約款上定められた1年を超えてからの被保険者の自殺・・・

自分で会社設立しますか?
ご自分で会社を設立するならまずはクリック!!

約款上定められた1年を超えてからの被保険者の自殺・・・

最判平成16年3月25日(保険請求、債務不存在確認請求本訴、同反訴事件)
民集58巻3号753頁、判時1856号150頁、判夕1149号294頁

<事実の概要>

X1株式会社は、昭和42年にAにより設立されたいわゆる同族会社である。

Aは、X1の設立以降その代表取締役の地位にあったが、平成7年10月31日に死亡し、その妻X2が後任代表取締役に就任した。

この時点で、X1の経営は相当に苦しかったものと認定されている。

X1は、平成6年6月1日に4件(保険金受取人X1)の平成7年5月1日に3件(保険金受取人X1)の、同年6月1日に1件(保険金受取人X1)の、同年7月1日に2件(保険金受取人X29の、Aを被保険者とする生命保険契約をY保険会社との間でそれぞれ締結した(平成6年に締結されたものを「平成6年契約」、平成7年に締結されたものを「平成7年契約」という。なお、保険会社は多数にのぼるが、一括してYと表記する)。

これらの生命保険契約に適用される保険約款には、保険者の責任開始の日から1年内に被保険者が自殺した場合には保険者は死亡保険金を支払わない旨の特約が定められていた(「1年内自殺免責特約」という。なお、商法680条1項1号は期限を区切らずに自殺免責を定めている)。

また、X1は、平成7年8月から9月にかけて、複数の損害保険会社との間で、被保険者をAとする5件の傷害保険契約をも締結した。

平成6年契約の合計保険金額は、死亡保険金6億円と災害死亡保険金2億円の合計8億円であり、その保険料の月額は85万円に至っていた。

また、平成7年契約の合計保険金額は、死亡保険金7億8000万円と災害死亡保険金約4億円の合計約12億円であり、その保険料の月額は約120万円に至っていた。

Aは、平成7年10月31日にX1の工事に立ち会った後、建物の屋上から転落し、死亡した。

この死亡は、生命保険の集中加入状況と、X1の経営状態と保険料の月額との関係、および事故当日のAの行動から、自殺と認定された。

X1X2が保険金の支払を求めYを提訴したところ、Yは保険金請求権の不存在確認を求めて反訴を提起した。

第1審ではYが公序良俗違反、重大事由による解除、危険の著増を主張したがいずれも認められず、平成6年契約の死亡保険金についての支払を命じ、他方、平成6年契約の災害死亡保険金と平成7年契約の保険金については、自殺を理由に請求を棄却し、Yの反訴を認容。

双方が控訴したが、控訴審ではYが、第1審で主張していなかった商法680条1項1号に基づく免責を主張したところ、原審は、このYの主張を認め、第1審のX1X2勝訴の部分を取消して、保険金全額の請求を棄却した。

これに対し、X1X2上告。

最高裁は、平成7年契約に関する請求部分については上告を受理せず、平成6年契約に関する請求部分についてのみ上告受理。

そして、割増特約部分については上告を棄却したうえで、主契約部分について以下のように判時した。

<判決理由>破棄差戻し。

商法680条1項1号は、被保険者の自殺による死亡を保険者の保険金支払義務の免責事由の1つとして規定しているが、その趣旨は、被保険者が自殺をすることにより故意に保険事故(被保険者の死亡)を発生させることは、生命保険契約上要請される信義誠実の原則に反するものであり、また、そのような場合に保険金が支払われるとすれば、生命保険契約が不当な目的に利用される可能性が生ずるから、これを防止する必要があること等によるものと解される。

そして、生命保険契約の約款には、保険者の責任開始の日から一定の期間内に被保険者が自殺した場合には保険者は死亡保険金を支払わない旨の特約が定められるのが通例であるが、このような特約は、生命保険契約締結の動機が被保険者の自殺による保険金の取得であったとしても、その動機を、一定の期間を超えて、長期にわたって持続することは一般的に困難であり、一定の期間経過後の自殺については、当初の契約締結時の動機との関係は希薄であるのが通常であること、また、自殺の真の動機、原因が何であったかを事後において解明することは極めて困難であることなどから、一定の期間内の被保険者の自殺による死亡の場合に限って、自殺の動機、目的を考慮することなく、一律に保険者を免責することにより、当該生命保険契約が不当な目的に利用されることの防止を図るものとする反面、1年経過後の被保険者の自殺による死亡については、当該自殺に関し犯罪行為等が介在し、当該自殺による死亡保険金の支払を認めることが公序良俗に違反するおそれがあるなどの特段の事情がある場合は格別、そのような事情が認められない場合には、当該自殺の動機、目的が保険金の取得にあることが認められるときであっても、免責の対象としない旨の約定と解するのが相当である。

そして、このような内容の特約は、当事者の合意により、免責の対象、範囲を一定期間内の自殺による死亡と限定するものであって、商法の上記規定にかかわらず、有効と解すべきである。」

「Aが自殺したのは、平成6年契約の責任開始の日から1年を経過した後であるから、1年以内自殺免責特約により、上記特段の事情がない限り、商法の上記規定の適用が排除され、保険者は、平成6年契約に基づく死亡保険金の支払義務の免責がされないものというべきところ、当時、Aが経営するX1の経営状態は相当厳しい状況にあり、X1及びAは、前記のとおり、多数の保険会社との間で、多額の保険金額の本件生命保険契約等を締結していたこと等が明らかであるが、その自殺に至る過程において犯罪行為等が介在した形跡はうかがわれず、その他公序良俗にかかわる事情の存在もうかがえない本件においては、その自殺の主たる動機、目的が、保険金を保険金受取人であるX1X2に取得させることにあったとしても、上記特段の事情があるとはいえないものというべきである。」

スポンサードリンク

法人の役員による被保険者故殺・・・

最判平成14年10月3日(保険金請求事件)
民集56巻8号1706頁、判時1804号122頁、判夕1109号139頁

<事実の概要>

X有限会社(後に株式会社に組織変更)は、Y保険会社との間で集団扱生命保険契約を締結した。

約款の中には、被保険者が保険契約者又は保険金受取人の故意により死亡した場合には、Yは死亡保険金を支払わない旨の免責条項がある。

Xの取締役は、被保険者A、その妻B、長男C及びAの弟Dであるが、AはXのワンマン経営者であり、代表取締役として業務のほとんどを支配していた。

他方Bは、経理や社会保険関係の事務を担当していた。

BはAの女性関係に悩んでおり、自宅においてAを殺害した後自殺した。

そこでXは、本件保険契約に基づき死亡保険金の支払をYに請求したところ、Yは、Xの取締役であったBがAを殺害したことが本件免責条項に該当するとして保険金の支払を拒絶した。

第1審、原審とも、BのXにおける地位がその経営上重要でないことを理由に、Bの行為をXの行為と同視することはできないとして請求を認容。

Yは上告した。

<判決理由>上告棄却(反対意見がある)。

「本件免責条項は、商法680条1項2号本文及び3号の規定と同旨のものであるところ、いずれもその趣旨は、生命保険契約において、保険契約者又は保険金受取人が殺人という犯罪行為によって故意に保険事故を招致したときにも保険金を入手できるとすることは、公益に反し、信義誠実の原則にも反するものであるから、保険金の支払を制限すべきであるというところにある・・・。

本件免責条項は、保険契約者又は保険金受取人そのものが故意により保険事故を招致した場合のみならず、公益や信義誠実の原則という本件免責条項の趣旨に照らして、第三者の故意による保険事故の招致をもって保険契約者又は保険金受取人の行為と同一のものと評価することができる場合をも含むと解すべきである。

したがって、保険契約者又は保険金受取人が会社である場合において、取締役の故意により被保険者が死亡したときには、会社の規模や構成、保険事故の発生時における当該取締役の会社における地位や影響力、当該取締役と会社との経済的利害の共通性ないし当該取締役が保険金を管理又は処分する権限の有無、行為の動機等の諸事情を総合して、当該取締役が会社を実質的に支配し若しくは事故後直ちに会社を実質的に支配し得る立場にあり、又は当該取締役が保険金の受領による利益を直接享受しえる立場にあるなど、本件免責条項の趣旨に照らして、当該取締役の故意による保険事故の招致をもって会社の行為と同一のものと評価することができる場合には、本件免責条項に該当するというべきである。」

「これを本件についてみるに、Xが、年間売上高が3億3000万円前後、従業員数が関連会社を含め20名から30名程度の有限会社であること、AがXの業務のほとんどを支配しており、Bは、代表権のない取締役であり、主として従業員の給与計算や社会保険関係の事務を担当していたものの、その役割はAがXを運営していく上で必要な業務の補助的性質のものであり、Bが経営者としての立場でXの業務に関与してはいなかったこと、BがAの女性関係について悩んでおり、Aを死亡させた直後に自殺していることなど上記事実関係の下においては、BがXを実質的に支配し又は事故後直ちにXを実質的に支配し得る立場にあったということはできず、また、Bが保険金の受領による利益を直接享受し得る立場にあったということもできず、公益や信義誠実の原則という本件免責条項の趣旨に照らして、Bが個人的動機によって故意にAを死亡させた行為をもってXの行為と同一のものと評価することができる場合には当らないというべきである。

なお、Bが資金調達面の事務に関与するため、金庫の鍵を所持し、取引銀行と交渉するなどの役割を果たしていたことや、役員報酬の年額がAに次ぐものであったことなどの事実を考慮しても、Bの行為をもってXの行為と同一のものと評価することができる場合にあたるということはできない。

そうすると、本件免責条項に該当しないとして、Xの保険金請求を認容すべきものとした原審の認定判断は、正当として是認することができる。」

反対意見は、「同族会社の取締役が被保険者である代表者を故意に死亡させた場合の免責条項該当性については、公益、信義誠実の原則及び保険事故の偶然性の要求を重視して判断されなければならない」ことを理由に、原判決を破棄して請求を棄却すべきものと判断した。

スポンサードリンク

保険者の特別解約権・・・

大阪地判昭和60年8月30日(生命保険金請求事件)
判時1183号153頁、判夕572号82頁

<事実の概要>

Aは、Y保険会社との間で、自己を被保険者とする生命保険契約を4件締結した。

保険金受取人は、3件がAの妻X1、1件がX1とAの子であるX2及びX3の合計3名であった。

Aは、その経営する事業が不振に陥ったこと等により、多額の債務を負担する状態となった。

そこで、自己に似た第三者Bを殺害し、自己が死亡したかのように装って生命保険金を詐取するいわゆる替え玉殺人を計画し、実行した。

しかしながら、警察の捜査により死亡したのがAではないこと及び替え玉殺人がなされたことが発覚したため、Aは自殺した。

X1らがYに保険金を請求したところ、Yは、信頼関係破壊を理由とする無催告解除の判例理論の趣旨を類推した特別解約権の抗弁を含めた複数の抗弁を主張し、争った。

<判決理由>請求棄却。

「生命保険契約は、本質的に当事者の一方又は双方の契約上の給付が偶然な事実によって決定される射倖契約であるため、第1に、偶然による不労の利得そのものを目的とする賭博的行為に悪用されたり、公序良俗違反の行為に堕する危険を有し、さらに国民経済的に不利益を生ぜしめるような事態を加入者側が誘発させ、または放任する危険が内在しており、第2に、問題となる事実の偶然性ないし不可測性により相手のおかれた不利な地位に不当を乗じたり、自己のおかれた有利な地位を不当に利用したりする危険が存するのであって、公正ないし公益維持の原則と、信義誠実の原則の適用がことに要請されているものということができる。

したがって、生命保険契約において、商法あるいは保険約款に規定がなくても、その契約本来の特質から、保険契約者が保険金の取得を意図して故意に保険事故の発生を仮装するなど、生命保険契約に基づいて信義則上要求される義務に違反し、信頼関係を裏切って保険契約関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為をしたような場合には、保険者は債務不履行を理由に催告を要せず、生命保険契約を将来に向かって解除することができるものと解するのが相当である。」

「これを本件についてみると、・・・本件保険契約者であり被保険者であるAは、自己に似た第三者を身代わりに殺害し、自己が死亡したかのように装って生命保険契約を詐取することを企て、・・・計画通り、自己の身代わりとしてCを殺害したが、・・・犯行が明らかとなったことが決定的原因となって、・・・自殺したというのである。

このようなAによる保険金詐取を目的とした替え玉殺人及び右犯行の発覚を決定的原因とするAの自殺という一連の行為は、商法が保険者の免責事由として規定している商法680条1項2号あるいは3号に匹敵する行為ともいうべきものである。

したがって、保険契約者であり被保険者であるAが替え玉殺人を犯しながら、右犯行を決定的原因として自殺したからといって、保険金を入手できるとすることは公益上好ましくなく、信義誠実の原則にも反するものというべきであり、自殺という事実によって替え玉殺人という公益違反、信義則違反の事実が払拭されて消滅し、保険金支払義務を肯定するに足りる条件を具備するに至ったものとは到底考えることができない。

このことは、右一連の行為が保険契約者の行為に基づくものである以上、保険金受取人が右一連の行為に関与しているかどうかにかかわらないものというべきである。

又、右一連の行為は保険の特性である保険事故の偶然性の要求にも合わないものということができる。

したがって、Aの一連の行為は、生命保険契約に基づいて信義則上保険契約者に要求される義務に違反し、信頼関係を裏切って保険契約関係の継続を著しく困難ならしめる行為にあたると解するのが相当である。

してみれば、保険者であるY社に本件保険契約の解除権が発生したものということができる。」

スポンサードリンク

死亡保険金請求権の消滅時効の起算点・・・

最判平成15年12月11日(保険金請求事件)
民集57巻11号2196頁、判時1846号106頁、判夕1143号253頁

<事実の概要>

AはY保険会社との間で、Aを保険契約者兼被保険者、Aの妻であるXを保険金受取人とする生命保険契約を平成2年5月1日及び平成3年11月21日にそれぞれ締結した。

契約に用いられた保険約款には、保険金請求権の時効消滅について、保険金請求権は、支払事由が生じた日の翌日からその日を含めて3年間請求がない場合には消滅する旨の定めがあり、支払事由は「被保険者が死亡したとき」とされていた。

Aは平成4年5月17日失踪し、同月19日に家族から地元の警察署に捜査願が提出されたが、その消息については何の手掛かりもなく、その生死も不明のまま、時が経過した。

平成8年1月7日、Aが遺体で発見された。

遺体の状況等から、死亡時期については平成4年5月頃と推定され、死亡原因は自殺ではないと認定された。

Xは、平成8年11月7日、保険金の支払を求めてYを提訴した。

これに対しYは、Aの死亡の日から3年が経過するまでの間に本件契約に基づく保険金の請求がなされなかったことから、消滅時効を主張した。

原審は、約款解釈として、保険金請求権という権利の性質上、その権利行使が現実に期待できる時点が消滅時効の起算点であるとして請求認容。

Yは上告した。

<判決理由>上告棄却。

「本件消滅時効にも適用される民法166条1項が、消滅時効の起算点を「権利を行使することを得る時」と定めており、単にその権利の行使について法律上の障害がないというだけではなく、さらに権利の性質上、その権利行使が現実に期待することができるようになった時から消滅時効が進行するというのが同項の規定に趣旨であること・・・に鑑みると、本件約款が本件消滅時効の起算点について上記のように定めているのは、本件各保険契約に基づく保険金請求権は、支払事由(被保険者の死亡)が発生すれば、通常、その時からの権利行使ができると解されることによるものであって、当時の客観的状況等に照らし、その時からの権利行使が現実に期待できないような特段の事情の存する場合についてまでも、上記支払事由発生の時をもって本件消滅時効の起算点とする趣旨ではないと解するのが相当である。

そして、本件約款は、このような特段の事情の存する場合には、その権利行使が現実に期待することができるようになった時以降において消滅時効が進行する趣旨と解すべきである。」

本件事実関係によれば、Xの保険金請求権については、「本件約款所定の支払事由(Aの死亡)が発生した時からAの遺体が発見されるまでの間は、当時の客観的な状況等に照らし、その権利行使が現実に期待できないような特段の事情が存したものというべきであり、その間は、消滅時効は進行しないものと解すべきである。

そうすると、本件消滅時効については、Aの死亡が確認され、その権利行使が現実に期待できるようになった平成8年1月7日以降において消滅時効が進行するものと解される。」

スポンサードリンク