商法580条1項の趣旨・・・

自分で会社設立しますか?
ご自分で会社を設立するならまずはクリック!!

商法580条1項の趣旨・・・

最判昭和53年4月20日(損害賠償請求本訴、不当利得返還請求反訴上告事件)
民集32巻3号670頁、判時892号98頁、判夕364号181頁

<事実の概要>

電気器具の販売を営むXは、運送業を営むY株式会社に、Yの岡山支店で保管していたテレビ拡大レンズ280ケースの、岡山支店から福岡市のA株式会社までの運送を委託した。

Yは誤って本件物件を福岡市所在のB株式会社に配送し、Bからその返還を受けることができないため、Yの本件運送契約上の債務は履行不能となった。

Yは本件物件の所有者がXであるかBであるかが明白でないのでXの損害賠償請求を直ちに認容できず、権利者及び損害額が判決により確定されるまでの暫定的措置として、本件物件の価格としてXが寄託申込書に記載した。

Xは本件物件の転売利益等を含めた損害額408万96円から上記168万円を控除した240万96円の損害賠償を求めて本件訴えを提起した。

これに対してYは、交付金から損害額を超えて支払った過払い金について不当利得の返還を求める反訴を提起した。

なお、原審において、Yは反訴請求を拡張し、YがBに対して本件物件の引渡しを求める訴えを提起していたところ本件物件はBの所有に属する旨の判決が確定し、本件物件はX及びAの所有に属しないことが明白となったので、Xには損害はないとして、Xに交付していた168万円の返還を求めた。

原審判決は、本件は商法580条にいう全部滅失と同視することができるので、運送人は運送品の引渡しあるべかりし日における到達地の価格により損害を賠償すべきであるとして、168万円をその価格とした。

ただし、転売利益等の特別事情による損害は商法581条によれば運送人たるYに悪意又は重過失があるときに限り許されるものであるが、悪意又は重過失があったとは認められないとし、Xの損害は上記交付金によりすでに弁済されているとした。

また、本件損害賠償請求権は運送契約により発生するものであり、運送人Yの契約の相手方は荷送人であるXであるから、YはXに対し本件運送契約を債務の本旨に従って履行すれば足り、その運送品が荷送人の所有に属するか否かは運送人には無関係であるから、Yは本件物件の滅失による損害をXに賠償すれば足りるとした。

したがって、Xの損害賠償請求とYの不当利得返還請求はともに認められなかった。

X・Yともに上告した。

<判決理由>破棄差戻し。

商法「580条1項が運送品の価格による損害賠償責任を定めている趣旨は、運送品の全部滅失により荷送人又は荷受人に損害が生じた場合、これによる運送人の損害賠償責任を一定限度にとどめて大量の物品の運送にあたる運送人を保護し、あわせて賠償すべき損害の範囲を画一化してこれに関する紛争を防止するところにあるものと解される。

したがって、実際に生じた損害が右条項所定の運送品の価格を下回る場合にも、原則として運送人は右価格相当の損害賠償責任を負うのであって、運送人に悪意又は重過失がありその損害賠償責任について同法581条が適用される場合にも、その責任が右価格より軽減されることがないのは、もちろんである。

しかしながら、前記のような立法趣旨からして、右580条1項は、運送品が全部滅失したにもかかわらず荷送人又は荷受人に全く損害が生じない場合についてまで運送人に損害賠償責任を負わせるものではなく、このような場合には、運送人はなんら損害賠償責任を負わないものと解するのが相当である。」

「本件において、仮にYの前記主張のとおり本件物件がXの所有ではなく、たまたま右物件の配送を受けたBの所有であるとすれば、Xに損害が発生したか否かを判断するためには、更に具体的事実関係を審究することを要するものというべきである。」

スポンサードリンク

商法566条3項及び588条2項にいう悪意の意義・・・

最判昭和41年12月20日(損害賠償請求事件)
民集20巻10号2106頁

<事実の概要>

A会社はB会社との間で、荷受人をC株式会社として羊毛屑85梱包をサンフランシスコから名古屋まで運送する海上物品運送契約を締結し、自己所有の甲汽船により運送していたところ、神戸港において運送品を乙汽船に積み替えるために、Y1株式会社に両船舶間の運送を依頼した。

Y1はY2にこの運送に当らせた。

この作業中に運送品の一部が海中に落下したが、すべて回収され、Aの依頼を受けたY3株式会社により乙汽船に積み入れられ、Cに引き渡された。

この際のCの検査により、53梱包に海水による損傷があることが判明した。

事故後、Aの代理店であるD株式会社はY1に何らの留保なしに運送費その他の費用を支払った。

Cは、米国においてAに対して上記事故による運送品の損傷についての損害賠償請求訴訟を提起し、賠償金額を約5157ドル(約185万円)とする決定を受け、AはCにこの金額を支払った。

Aと合併し、Aの権利義務を承継したX会社が、上記金額を損害として、Y1に対しては債務不履行による損害賠償、Y2・Y3に対しては不法行為による損害賠償を請求した。

Y1・Y2の主張の1つに、商法588条による損害賠償責任の消滅、商法589条による損害賠償責任の時効消滅があった。

第1審ではXの請求は棄却され、XはY1・Y2に対して控訴した。

原審判決は、Y1・Y2の損害賠償責任を認め、Aは荷送人でも荷受人でもなく、Y1はAが運送のため使用した者であり、商法588条、589条は適用されないとして、Xの請求の一部を認めた。

Y1らは上告した。

<判決理由>上告棄却。

原審の確定した事実関係によれば、AとY1間の契約は、A・B間の元請運送契約を履行するための下請運送契約であることが明らかであるから、Y1が商法569条にいう「物品の運送を為すを業とする者」にあたるならば、Y1の本件事故についての責任は、商法588条1項の適用により、Aの代理店であるDが何らの留保もしないで運送賃その他をY1に支払ったことにより消滅し、また、同法589条、566条1項の適用により、乙汽船に本件貨物が積み込まれたときから1年を徒過したことにより消滅したことになる。

「しかるに、原判決は、「Aが運送の便宜のためY1に右両船間の運送を請け負わせたのであって、Aは荷送人でも荷受人でもなく、Y1はAが運送のため使用した者に当るというべきである。

従って、右主張は前提を欠き理由がない。」と判示して、本件につき商法588条、589条を適用すべき旨のY1らの主張を排斥しているのであって、前記説示に照らせば、原判決は、審理不尽並びに経験則違背のそしりを免れない。」

「ところで商法588条2項及び589条の準用する566条3項にいう「運送人に悪意ありたる場合」とは、運送人が運送品に毀損又は一部滅失のあることを知って引き渡した場合をいうものと解するのを相当とするところ、本件において原審の確定した事実関係によれば、Y1はAに対し本件事故による羊毛屑梱包の毀損を知ってこれを引き渡したことが明らかであるから、Y1は、商法588条1項及び566条1項を準用する589条の適用を受けるとしても、本件事故による損害の賠償責任を免れない。

また、商法588条、589条は運送人の債務不履行による損害賠償責任の免責に関する規定であるところ、XはY2に対し不法行為による損害賠償を請求するのであるから、Y2については、前記法条を適用する余地はない。

従って、Y1らに本件事故による損害賠償責任があるとした原判決は、結局正当であるといわなければならない。」

スポンサードリンク

運送人の責任と請求権競合・・・

最判平成10年4月30日(損害賠償請求事件)
判時1646号162頁、判夕980号101頁、金判1050号33頁

<事実の概要>

貴金属の販売・加工業を営むX株式会社は、顧客等から請け負った宝石の加工をAに下請させ、この宝石をAに送付した。

加工を終えたAは、この宝石をXに送り返すため、Y株式会社の宅配便を利用し、自己を荷送人、Xを荷受人とする運送契約をYと締結した。

Yが標準宅配便契約約款に従って定めた本件約款においては、運送人が荷物の運送を引き受ける時に、送り状を荷物一個ごとに発行し、これに荷送人はその氏名、荷物の品名及び価格等を、運送人は運賃のほか、損害賠償の額の上限である責任限度額等をそれぞれ記載するものとされていた。

また、Yは責任限度額を30万円と定め、送り状の用紙に、価格の記入を求める旨及び30万円を超える品物は引き受けず、仮に出荷しても損害賠償責任を負わない旨を印刷し、また、宝石類等は引受を拒絶することがある旨を定めていた。

しかし、Aは、送り状の依頼主欄及び届け先欄には所定の事項を記入したが、品名欄及び価格欄には記入しなかった。

XとAの間では、互いに宝石を送付するのに宅配便を使用しており、XはAが本件荷物をYの宅配便を利用して送付することを予め容認していた。

運送中に本件荷物が紛失され(Yに重過失はない)、Xは加工を注文した宝石の各所有者に合計394万1900円を賠償し、これにより各所有者のYに対する不法行為に基づく損害賠償請求権を取得したことなどを理由としてYに対し損害賠償を求めて本件訴えを提起した。

原審判決は、責任限度額の範囲内でしかYの責任を認めなかった。

Xは上告した。

<判決理由>上告棄却。

「宅配便は、低額な運賃によって大量の小口の荷物を迅速に配送することを目的とした貨物運送であって、その利用者に対し多くの利便をもたらしているものである。

・・・宅配便が有する右の特質からすると、利用者がその利用について一定の制約を受けることもやむを得ないところであって、貨物運送業者が一定額以上の高価な荷物を引き受けないこととし、仮に引き受けた荷物が運送途上において滅失又は毀損したとしても、故意又は重過失がない限り、その賠償額をあらかじめ定めた責任限度額に限定することは、運賃を可能な限り低い額にとどめて宅配便を運営していく上で合理的なものであると解される。」

「右の趣旨からすれば、責任限度額の定めは、運送人の荷送人に対する債務不履行に基づく責任についてだけでなく、荷送人に対する不法行為に基づく責任についても適用されるものと解するのが当事者の合理的な意思に合致するというべきである。

けだし、そのように解さないと、損害賠償の額を責任限度額の範囲内に限った趣旨が没却されることになるからであり、また、そのように解しても、運送人の故意又は重大な過失によって荷物が滅失又は毀損した場合には運送人はそれによって生じた一切の損害を賠償しなければならないのであって(本件約款25条6項)、荷送人に不当な不利益をもたらすことにはならないからである。

そして、右の宅配便が有する特質及び責任限度額を定めた趣旨並びに本件約款25条3項において、荷物の滅失又は毀損があったときの運送人の損害賠償の額につき荷受人に生じた事情をも考慮していることに照らせば、荷受人も、少なくとも宅配便によって荷物が運送されることを容認していたなどの事情が存するときは、信義則上、責任限度額を超えて運送人に対して損害の賠償を求めることは許されないと解するのが相当である。」

Xは長年にわたり頻繁に宝石類の送付に宅配便を利用しており、本件荷物についても、宅配便による運送だけでなく、Yの宅配便の利用を容認していた。

低額な運賃による宝石類の送付によって利益を享受していたXがYに対し責任限度額を超える損害の賠償を請求することは、信義則に反し、許されない。

スポンサードリンク

荷渡指図書に基づく寄託台帳の書換え・・・

最判昭和57年9月7日(第三者異議事件)
民集36巻8号1527頁、判時1057号131頁、判夕480号88頁

<事実の概要>

昭和48年、A株式会社はB会社から豚肉を買い受け輸入した。

A・B間の売買契約では、Aが売買代金を決済した上で豚肉につき発行された船荷証券の取得により豚肉の所有権を取得することとされていたが、Aは代金を支払うことができず、船荷証券を取得することができなかった。

しかし、Aは豚肉の海上運送人であったY会社に懇請し、船荷証券取得前のの保証渡しいより豚肉の引渡しを受けた。

Yはこの引渡しの責任を問われ、Bに代金相当額を支払い、船荷証券を回収した。

豚肉の通関手続き中、Aは豚肉をC株式会社に寄託した(Cの倉庫は保税上屋でもある)。

豚肉が日本に到着する前にAは豚肉をD有限会社に売り渡し、DはこれをX株式会社に転売していた。

A及びDは、豚肉を引き渡す手段として、それぞれ受寄者であるC宛てに豚肉を買受人に引き渡すことを依頼する旨を記載した荷渡指図書を撤回する旨の赤字の荷渡指図書を発行し交付した。

また、AはYの要求により、Cに対し豚肉をYに引き渡すよう指図した荷渡指図書に対して何らの措置もとらなかった。

本件豚肉につき、YはA及びCに対する動産仮処分を申請し、執行官保管の仮処分が執行された。

その後、XはAに代わって関税を納付し、X、Y、Cの合意により本件豚肉は換価され、この換価代金からXが関税として納付した額を控除した残額約1713万円が定期預金とされた。

Xが豚肉の換価代金につき所有権を有することの確認を求めて訴えを提起した。

原審判決では、下記の慣行等からすれば、寄託者台帳上の寄託者名義の変更により、Xは豚肉の占有をDのCに対する指図により取得したといえるのであり、このような占有移転により、民法192条に該当する占有を取得したということができるとされ、Yの控訴が棄却された。

Yは上告した。

<判決理由>上告棄却。

「原審が確定した事実関係によれば、(1)Aは、Yから本件豚肉の引渡しを受けてこれをCに寄託したが、これより先Aは右豚肉をDに売り渡し、DはこれをXに転売していたので、A及びDは、いずれも売買の目的物である右豚肉を引き渡す手段として、それぞれ受寄者であるC宛てに右豚肉を買受人に引き渡すことを依頼する旨を記載した荷渡指図書を発行し、その正本をCに、副本を各買受人に交付し、右正本の交付を受けたCは、寄託者たる売主の意思を確認するなどして、その寄託者台帳上の寄託者名義をAからDに、DからXへと変更した、(2)昭和48年当時京浜地区における冷凍食肉販売業者間、冷蔵倉庫業者間において、冷蔵倉庫業者は、寄託者である売主が発行する正副二通の荷渡指図書のうち一通の提示若しくは送付を受けると、寄託者の意思を確認する措置を講じた上、寄託者台帳上の寄託者名義を右荷渡指図書記載の被指図人に変更する手続をとり、売買当事者間においては、右名義変更によって目的物の引渡しが完了したものとして処理することが広く行なわれていた。」

「右事実関係のもとにおいて、Xが右寄託者台帳上の寄託者名義の変更によりDから本件豚肉につき占有代理人をCとする指図による占有移転を受けることによって民法192条にいう占有を取得したものであるとした原審の判断は、正当として是認することができる。」

スポンサードリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする