自分で会社設立しますか?
ご自分で会社を設立するならまずはクリック!!
Contents
株券提出期間経過後の名義書換請求・・・
最判昭和60年3月7日(株式名義書換請求事件)
民集39巻2号107頁、判時1155号292頁、判夕554号161頁
<事実の概要>
Xは、昭和54年3月1日、Y株式会社の株式1万株を取得した。
Y社は、同年6月28日の株主総会決議により、定款において株式の譲渡制限の定めを置くものとし、前商法350条1項に基づき、同年8月31日までに株券を提出すべきこと、提出のない株券は無効となる旨を公告するとともに株主に対し通知を行った。
Xが上記提出期間経過後に名義書換を請求したところ、Y社は期間満了によりXの株券は無効となったため名義書換請求は認められないと主張した。
そこでXは、株式の名義書換を求めて本訴を提起した。
第1審判決は、株券提出期間の経過により未提出の株券は無効となるが株式そのものの効力には影響がなく、期間経過前に株式を譲り受け保有するにいたったXは、期間経過後も会社に対し株式取得の原因事実を主張・立証し、名義書換を請求できるとした。
原審判決は、期間経過により株券が無効となっても適法に株主となったXは株主たる地位を当然に失うものではないこと、Xは適法に株主となったことが証明されており、有効な株券の呈示は名義書換の不可欠の要素ではないと判示した。
Y社は上告した。
Y社は、①株式の譲渡制限の効力が発生した以上、適法に株式を取得した者は効力発生前の株式取を理由に名義書換請求できるというのは論理の飛躍がある、②有効な株券が存在しないときは除権判決を得た上で株券の再発行を受けて名義書換をすべきである、と主張した。
<判決理由>上告棄却。
「旧株券は、株券提出期間が経過したのちは株券としては無効のものとなると解される。
しかしながら、株券提出期間内に旧株券を提出しなかった株主も株主たる地位を失うものではなく、このことは、株券提出期間満了前に、したがって株式譲渡制限の定款変更の効力発生前に(同前商法350条2項参照)旧株券の交付を受けて株式を譲り受け、株主の地位を取得していたが、いまだ株主名簿上の名義書換を受けていなかった者についても異なるところはないとものというべきである。
・・・株券提出期間経過前に株主となっていた者は、右期間を徒過したためその所持する旧株券が株券としては無効となったのちであっても、会社に対し、旧株券を呈示し、株券提出期間経過後に右旧株券の交付を受けて株式を譲り受けたことを証明して、名義書換を請求することができるものと解するのが相当である。(最高裁昭和・・・52年11月8日第三小法廷判決・民集31巻6号847頁参照)。」
スポンサードリンク
防衛目的による新株予約権の第三者割当を差し止めることの可否・・・
東京高決平成17年3月23日(新株予約権発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告事件)
判時1899号56頁、判夕1173号125頁、金判1214号6頁
<事実の概要>
Y社は、放送法に基づく一般放送事業(AMラジオ事業)等を主たる事業内容とする株式会社であり、東京証券取引所第2部に上場している。
平成17年2月現在、Y社の発行済株式総数は3280万株であり、同年1月現在、Y社と同じ甲グループに属するA株式会社が、その22、5%を保有している。
A社は、放送法に基づくテレビジョン放送等を主たる事業内容としているところ、同年1月17日、Y社の経営権を獲得することを目的とし、Y社保有にかかる自己株式を除いたすべてのY社発行済株式の取得を目指して、証券取引法に定める公開買い付けを開始することを決定した(以下、「本件公開買い付け」という)。
Y社取締役会は、同日、以上の決定を受けて本件公開買い付けに賛同することを決議した。
X社は、コンピューターネットワークに関するコンサルティング等を主たる事業内容とする株式会社であり、Y社の発行済株式総数の5、4%を保有していた。
X社は、本件公開買い付けの期間中である同年2月8日、自らの子会社を通じて、東京証券取引所の立会外取引のシステムであるToSTNeT-1を利用してY社の発行済株式総数の約29、6%に相当する株式972万0270株を買い付けた。
その結果、X社とその子会社が保有するY社株式は、その発行済株式総数の約35、0%に至った。
X社代表取締役乙は、Y社の何人かの株主に対し、Y社の普通株式全部の取得を希望する旨を伝えたほか、記者会見により、放送局が保有するWebサイトをポータル化してシナジー効果を得ることを目的としていること、また甲グループとの業務提携を見据えていることを明らかにした。
A社代表取締役会長丙は、X社との業務提携に否定的な態度をとり、A社は、同月10日、本件公開買い付けにかかる買付条件を変更して、買付株式数の下限をA社がすでに保有する分も含めてY社発行済株式総数の25%とした。
Y社取締役会は、同月16日、本件公開買付の条件変更等を含めて、本件公開買付に賛同することを決議した。
Y社は、同月23日、取締役会において、第三者割当の方法により4720個の新株予約権を発行することを決議した。
この新株予約権1個あたりの目的たる株式数は1万株、その全ての割当先はA社とされている。
なお、以上の決議を行った取締役会にはY社の19名の取締役が出席していたが、当該決議は特別利害関係人に当る4名を除いた15名の取締役の全員一致によるものであり、その15名の中の4名は社外取締役であった。
X社は、Y社による新株予約権発行につき、これが特定の株主の議決権割合を低下させるものであること、またA社の利益を図るものであること等、著しく不公正な方法による発行であること等を理由として、差止仮処分の申立を行った(その他、有利発行に関する主張がなされていたが、これは原審で認められず、抗告審において主張が撤回されているため、ここでは省略)。
原審は、X社の仮処分命令申立を認容したことから(東京地決平成17、3、11判夕1173号143頁)、Y社が仮処分異議を申し立てたところ、原審仮処分決定は認可された(東京地決平成17、3、16判夕1173号140頁)。
これに対して、Y社が抗告した。
<判決理由>抗告棄却。
「商業上、取締役の選任・解任は株主総会の専決事項であり(254条1項、257条1項)、取締役は株主の資本多数決によって選任される執行機関といわざるを得ないから、被選任者たる取締役に、選任者たる株主構成の変更を主要な目的とする新株等の発行をすることを一般的に許容することは、商法が機関権限の分配を定めた法意に明らかに反するものである。
この理は、現経営者が、自己あるいはこれを支持して事実上の影響力を及ぼしている特定の第三者の経営方針が敵対的買収者の経営方針より合理的であると信じた場合であっても同様に妥当するものであり、誰を経営者としてどのような事業構成の方針で会社を経営させるかは、株主総会における取締役選任を通じて株主が資本多数決によって決すべき問題というべきである。
したがって、現経営者が自己の信じる事業構成の方針を維持するために、株主構成を変更すること自体を主要な目的として新株等を発行することは原則として許されないというべきである。
一般論としても、取締役自身の地位の変動がかかわる支配権争奪の局面において、果たして取締役がどこまで公平な判断をすることができるのか疑問であるし、会社の利益に沿うか否かの判断自体は、短期的判断のみならず、経済、社会、文化、技術の変化や発展を踏まえた中長期的展望の下に判断しなければならない場合も多く、結局、株主や株式市場の事業経営上の判断や評価にゆだねるべき筋合いのものである。」
「以上のとおり、会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において、株式の敵対的買収によって経営支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ、現経営者又はこれを支持し事実上の影響力を及ぼしている特定の株主の経営支配権を維持・確保することを主要な目的として新株予約権の発行がされた場合には、原則として、商法280条の39第4項が準用する280条の10にいう「著しく不公正なる方法」による新株予約権の発行に該当するものと解するのが相当である。
もっとも、経営支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権発行が許されないのは、取締役は会社の所有者たる株主の信認に基礎を置くものであるから、株主全体の利益の保護という観点から新株予約権の発行を正当化する特段の事情がある場合には、例が敵に、経営支配権の維持・確保を主要な目的とする発行も不公正発行に該当しないと解すべきである。
例えば、株式の敵対的買収者が、①真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、ただ株価を吊り上げて高値で株式を会社関係者に引取らせる目的で株式の買収を行っている場合(いわゆるグリーンメイラーである場合)、②会社経営を一時的に支配して当該会社の事業経営上必要な知的財産、ノウハウ、企業秘密情報、主要取引先や顧客等を当該買収者やそのグループ会社等に移譲させるなど、いわゆる焦土化経営を行う目的で株式の買収を行っている場合、③会社経営を支配した後に、当該会社の資産を当該買収者やそのグループ会者等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合、④会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産、有価証券など高額資産等を売却等処分させ、その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株式の高価売り抜けをする目的で株式買収を行っている場合など、当該会社を食い物にしようとしている場合には、濫用目的をもって株式を取得した当該敵対的買収者は株主として保護するに値しないし、当該敵対的買収者を放置すれば他の株主の利益が損なわれることが明らかであるから、取締役会は、対抗手段として必要性や相当性が認められる限り、経営支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権の発行を行うことが正当なものとして許されると解すべきである。
そして、株式の買収者が敵対的存在であるという一事のみをもって、これに対抗する手段として新株予約権を発行することは、上記の必要性や相当性を充足するものと認められない。
したがって、現に経営支配権争いが生じている場面において、経営支配権の維持・確保を目的とした新株予約権の発行がされた場合には、原則として、不公正な発行として差止請求が認められるべきであるが、株主全体の利益保護の観点から当該新株予約権発行を正当化する特段の事情があることを会社が疎明、立証した場合には、会社の経営支配権の帰属に影響を及ぼすような新株予約権の発行を差し止めることはできない。」
「Y社取締役会は、X社等がY社の株式を大量に取得する以前から、Y社をA社の完全子会社化して株式の上場廃止も意図し、A社による公開買付に賛同することを決議していたものであり、社外取締役4名が本件新株予約権の発行に賛同していることが認められ、これらの事実からみて、本件新株予約権の発行がY社の現取締役個人の保身を目的として決定されたとは認められない。
また、甲グループに属する経営陣の個人的利益を図る目的で本件新株予約権の発行が決定されたことをうかがわせる資料もない。
しかしながら、・・・本件新株予約権の発行は、X社等がY社の発行済株式総数の約29、6%に相当する株式を買い付けた後にこれに対する対抗措置として決定されたものであり、かつ、その予約権すべてが行使された場合には、現在の発行済株式総数の約1、44倍にも当る膨大な株式が発行され、X社等による持株比率は約42%から約17%となり、A社の持株比率は新株予約権を行使した場合に取得する株式数だけで約59%になることが認められる。
・・・以上によれば、本件新株予約権の発行は、Y社の取締役が自己又は第三者の個人的利益を図るために行なったものでないいとはいえるものの、会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において、株式の敵対的買収を行って経営支配権を争うX社等の持株比率を低下させ、現経営者を支持し事実上の影響力を及ぼしている特定の株主であるA社によるY社の経営支配権を確保することを主要な目的として行われたものであるから、・・・これを正当化する特段の事情がない限り、原則として著しく不公正な方法によるもので、株主一般の利益を害するものといえべきである。」
「Y社は、X社がマネーゲーム本位でY社のラジオ放送事業を解体し、資産を切り売りしようとしていると主張する。
しかしながら、X社が上記のようなY社の事業や資産を食い物にするような目的で株式の敵対的買収を行っていることを認めるに足りる確たる資料はない。」
「Y社がX社の経営支配下あるいはその企業グループとして経営された場合の企業価値とA社の子会社として甲グループの企業として経営された場合の企業価値との比較検討は、事業経営の当否の問題であり、経営支配の変化した直後の短期的事情による判断評価のみでこと足りず、経済事情、社会的・文化的な国民意識の変化、事業内容にかかわる技術革新の状況の発展などを見据えた中長期的展望の下に判断しなければならない場合が多く、結局、株主や株式取引市場の事業経営上の判断や評価に委ねざるを得ない事柄である。
そうすると、それらの判断要素は、事業経営の判断に関するものであるから、経営判断の法理にかんがみ司法手続きの中で裁判所が判断するのに適しないものであり、上記のような事業経営判断にかかわる要素を、本件新株予約権の発行の適否の判断において取り込むことは相当ではない。」
「本件ToSTNeT取引が取引所有価証券市場外における買付等の規制である証券取引法27条の2に違反するものでないことは前示のとおりであるから、上記問題があるとしても、それは証券取引運営上の当不当の問題にとどまり、証券取引法上の処分や措置をもって対処すべき事柄であって、それ故にX社の本件株式の取得を無効視したり、Y社に対抗的な新株予約権の発行を許容して証券取引法の不当を是正すべく制裁的処置をさせる権能を付与する根拠にはならない。
そうすると、X社等が本件ToSTNeT取引によってY社の株式を大量に買い付けたことが、証券取引法27条の2以下の公開買付制度の趣旨・目的が経営支配権確保にある本件新株予約権の発行を正当化する特段の事情があるということはできない。」
スポンサードリンク
将来の敵対的買収に備えた新株予約権発行の差止の可否・・・
東京高決平成17年6月15日(新株予約権発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告事件)
判時1900号156頁、判夕1186号254頁、金判1219号8頁
<事実の概要>
Y社は、その発行する株式をジャスダック証券取引所の開設するジャスダック市場に上場する株式会社である。
X社は、英領西インド諸島ケイマン諸島法に基づいて設立された有限責任会社であって、機関投資家から調達した資金を、その取締役で構成される投資委員会に基づき、日本の上場企業の株式に投資することを主たる事業としている。
そしてX社は、平成17年3月31日現在、Y社の発行済株式を28万5000株保有しており、この保有株式数は、Y社の発行済株式数の約2、85%に相当する。
Y社は、同年3月14日の取締役会において、同月31日現在の株主名簿上の株主に対し、1株につき無償で2個の割合で新株予約権を与えることを決議した。
Y社新株予約権発行要領によれば、その内容は以下のとおりである。
まず、発行目的(1項)は、「Y社は、Yに対する濫用的な買収等によってY社の企業価値が害されることを未然に防止し、Y社に対する買収等の提案がなされた場合に、Y社の企業価値の最大化を達成するための合理的な手段として用いることを目的として、本発行要領に定める新株予約権を発行する。」とされている。
次に、この新株予約権の行使条件(12項)は、「平成17年4月1日から平成20年6月16日までの間に手続開始要件が満たされた場合」であり、この手続開始要件とは、「特定株式保有者の存在をY社の取締役会が認識し、公表したこと」とされている。
ここに言う「特定株式保有者」とは、「公開買付者等であって、その者及びその者と一定の関係にある者が、Y社の発行済議決権付株式総数の20%以上を保有する場合の当該保有者」を指す。
また、「公表した」とは、「特定株式保有者がY社の発行済議決権付株式総数の20%以上を取得したことをY社取締役会が認識した後遅滞なく、Y社取締役会の決議に基づき、ジャスダックの定める適時開示規則所定の開示の方法に従い、その旨を開示し、かつ、Y社ホームページ上に掲載した上で、これらを行った日から2週間が経過した日以後の日でY社取締役会が定める日に、当該ある者が当社の発行済議決権付株式総数の20%以上を取得した旨の公告を行ったこと」を指す。
さらに、この新株予約権については、消却事由及び消却条件が定められている。
具体的には、手続開始要件が成就するまでの間に、①「取締役会が企業価値の最大化のために必要があると認めたとき」、もしくは②「取締役会が上記アに定める目的(1項に定める発行目的)を達成するための新たな制度の導入に際して必要があると認めたとき」には、取締役会の決議をもって、新株予約権の発効日以降において取締役会の定める日に、新株予約権の全部を一斉に無償で消却することができる。
なお、新株予約権の消却に関してはガイドラインが定められており、Y社取締役会が、本件新株予約権の消却等の是非について判断する際の指針とされている。
これによると、取締役会決議に際しては、Y社及び本件新株予約権の消却等につき利害関係のない有識者、弁護士、又は公認会計士2名以上3名以内の委員で組織される特別委員会による勧告を最大限尊重することとされているほか、Y社取締役会が本件新株予約権を消却しない旨の決議を行うことができる場合が明確化されている。
X社は、以上のY社による新株予約権の発行が著しく不公正な方法によるものである等主張して、差止仮処分の申立を行った。
その理由は多岐にわたるが、主要な部分は以下のとおりである。
まず、本件新株予約権の発行は、被選任者たる取締役に選任者たる株主構成を変更することを認めており、商法の定める期間権限の分配秩序に反する。
また、本件新株予約権の発行により、Y社株式はその価値に算定困難かつ重大な希釈化リスクを負い、それゆえ合理的な投資家はY社株式に対する投資を躊躇する結果、Y社株式の経済的価値は著しく下落し、容易に回避することが可能な著しい不利益を不当に株主に与える、というのである。
原審は、以下に示す一般論を述べた上で、本件では、取締役会限りで事前の対抗策としての新株予約権を発行するための要件が満たされていないとして、本件新株予約権の差止を認める仮処分決定を行った(東京地決平成17,6,1判夕1186号274頁)。
「会社の経営支配権に現に争いが生じていない場面において、将来、株式の敵対的買収によって経営支配権を争う株主が生じることを想定して、かかる事態が生じた際に新株予約権の行使を可能とすることにより当該株主の持株比率を低下させることを主要な目的として、当該新株予約権の発行がされる場合については、真摯に合理的な経営を目指すものではない敵対的買収者が現れ、その支配権取得が会社に回復し難い損害をもたらす事情は未だ存在しないのであるから、取締役会において一種の緊急避難的行為として相当な対抗手段を採るべき必要性は認められない。
このことは、敵対的買収者による支配権取得が企業価値維持の観点から適当でないと取締役会が判断した場合に、企業価値維持を動機として新株予約権の行使を可能とする場合であっても同様である。
したがって、本件のような事前の対抗策としての新株予約権の発行は、原則として株主総会の意思に基づいて行うべきであるが、株主総会は必ずしも機動的に開催可能な機関とは言い難く、次期株主総会までの間において、会社に回復し難い損害をもたらす敵対的買収者が出現する可能性を全く否定することはできないことから、事前の対抗策として相当な方法による限り、取締役会の決議により新株予約権の発行を行うことが許容される場合もあると考えられる。
しかし、その場合であっても、少なくとも事前の対抗策としての新株予約権の発行に株主総会の意思が反映される仕組みが必要というべきであり、また、新株予約権の行使条件の成就の判断を取締役会に委ねることについては、現経営者による権限の濫用のおそれが必然的に随伴するから、取締役会の恣意的判断の防止策も必要である。
そうであれば、取締役会の決議により事前の対抗策としての新株予約権の発行を行うためには、①新株予約権が株主総会の判断により消却が可能なものとなっているなど、事前の対抗策としての新株予約権の発行に株主総会の意思が反映される仕組みとなっていること、②新株予約権の行使条件の成就が、取締役会による緊急避難的措置が許容される場合、すなわち敵対的買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではなく、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復し難い損害をもたらす事情がある場合に限定されるとともに、条件成就の公正な判断が確保される(客観的な消却条件を設定するとか、独立性の高い社外者が消却の判断を行うなど)など、条件成就に関する取締役会の恣意的判断が防止される仕組みとなっていること(なお、敵対的買収者に対し事業計画の提案を求め、取締役会が当該買収者と協議するとともに、代替案を提示し、これについて株主に判断させる目的で、合理的なルールが定められている場合において、敵対的買収者が当該ルールを遵守しないときは、敵対的買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではないことを推認することができよう。)、③新株予約権の発行が、買収とは無関係の株主に不測の損害を与えるものではないことなどの点から判断して、事前の対抗策として相当な方法によるものであることは必要というべきであり、こうした事情を会社側が疎明、立証した場合は、将来における敵対的買収者の持株比率を低下させることを主たる目的とする新株予約権であっても、その発行を差し止めることはできない。」
これに対してY社が仮処分異議の申立をおこなったところ、原審異議決定は原審仮処分決定を認可したため(東京地決平成17、6、9判夕1186号265頁)、Y社が抗告した。
<判決理由>抗告棄却。
「取締役会は、株主割当の方法で新株予約権を発行し(商法280条の20第2項12号)、また、新株予約権に譲渡制限を付する(同条同項8号)権限を有している。
そして、新株予約権の権利内容(行使機関、権利行使の条件、消却の事由・条件)や利用方法について、商法上特段の制限は加えられていない。
したがって、濫用的な敵対的買収に対する防衛策として、新株予約権を活用することも考えられないではない。
・・・取締役は会社の所有者である株主と信認関係にあるから、上記権限の行使に当っても、株主に対しいわれのない不利益を与えないようにすべき責務を負うものと解される。」
「本件新株予約権は、・・・平成17年3月31日時点の株主に対して無償で1株につき2個を割り当て、新株予約権の行使の要件が充たされたときには、1個当り1円というほとんど無償に近い価額でY社の株式1株を取得することができる権利であり、株式分割と同様に会社資産に増加がないのに発行済株式総数だけが3倍に増加するという効果を生じさせるものである。
したがって、将来、新株予約権が消却されることなく、現実にこれが行使されて新株が発行されたときには、Y社の株式の価額は、理論的にはその時点で時価の3分の1程度に下落する可能性が存在する・・・。
したがって、新株予約権の権利落ち日(平成17年3月28日)以後にY社の株式を取得した株主は、平成20年6月16日までの間に本件新株予約権が消却されずに、新株予約権が行使され新株が発行されたときには、当該株主が濫用的な買収者であるかどうかにかかわらず、Y社株式の持株比率が約3分の1程度に希釈されるという危険を負担し続けることになる。
そして、本件プランによれば、新株予約権の行使の要件が将来充足される事態が発生するか否か、いかなる時点において充足されることなるのかは予測不能であるから、その確率がかなり低いものであるとしても、いずれの日には上記の新株予約権が行使されてY社株式の持株比率が約3分の1にまで希釈され、株価が大きく値下がりするという危険性を軽視することはできない。
また、そのような事情が、今後3年間にわたって株式市場におけるY社株式の株価の上昇に対し、上値を抑える強力な下げ圧力として作用することも否定できない。
そうすると、上記のような不安定要因を抱えたY社株式(その上、本件新株予約権がその適切な対価を払い込むことなく無償交付されるため、その価値に相当する分だけ価値が低下している。)は投資対象としての魅力に欠ける、買い意欲をそそられない株式となり、購入を手控える傾向が高まるものと考えられ、その結果、当該株式の株価が長期にわたって低迷する可能性の高いことが想定されるところである。
そして、そのことは、新株予約権を取得した既存株主にとっても、株価値下がりの危険のほか、長期にわたってキャピタルゲインを獲得する機会を失うという危険を負担するものであり、このような不利益は、本件新株予約権の発行がなければ生じ得なかったであろう不足の損害というべきである。
X社を含む既存株主にとっては、将来、敵対的買収者(特定株式保有者)が出現し、新株予約権が行使され新株が発行された場合には、その取得する新株によって、株価の値下がり等による不利益を回復できるという担保はあるものの、既存株主としても、本件新株予約権の譲渡が禁止されているため、敵対的買収者が出現して新株が発行されない限りは、新株予約権を譲渡することにより、上記のような株価低迷に対する損失をてん補する手立てはないから、既存株主が被る上記のような損害を否定することはできない。
このような損害は、敵対的買収者以外の一般投資家である既存株主が受任しなければならない損害であるということはできない。」
「そうすると、本件新株予約権の発行は、既存株主に受忍させるべきでない損害が生じるおそれがあるから、著しく不公正な方法によるものというべきであり、しかも、上記のとおり債権者が本件新株予約権の発行によって不利益を受ける恐れがあることも明らかである。」
スポンサードリンク
累積投票と招集通知の記載・・・
最判平成10年11月26日(株主総会決議取消請求事件)
金判1066号18頁
<事実の概要>
Y株式会社は、X、A、B、C、D、Eら6名が取締役であった。
Y社は定款上取締役選任にかかる累積投票を排除していないが、平成8年8月26日開催の定時株主総会の招集通知には、議題として「取締役全員任期満了につき改選の件」とあるのみで、被選任取締役の数について明確な記載はなかった。
総会では、従来取締役であったAが取締役選任決議に先立って監査役に選任され、次いで、B、C、D、Eの4名を取締役に選任する旨の決議がなされたが、Xは賛成少数のため取締役に選任されなかった。
なお、取締役選任決議後について株主から累積投票の請求はなされていない。
Xは、招集通知に被選任取締役の数を記載しなかったことは、招集手続の法令違反にあたるとして、株主総会決議の取り消しを請求している。
原審は、「取締役全員任期満了につき改選の件」という記載自体からは、選任される取締役の数が明示されているとはいえず、また、この数が明らかであったというべき客観的事情もないとして決議を取消した。
これに対して、Y社は上告した。
<判決理由>原判決破棄、Xの控訴棄却。
「定款により累積投票の請求を排除していない株式会社において、取締役選任を議案とする株主総会の招集通知に「取締役全員任期満了につき改選の件」と記載され、他に選任される取締役の数に関する記載がない場合においては、特段の事情がない限り、当該株主総会において従前の取締役と同数の取締役を選任する旨の記載があると解することができるから、右特段の事情のうかがわれない本件においては、本件招集通知に右の数の記載があるものということができる。」
「本件招集通知には、従前の取締役と同数である6名の取締役を選任する旨の記載があるということになるところ、本件株主総会においては、取締役の候補者として5名のみが付議され、その数が本件招集通知の記載よりも1名少ないこととなるけれども、本件においては、株主から累積投票の請求がなく、また、その不一致は株主に格別の不利益を及ぼすものではないから、本件招集通知が不適法であるということはできない。」
スポンサードリンク