時効の判例 除斥期間の起算点・・・

時効の判例 除斥期間の起算点・・・

殺人事件の犯人が、殺人罪の時効の成立した後に警察に自首したというものです。

犯人の警備員の男(73)は、1978年に東京都足立区の小学校の女性教諭(29)を殺害して自宅の床下に埋め、その上に掘りごたつを作って26年間暮らしていたといいます。

ところが区画整理で立退きを迫られたことから、殺人罪の時効の成立後2004年に警察に自主し、女性教諭の遺体も発見されました。

事件の説明のために小樽に来た警視庁の刑事は、被害者の弟に「殺人罪の時効は成立している。また、民事の損害賠償も除斥期間の20年が経過しているので責任を問えない」と言われ釈然としない思いだったといいます。

犯人からの謝罪はなく、犯人は殺して埋めただけでなく、足で踏みつけて生活していたのは、絶対に許せない。

そんな思いから、2005年4月に遺族である弟らは、犯人と足立区を相手に1億8600万円の損害賠償を求めて提訴しました。

足立区とは2007年12月、2500万円支払うことで和解しました。

2006年の1審の東京地裁の判決では、遺体を隠し続けた行為については約330万円の支払を命じましたが、殺害については民法724条で規定する除斥期間を適用し、賠償を認めませんでした。

2審の東京高裁では、「遺族が賠償請求権を行使できなかったのは殺害の事実を知らなかったためで、それなのに殺害から20年を過ぎれば加害者が賠償義務を免れるのは著しく正義、公平の理念に反する」として、除斥期間の適用を認めず、元警備員の男に約4200万円の賠償を命じました。(2008年1月31日判決)

元警備員は、これまで最高裁が踏襲してきた不法行為から20年という除斥期間が過ぎれば被害者は自動的に賠償請求の権利を失うとしてきたことを根拠に、最高裁に上告しました。

この事件の争点は、殺害から提訴まで27年かかった事件に、除斥期間を適用するかという問題です。

判決では、

①加害者が被害者の死亡の事実を知られないような状況を殊更に作り出した。

②そのため遺族である相続人は犯行の事実を知らないまま20年が経過した。

このような状況の下で、除斥期間を適用すれば「相続人が一切権利行使できない原因を作った加害者が賠償義務を免れることになり、著しく正義・公平の理念に反する」との判断を示しました。

その上で「相続人が確定した時から6ヶ月間は被相続人の持っていた損害賠償請求権は消滅しない(民法160条)」とした規定を準用し、遺体がDNA鑑定によって被害者本人と確認され、遺族が相続人と確定した2004年12月から約4ヶ月後に提訴しているのであるから、民法724条の除斥期間を定めた規定にかかわらず、本件殺害行為に関わる損害賠償請求権が消滅したということはできないとして、元警備員の上告を棄却しました。

その結果、約4255万円の支払を命じた東京高裁の判決が確定しました。

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時効の判例 時効更新・・・

A信託銀行は、司法書士のBさんに、Bさんの奥さんを連帯保証人にして2000万円の貸付を行いました。

貸し付けた期日は平成4年3月23日、弁済期日は平成5年3月31日でした。

A信託銀行は、その債権の消滅時効期間の満了が近づいたので、平成10年3月23日に、本件貸金の債務承認書をB司法書士事務所に配達証明付きで送りましたが、事務員によって受け取りを拒否されました。

あわてたA信託銀行は、Bさんと奥さんの両名宛に、支払を催促する内容証明郵便を配達証明付きで送りました。

しかし、今度も、B事務所では事務員の受取拒否にあい、奥さんに宛てたものは「保管期間経過」として返送されてきました。

A信託銀行では、同年6月19日に、貸金返還と遅延損害金を請求する訴訟を起こしました。

被告のBさんは、「A信託銀行の貸金請求権は、5年を経過しており、時効により消滅した」と主張してきました。

A信託銀行は、本件貸付金請求権の時効が完成する前に、配達証明付きで債務承認書及び催告書を送付しており、Bさんも奥さんもこの郵便の存在を知る事はできたはずですし、また事務員が受取拒否をしたこともBさんの指示がなければ事務員が受取拒否することは考えにくい。

以上からして、本件のA信託銀行による催告は、B事務所に郵便局員が内容証明郵便を配達し、同事務所の事務員がその受領を拒否した平成10年3月27日をもって到達したものとみなし、催告の効果を認めるのが、時効制度の趣旨及び公平の理念に照らして相当というべきである、とされました。

よって、Bさん及び奥さんの消滅時効による抗弁は認めるべきではなく貸付金及び遅延損害金の支払を命ずる、判決になりました。

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時効の判例 時効の起算点・・・

Aさんは平成14年8月11日午後11時ごろから正午過ぎの間に、車両の盗難にあいました。

Aさんは警察に届け出るとともに、自家用自動車総合保険に加入しているB損害保険会社に、盗難による保険金の請求手続を行いました。

B損保の約款では、請求手続をした日からその日を含めて30日以内に保険金を支払う旨が規定されていたのですが、B損保では、その期間内に必要な調査をする事が出来ませんでした。

そこでB損保の委任を受けた弁護士が、同年11月5日頃、本件の盗難には理解できない点があり、今後の確認作業へのAさんへの協力を求めるとともに、調査結果が出れば保険金支払いに応ずるか否かについて速やかに連絡する旨を記載した協力依頼書を送付してきました。

ところが、同年12月12日に、この弁護士は、調査協力には感謝するが調査の結果、保険金の支払には応じられないとの結論に達した旨の免責通知書を送ってきました。

Aさんはすぐにでも訴訟を起こせばよかったのですが、平成16年11月26日に訴訟を提起したのです。

自動車保険請求権の時効は2年です。

B損保では、保険金請求手続のなされた日から3日を経過した日から、請求権の消滅時効は進行し、訴訟の提起された平成16年11月26日には2年以上経過しており、すでに消滅時効は完成しており、B損保には保険金の支払義務はないと主張してきました。

Aさんが保険金請求手続をした後、B損保ではAさんに調査協力を求め、その1ヶ月あまり経過した後に、保険金を支払わない旨の免責通知書を送ったのです。

裁判所は「協力依頼書の送付から本件免責通知書の送付までの間は、B損保が保険金を支払うことは考えられないし、Aさんも調査に協力してその結果を待っていたものと解されるので、訴訟を提起するなどして本件保険金請求権を行使することは考えられない。

そうすると、B損保の代理人による協力依頼書の送付行為は、Aさんへの協力を求めるとともに、調査結果が出るまでは保険金の支払ができないことについて了承を求めるもの、すなわち、保険金支払条項に基づく履行期を調査結果が出るまで延期する事を求めるものであり、Aさんは調査に協力することにより、これに応じたものと解するのが相当である」として、本件保険金請求権の消滅時効は、Aさんが訴訟を提起した平成16年11月26日には、いまだ完成していなかったとして、B損保の主張を認めた東京高裁の判決を破棄し、Aさんの主張を認めました。

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