相続放棄の代理・・・
相続の放棄は代理に親しまないが、相続放棄の申述手続は代理に親しむと解されています。
相続放棄申述書には、原則として本人又は代理人の自署を要しますが、特段の事情があるときは、本人又は代理人の記名押印があるにすぎないときも、申述が本人の真意に基づくことが認められる以上家庭裁判所は、これを受理するを妨げないとされます。
制限能力者(未成年者又は成年被後見人)とその法定代理人が共同相続人の場合、制限能力者の相続放棄は、原則として、利益相反行為になります。
しかし、共同相続人の1人が他の共同相続人の全部又は一部の者の後見をしている場合において、後見人が被後見人全員を代理してする相続の放棄は、後見人自らが相続の放棄をしたのちされたか、又はこれと同時にされたときは、民法860条において準用される民法826条にいう利益相反行為に当たらないとされます。
(利益相反行為)
民法第860条 第826条の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。
(利益相反行為)
民法第826条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
後見人と被後見人が同時に相続放棄の申述書を提出し、同時に受理されている場合、後見人が被後見人を代理してした相続放棄を利益相反行為ということはできないとされます。
被保佐人は、保佐人の同意を得て相続の放棄をします。
保佐人が相続の放棄について、家庭裁判所から代理権を付与されているときは、保佐人が被保佐人の相続放棄をします。
被補助人は、原則として、自ら相続の放棄をすることができます。
相続の放棄が補助人の同意権の対象となっているときは、被補助人は補助人の同意得て相続の放棄をします。
補助人が相続の放棄について、家庭裁判所から代理権を付与されているときは、補助人が被補助人の相続放棄をします。
任意後見契約が発効している場合、相続の放棄が任意後見の対象となっているときは、本人の相続放棄は任意後見人がします。
家庭裁判所が選任した不在者の財産管理人は、家庭裁判所の許可を得て相続放棄をすることができます。
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相続放棄の審理・・・
相続放棄は自己のために開始した不確定な相続の効力を確定的に消滅させることを目的とする意思表示として極めて重要な法律行為であることに鑑み、家庭裁判所をして後見的に関与させ、専ら相続放棄の真意を明確にし、もって、相続関係の安定を図ろうとするものであると解されています。
家庭裁判所は、相続放棄の申述を受理するに当たって、申述が所定の方式によってされているかどうか、申述者が相続人であるかどうか、申述が真意に基づくものかどうか、申述が法定期間内にされているかどうかなどを審理し、判断します。
家庭裁判所が相続放棄申述を受理する場合、形式的要件具備の有無、申述人の真意を審査の対象とすべきことは当然であるが、法定単純承認の有無、詐欺等取消原因の有無等の実質的要件の存否の判断については、相続放棄申述の受理審判は非訟手続であるから、これによって相続関係及びこれに関連する権利義務が最終的に確定するものではないうえ、相続放棄の効力は家庭裁判所の受理審判によって生じ、それがなければ、相続人には相続放棄をする途が閉ざされてしまうのであり、この点を総合考慮すると、申述書の内容、申述人の審問の結果あるいは家裁調査官による調査結果等から、申述の実質的要件を欠いていることが極めて明白である場合に限り、申述を却下するのが相当であると解した事例があります。
原審が認定した催告の事実につき、その存在を抗告人が争っていることは、相続放棄申述書の記載から明らかであるから、このような場合には、原審としては、単に債権者からの事実調査等だけでなく、更に進んで抗告人からも審問その他の事実調査をして、事実関係を把握し、判断をすべきであって、原審が抗告人からの事実調査等をしないで、本件申述を却下したことは、審判の結論に影響を及ぼす事実の有無につき事実調査等を尽くしていない違法があるとして、申述却下の原審判を取消して差し戻した事例があります。
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相続放棄と熟慮期間 ・・・
申述者が自己のために相続の開始があったことを知らなかったと主張した場合、その事実の有無を審理し、判断します。
この点を審理しないでされた却下の審判は審理を尽くしていないものとして即時抗告の理由になります。
相続放棄申述が真に熟慮期間内にされたか否かの点は、終局的に民訴訟手続において確定されるべき事柄であって、家庭裁判所は一応審査するに止めるべきにもかかわらず、原審判は相続放棄申述受理の審判の審理の範囲を超えて審理判断した違法があるとの即時抗告に対して、相続放棄申述受理が家庭に関する事件につき後見的役割を担う家庭裁判所の審判事項とされていること及び相続関係はその性質上できる限り早期に安定化を図る必要があることからしても、家庭裁判所は申述が法定の熟慮期間内になされたものか否かの実質的要件をも審理判断すべきであること、審判手続で申述が却下されると相続人は訴訟手続で申述が有効であることを主張できなくなるから申述受理の審判での審理は一応のものに止め、申述の要件を欠くことが明白な場合においてのみこれを却下することができ、そうでない限り申述を受理し、その効力の有無について本格的審理を必要とするときは、判断を民事訴訟法に委ねるべきであるとされます。
原審においては一応の審理が行なわれたに止まると認められること、その結果、本件熟慮期間の起算日は抗告人が被相続人が死亡したことを知った日であるというべきであり、本件申述は熟慮期間経過後のものであることは明白というべきであるから、これを却下した原審判は相当であるとしました。
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相続放棄と法定単純承認・・・
遺産分割協議は法定単純承認事由に該当するというべきであるが、相続人が多額の相続債務の存在を認識していれば当初から相続放棄の手続をしていたものと考えられ、相続放棄の手続を採らなかったのが相続債務の不存在を誤信していたためであり、被相続人と相続人の生活状況や他の共同相続人との協議内容によっては本件遺産分割協議が要素の錯誤によって無効となり法廷単純承認事由の効果も発生しないと見る余地があるとして、相続放棄の申述を却下した原審判を取消して更に審理を尽くさせるため差し戻した事例があります。
申述人らの行為が法定単純承認事由に該当するとして相続放棄申述受理申立を却下した審判に対する即時抗告審において、被保険者死亡の場合はその相続人に支払う旨の約款により支払われる死亡保険金は、特段の事情のない限り、被保険者死亡時における相続人であるべき者の固有財産であるから、抗告人らによる死亡保険金の請求及び受領は、相続財産の処分に当たらないと解した事例があります。
申述人らの行為が法定単純承認事由に該当するとして相続放棄申述受理申立を却下した審判に対する即時抗告審において、被相続人の猟銃事故共済について、自損事故共済金の支払を受けられるか否かの回答を得る目的で抗告人が試みた共済金請求は、民法915条2項の財産の調査にすぎず、相続財産の一部の処分に当たらないと解した事例があります。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
民法第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
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