死亡危急者遺言の作成手続・・・
死亡危急者遺言の日付の記載は、要求されていません。
それは、遺言がなされた日は、立ち会った証人によって立証できますし、家庭裁判所の確認手続の過程で明確にできるからです。
判例も、遺言をした日付ないし遺言書を作成した日付の記載は有効要件ではなく、遺言のなされた日の証明資料としての意義を有するにとどまり、不正確な日付の記載があったとしても遺言を無効とするものではないとしています。
そして、遺言のなされた日がいつであるかは、立ち会った証人によって確定することができるとしています。
しかし、死亡危急者遺言方式による遺言書の作成日付の記載は昭和43年1月28日であるのにかかわらず、右遺言書の作成が完結したのは翌29日であった場合、日付の記載に誤りがあり、署名、捺印と加除訂正手続が未だ終了しない1月28日とその作成日付とした本件遺言書は不真実の日付を記載した瑕疵があるから無効であるとした事例があります。
筆記に際しての加除変更については、自筆証書遺言と同じ方式が準用されます。
(普通の方式による遺言の規定の準用)
民法第982条 第968条第2項及び第973条から第975条までの規定は、第976条から前条までの規定による遺言について準用する。
(自筆証書遺言)
民法第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
ただし、筆記した証人の付記と署名押印のほかに、各証人の署名押印を要します。
死亡危急時遺言の方式に違反した加除変更部分(訂正変更箇所部分について立会人承認3名の署名押印を必要とするところ署名は全くなく、押印も2つしか存在しない箇所がある)だけを無効とし、同遺言の全部無効の主張を排斥した事例があります。
成年被後見人も、本心に復していれば、死亡危急者遺言をすることができます。
ただし、医師2人以上の立会いを要します。
しかし、成年被後見人でない通常人が死亡危急者遺言をする場合には、医師2人以上の立会いを必要としません。
共同遺言の禁止も、死亡危急者遺言に準用されます。
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死亡危急者遺言の確認・・・
死亡危急者遺言は、死亡の危急に迫った者がなした口頭遺言の内容を証人が筆記したものですから、これが果たして遺言者の真意を語聞曲解することなく、正確に筆記されているかどうかを明確にしなければなりません。
そこで、この遺言作成当時の状況を承認その他の人の記憶が薄れないうちに、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求して確認を得なければ、その効力を生じないとしています。
(死亡の危急に迫った者の遺言)
民法第976条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 ロがきけない者が前項の規定によって遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前3項の規定によってした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
この確認は、遺言が遺言者の真意に出たものであることを判断し、これを確定する一種の確認行為であり、確認の審判は、家庭裁判所の観念を表示するものであって、広義における家庭裁判所の裁判であると解されています。
確認は、遺言が遺言者の真意に出たものであることを一応認定するにすぎないものであって、遺言の効力を終局的に確定するものではありません。
遺言作成の方式に違反したとの一事により直ちに本人の真意に出たものでないとの結論に到達した原審判の理由は不当であり、抗告人の主張は理由があるとした事例があります。
確認を経た後でも、訴訟手続によって遺言の有効又は無効を争うことができるとされています。
確認の審判の結果、遺言が遺言者の真意に出たものであると判断された以上、一応そのように取り扱われます。
遺言の確認は、危急時遺言に遺言としての効力を付与する必須の要件をなすものであるが、もとより、遺言の有効性自体を確定するものではなく、その最終的判断については、既判力をもってこれを確定する効力を有する判決手続の結果に委ねるべき途が確保されていなければならないことを考慮すると、危急時遺言の確認に当たり、遺言者の真意につき家庭裁判所が得るべき心証の程度は、いわゆる確信の程度に及ぶ必要はなく、当該遺言が一応遺言者の真意にかなうと判断される程度の緩和された心証で足り、家庭裁判所としては、この程度の心証が得られた場合には、当該遺言を確認すべきであるとして、家庭裁判所調査官による面接の際における遺言者の言動を根拠にして確認に必要な心証を得られないとして申立を却下した原審判を取消し、遺言確認の決定をしました。
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死亡危急者遺言の失効 ・・・
死亡危急者遺言は、遺言者が普通方式の遺言をすることができるようになった時から6ヶ月間生存するときは、その効力を生じません。
(特別の方式による遺言の効力)
民法第983条 第976条から前条までの規定によりした遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から6箇月間生存するときは、その効力を生じない。
(死亡の危急に迫った者の遺言)
民法第976条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 ロがきけない者が前項の規定によって遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前3項の規定によってした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
死亡危急者遺言は、疾病その他の事由のある場合に限って許される簡略な方式であり、遺言者の真意の確保や遺言の真正を期待するには不確実です。
特別の事情が亡くなった場合は、遺言を確実にするために厳格な普通方式の遺言をするべきです。
普通方式の遺言をすることができるようになった時とは、疾病その他の事由による死亡の危急を免れた時をいいます。
6ヶ月の期間については、停止や中断が認められていないので、この期間が満了すれば無条件で特別方式の遺言は失効します。
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死亡危急者遺言の確認審判・・・
死亡危急者遺言は、死亡の危急に迫った者がなした口頭遺言の内容を証人が筆記したものですから、これが遺言者の真意を誤聞曲解することなく、正確に筆記されているかどうかを明確にする必要があります。
そこで、この遺言書作成当時の状況を証人その他の人の記憶が薄れないうちに、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求して確認を得なければ、その効力を生じないとしました。
(死亡の危急に迫った者の遺言)
民法第976条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 ロがきけない者が前項の規定によって遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前3項の規定によってした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
民法976条4項の規定に基づく遺言の確認事件は、甲類審判事項です。
①申立権者
立会い証人の1人又は利害関係人に限ります。
利害関係人とは、審判の結果につき法律上直接の利害関係を有する者をいいます。
例えば、推定相続人、受遺者、遺言執行者などです。
②申立期間
遺言者の生死にかかわりなく、「遺言の日から20日以内」に確認の請求をしなければなりません。
遺言の日とは、遺言者の口授から証人の署名押印までの遺言の作成要件が完了した日です。
申立期間は、この遺言の日の翌日から起算します。
申立期間を経過した後に確認の申立があった場合には、一見明白な方式違背として確認は得られないとされています。
③管轄
遺言者の生存中はその住所地です。
死亡後は相続開始地の家庭裁判所です。
④添付書類
遺言書の写し
遺言者・立会い証人・申立人の各戸籍謄本及び住民票
医師の診断書
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