遺言執行者解任の申立・・・
遺言執行者が、その任務を怠ったときその他の正当な事由があるときは、利害関係人は家庭裁判所にその解任を請求することができます。
家庭裁判所は、請求を待たず、職権で解任することはできません。
(遺言執行者の解任及び辞任)
民法第1019条 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
割合的な包括遺贈の場合、遺言執行者の職務権限は遺産分割に至るまでの相続財産の保全、管理に必要な行為をなすことに限られます。
包括遺贈の遺言執行者は、遺産の範囲を定めた確定判決がある場合を除き、ある財産が遺贈の対象たる相続財産に属するかどうかについて自ら判断する権能を有します。
遺言無効確認の訴訟が係属しても、その無効を確認する判決が確定したり又は職務の執行を停止する裁判がなされない限り、遺言執行者の法律上の権限、職責は制約を受けないとされます。
民法1019条1項に基づく遺言執行者解任審判申立事件は、甲類審判事件です。
①申立権者
利害関係人です。
利害関係人とは、相続人、受遺者、共同遺言執行者、相続債権者などの遺言の執行につき法律上の利害関係を有する者をいいます。
②管轄
相続開始地の家庭裁判所です。
③添付書類
申立人、遺言執行者、遺言者の各戸籍謄本
遺言書の写し
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遺言執行者の解任の判例・・・
遺贈遺言の執行に必要な行為として目的不動産の所有権を主張する第三者に訴えを提起しながら遺言の実現を阻もうとするこれら第三者から金員の供与をうけて受遺者に不利な内容の示談をしたとして訴えを取り下げたことは遺言者の意思に実現を図るべき遺言執行者に任務に全く違背したとした解任審判を相当として維持した事例があります。
遺言執行者は相続人の一部と緊密な関係にあり、これと意見を異にする他の相続人と相反する立場に属すると見ざるを得ない場合、職務上の過怠を指摘されることがなくても相続人全員の信頼を得られないことが明瞭である以上、解任について正当事由があるとした事例があります。
一部の相続人と意を通じ、その利益代表者のごとき振る舞いをし、受遺者全員の意思を無視し、かつその意思に反して事実上の利益保護の行為をせず、相続人間の紛争を激化させるなどの事情が遺言執行者にある場合、これらの行為は遺言を適正に執行し、主として全受遺者に利益を保護する任務に反するから解任するのが相当であるとした事例があります。
遺言執行の対象となるべき事項が存在しなくなった場合(遺言執行者解任審判申立却下審判の抗告審において、抗告人と受遺者が遺贈をすべて放棄し、相続財産全部を相続人間で分割する調停が成立した場合)、遺言執行者は任務終了により事実上その地位を失うものというべきあるが、遺言執行者自身がその地位を保有すると主張して訴訟を提起しているような場合には、民法1019条にいう「正当な事由があるとき」に該当するものとして遺言執行者解任の審判をすることにより、法律関係を明瞭ならしめることができるものと解するのが相当であるとして、解任申立を却下した原審判を取消して遺言執行者を解任した事例があります。
(遺言執行者の解任及び辞任)
民法第1019条 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
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遺言執行者の解任の判例2 ・・・
相続人から遺言執行の事務処理状況の報告を認められているのに、これを怠っている場合には、通常、解任事由とされますが、遺言執行者と相続人たる抗告人との間に多くの紛争事件が存在し、抗告人が遺言執行者の地位を極力否定し、遺言執行事務の経過を知悉している場合、事務処理報告を求められた遺言執行者が催告を受けながら直ちにその報告をしなかったとしてもやむをえないところであり、任務を怠ったとはいえないとした事例があります。
知悉(ちしつ)とは、知り尽くすこと、詳しく知ること。
相続人間で相続財産の範囲、遺言の効力等につき訴訟が係属しているなど判示の事情がある場合にには、遺言執行者に財産目録の未調整等があったとしても、これをもって解任事由とすべき職務懈怠があるということはできないとした事例があります。
全遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言により、遺産である不動産の移転登記手続及び全財産の引渡しが終了していて、遺言の執行をなすべき者がない場合には、遺留分権利者から相続財産の目録の調製や管理状況の報告を求められた遺言執行者がこれをしないからといって任務違背とすることはできないとして、遺言執行者解任申立を却下した事例があります
遺言執行者が遺言につき合理的に判断した結果、その遺産の管理処分のため、相続人に対し、自己の名において、遺産たる不動産につき所有権移転登記抹消請求訴訟を提起することはその任務に背くとはいえないとした事例があります。
(遺言執行者の解任及び辞任)
民法第1019条 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
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遺言執行者の解任の判例3・・・
遺言の執行に関する費用は、特段の事由のない限り相続財産の負担となるのであるが、遺産中に現金がなく、その他当面適当な財産がない場合には、利害関係人から遺言についての訴状費用の立替支払を受けてもやむを得ないというべく、その任務に背くとはいえないとした事例があります。
遺贈動産の保管については善良な管理者の注意義務はあるが、滅失、毀損のおそれのない以上、第三者に保管させたとしても任務を怠ったことにならないとした事例があります。
遺言執行者が誠実に遺言を執行するにために必要があるときは、遺言者の相続又はその家族に遺言の執行を妨げる犯罪があると思料して同人らを検察官に告発することもやむを得ないところであるからこれをもって解任事由とすることはできないとした事例があります。
遺言の解釈をめぐって争いがあるというだけでは解任事由に当たらないとした事例があります。
遺言執行者が抗告人以外の相続人と連絡を密にし抗告人及びその家族と疎遠であるとしても、抗告人と遺言執行者との間に多くの紛争事件が存在する以上やむを得ないところであるからこれをもって解任事由とすることはできないとした事例があります。
遺言執行者が遺言者と知り合ったのは、本件遺言の目的となっている物件以外の家屋に関する紛争を調停委員として関与したためであり、そのような関係で遺言執行者に指定され就職したとしても、それは公務員として職務上取り扱った事件について弁護士の職務を行なうものとはいえないから弁護士法25条4号に違反しないとした事例があります。
(職務を行い得ない事件)
弁護士法第25条 弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第3号及び第9号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
1.相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
2.相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
3.受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
4.公務員として職務上取り扱つた事件
5.仲裁手続により仲裁人として取り扱つた事件
6.第30条の2第1項に規定する法人の社員又は使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、その法人が相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であつて、自らこれに関与したもの
7.第30条の2第1項に規定する法人の社員又は使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、その法人が相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるものであつて、自らこれに関与したもの
8.第30条の2第1項に規定する法人の社員又は使用人である場合に、その法人が相手方から受任している事件
9.第30条の2第1項に規定する法人の社員又は使用人である場合に、その法人が受任している事件(当該弁護士が自ら関与しているものに限る。)の相手方からの依頼による他の事件
遺言者により指定された遺言執行者が終始その就職を拒否し続けていることが明らかな場合には、民法1010条の「遺言執行者がないとき」に該当し、家庭裁判所は右遺言執行者を解任するまでもなく、利害関係人の請求により直ちに遺言執行者を選任することができるとした事例があります。
(遺言執行者の選任)
民法第1010条 遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。
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