推定を受けない嫡出子・・・

推定を受けない嫡出子・・・

夫婦別居中に懐胎された子は推定を受けない嫡出子として、親子関係不存在確認の訴えによって父子関係を争うことができます。

嫡出の推定を受けない子の例としては、妻が懐胎した当時、夫の服役、海外滞在、事実上の離婚による別居などを原因とする長期不在又は行方不明などがあります。

このような場合には、妻は夫と同棲しておらず、その子を懐胎し得ないことが外観上明白だからです。

これらに限定せず、妻が懐胎した子と夫が人種を異にするとき、人類学的に不一致であるとき、血液型が背馳するときなど、客観的かつ明白に親子関係を否定し得る場合には、嫡出推定が排除されるとした事例があります。

夫婦が同居中に懐胎された子については嫡出否認の手続によることになりますが、夫がパイプカットを受けていてそ施術の精度が高率で、妻が懐胎した当時精管は閉塞状態にあった場合には子は嫡出の推定を受けないとして親子関係不存在確認の裁判をした事例があります。

また、客観的、科学的にみて夫の子でないことが明白である場合に、夫婦ひいては家庭の平和が既に崩壊しているときは、嫡出推定ないしその否認の制度的基盤が失われているとして、嫡出否認の出訴期間経過後の親子関係不存在の裁判によって身分関係の確定を図ることができるとした事例があります。

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人工受精子と嫡出否認・・・

人工授精には、夫の精子によるものと第三者の精子によるものとがあります。

夫の精子による人工授精の子は嫡出子として扱われます。

第三者の精子による人工授精の子については、夫の承諾を得ない場合は嫡出否認の訴えを認め、夫の承諾を得て行なった場合はこの請求が否定されると解されています。

妻が、夫の承諾を得ずに第三者の精子による人工授精で出産した子に対してされた嫡出否認の訴えを認容した事例があります。

親権者指定事件で、夫の同意を得て第三者から精子の提供を受けて人工授精が行われた場合には、人工授精子は嫡出推定の及ぶ嫡出子であり、妻が夫と子の間に親子関係が存在しないと主張することは許されないと解した事例があります。

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嫡出否認調停申立手続・・・

民法774条に基づく嫡出否認の申立は、特殊調停事項です。

民法第772条 

1.妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2.婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

民法第774条 

第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。

この申立は本質的には訴訟事項であって調停前置の対象となります。

①申立人

原則として夫だけです。

夫は未成年者であっても意思能力のある限り、法定代理人の同意なくして単独で有効に申立をすることができます。

夫が成年被後見人のときは、成年後見人が申立をすることができます。

成年後見人が成年被後見人の配偶者であるときは、成年後見監督人は成年被後見人のために申立をすることができます。

子の親子関係不存在確認申立が嫡出否認の申立に変更され、父子間に合意が成立した場合には、その合意が正当である限り、合意に相当する審判をすることは差し支えないとして、血液型検査による鑑定結果、その他の事実の調査をした後、嫡出否認の審判をした事例があります。

②相手方

子又は親権を行う母です。

親権を行なう母がないときは、特別代理人です。

民法第775条 

前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。

子が死亡した後は申立できないとするのが通説ですが、死亡した子に直系卑属があれば、その者と解する見解があります。

③管轄

相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所です。

④添付書類

申立人・相手方及びその法定代理人の戸籍謄本

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嫡出否認の審判・・・

当事者に嫡出否認の合意が成立し、その否認の原因について争いがない場合、家庭裁判所は、さらに必要な事実を調査した上、調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴き、その合意を正当と認めるときに嫡出否認の審判を行ないます。

嫡出否認の審判は、適法な異議の申立がないとき、また、異議の申立を却下する審判が確定したときは、確定判決と同一の効力を有します。

その効力は第三者に及ぶ対世的効力を有します。

利害関係人は家庭裁判所に対し、当事者が嫡出否認の審判の告知を受けた日から2週間以内に異議の申立をすることができます。

異議の申立があれば、審判は当然にその効力を失います。

異議申立人は、異議の申立を却下する審判に対して即時抗告をすることができます。

異議の申立によって嫡出否認の審判が失効した場合に、当事者がその旨の通知を受けた日から2週間以内に訴えを提起したときは、調停申立の時に、その訴えの提起があったものとみなされます。

調停委員会は、事件が性質上調停をするのに適当でないと認められるとき、又は当事者が不当目的で調停の申立をしたと認めるときは、調停をしないことができます。

調停をしない措置に対して、不服申立を許す規定はないので、即時抗告は認められません。

調停委員会は、当事者間に合意が成立する見込がない場合又は当事者間に合意が成立した場合において、家庭裁判所が家事審判法23条の審判をしないときは、調停が成立しないものとして、事件を終了させることができます。

家事審判法第23条 

1.婚姻又は養子縁組の無効又は取消しに関する事件の調停委員会の調停において、当事者間に合意が成立し無効又は取消しの原因の有無について争いがない場合には、家庭裁判所は、必要な事実を調査した上、当該調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴き、正当と認めるときは、婚姻又は縁組の無効又は取消しに関し、当該合意に相当する審判をすることができる。
2.前項の規定は、協議上の離婚若しくは離縁の無効若しくは取消し、認知、認知の無効若しくは取消し、民法第773条の規定により父を定めること、嫡出否認又は身分関係の存否の確定に関する事件の調停委員会の調停について準用する。

調停不成立として事件を終了させる処分は審判ではないので、これに対して即時抗告又は非訟事件手続法による抗告をすることができません。

また、裁判所書記官が家事審判規則141条に基づき当事者に対して行なう通知も調停手続における審判に該当しないので、同様に解されます。

家事審判規則第百四十一条 

第百三十八条又は第百三十八条の二の規定により事件が終了したとき、又は法第二十五条第二項の規定により審判が効力を失つたときは、裁判所書記官は、当事者に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。

調停不成立の場合、紛争は訴訟手続で解決することなります。

申立人は、裁判所書記官がする調停不成立の通知を受けた日から2週間以内に訴えを提起したときは、調停申立の時にその訴えの提起があったものとみなされます。

なお、調停不成立の期日に出頭した当事者には調停不成立の通知をしない扱いです。

裁判所書記官は、嫡出否認の審判が確定した場合は当事者の本籍地の戸籍事務管掌者に対し、当事者間に合意が成立せず又は合意は成立したが家庭裁判所が嫡出否認の審判をしない場合に事件が終了したとき又は異議に申立によってその審判が失効した場合には当事者に対し、それぞれ遅滞なくその旨を通知しなければなりません。

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