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祭祀の判例(墓石の設置)・・・
寺院が壇信徒のための経営する寺院墓地においては、寺院は、その宗派に応じた典礼の方式を決定し、決定された典礼を施行する自由があり、墓地使用権設定契約に際し、使用権者が当該寺院の宗派の典礼の方式に従って墓石を設置する旨の合意をすることができ、その合意がされた場合には、たとえ、使用権者が当該宗派を離脱したとしても、寺院は、当該使用権者からする当該宗派の典礼の方式とは異なる宗教的方式による墓石の設置の求めを上記合意に反するものとして拒むことができ、本件墓石は***宗の定める典礼の方式とは異なる宗教的方式によるものであることは明らかであるから、寺院は、上記合意に反するものとして、本件墓地区画に本件墓石を設置することを拒むことができるとして、墓石設置妨害排除請求を棄却した事例があります。
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祭祀財産の承継・・・
相続人は、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。
民法第896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
しかし、祭祀財産である系譜、祭具及び墳墓の所有権は、相続の対象からはずして特定の者が承継することになっています。
民法第897条
1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2.前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
墳墓は遺骸や遺骨を葬っている設備である墓石等をいい、墓地は墳墓を所有するための敷地と解し、墓地のうち墓石等が存在せず、祖先の祭祀と直接の関係が認められない部分は祭祀財産には属しないとし、同土地部分は相続財産とし、遺産分割が未了と解した事例があります。
遺骨の所有権は祭祀主宰者に帰属し、祭祀主宰者は遺骨の占有者に対してその引渡しを請求することができます。
祭祀財産の権利承継者と祭祀主宰者とは密接不可分の関係にあるから、承継者に指定された者は、当然に祭祀主宰者たる地位につきます。
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祭祀財産の第一承継者(被相続人の指定者)・・・
相続が開始した場合、祭祀財産の承継者として被相続人から指定された者が祭祀財産を承継します。
民法第897条
1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2.前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
民法897条1項により被相続人が祭祀主宰者を指定する場合、民法769条以下の規定(縁組に関する規定)は、多くの場合、相続人や親族で氏を同じくする者を予想したのに過ぎないとして、被相続人は民法897条1項により自分が適当と思う者を自由に指定することができ、同条2項により家庭裁判所が指定する場合も同様と解し、相続人の主張を排斥して被相続人の内縁の配偶者を指定した判断を正当とした事例があります。
被相続人による指定の方法については、特別の定めがありません。
黙示的な指定も認められています。
相続人が生前にその全財産を贈与して家業を継がせた者を祭祀の主宰者に指定したものと認定した事例があります。
被相続人はその所有する墓碑に祭祀を承継させる者の氏名を建立者として刻んでその意思を明らかにしているとして、この者を祭祀の承継者に指定した事例があります。
被相続人による祖先の祭祀主宰者を指定する意思表示は、特定の方式は不要であるが、人の死後に効果を生ずる場合が原則の意思表示であるから、表意者の真摯さ、表示内容の明確さにおいて、一般の意思表示より慎重にその存在を判断すべきであるとし、その上で、被相続人が推定相続人らを前にした「墓を申立人において守って欲しい」旨の発言を被相続人の「祖先の祭祀主宰者」に指定と解し、被相続人による祖先の祭祀主宰者の指定の存在が認められる場合、祭祀財産の承継者の指定申立を却下すると、紛争は解決しないで指定の存否が民事訴訟で争われるおそれがあるなどの理由により、被相続人の指定に基づいて祭祀財産の承継者を指定する審判をすべきであるとした事例があります。
被相続人の指定による祖先の祭祀主宰者がある場合でも、祭祀財産の承継者指定の申立があり、被相続人の指定の存否や慣習の存否について当事者間に争いがある限り、家庭裁判所は、これらを審理し、指定の内容や慣習の内容に従い、祭祀財産の承継者を指定する審判をすべきであると解した事例があります。
被相続人は、遺言で祭祀の主宰者を指定することもできます。
当時実務では、被相続人によって作成された指定の書面又は共同相続人全員によって作成された指定を証する書面によって承継者を認定して差し支えないとされています。
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祭祀財産の第二承継者(慣習)・・・
第二順位の承継者は慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者です。
新民法が慣習に従って祭祀主宰者を定める意味は、新民法施工後、将来新たに育成される慣習に従わせようとするものであると解し、旧民法において選定家督相続人の資格のある者は、家督相続人に選定された祭祀主宰者になることは順位上当然で、このことは旧民法においても例外なく実践されていたから、それ自体が慣習である旨の主張を排斥し、立法趣旨に反するとしていまのところ、このような慣習の成立を認められないとした事例があります。
「本件遺骨の所有権については、特段の事情あるいは被相続人の指定がない限り慣習に従って祭祀を主宰すべき者とみられる相続人に帰属したものというべきである」との判断を示し、この場合、相続人は慣習上祭祀主宰者となることを示したものと思われます。
死亡配偶者の祭祀を生存配偶者が原始的に主宰することは、民法の法意及びわが国の近時の慣習に照らし、法的にも承認されるべきものであるとされます。
登記実務では、共同相続人全員が慣習に従って祭祀を主宰する者は誰であるかを確認した書面によって認定します。
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祭祀財産の第三承継者(家庭裁判所の指定)・・・
第三順位の承継者は家庭裁判所の調停又は審判で定められた者です。
家庭裁判所による権利の承継者指定は乙類審判事項ですから、関係当事者の合意によって調停で承継者を定めることもできます。
民法897条の祭祀財産の承継者は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継するか、被相続人の祖先の祭祀を主催すべき者の指定があるときはその者が承継するのであるから、相続人らが祭祀承継者を協議して定めても、被相続人のその祭祀承継者を相続人らで協議して定める旨の指定がない限り、家庭裁判所が指定する際の一資料になるとしても、その者を祭祀承継者であると認めることはできないと解した事例があります。
関係当事者とは、共同相続人及び当該祭祀財産の権利承継につき、法律上の利害関係をもつ親族又はこれに準ずる者と解されています。
親族に準ずる者とは、内縁の妻、事実上の養子等をいいます。
内縁の配偶者を指定した事例、共同墓地の共有持分権者が死亡して相続人不存在の場合、共同墓地の管理人による申立を認めた事例があります。
家庭裁判所は、遺産分割審判に併合して祭祀承継者指定の審判をすることができます。
しかし、この両審判が一体不可分の関係でされ、遺産分割審判について違法があって改めて分割審判をなすべきものとされた場合には、祭祀承継者指定についても更に審理を尽くし、分割審判と同時にこれを定めるべきであるとされます。
遺産分割の審判に当たり、祭祀主宰者に対して祭祀料として特に多くを与えるべきではないとされています。
家庭裁判所は、相続開始が戸籍上明白でない場合であっても、被相続人の生存の可能性が全くないときは、祭祀承継者を指定することができます。
祭祀承継者の人数は原則的には、1人に限られるでしょうが、墓地の所有形態がAとBの共有で両家の祖先が埋葬され、「A、B両家の墓」として、代々祭祀が行なわれ、管理されてきたなどの事情がある場合には、祭祀財産を共同して承継するものとして、承継者を共同指定することは差し支えないとされます。
被相続人と当事者の生活関係、祭具の管理状況、当事者の対立状況などによれば、祭祀財産の承継者を各別に指定することも止むを得ないとして、祭具の承継者を申立人、墳墓の承継者を相手方に指定した事例があります。
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