成年被後見人の行為能力・・・
成年被後見人の行為は、これを取消すことができます。
ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、取消すことができません。
民法第9条
成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。
取消権者は本人及び成年後見人です。
民法第120条
1 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。
2 詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。
民法では、意思能力の有無が法律行為ごとに個別的に判断されることから生じる不都合を回避し、判断能力が不十分と考えられる者を保護するため、あらかじめ年齢や審判の有無という形式的基準により行為能力の有無を定めました。
この行為能力が制限された者を制限行為能力者といい、個別の事情により未成年者、成年被後見人、被保佐人、同意権付与の審判を受けた被補助人に類型化されます。
各類型の制限行為能力者は、それぞれ一定の法律行為につき、単に制限行為能力者であることを理由として、法律行為を取り消すことができるものとしました。
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成年後見人の善管注意義務・・・
成年後見人は、善良な管理者としての注意義務を負っています。
民法第869条
第644条及び第830条の規定は、後見について準用する。
民法第644条
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
民法改正前ですが、後見人が禁治産者の不動産を廉価で売却した行為などが後見人の善管注意義務に違反するとして禁治産後見人に対して、損害賠償を命じた事例があります。
また、本件では、禁治産後見人が、後見人として、財産目録を調製せず、かつ、急迫の必要がないにもかかわらず、弁護士甲に報酬を支払いましたが、この行為は、無権代理行為となるが、報酬を受領した甲は急迫の必要がないことにつき悪意があったと認められるから、報酬支払行為が無権代理行為であることにつき、甲に対抗でき、甲が受領した報酬金は不当利得となるとして、甲に対して禁治産者の相続人にその返還を命じました。
この場合、依頼者が弁護士に対して支払った報酬の不当利得返還請求の消滅時効については、民法172条ではなく同法167条1項が適用されます。
民法第854条
後見人は、財産の目録の作成を終わるまでは、急迫の必要がある行為のみをする権限を有する。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
民法第172条
1 弁護士、弁護士法人又は公証人の職務に関する債権は、その原因となった事件が終了した時から2年間行使しないときは、消滅する。
2 前項の規定にかかわらず、同項の事件中の各事項が終了した時から5年を経過したときは、同項の期間内であっても、その事項に関する債権は、消滅する。
民法第167条
1 債権は、10年間行使しないときは、消滅する。
2 債権又は所有権以外の財産権は、20年間行使しないときは、消滅する。
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後見開始審判前の行為・・・
後見開始審判前の被後見人の行為について明文の規定はありませんが、意思無能力者の行為は無効と解されています。
後見開始前に本人がした行為の効力を争う場合、本人側が意思能力を立証しなければなりません。
老人性痴呆の高齢者が金融機関と根抵当権設定契約後、間もなく死亡したが、認定事実に照らして意思能力がなかったとはいえないとして、この契約を有効と認めた事例があります。
一人暮らしの老人がした自宅の土地建物を担保にした根抵当権設定契約を詐欺によるものとして取り消しを認めて、根抵当権設定登記の抹消を命じた事例があります。
未成年者の事実上の後見人としてその財産管理に当たっていた者が無権代理行為後に後見人に就職した場合、後見人は信義則上自己がした無権代理行為の追認を拒絶することは許されないとした事例があります。
私法上の法律関係は、権利義務の主体が、その意思に基づいてのみ発生・変更させるという原則(私的自治の原則)を基本として構成されます。
したがって、法律関係が有効に成立するには、法律行為をなすときに、各人が権利義務の主体となるに足る意思を持ちうること、すなわち意思能力が必要とされます。
もしも法律行為のときに、この意思能力を欠いていた場合には、その法律行為は無効となります。
そして、法律行為のときに意思能力を欠いていたことを理由として法律行為の無効を主張するには、その法律行為がなされた時点において、自らに意思能力が無かったことを証明しなければなりません。
しかし、これは容易ではないため、意思能力という実質的な基準だけでは、判断能力が不十分な社会的弱者の保護を図ることができないおそれがあります。
また、意思能力がなかったことが証明された場合には、当該法律行為は無効となるので、相手方に不測の損害を与えるおそれもあります。
そこで民法は、意思能力の有無が法律行為ごとに個別的に判断されることから生じる不都合を回避し、判断能力が不十分と考えられる者を保護するため、あらかじめ年齢や審判の有無という形式的基準により行為能力の有無を定めました。
この行為能力が制限された者を制限行為能力者といい、個別の事情により未成年者、成年被後見人、被保佐人、同意権付与の審判を受けた被補助人に類型化されています。
各類型の制限行為能力者は、それぞれ一定の法律行為につき、単に制限行為能力者であることを理由として、法律行為を取り消すことができるものとしました。
これにより、判断能力の不十分な者を意思能力の証明の問題から解放して保護を図り、併せて、制限行為能力者の取引の相手方に注意を促して、不測の損害を被ることのないようにしました。
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後見開始審判前の行為(無権代理行為の追認)・・・
意思無能力の事実上の後見人が禁治産後見人に就職後、自己の無権代理行為の追認を拒絶できるかについて、これを否定した事例があります。
禁治産後見人の代理権には、後見人就職前に禁治産者の無権代理人によってされた法律行為を追認し、又は追認を拒絶する権限も代理権の範囲に含まれます。
後見人が追認を拒絶した場合には、無権代理行為は禁治産者との間においては無効が確定するが、相手方は、無権代理人に対し履行又は損害賠償を求めることができ、また、追認の拒絶により禁治産者が利益を受け相手方が損失を被るときは、禁治産者に対し不当利得の返還を求めることができます。
(無権代理人の責任)
民法第117条 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。
(不当利得の返還義務)
民法第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
後見人は専ら禁治産者の利益のために善良な管理者の注意をもって代理権の行使をする義務を負うから、後見人が禁治産者を代理してある法律行為をするか否かを決するに際しては、その時点における禁治産者のおかれた諸般の状況を考慮したうえ、禁治産者の利益に合致するよう適切な裁量を行使してすることが要請されること、ただし、相手方のある法律行為をするに際しては、後見人において取引の安全等相手方の利益にも相応の配慮を払うべきことは当然であって、当該法律を代理してすることが取引関係に立つ当事者間の信頼を裏切り、正義の観念に反するような例外的な場合には、そのような代理権の行使は許されません。
(委任及び親権の規定の準用)
民法第869条 第644条及び第830条の規定は、後見について準用する。
(受任者の注意義務)
民法第644条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
例外的な場合に当たるか否かを判断するには、
①契約締結に至るまでの無権代理人と相手方との交渉経緯及び無権代理人が右契約の締結前に相手方との間でした法律行為の内容と性質
②右契約を追認することによって禁治産者が被る経済的な不利益と追認拒絶によって相手方が被る経済的不利益
③右契約締結から後見人が就職するまでの間に右契約の履行等をめぐってされた交渉経緯
④無権代理人と後見人との人的関係及び後見人がその就職前に右契約の締結に関与した行為の程度
⑤本人の意思能力について相手方が認識し得た事実
などの事情を勘案し、例外的な場合に当たるか否かを判断して決しなければならないとしました。
そして、これについて十分に検討することなく、後見人が追認を拒絶して契約の効力を争うのは信義則に反し許されないとした原審の判断には法律の適用を誤った違法があります。
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