遺留分の減殺方法を指定する遺言・・・
遺留分の減殺の場合、遺贈はその目的の価額の割合に応じて減殺します。
民法では、数個の遺贈がある場合に、各遺贈の減殺額は、減殺額に各遺贈の目的の価額の割合を乗じて算出する旨と定めています。
しかし、遺言者が民法の規定と異なる別段の意思を遺言で表示したときは、その意思が優先します。
別段の意思表示とは、数個の遺贈の減殺の順序または減殺の割合を定める意思表示をいいます。
例えば「遺言者***は、その所有する財産のうち後記の財産を妻###に遺贈し、株式などの残余の財産全部を長女+++に遺贈する。もし、長男$$$から遺留分減殺請求があったときは、長女が相続すべき財産についてだけ減殺するものとする。」みたいな遺言です。
このような数個の遺贈の減殺の順序や減殺の割合を定める意思表示は、必ず遺言でなされなければなりません。
また、数個の遺贈の減殺の順序や減殺の割合を定める遺言は、遺言者の死亡のときから効力を生じます。
このように遺留分の減殺方法を指定する遺言も有効なのです。
それでは、遺留分の減殺請求について説明しますね。
遺留分権利者およびその承継人は、受贈者または受遺者に対し、遺留分の減殺を請求して、自己の遺留分額に達するまで、遺贈・贈与の目的物またはその価格を取り戻すことができます。
ただし、自己を被保険者とする生命保険契約の契約者である被相続人が死亡保険金の受取人を変更する行為は、遺贈または贈与にはあたりません。
遺留分権利者は兄弟姉妹以外の相続人になります。
逆にいいますと、兄弟姉妹には遺留分はないということです。
子の代襲相続人は遺留分権利者です。
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、直系尊属のみが相続人であるときは、被相続人の財産の3分の1の額、その他の場合には、被相続人の財産の2分の1の額を受けます。
そして、遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して、これを算定します。
贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、民法の規定により、その価額に算入します。
相続開始前の1年前にした贈与にあたるかどうかは、贈与の意思表示がされた時を標準として判断し、その意思表示の時期が相続開始の時より1年前であることをいいます。
遺留分の減殺請求権は、遺留分権利者が相続の開始および減殺すべき贈与または遺贈のあったことを知った時から、1年間行使しないときは、時効によって消滅します。
相続開始の時から10年を経過したときも同様です。
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第三者の未成年者に対する遺贈財産を親権者に管理させない遺言・・・
遺贈により未成年の子に財産を与える第三者は、親権者にその財産を管理させない意思表示をすることができます。
普通は、第三者が無償で未成年の子に財産を与えた場合、その財産は親権者が管理し、その財産に関する法律行為も親権者が子を代表します。
その第三者がその親権者に子の財産の管理させることを欲しないときは、遺贈自体をやめてしまう可能性もでてきます。
そこで、無償で財産を与える第三者が、親権を行う父母にこれを管理させたくない場合に、その旨の意思表示をしたときは、その財産は父母の管理に属しないものとして、第三者の意思を優先させることにしています。
第三者とは、親権者および未成年の子以外の者をいいます。
親権者に財産を管理させない旨の意思表示が認められるのは、第三者が無償で、未成年の子に財産を与える場合であり、これに該当する無償行為は贈与および遺贈です。
第三者が無償で、未成年の子に与える財産の管理を親権者にさせない意思表示は、贈与契約または遺言においてしなければなりません。
そして、第三者の未成年の子に対する無償譲与財産を親権者に管理させない意思表示があると、当該財産は親権者の管理に属しないものになります。
また、親権者の一方に遺贈財産の管理をさせない意思表示をしているときは、他の一方の親権者が単独で当該財産を管理します。
第三者が親権者である父母双方に未成年者に対する遺贈財産の管理をさせない意思表示をした場合、第三者は自ら財産の管理者を指定することができます。
この管理者を指定管理者といいます。
指定管理者は、当該財産につき、未成年の子の法定代理人として第三者が指定した範囲でその権限を行使し、権限の指定のないときは、管理権のみを有します。
もし指定管理者の死亡または破産手続開始の決定もしくは指定管理者が後見開始の審判を受けたことによってその権限が消滅した場合または解任する必要がある場合、第三者がさらに管理者を指定しないときには、家庭裁判所は、子、その親族または検察官の請求によって管理者を選任します。
また、子に財産を遺贈する第三者が親権を行う父母双方にこの財産を管理させない意思を表示し、かつ当該第三者が財産の管理者を指定しなかったときは、家庭裁判所は、子、その親族または検察官の請求によって、その管理者を選任します。
このように遺言は使いようによっては、いろいろな使い方があります。
遺言を作成する場合には、使い勝手の良いものにすることが大切です。
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自筆証書遺言の加除変更・・・
遺言書中の文字を加除変更した場合には、そのことが実証されなければなりません。
民法は、加除変更の方式として下記のように規定しています。
①その場所を指示します。
②変更した旨を付記します。
③特に署名します。
④その変更の場所に印を押します。
上部欄外に「この行何字訂正」または遺言書末尾に「この遺言書何行目中何々とあるを何々と訂正した」と付記して、そこに遺言者が署名し、加除変更した場所に印を押さなければならないとされています。
印は署名した場所に押さずに、加除変更した場所だけに押します。
遺言書の加除変更の雛形
押す印は、実印でなくてよく、認印や拇印でもよいとされています。
しかし、上記の方式に違反する加除変更は無効になります。
時には、遺言全部が無効になる場合も有り得るのです。
例えば、間違えた日付の加除変更した場合、抹消部分が判読できないために遺言を無効とした判例があります。
日付の記載は、自筆証書遺言の記載事項だからです。
通常は、遺言者本人によって、加除訂正のない本文と日付・署名・捺印から成る文書として自筆証書遺言が有効に作成された後、本文に加えられた加除・訂正の書き込みによって本文自体が判読不可能となると当該部分に限って効力を失うことがあります。
また、その加除・訂正が民法に定める方式に適合しない場合には、遺言の内容に何ら変更を生じません。
このように遺言書の加除変更にも民法の方式による必要があります。
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成年被後見人の遺言・・・
成年被後見人とは、家庭裁判所の後見開始の審判により精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるとされた者です。
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態にある者は意思能力、遺言能力を有しませんから、このような者がなした遺言は無効です。
しかし、成年被後見人でも、時々本心に復することがあります。
この本心に復し意思能力があるときは、遺言能力が認められ、成年後見人の同意を要しないで遺言をすることができます。
成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復し、有効な遺言をするには、医師二入以上を立ち合わせ、その医師の証明がなければなりません。
立ち会った医師は、遺言者が遺言するときに精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名押印しなければなりません。
ただし、秘密証書遺言の場合は、内容の秘密を保持しなければなりませんので、その封紙に署名押印します。
成年被後見人が、自筆証書遺言をする場合には、全文・日付・氏名が自書されて押印されるまで、公正証書遺言の場合には、公証人の署名押印がすむまで、医師が立会い、本心に復していたことを確認して付記することが必要です。
秘密証書については、遺言者が公証人・証人に封書を提出している時に本心に復していることが必要です。
医師は遺言の内容に関係する者ではありませんから、証人ではなく立会人になります。
そして、推定相続人および受遺者ならびにこれらの配偶者および直系血族は、遺言の証人または立会人となることはできません。
ですので、成年被後見人であっても遺言をすることはできるんです。
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