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時効援用が信義則違反になる・・・
信義誠実の原則とは、民法1条2項に「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行われなければならない」と定めてある規定をいいます。
消滅時効期間が完了しているとはいえ、それを援用することが、信義に反するという場合もあります。
相続争いの場合で、家督相続をした長男が、家庭裁判所の調停により農地を母親に贈与し、母親がこれを20年以上も耕作し、母親自身及び妹等の扶養の費用にあてていたが、この農地の所有名義を母親にしておかなかったのです。
母親が長男に対し、農地法3条の許可申請に協力して所有権移転登記をしてくれと求めたところ、長男は、「右許可申請協力請求権は10年で消滅時効にかかり、したがって登記をする義務もない」と時効を援用したのです。
これに対し裁判所はかかる時効の援用は「信義に反し、かつ、権利の濫用として許されない」としました。
時効の援用が不法行為的な場合には、信義則違反という事もあり得るのです。
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国の債権の援用とは・・・
会計法30条には「金銭の給付を目的とする国の権利で、時効に関し他の法律に規定がないものは、5年間これを行わないときは、時効により消滅する。国に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする」とあり、さらに会計法31条には「別段の規定がないときは、時効の援用を要せず、またその利益を放棄することができないものとする」と定められています。
この趣旨は、時効の援用や放棄を認めると、ときにより担当官によって援用等を行ったり、行わなかったりする可能性があるからです。
ただし、この条文は国や県の金銭債権債務であっても私法的性質をもつものには適用されません。
国有地を民間に払い下げた時の代金債権、国の自動車が民間人をはね飛ばした時の損害賠償支払義務等についてはいずれも民法の時効の規定に従う事になります。
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時効の援用の判例とは・・・
①他人の債務のために自己所有の不動産に抵当権を設定した物上保証人は、右の主債務の消滅時効を援用することができる。
②ただし、右援用の方法は、債権者が自己の債権を保全するために必要な限度で債務者に代位してその消滅時効を援用するものである。
③他人の債務ために自己所有の不動産を譲渡担保に供した者は、物上保証人と異ならないから、右の主債務の消滅時効を援用することができる。
④抵当不動産を被担保政権の消滅時効完成前に取得し登記を経由した第三者は、被担保債権の消滅時効により直接利益を受ける者にあたり、時効の援用をなし得る。
⑤土地の所有権を時効取得すべき者から、その土地上に同人の所有する建物を賃借しているに過ぎない者は、右土地の取得時効の完成によって直接得利益を受けるものではないから、右土地の取得時効を援用することはできない。
⑥国または公共団体が負う損害賠償責任は、実質上民法の不法行為責任と同じ性質のものだから、国倍法に基づく損害賠償請求権は私法上の金銭債権であって公法上の金銭債権ではなく、したがって地方自治法236条2項の「法律に特別の定めがある場合」として民法146条の規定が適用され、当事者の援用が必要である。
⑦債務者が時効を援用しないで敗訴し、その判決が確定した後、別訴において、債権が時効によって消滅したことを主張することはできない。
⑧主債務の消滅時効の完成後に、主たる債務者が当該債務を承認し、保証人が、これを知って、保証債務を承認した場合には、保証人がその後主債務の消滅時効を援用することは信義則に照らして許されない。
⑨債務者が消滅時効完成後に債務を承認した場合でも、その承認以後再び時効期間が経過すれば債務者は再度完成した時効を援用できる。
⑩債務につき消滅時効が完成したのちに、債務者が債務を承認した以上、時効完成の事実を知らなかったときでも、以後完成した消滅時効の援用をすることは許されない。
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時効援用の信義則違反、権利濫用の実例・・・
<事実①>
兵庫県知事が国の機関として農地の買収を行う際に、Aの農地をBのものと誤認して、Bからそれを買った。
農地はやがて農地転用許可を受けたXが買い受け、ビルを建てて使っていた。
Aはこの土地を取り戻すためXや国を相手に訴えを起こし、その裁判に勝った。
それでXの所有権移転登記は取り消された。
さらにAは、Xに対し建物収去と土地明け渡しを求める訴訟を起こした。
結局、XがAにお金を払って、問題の土地を買い受けるということで和解が成立した。
XはAに払った土地代金その他の損害の賠償を求めて国を訴えた。
ところが、国はXの損害賠償請求権は20年の消滅時効にかかっているとして賠償に応じない。
<判旨①>
民法724条後段所定の20年の時効期間は、不法行為の被害者が損害の発生及び加害者を知ると否とにかかわらず進行する。
これは、その本旨が、自己の不法行為について争訟の対象とされないまま放置されてきた加害者をその不安定な立場から解放しようとするところにあるからである。
しかるに、国はXとともに自ら共同被告としてAに応訴し、訴訟追行を継続してきた者であり、右時効制度において真に救済を予定されたものではない。
本来、Aとの訴訟における敗訴の責任を究極的に負担すべき国が、右訴訟中に進行、完成した消滅時効を援用し、賠償の責を免れることは著しく公平を欠き、権利の濫用として許されない。
<事実②>
定期預金の満期ごとに行われていた自動的な継続手続が、銀行内部の事情(支店次長の横領)により、預金者の知らないままに更新された。
そして、最後の満期から5年以上経過した時点で預金者の返還請求が行われた。
これに対し銀行は、消滅時効を援用して支払を拒否した。
<判旨②>
銀行側が横領者に対する損害賠償請求訴訟に勝てば預金の払戻に応じることもある旨の発言をしていたこと、そもそも事件が銀行内部の不祥事に起因する事等にかんがみると、銀行において預金債権につき消滅時効を援用することは、信義則に反し、権利の濫用にあたるといわざるを得ない。
相続した債務の時効援用とは・・・
父の債務が300万円あり、父が死亡し、兄弟3人の相続人がいます。
その債務について、時効期間がきているのですが、時効の援用はどうすればよいのでしょうか?
相続の時は、民法899条によると、「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する」と定められているので、相続人の分割債務になります。
これはプラスの財産もマイナスの財産も同じです。
父の300万円の債務を、相続人3人で相続すると、相続人1人当たり、100万円の債務を相続することになります。
このように、分割債務になってしまいますから、消滅時効の援用も各自が別々に行使することになります。
自分の負担した100万円の負債についてのみ時効を援用できるものであり、それは他の相続人に何らの影響を及ぼしません。
連帯債務の時効の援用とは・・・
3人の連帯債務者が300万円の連帯債務を負っています。
その中の1人の消滅時効が完成し、時効を援用すると、借金総額は200万円になります。
この場合、他の2人が200万円の連帯債務を負うのか、それもとも200万円につき3人が連帯債務を負うのでしょうか?
民法439条には「連帯債務者の1人のために時効が完成した時は、その連帯債務者の負担部分については、他の連帯債務者も、その義務を免れる」とあります。
3人が連帯して300万円を借りています。
そして、その中の1人に対して消滅時効が完成したとしますと、この人は債権者に対して何の責任も負わなくなったということになります。
その人の負担は、内部的にも外部的にもなくなるのです。
その人の負担部分100万円について、他の2人も恩恵にあずかり、100万円を債権者に支払わなくてよくなるわけです。
しかし、他の2人は、200万円を債権者に対して負担する事になります。