所持するに至った。

書く運送品は平成7年2月前後に東京港等に到着し、各運送品はいずれもそれぞれの到着日に荷揚げされた。

Yの代理店であるE株式会社は、Cまたはその代理店F会社に対し、各運送品について各到着日等にこれらを引き渡したが、これらの引渡しは、いずれも船荷証券と引替えにされたのではなく、後日船荷証券を入手次第これを運送人に引き渡す旨を約した保証状を差し入れさせて船荷証券なしに運送品を引き渡す、いわゆる保証渡しの方法で行なわれた。

Cは、平成7年3月29日破産宣告を受け(破産申立の日は同月16日)、Xに対して荷為替手形の手形金相当額等の費用償還債務を履行することができず、本件各船荷証券を入手できなかった。

Xは、本訴において、Yが買主に対しその破産前にいわゆる保証渡しの方法により船荷証券と引き換えることなく運送品を引き渡したことによって運送品の引渡し債務が履行不能となり、これによって損害を被ったとして、その賠償を請求した。

<判決理由>請求認容。

「前記認定のとおり、Yの代理商(代理店)であるEが、C又はその代理店Fに対し、本件各運送品を本件各船荷証券なしにいわゆる保証渡しに方法で引き渡したため、Yが運送人として負う本件各船荷証券の所持人に対する右各運送品引渡義務は、履行不能となったが、EはYの代理商(代理店)として右行為を行なったものである。

運送人は、自己又はその使用する者が運送品の引渡しにつき注意を怠ったことにより生じた運送品の滅失等について損害賠償責任を負うが(国際海上物品運送法3条1項)、右にいう運送人の「使用するもの」とは、運送人が自らの債務の履行のために使用する者、すなわち、履行補助者を意味し、運送人と雇用関係にある狭義の履行補助者に限られず、下請人、代理商等のいわゆる履行代行者も含まれるものと解するのが相当である。)。

したがって、本件において、運送人であるYは、代理商(代理店)であるEが注意を怠ったため右のとおり本件各運送品を引き渡したのであるとすれば、これにより生じた損害の賠償責任を免れないところ、Eは、本件各船荷証券と引換えではなく、本件各船荷証券を所持していないCに本件各運送品を引き渡しており、この引渡しをもってYの本件各船荷証券の所持人に対する本件各運送品引渡義務を免れることはないから、Yは右債務の履行不能による損害賠償責任を負うものというべきである(国際海上物品運送法10条、商法584条)。」

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双方過失による船舶の衝突・・・

東京地判昭和40年7月20日(損害賠償請求事件)
下民16巻7号1257頁、判時426号41頁、判夕179号125頁

<事実の概要>

昭和36年7月21日午後11時25分ごろ、X株式会社の所有する機船M丸と、Y1が所有しY2株式会社が賃借して使用する機船N丸とが、津軽海峡東口、恵山岬灯台から磁針方位南東微東2分の1東約3、5海里の地点で衝突した。

本件衝突は、濃霧となり展望が著しくさえぎられたのに適度の速力とせず、かつレーダーで前路に他船の映像を認め、自船と互いに接近する状況にあったのになんらの措置もとらず、依然全速力のまま進行したM丸の船長の運航に関する職務上の過失と、濃霧となり展望が著しくさえぎられているに適度の速力で進行しなかったN丸の船長の運航に関する職務上の過失によって発生したものである。

本件衝突により、M丸は現実の損害として217万1359円(内訳、修繕及び検査関係費用209万4750円、附随諸費用7万6609円)、休航損害として144万8015円、計361万9374円の損害を受け、N丸は修繕費等現実の損害として109万5960円、休航損害として273万9076円、計383万5036円の損害を受けた。

XがY1及びY2に対して損害賠償を請求した。

Xは交差責任説によるべきであり、かつY2は相殺を主張しえないとして、上記Xの損害額の賠償を請求するのに対して、Y2は単一責任説をとるべきであり、交差責任説をとるとしても民法509条の相殺禁止は本件には適用がなく、Y2は賠償額のうち対等額を相殺したと主張した。

<判決理由>請求棄却。

1 「N丸はY2が賃借していたのであるから、本件衝突について責任を負うのはY2であって、Y1ではない。

よってY1に対するXの請求は、その余のの点につき判断するまでもなく、理由がない。」

2 「双方過失による船舶の衝突については、衝突という事実が1つであるから、1個の不法行為があり、その損害も単一の損害であって支払勘定となる方のみに単一の責任が生じるにとどまるとの考え方もあるが、衝突という事項が1つであっても双方にそれぞれに損害が生じ不法行為に要件を充たしていれば、むしろ別々に2個の不法行為が存在すると解するのが相当である。

商法797条は船舶の衝突が同時に1つの事実で相互的になされた不法行為であることから、損害額の負担について法律上の過失相殺が当然に認められる(過失の軽重を判定できないときは平分して負担するとする)という妥当な解釈を規定しただけであって、不法行為による損害賠償請求の実体的内容にまで変更を加えたものと解することができない。

又右のように解すると民法509条の相殺禁止の規定が問題となるが、同条は不法行為の被害者には現実の弁済によって損害の填補をうけさせようとするためのものであるから、双方過失による衝突のような1個の同時的現象において相互的に発生した同質的な損害についてまで相殺を禁止する趣旨のものとは考えられない。

相手方がその責任を制限した場合(商法690条)に不公平が生じないかの点については公平の見地により責任を制限されても損害賠償について差引計算を主張しうると解する余地があるし、いずれにしろ商法690条の解釈として解決すべきであって、そのことから交叉責任説を否定するのは適当ではないと考える。

ところで本件双方の過失の程度についてX側が重いことは当事者間に争いのないところであり、双方に争いのない衝突の経過によれば、X側の船舶はレーダーを備えており、しかも全速力のまま航行した点で過失が重く、X,Y2の過失の割合は少なくともXが6、したがってY2が4と認めるのが相当である。

しかして同様に争いのない双方の損害額によれば、XはY2に対して少なくとも230万1021円の支払義務がありY2の相殺の意思表示によってXの損害賠償請求権は消滅している。」

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目論見書の交付義務違反に基づく証券会社の損害賠償責任・・・

東京高判平成12年10月26日(損害賠償請求事件)
判時1734号18頁、判夕1044号291頁、金判1106号37頁

<事実の概要>

香港に本店を有するA投資銀行は、第1回円貨外債(本件社債)をY証券会社を主幹事会社として募集・販売した。

募集に係る届出の効力は平成9年6月17日に生じ、申込期間は同日から同月27日まで、払込期日(受渡日)は同月30日とされた。

Xは、平成9年6月17日の電話においてY社B支店の担当者Cとの間で、本件社債を代金1000万円で購入する契約を締結し、同月25日に購入代金を支払ったが、担当者Cらは本件社債に係る目論見書を売買契約締結後にXに送付した。

Y社B支店では、売買契約の締結に先立ってXに対し本件社債の販売要領と会社概要を記載した文書を送付しており、同文書には、本件社債の発行条件、格付け、A銀行の財務状況、業績に関する情報等が記載されていた。

他方、本件社債の目論見書「第一部 証券情報」の「第2 事業の概況等に関する特別記載事項」には、当グループ(A銀行とその全子会社)のすべての業務は実質上アジアの金融市場にあるところ、日本を除く同市場は未開発で西側の市場と比較して変動が激しく大幅に遅れた段階にあること、当グループの事業はすべての面で激しく競争的で、競争企業の多くは当グループよりはるかに多大の資本等の資源、国際的影響力、香港外での知名度を有していること、当グループの直接投資の多くは証券が公開取引されておらず市場において取引されるに至らない企業に対して行なわれているなどといった、事業経営上のリスク情報が記載されていた。

A銀行は、アジア通貨危機の影響で保有していたインドネシア企業向けの債権が不良化し、平成10年1月に清算を余儀なくされ、本件社債は債務不履行(デフォルト)になった。

そこでXは、Cらの行為が、本件社債の購入を勧めるについて債務不履行又は不法行為等に当るなどとして、Y社に対し損害賠償を請求した。

第1審判決がXの請求を一部認容したため、X・Y社双方が控訴した。

<判決理由>Xの控訴棄却、原判決中Y敗訴部分取消、Xの請求棄却。

「Y社は、証券取引法15条2項に違反して、あらかじめ又は同時に本件目論見書をXに交付しなかったものであるところ、Y社がXに対し同胞16条による損害賠償責任(無過失責任とされている。)を負うのは、右違反行為とXが被った損害との間に相当因果関係があることを要するので、この点について検討する。

Xが被った損害は、本件社債の発行会社であるA銀行が倒産したために生じたものであるところ、XがY社の勧誘を受けて本件社債を購入した時点では、本件社債は、格付機関によりBBB+と格付され投資適格債券とされていたものであり、A銀行は、香港の中国返還前後に相次いだ中国系企業の香港上場等で急成長したアジアの業界トップ企業とされていたのであるから、A銀行が近い将来倒産することを予見することは、Y社にとっても不可能であったものと認められる。

そして、Xは、Y社から本件社債を購入する際には、本件目論見書があらかじめ又は同時に交付されるべきであることを知っていたが、購入に先立ってY社に対して本件目論見書の交付を求めることなく、かつ、事後に送付された際にも、その記載内容がCらの勧誘行為における説明と異なるとか、本件目論見書をあらかじめ見ていれば本件社債を購入しなかったなどの苦情、抗議、解約の申出等を一切しておらず、また、その後においても、本件社債を売却しようとしたことはなかったのであり、本件目論見書の「事業の概況等に関する特別記載事項」の事業経営上のリスク等についての記載を検討してみても、A銀行が近い将来に経営状態が急激に悪化して倒産することをうかがわせる記載があるものと認めることができず、A銀行及び本件社債についての右評価を左右するようなものと認めることはできない。

・・・そうすると、Xにおいて、あらかじめ又は同時に本件目論見書の交付(送付)を受けたとすれば、本件社債を購入しなかったであろうとまでは認めることができない。

以上の事情を併せ考慮すると、Y社がXに対し本件目論見書をあらかじめ又は同時に交付しなかったことと、A銀行が倒産したことによりXが被った損害との間に相当因果関係は存しないというほかない。

したがって、Y社は、証券取引法16条による賠償責任を負わない。

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インサイダー取引 新薬の副作用と重要事実該当性・・・

最判平成11年2月16日(証券取引法違反被告事件)
刑集53巻2号1頁、判時1671号45頁、判夕999号96頁

<事実の概要>

A株式会社が医薬品の製造、販売等を主たる目的とし、大阪証券取引所に株式を上場している会社である。

A社が発売した新薬であるユースビル錠に死亡例を含む重篤な副作用症例が発生した。

そこで、A社は、平成5年10月12日朝、各支店及び営業所に対し、副作用症例の発生、同錠納入先の医師に安全性情報の伝達を行なうべきこと、及び情報伝達の完了を確認するまでの間、医療機関等への同錠の納入は一時中止し、A社から販売代理店への出荷も一時停止する旨を記載した文書をファックスで送付した。

厚生省は同日午後2時ころ同錠の副作用情報に関する緊急安全情報を発表し、A社も同日午後3時ころ、大阪証券取引所において副作用症例が生じたことを主な内容とする情報の記者発表を行なった。

皮膚科の開業医であるXは、A社と取引関係にあるB株式会社から同錠を購入し患者に投与していたところ、10月12日の午後1時20分ころにB社の支店次長が前記ファックスを持参して、Xに閲読させた。

その直後、Xは証券会社に電話をし、信用取引でA社株を売却した。

当該行為が証券取引法166条3項い違反するインサイダー取引であるとして、Xが起訴された。

第1審判決は、ユースビル錠の副作用症例の発生に伴いA社に生ずると予想される損害は、証券取引法166条2項2号イにいう「災害又は業務に起因する損害」に当ると解されるとしても、大蔵省例で定める軽微基準を上回るものと認定できないとした上で、同項4号を適用して、Xを有罪とした。

Xは控訴した。

これに対し控訴審判決は、証券取引法166条2項1号ないし3号に相応する事実について同項4号を適用することはできないとして、Xを有罪とした第1審判決を破棄差し戻した。

検察官は上告した。

<判決理由>破棄差戻し。

「第1審判決が認定した本件副作用症例の発生は、副作用の被害者等に対する損害賠償の問題を生ずる可能性があるなどの意味では、前記証券取引法166条2項2号イにいう「災害又は業務に起因する損害」が発生した場合に該当し得る面を有する事実であることは否定し難い。

しかしながら、・・・右副作用症例の発生は、A社が有力製品として期待していた新薬であるユースビル錠に大きな問題があることを疑わせ、同錠の今後の販売に支障をきたすのみならず、A社の特に製薬業者としての信用を更に低下させて、同社の今後の業務の展開及び財産状態等に重要な影響を及ぼすことを予測させ、ひいて投資者の投資判断に著しい影響を及ぼしえるという面があり、また、この面において同号イの損害の発生としての包摂・評価され得ない性質の事実であるといわなければならない。

もとより、同号イにより包摂・評価される面については、見込まれる損害の額が前記軽微基準を上回ると認められないため結局同号イの該当性が認められないこともあり、その場合には、この面につき更に同項4号の該当性を問題にすることは許されないというべきである。

しかしながら、前記のとおり、右副作用症例の発生は、同項2項イの損害の発生として包摂・評価される面とは異なる別の重要な面を有している事実であるということができ、他方、同項1号から3号までの各規定が掲げるその他の業務等に関する重要事実のいずれにも該当しないのであるから、結局これについて同項4号の該当性を問題にすることができる。」

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