相続承認・放棄の期間伸長審判・・・
民法915条但書に基づく相続を承認又は放棄をする期間の伸長の申立は、甲類審判事項です。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
民法第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
①申立権者
利害関係人・検察官です。
利害関係人の中には相続人も含まれます。
(子及びその代襲者等の相続権)
民法第887条 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
②管轄
相続開始地の家庭裁判所です。
③添付書類
申立人・被相続人の戸籍謄本
利害関係を証する資料
④審判手続
家庭裁判所は、相続財産の構成の複雑性、所在地、相続人の海外や遠隔地居住の状況などを考慮して当否を判断します。
限定承認の期間伸長の申立のときは、さらに、相続財産の積極・消極財産の存在、共同相続人が限定承認をするについての協議期間、財産目録の調製機関などについても考慮することを要します。
伸長期間は、家庭裁判所が裁量によって定めます。
申立を認容する審判は、これを受ける者に告知されて効力を生じます。
この場合、審判を受ける者とは、実務上、申立人及び考慮期間を伸長された相続人であると解されています。
申立を却下する審判に対して、相続人及び利害関係人は即時抗告をすることができます。
申立どおりの期間の伸長が認められなかったときは、必要に応じ再度期間伸長を求めればよいので、この場合、申立の一部却下として即時抗告をすることはできないと解します。
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相続人の管理義務・・・
相続承認・放棄の考慮期間中、相続財産の帰属は未決定ですが、相続人は、その固有財産におけると同一の注意をもって相続財産の管理をすべきものとされています。
(相続財産の管理)
民法第918条 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
2 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
3 第27条から第29条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
相続人が管理義務を怠って相続財産に損害が生じたときは、賠償責任を負うことになります。
「固有財産におけると同一の注意」とは、自己所有の財産に払う注意と同じ事ですから、その程度は、善良な管理者の注意義務より軽減されています。
相続人は、単純承認をしたときは右の管理義務はなくなります。
可分債権を相続した共同相続人はこれをその相続分の割合に応じて分割承継します。
しかし、賃貸人死亡により複数の共同相続人が賃貸人の地位を承継し共同賃貸人となった場合の賃料債権は、不可分債権と解すべきであるから、共同相続人の1人への賃料支払により賃借人の賃料支払義務は履行されたものと認めた事例があります。
共同相続人による共有財産の管理人選任は共有財産の管理それ自体ではなく、むしろ、共有財産の管理よりは一層重要な事柄に属するとして、共有者の持分の過半数決によってでは足りず、共有者全員の同意によらなければ無効であると解した事例があります。
限定承認をした相続人は前記の注意義務をもって管理を継続します。
相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が管理を始めることができるまで前記の注意をもって引き続き管理を継続する義務があります。
(相続の放棄をした者による管理)
民法第940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
2 第645条、第646条、第650条第1項及び第2項並びに第918条第2項及び第3項の規定は、前項の場合について準用する。
相続人Aが熟慮期間中に民法918条1項により遺産に対する妨害排除の仮処分を得た後、相続放棄をした場合、Aの相続放棄により相続人になったBが遺産である建物とその敷地の根抵当権及び所有権移転請求保全仮登記の譲渡を受けその付記登記を経由した訴外Cに対しその抹消登記請求の訴訟を提起したことによって、本件仮処分取消申立を却下した事例があります。
相続人の管理権は、遺産の現状・性質を変ずると、処分行為として、相続を単純承認したものとみなされるので、保存行為、利用行為、改良行為をなしうるに止まります。
考慮期間中は、相続人が相続債権者の請求に応じて相続債務を弁済した場合、単純承認したとみなされるとする見解と、弁済資金を得るために、遺産の売却につき家庭裁判所の処分命令を得て、管理保存行為と認められ単純承認とはならないとの見解に分かれています。
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相続財産の保存・管理処分 ・・・
相続承認・放棄の考慮期間中、相続人が管理義務を尽くさないときや、共同相続人間において紛争が原因で遺産の管理方法につき意見が一致しないとき、その他の相続財産の価値を減ずるおそれの生じた場合、家庭裁判所は、相続債権者、相続人、次順位の相続人など法律上の利害関係を有する者、及び公益の代表者である検察官の請求により、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができます。
(相続財産の管理)
民法第918条 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
2 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
3 第27条から第29条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
この処分は、相続人が相続の承認・放棄を選択するまで申立をすることができます。
相続人が相続を承認して自ら相続財産を管理することができるようになったとき、管理人を選任した家庭裁判所は、相続人又は利害関係人の申立によって、命じた処分を取消すことになります。
この申立は、家事雑事件として立件されます。
この管理処分取消の審判は、事情の変更を理由にしてされるものであって、その効力は将来に向かってのみ生じ、遡及効はありません。
管理中管理人が第三者に対してした行為及び第三者が管理人に対してした行為は、相続人に対してその効力を有します。
家庭裁判所は、相続財産の中から相当額の報酬を管理人に与えることができます。
報酬付与の審判は、甲類審判事項です。
その申立権者は管理人であり、通常、管理事務の終了報告をする頃にその申立をします。
相続人が相続を承認して自ら相続財産を管理することができるようになったとき、管理人は相続に対して、相続財産を引き渡し、かつ、相続財産の収支を計算してその結果を相続人に報告しなければなりません。
家庭裁判所にも計算書を添付して、管理終了の報告をします。
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相続財産の保存・管理処分審判・・・
民法918条2項に基づく相続財産の保存・管理処分の申立は、甲類審判事項です。
(相続財産の管理)
民法第918条 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
2 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
3 第27条から第29条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
①申立権者
利害関係人又は検察官です。
②管轄
相続開始地の家庭裁判所です。
③添付書類
申立人、被相続人、相続人及び管理人候補者の戸籍謄本及び住民票、ほかに申立の実情を証する書面があるときは、その写しなどを提出し、後日、係書記官から資料提出の指示を受けたときはその追完をします。
④審判手続
家庭裁判所は、申立を審理し、財産管理人の選任、換価、封印、財産目録の調製・提出など、相続財産の保存に必要な処分を命じます。
この手続で相続財産の処分禁止を命ずる審判があった場合、その旨の登記をすることができるかについては、家事審判法、同規則、民事執行法、不動産登記法には何の規定もないので、この審判は相続人に対して勧告的効力を有するにすぎないとされます。
執行力のある裁判を認める場合には、民事訴訟j法に基づく保全処分を求めることになります。
相続財産の保存に必要な処分を命ずる裁判は、これを受ける者に告知することによって効力を生じます。
告知を受ける者は、相続人及び封印、換価、財産目録の調製命令の審判の場合はその行為を命ぜられた者、管理人選任の審判の場合は管理人及び相続人です。
相続財産の保存に必要な処分の申立を認容する審判又は申立を却下する審判のいずれにも、不服の申立はできません。
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