名義貸しをしている会社へ損害賠償・・・

名義貸しをしている会社へ損害賠償・・・

山田さんは、以前、山田さんの会社の従業員であった田中さんに開業資金を与えて独立させ、山田さんの会社の支店という形で商売することを許可しています。

しかし、田中さんは借金を重ね、他人の土地を勝手に売りつけ、手付金を騙し取って、夜逃げしてしまいました。

実際には独立して営業しているのに、対外的には他の会社の名を借りて営業している形式を名義貸しあるいは名板貸しといいます。

このような場合は、第三者からみるといかにも名義貸主が営業しているような外観を備えているわけですから、この外観を信頼して取引した第三者を保護する必要があります。

商法では、名義借主を名義貸主であると誤認して取引した相手方に対しては、名義貸主も名義借主と連帯してその取引によって生じた債務を弁済する責任があると定めています。

(自己の商号の使用を他人に許諾した商人の責任)
商法第14条 自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人は、当該商人が当該営業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。

田中さんの借金の責任が山田さんにあるかについて、借金は、山田さんの会社名義で借金をしたのであれば、田中さんが使ったとしても、当然、契約上、山田さんの借金ですから山田さんが返さなければなりません。

しかし、名義貸しをしていたとしても、田中さんの会社名義で借金をしたのであれば、返さなければならないのは、田中さんです。

手付金詐欺について、この不法行為については山田さんは責任はないのは当然ですが、民法の使用者責任が適用されるかについて問題になります。

(使用者等の責任)
民法第715条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前2項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

これについて、被害者が山田さんの会社に使用者責任を問うためには、山田さんの会社と田中さんの会社との間に、真の雇用関係はなくとも、名義貸借に伴い、ある程度の指揮・監督の関係があったことを証明する必要があるとされます。

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子会社の倒産を親会社に損害賠償・・・

ある会社と取引をしていた山田さんは、その会社の倒産で、売掛金の回収不能になってしまいました。

この会社の倒産は、長期化したストが原因らしいのですが、これはその会社の親会社の謀略と考えられ、長期ストによって子会社への製品納入の見通しが得られないことを理由に赤字続きであったその事業部門から手を引くと共に、労使紛争の耐えない子会社を切り捨てたと考えられるのです。

子会社の在庫部品は親会社が購入するそうですが、その代金は子会社の人件費となり、山田さんの売掛金の支払には回らないとのことで、親会社に対して賠償を請求できないでしょうか?

子会社とは、下請けと呼ばれる企業とは異なり、取引面だけでなく、資本面でも親会社に従属している企業をいいます。

子会社の役員の選任権は実質的に親会社が握っていて、親会社は、自らが選任した役員を通じ、常に子会社の経営を支配しています。

しかし、法律上は、子会社はあくまでも独立の法人であり、親会社の一部ではありませんから、保証契約等がない限り、親会社が子会社とその取引先との取引によって契約上の債務を負うことはありません。

親会社は子会社の大株主ですが、株式会社の株主は、その会社が事業に失敗しても出資金を損するだけでよく、それ以上に損失を分担する必要はありません。

子会社の取引先が親会社に対して追及できるのは、原則として不法行為責任だけとなり、追及する理由は次になります。

①親会社の故意・過失により損害を受けた不法行為責任を追及すること

(不法行為による損害賠償)
民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

これについては、直接の加害者は子会社ですから、追及は難しそうです。

②親会社の故意・過失により子会社が損害を受けたとして、子会社の取引先が子会社に代位して損害賠償を請求すること

(債権者代位権)
民法第423条 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。

これについて、親会社の新注文打ち切りを子会社に対する不法行為とするのは難しく、子会社が具体的にどんな損害を受けたかを明確にしなければならない点も難しそうです。

③親会社と子会社とは使用人と被用者の関係にあるとして、親会社の使用者責任を追及すること

(使用者等の責任)
民法第715条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前2項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

これについて、親会社と子会社との関係を使用者と被用者の関係とみなすことは容易で、子会社の営業が親会社の事業の執行であるとすることもできそうです。

使用者が被用者の選任・監督に注意を尽くしたことを証明すれば責任を免れることになっています。

ですので、子会社の経営全般にわたって親会社に落ち度がなかったことを証明しなければならないのです。

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株の低落を会社と取締役へ損害賠償・・・

山田さんは、ある上場会社である食品メーカーの株を購入したのですが、その会社が、全く業務と関係のない土地投資に手を出したため、業績が悪化し、株価が大幅に低落したのですが、会社に対して損害賠償を請求できるのでしょうか?

会社が利益以上の配当を行うことを、タコ足配当と呼び、タコが自分の足を食べることに由来し、ある株主が全株主に共通する理由で会社に損害賠償を求めるということは、実はタコ足配当を求めていること同じなのです。

取締役が無謀な経営をして会社が損をすれば、株主は当然にその責任を問い、損を弁償させる権利があります。

しかし、それは会社に対して弁償させるのであって、株主に対してではありません。

株主に対して弁償させたのでは、会社が損した分の金が株主に入ることになり、タコ足配当と同じなのです。

株主は、取締役に対して、会社に損害賠償せよ、という訴訟を提起したり、既に提起された訴訟に参加できるにすぎないのです。

山田さんの株の損を、会社又は取締役に賠償させることはできないのです。

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