限定承認の相続財産の管理義務・・・
限定承認の申述が受理されると、相続人は被相続人の一身に専属したものを除いてその財産に属した一切の権利・義務を承継します。
しかし、限定承認の効果として、被相続人の債務及び遺贈は、相続財産の限度で弁済すれば足り、相続財産と相続人の固有財産は分離され、相続人が被相続人に対して有した権利・義務は消滅しなかったものとみなされます。
(限定承認)
民法第922条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
(限定承認をしたときの権利義務)
民法第925条 相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対して有した権利義務は、消滅しなかったものとみなす。
限定承認者は、熟慮期間に引き続いて、限定承認後も自己の固有財産におけると同一の注意をもって相続財産を管理しなければならず、もし、その義務を怠って相続財産に損害を生じたときは、賠償する義務を負います。
相続財産を管理するに当たっては、相続債権者・受遺者の請求があったときは、いつでも管理事務の状況を報告し、管理中に受け取った金銭等を相続財産に組み入れ、自己の名をもって取得した権利を相続財産に移転する義務を負い、また、管理費用として立て替えた金員及び利息を相続財産から償還させたり、管理の必要上、債務を負担したときは相続財産から弁済させることができるなど、委任に関する規定が準用されます。
(限定承認者による管理)
民法第926条 限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。
2 第645条、第646条、第650条第1項及び第2項並びに第918条第2項及び第3項の規定は、前項の場合について準用する。
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限定承認の相続財産の保存・管理処分審判・・・
管理人は、相続人のために、その法定代理人として相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をします。
(相続人が数人ある場合の相続財産の管理人)
民法第936条 相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の相続財産の管理人は、相続人のために、これに代わって、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3 第926条から前条までの規定は、第1項の相続財産の管理人について準用する。この場合において、第927条第1項中「限定承認をした後5日以内」とあるのは、「その相続財産の管理人の選任があった後10日以内」と読み替えるものとする。
管理人が選任されると、他の相続人は管理権を失います。
管理人には、限定承認者と同じ注意義務が及び委任に関する規定が準用されます。
限定承認者が財産管理をすることができないとき、又はこれに管理させるのが不適当であるとき、家庭裁判所は、利害関係人や検察官の申立により、いつでも相続財産の保存に必要な処分を命ずることができます。
相続人のなかから選任された管理人についても同様です。
民法926条2項及び936条に基づく相続財産の保存・管理処分の申立は、甲類審判事項です。
(限定承認者による管理)
民法第926条 限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。
2 第645条、第646条、第650条第1項及び第2項並びに第918条第2項及び第3項の規定は、前項の場合について準用する。
①申立権者
利害関係人又は検察官です。
②管轄
相続開始地の家庭裁判所です。
③添付書類
申立人、被相続人、相続人及び管理人候補者の戸籍謄本及び住民票、ほかに申立人の利害関係を証明する資料など。
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限定承認の取消し ・・・
相続の限定承認は、家庭裁判所が申述を受理したときに効力を生じ、限定承認者は、民法915条1項の期間内であっても、これを撤回することができません。
しかし、限定承認に民法総則編及び親族編に定める取消事由のある場合には、これを取消すことができます。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
民法第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
民法第919条 相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない。
2 前項の規定は、第1編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
3 前項の取消権は、追認をすることができる時から6箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から10年を経過したときも、同様とする。
4 第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
①総則編の規定による取消事由は、次になります。
未成年者が法定代理人の同意を得ないでした場合
成年被後見人本人がした場合
被保佐人が保佐人の同意又はこれに代わる家庭裁判所の許可を得ないでした場合
詐欺又は強迫によってした場合
②親族編の規定による取消事由は、次になります。
後見人が被後見人に代わって民法13条1項に掲げる行為をし、又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、後見監督人があるときは、その同意を得なければなりません。
(保佐人の同意を要する行為等)
民法第13条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
1.元本を領収し、又は利用すること。
2.借財又は保証をすること。
3.不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
4.訴訟行為をすること。
5.贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成15年法律第138号)第2条第1項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
6.相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
7.贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
8.新築、改築、増築又は大修繕をすること。
9.第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。
2 家庭裁判所は、第11条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
3 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
4 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。
相続の限定承認はこれに該当します。
後見人が民法864条の規定に違反して又は同意を与えた限定承認は、被後見人又は後見人が取消すことができます。
(後見監督人の同意を要する行為)
民法第864条 後見人が、被後見人に代わって営業若しくは第13条第1項各号に掲げる行為をし、又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。ただし、同項第1号に掲げる元本の領収については、この限りでない。
取り消しについては、民法121条から126条までの規定が準用されます。
(取消しの効果)
民法第121条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。
(取り消すことができる行為の追認)
民法第122条 取り消すことができる行為は、第120条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。ただし、追認によって第三者の権利を害することはできない。
(取消し及び追認の方法)
民法第123条 取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その取消し又は追認は、相手方に対する意思表示によってする。
(追認の要件)
民法第124条 追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にしなければ、その効力を生じない。
2 成年被後見人は、行為能力者となった後にその行為を了知したときは、その了知をした後でなければ、追認をすることができない。
3 前2項の規定は、法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をする場合には、適用しない。
(法定追認)
民法第125条 前条の規定により追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。
1.全部又は一部の履行
2.履行の請求
3.更改
4.担保の供与
5.取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
6.強制執行
(取消権の期間の制限)
民法第126条 取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。
未成年後見人が未成年被後見人に代わって親権を行なう場合、民法864条の規定が準用されます。
限定承認の取消権は、追認を行なうことができる時から6ヶ月間行使しないとき、又は限定承認の時から10年を経過したとき時効によって消滅します。
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限定承認の取消審判・・・
民法919条4項に基づく相続の限定承認の取消の申述の受理は、甲類審判事項です。
(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
民法第919条 相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない。
2 前項の規定は、第1編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
3 前項の取消権は、追認をすることができる時から6箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から10年を経過したときも、同様とする。
4 第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
①申立権者
限定承認の取消しをしようとする者です。
②管轄
相続開始地の家庭裁判所です。
③添付書類
申述人・法定代理人・被相続人の戸籍謄本
④審判手続
家庭裁判所は、申述書が形式的要件を具備していること、申述が申述人の真意に基づくものであること、取消権存続期間内の申述であることの調査、確認して受否を決します。
取消申述の受理はそれを公証する意味にすぎないから、その取消しを実質的にも形式的にも審理すべきではないと解した事例があります。
取消事由の存否は、判決により最終的に確定されます。
家庭裁判所が申述を受理した場合、これに対して不服申立の方法はありません。
相続人又は利害関係人は、申述を却下する審判に対し即時抗告することができます。
相続の放棄の取消しを家庭裁判所に申述しても、これを取下げた場合には相続を回復するいわれはないとした事例があります。
取消しの申述を受理した家庭裁判所は、その旨を限定承認申述を受理した家庭裁判所に通知します。
以後、限定承認申述の受理証明書を発行するときには限定承認の取消申述が受理されている旨が付記されます。
相続放棄の取消しの申述受理後であってもその審判は実体的権利関係を終局的に確定するものではないから取消原因がなければ、別訴で相続放棄の有効を主張することができます。
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