推定相続人廃除遺言の手続・・・
遺言執行者は、推定相続人を廃除する遺言が効力を生じた後、遅滞なく家庭裁判所に廃除の請求をしなければなりません。
民法第893条
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
遺言執行者がないときは、遺言執行者が選任された後に、遅滞なく廃除の請求をします。
民法893条に基づく推定相続人廃除の申立は、乙類審判事項です。
家事調停によって推定相続人廃除の請求をした場合、当事者間にその旨の合意が成立しても、家庭裁判所は、職権で廃除事由の存否を調査し、その存在の認められないときは、調停を不成立として終了させ、申立の当否を審判によってなされます。
①申立権者
遺言執行者です。
②管轄
相続開始地の家庭裁判所です。
③添付書類
遺言者執行者・推定相続人及び被相続人の戸籍謄本
遺言書の写し
遺言執行者の資格証明書
④審判手続
遺言上、廃除事由が明示されていなくても、家庭裁判所は、職権で事実の調査及び証拠調べによって廃除事由の存否を確定します。
その際、原則として推定相続人の意見を聴きます。
推定相続人は、推定相続人の廃除の審判に対して即時抗告をすることができます。
遺言執行者は、廃除の申立を却下する審判について即時抗告をすることができます。
遺言執行者が推定相続人の廃除を求める審判手続において、廃除を求められていない推定相続人が利害関係人として審判手続きに参加した場合に、その参加人は廃除の申立を却下する審判に対して即時抗告をすることができません。
即時抗告の期間は、審判が申立人に告知されたときから2週間です。
遺言に基づく推定相続人廃除の審判が確定すると、その推定相続人の廃除は被相続人死亡の時に遡ってその効力を生じ、推定相続人は相続権を失います。
遺言に基づく推定相続人廃除の審判が確定したときは、遺言執行者は、審判が確定した日から10日以内に、その旨を届け出なければなりません。
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遺産管理者選任審判・・・
推定相続人廃除の遺言が効力を生じた場合、相続人は、そのことによって、当然に相続人の地位を失うわけではありません。
また、推定相続人廃除を取り消す遺言が効力を生じた場合、被廃除者は、そのことによって、当然に相続人の地位を回復するわけではありません。
この場合、家庭裁判所の推定相続人廃除又はこれを取り消す審判が確定したときに、相続人の地位を喪失又は回復します。
推定相続人廃除又はその取消の効力は、相続開始の時に遡りますから、この場合に生ずる表見相続人にからんだ相続財産をめぐる混乱を防止するために、家庭裁判所は、遺産の管理に関する処分をすることができるものとしています。
民法第895条
推定相続人の廃除又はその取消しの請求があった後その審判が確定する前に相続が開始したときは、家庭裁判所は、親族、利害関係人又は検察官の請求によって、遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。推定相続人の廃除の遺言があったときも、同様とする。
民法895条に基づく遺産の管理に関する処分は、甲類審判事項です。
①申立権者
被相続人の親族、法律上の利害関係人、検察官です。
②管轄
相続開始地の家庭裁判所です。
③添付書類
申立人、相続人及び被相続人の戸籍謄本
遺産管理人候補者の戸籍謄本及び住民票
遺産目録
遺言書の写し
遺言執行者の資格証明書
④審判手続
家庭裁判所は、管理者の選任その他遺産の管理に関する処分を命じます。
遺産管理者が選任されるのは、将来確定されるべき相続人の法定代理人として、包括的に遺産管理をさせることが適当な場合が多いからです。
遺産管理者選任の審判は、管理人に告知されることによってその効力を生じます。
遺産管理人を選任した場合、家庭裁判所は、相続人に対してその旨を通知します。
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遺産管理者の職務権限・・・
家庭裁判所が選任した遺産管理者については、不在者の財産管理人に関する民法27条から29条の規定及び委任に関する民法644条、646条、647条、650条の規定がそれぞれ準用されます。
民法第895条
1.推定相続人の廃除又はその取消しの請求があった後その審判が確定する前に相続が開始したときは、家庭裁判所は、親族、利害関係人又は検察官の請求によって、遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。推定相続人の廃除の遺言があったときも、同様とする。
2.第27条から第29条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が遺産の管理人を選任した場合について準用する。
民法第27条
1.前2条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。
2.不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。
3.前2項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。
民法第28条
管理人は、第103条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。
民法第29条
1.家庭裁判所は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。
2.家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができる。
民法第644条
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
民法第646条
1.受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
2.受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。
民法第647条
受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
民法第650条
1.受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
2.受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。
3.受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。
遺産管理者は相続人の法定代理人です。
原則として権限の定めのない代理人として、相続財産につき保存、利用、改良の管理行為のみをなす権限を有します。
管理者が相続財産を管理している場合に相続人は相続財産に対する管理処分権を失うとの説がありますが、基本規定である不在者の財産管理の場合、不在者本人の管理処分権を肯定する説と否定する説に分かれます。
遺産管理者の財産管理については、相続人との法律関係につき、民法の委任の規定の一部が次の通り準用されています。
①遺産管理者は善良な管理者の注意をもって財産を管理する義務を負いますので、財産管理の目的に従い、財産管理の性質上、遺産管理者の職務上、通常、一般的に要求される程度の注意をもって事務処理をすべきです。
②遺産管理者は、管理中に受け取った金銭その他の物を相続財産に組み入れ、自己名義で取得した権利を相続財産に移転します。
③移転した金銭を自己のために費消したときは、費消の日以後法定利息を支払うほか、費消によって損害を生じたときはその賠償をします。
④管理費用として立て替えた金員及びその法定利息の償還、管理の必要上負担した債務の弁済や担保の供与、管理中自己に過失なくして損害を受けたときの賠償などを請求することができます。
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家庭裁判所の遺産管理者の監督・・・
遺産管理者は、自己を遺産管理者に選任した家庭裁判所の監督に服さなければならず、次のことのほかであっても、家庭裁判所が財産管理上必要と認めてする指示・処分に従う義務があります。
①遺産管理者は管理すべき財産の目録を作成しなければなりません。
管理すべき財産の範囲を明確にするためです。
財産目録は2通作成し、1通を家庭裁判所に提出します。
家庭裁判所は、遺産管理者が作成した財産目録を不十分であると認めるときは、遺産管理者に対し、公証人に財産目録を作らせることを命ずることができます。
遺産管理者が財産の目録の作成を怠っているときは、家庭裁判所は、作成の履行を命ずることもできます。
目録作成の費用は、相続財産から支弁します。
民法第895条
1.推定相続人の廃除又はその取消しの請求があった後その審判が確定する前に相続が開始したときは、家庭裁判所は、親族、利害関係人又は検察官の請求によって、遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。推定相続人の廃除の遺言があったときも、同様とする。
2.第27条から第29条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が遺産の管理人を選任した場合について準用する。
民法第27条
1.前2条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。
2.不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。
3.前2項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。
②家庭裁判所は、職権で遺産管理者に対し相続財産の状況の報告及び管理の計算を命ずることができます。
これに要する費用は、相続財産の中から支弁します。
管理が長期にわたるとき、家庭裁判所は、6ヶ月又は1年ごとのように定期的に報告することを命ずることもできます。
③遺産管理者の相続人に対する財産の返還、損害賠償義務を担保するため、家庭裁判所は、職権により、遺産管理者に対し人的又は物的担保の提供を命ずることができます。
不動産又は船舶に抵当権の設定を命ずる審判が効力を生じたときは、裁判所書記官がその登記を嘱託します。
家庭裁判所は、事情の変更があると認めるときは、職権で、遺産管理者が提供した担保を増減、変更又は免除することができます。
④遺産管理者を不適任と認めるとき、家庭裁判所は、職権で、遺産管理者を解任して後任遺産管理者を選任することができます。
また、遺産管理者は、家庭裁判所に届出をして辞任することができ、この場合も、家庭裁判所は後任遺産管理者を選任しなければなりません。
遺産管理者が死亡したときも同様です。
推定相続人廃除又は推定相続人廃除取消の審判が確定し、相続人が自ら財産を管理することができるようになったとき、家庭裁判所は、申立により、遺産の管理に関する処分を取り消さなければなりません。
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