公正証書遺言と国家賠償・・・

公正証書遺言と国家賠償・・・

公証人の手続に瑕疵があり、当事者に損害を与えた場合には、国家賠償の問題となります。

公証人は法律行為その他の私権に関する事実について公正証書を作成する権限を有しますが、公証人の右公証事務の処理は国家賠償法1条にいう国の公権力の行使に該当するとされています。

国家賠償法第一条  国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2  前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

推定相続人を証人として立ち合わせて作成された公正証書遺言を無効とする判決が確定した場合、公証人の過失を原因とする国家賠償が請求された事案があります。

裁判所は、公証人法28条2項は、公証人が嘱託人の氏名を知らず又はこれと面識のないときは、官公署の作成した印鑑証明書を提出させるなどの確実な方法によって、その人違いでないことを証明させることを要する旨規定しているものの、公正証書遺言の証人となるべき者については、人違いでないことを証明させることを要する旨の規定は同法に存しないこと、また、弁論の全趣旨によれば公正証書遺言の証人については公証人法28条2項の規定は準用されないとの実務の取り扱いが定着していることが認められること、しかしながら、公証人法は、法令違反事項や無効又は取消しうべき法律行為について公正証書を作成してはならない旨定め、公正証書の作成に当たっては、公正証書の形式的要件のみならず、その内容等についても法令違反の有無等を調査し、必要があれば、関係人に説明を求めたりしなければならない旨規定しており、これらの規定の趣旨から考えると、公証人が遺言公正証書作成の嘱託を受けた場合、嘱託人が提出した書類あるいは嘱託を受けた際の嘱託人、証人等の関係者の供述等からみて、証人に欠格事由が存する可能性があるとうかがえるときは、公証人としては、少なくとも、証人の身分関係を関係者に確認し、あるいは推定相続人は証人となることができない旨を関係者に教示して、欠格事由を有する者を証人から除いて有効な公正証書を作成する義務があるというべきであること、すなわち、一般に公証人の有する審査権は形式的なものと解されているから、証人の身分関係を確認するため戸籍謄本の提出を求めるなどの方法をとるまでの義務はないと考えられるものの、一般の人は証人の欠格事由についての知識を有しないのが通常であるし、また、出頭した関係者に証人の欠格事由の有無を口頭で確かめることは容易になし得ることであるから、有効な公正証書を作成すべき公証人としては、右に示した程度の注意義務は存すると解すべきであること、本件公証人は、本件公正証書の作成に当たって過失があり、本件公正証書の無効は、同公証人の右過失に基づくとして、また、遺言公正証書の作成の際の立会人の選任は、本来嘱託者の責任においてなされるべき問題であり、証人不適格者を証人として選任した遺言者にも過失があったから、相当額の過失相殺がなさるべきであるとする国側の主張に対しては、法律の知識を有しない依頼者に対して前記の程度の注意義務をつくすのは法律専門家である公証人としての最低限度の義務であるというべく、遺言者に過失があったとたやすくいうことはできないとし、仮に遺言者に過失があったとしても遺言者は遺贈者であり、本件遺言が無効であったことにより損害を被ったのは受贈者である原告であるから、遺言者の過失を本件損害額の算定にあたり斟酌することは相当とは認められないとして、国に対して本件遺言が無効であったことにより受けた損害全額の賠償を命じました。

公証人法第28条 公証人証書ヲ作成スルニハ嘱託人ノ氏名ヲ知リ且之ト面識アルコトヲ要ス
2 公証人嘱託人ノ氏名ヲ知ラス又ハ之ト面識ナキトキハ官公署ノ作成シタル印鑑証明書ノ提出其ノ他之ニ準スヘキ確実ナル方法ニ依リ其ノ人違ナキコトヲ証明セシムルコトヲ要ス
3 急迫ナル場合ニ於テ公証人証書ヲ作成スルトキハ前項ノ手続ハ証書ヲ作成シタル後3日内ニ証書ノ作成ニ関スル規定ニ依リ之ヲ為スコトヲ得
4 前項ノ手続ヲ為シタルトキハ証書ハ急迫ナル場合ニ非サルカ為其ノ効力ヲ妨ケラルルコトナシ

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秘密証書遺言の要件・・・

秘密証書遺言は、遺言の内容を遺言者の生存中秘密にし、単に遺言の形式的な存在だけを確実にしておくために用いられます。

この遺言は、遺言書のそのものの方式ではなく、遺言書を秘密に保管するための方式ですから、遺言書自体には格別の方式はありません。

ただ、遺言書に封を施し、遺言書が封入されていることを公正証書の手続で公証するだけです。

(秘密証書遺言)
民法第970条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
1.遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
2.遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
3.遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
4.公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2 第968条第2項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。

秘密証書遺言の作成要件は、次になります。

①遺言者がその証書に署名し、印を押します。

②遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印します。

③遺言者が公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言者である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述します。

④公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押します。

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秘密証書遺言の署名と押印と封印 ・・・

秘密証書遺言は、特に一定の方式によって作成する必要はなく、自筆証書でもよく、他人が代筆してもよいとされています。

また、タイプライター、ワープロ、パソコンを用いてもよく、印刷したものでよいとされます。

ただ、遺言書には遺言者の署名押印だけが要求されています。

この署名のないものは無効です。

秘密証書方式による遺言書の署名が遺言者自署と認めるに足りないこと、遺言書に署名した者と秘密証書遺言証書と題された封書に署名した者とが同一人物であることを推定できないこと、本件遺言は内容においても不自然な点があり、遺言者が、このような遺言を作成するものとは考え難いところがあるとして、秘密証書遺言を無効とした事例があります。

日付を必要としないのは、公証人が封紙に記載する日付をもって確定日付をするためです。

遺言書の作成は代筆でもよいので付記も代筆でよいと解されています。

遺言の内容を判明できないようにするため、遺言者自身が遺言書を封じ、遺言書に押印した印章をもって封印しなければなりません。

封印は遺言書に押印したのと同じ印章を用いなければ遺言が無効となります。

(秘密証書遺言)
民法第970条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
1.遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
2.遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
3.遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
4.公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2 第968条第2項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。

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秘密証書遺言の公証人への申述・・・

遺言者の氏名と作成年月日の一部は遺言者が自筆で記載したが、その余りの部分は第三者がワープロで入力、印字している場合、この遺言の内容を筆記した筆者は、ワープロを操作して遺言書の表題及び本文を入力し、印字した第三者であるというべきであり、この遺言書を秘密証書の方式で遺言する際、遺言者が公証人に対し、筆者の住所氏名を申述しなかった場合は、民法970条1項3号所定の方式を欠き、この遺言は無効であるとされています。

自筆でないときに遺言書の筆者の氏名及び住所を申述させるのは、後日紛争が生じた場合に尋問することができるようにするためです。

遺言者自身が遺言書を書いたときは、その旨だけを申述します。

(秘密証書遺言)
民法第970条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
1.遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
2.遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
3.遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
4.公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2 第968条第2項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。

遺言書の署名と封書の署名が同一人物であることを推定できないことを秘密証書遺言の無効事由とした事例があります。

証人は、欠格事由のない者であるを要するのは、公正証書遺言の場合と同じです。

推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族は、遺言の証人又は立会人となることができません。

(証人及び立会人の欠格事由)
民法第974条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
1.未成年者
2.推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
3.公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び使用人

口がきけない遺言者は、公証人及び証人の面前で、その遺言書は、自己の遺言書であることと、その筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し、又は封紙に自書して、右の申述に代えることができます。

遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければなりません。

遺言者が封紙に自書したときは、公証人は、その旨を封紙に記載して、民法970条1項4号に規定する申述の記載に代えなければならないとされます。

(秘密証書遺言の方式の特則)
民法第972条 口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し、又は封紙に自書して、第970条第1項第3号の申述に代えなければならない。
2 前項の場合において、遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければならない。
3 第1項の場合において、遺言者が封紙に自書したときは、公証人は、その旨を封紙に記載して、第970条第1項第4号に規定する申述の記載に代えなければならない。

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