取得時効の自主占有の判例1・・・
相続財産につき、共同相続人が単独所有者としての自主占有を取得したと認めた事例があります。
共同相続人Aは、
①被相続人夫婦と共同相続人Bとの養親子関係は法律上も解消したと考え、養母の死後は自己が唯一の相続人として本件不動産の単独所有者であると信じてこれを占有していたこと、
②Aは養母の死後、本件不動産を自己一家の生活の本拠として使用収益し、その管理を行い、公租公課を含む一切の費用を支弁してきたこと、
③被相続人夫婦と共同相続人Bとの養子縁組は離縁となっていないものの、Bに***円が交付された以降は、事実上協議離縁に等しい状態になっており、B一家は養親一家とはほとんど全く没交渉に生活し、同家の動向には全く関心がなかったこと、
などの諸事情を総合すると、養母の死亡とともに開始されたAの本件不動産の占有を右不動産に対するAの単独所有の意思による自主占有と解しました。
そして、占有開始の際、AがBに対して単独所有の意思が表示されなくても前記事情に照らすと、自主占有と認めることに妨げはないし、また、BがAの占有に異議を述べなかったことに過失がなかったとの主張には、自主占有の成立を肯定する場合、常に右事実の存在を必要とするものではなく、本件の場合、前記①から③までの事実関係の存在のみによって単独自主占有を認めるに妨げはないとしました。
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取得時効の自主占有の判例2・・・
被相続人(養親)に前婚の子のあることを全く知らなかった養子が相続の時から遺産である不動産の自主占有を取得し、被相続人死亡の時から10年の経過により、時効による所有権を取得したことを認めた事例があります。
甲乙はAの子、乙はBの養子で、甲乙AはB所有の本件建物に居住していたが、乙は結婚して別居し、Bは昭和40年2月に死亡し、乙が本件建物を単独相続したが、甲Aらの家族は本件建物に居住を続け、Aは昭和40年8月に本件建物に敷地を地主から買い受け、昭和51年11月にAは死亡して甲が遺産を単独相続し、昭和62年に起こった本件建物所有権につき乙の相続による取得、甲の時効による取得が争われた事案で、Aの相続を新権原とする自主占有を認めて、甲の10年の時効取得を認めた事例があります。
(占有の性質の変更)
民法第185条 権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。
上告人は、被相続人の死亡後、同人との婚姻を取消されたが、被相続人死亡の日に相続財産の占有を開始し、その後20年間継続しているところ、自己が被相続人の唯一の配偶者で3分の1の法定相続分を有するものとして占有を開始したものと見るべきであるから、被上告人らが他に上告人の占有が所有の意思のないものであることを基礎付ける事情を何ら主張していない本件においては、本件土地建物の各3分の1の持分を取得したと認めた事例があります。
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取得時効の自主占有の判例3 ・・・
本件土地は、被相続人亡き甲の妻乙と甲の兄弟姉妹ABCDEの共有財産であるところ、乙からその共有持分のみならず、ABCDEの共有持分を含む所有権全部を買い受けた買主には、代金全額を完納した日からABCDの持分権につき、自主占有があったとして、時効による所有権取得を認めた事例があります。
甲はAから本件土地の贈与を受けて、その登記を経由した後、同土地に建物を所有している乙に建物収去土地明渡しを請求したところ、乙は、その祖父BがAから本件土地を買い受けてその占有を始め、その後同土地上に建物を建築し、Bの死後はC(乙の父)がその占有を承継し、その死亡前占有を継続したのだから、占有開始から20年後に本件土地の所有権を取得し、乙はこれを相続していると主張したとして、所有権確認等を請求した事案で、BのAからの買受による自主占有は否定し、CはBを相続した時、新権原により自主占有を始めたとして、乙の時効取得を認めた事例があります。
(占有の性質の変更)
民法第185条 権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。
共有土地につき、占有中の共有者2人が他の共有者の共有持分権を10年の経過による時効により所有権を取得したと認めた事例があります。
不動産を共有する数名の者全員が共同原告となり、共有権に基づき所有権移転登記手続きを求める訴訟は、固有必要的共同訴訟と解されていますが、被相続人の時効取得を理由に相続人の一部の者がした土地処分禁止仮処分申請を適法とした事例があります。
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取得時効の平穏・公然の占有・・・
占有は、平穏、かつ、公然とされることを要します。
(所有権の取得時効)
民法第162条 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
平穏な占有とは、占有者がその占有を取得し、又は保持するについて、暴行強迫などの違法強暴の行為を用いていないことを指称し、不動産所有者など占有の不法を主張する者から、異議を受け、不動産の返還、占有者名義の所有権移転登記の抹消手続方の請求があっても、これがため、その占有が平穏でなくなるものでないとされています。
公然の占有とは、占有者が、占有の存在を知るにつき利害関係を有する者に対して、占有の事実をことさら隠蔽しないことをいいます。
占有者は、所有の意思をもって善意、平穏かつ公然に占有をしている推定を受けます。
(占有の態様等に関する推定)
民法第186条 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。
占有者の占有が自主占有に当たらないことを理由に取得時効の成立を争う者は、右占有が他主占有に当たることについての立証責任を負います。
この場合、占有者が、原所有者に所有権移転登記を請求しないこと、自分が固定資産税を負担すると申出をしないことなどの事実は、他主占有事情の存否の判断において占有に関する外形的客観的な事実の1つとして意味のある場合もあるが、常に決定的な事実であるわけではなく本件では右事実をもって他主占有事情として十分であるということはできないとした事例があります。
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