遺言の撤回の取消し・・・
遺言を撤回する行為も遺言の撤回とみなされる生前行為もともに法律行為ですから、取消しが起こりえます。
これらの行為が取消された場合に、前の遺言が復活するかどうかが問題になります。
(前の遺言と後の遺言との抵触等)
民法第1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
遺言の撤回とみなされる生前行為が無能力を理由に取消されたり、前の遺言と抵触する後の遺贈がなされ、その遺贈の受遺者が遺言者よりも先に死亡したため、後の遺贈が効力を生じなくなった場合などには、前の遺言は復活しません。
このような場合は、遺言者の真意が不明だからです。
(撤回された遺言の効力)
民法第1025条 前3条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。
(受遺者の死亡による遺贈の失効)
民法第994条 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
2 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
前の遺言を撤回する後の遺言が詐欺・強迫によってなされ、これを理由に後の遺言が取消された場合には、前の遺言は復活します。
このような場合には、真意が存在しないわけですから、当然に前の遺言に戻るのが遺言者の意思だからです。
民法1024条所定の遺言書の破棄、及び遺贈の目的物の破棄は事実行為ですから、それを取消すということはありえません。
(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
民法第1024条 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。
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遺言の検認申立・・・
公正証書遺言を除く、そのほかの全ての遺言書を保管する者又は遺言書の保管者のない場合遺言書を発見した相続人は、相続の開始を知ったのち、遅滞なく、家庭裁判所に遺言書を提出して、その検認を請求しなければなりません。
(遺言書の検認)
民法第1004条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
遺言書の検認は、遺言の執行前に遺言書の状態を確認し、後日における偽造若しくは変造を予防しその保存を確実ならしめることのみを目的とするから、検認の実質は、遺言書の形式、態様など専ら遺言の方式に関する一切の事情を調査して遺言書そのものの状態を確定し、その現状を明確にすることにあります。
民法1004条に基づく遺言書検認申立事件は、甲類審判事項です。
①申立権者
遺言書の保管者・遺言書を発見した相続人です。
遺言書を発見した相続人以外の者も、検認の申立をすることができますが、検認請求する義務を負わないと解されています。
遺言書の保管者には、遺言者から直接保管を委託された者だけでなく、事実上保管している者も含まれます。
相続人の債権者が、遺言書の所持人に対して、遺言書の検認を求めるための仮の地位を定める仮処分を求めることは許されません。
②管轄
相続開始地の家庭裁判所です。
③添付書類
申立人、遺言者及びその相続人の戸籍謄本
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遺言の検認手続 ・・・
公正証書遺言は、隠匿・埋没のおそれはなく、偽造、変造されることもないので検認を要しません。
(遺言書の検認)
民法第1004条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
そのほかの遺言書はすべて検認の対象となります。
すでに家庭裁判所で確認の審判を受けた一般危急時遺言、難船危急時遺言も含まれるとされます。
秘密証書遺言も公正証書によって作成されたもの以外の遺言書については、検認が必要です。
検認は、遺言執行前における一種の検証手続にすぎませんので、申立は遺言の内容形式いかんにかかわらず却下されるものではないとされます。
検認の性質上、外形上遺言書と認められれば、その内容が遺言事項に該当しなくても、民法の定める方式を欠いていても、申立を却下することなく検認をすべきとされます。
封印してある遺言書は、家庭裁判所において、相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができません。
封印ある遺言書とは、秘密証書方式の遺言書のみならず、封印することを方式としていない自筆証書方式又は特別方式の遺言書が封印されている場合もこれに当たります。
遺言書の開封は、検認手続の過程で行なわれますから、格別、開封の申立をすることを要しません。
遺言書を開封するには、相続人又はその代理人の立会いをもってするとされていますが、実務上は、立会いの機会を与えるためにその通知をすれば足り、これらの者が現実に立ち会う必要はないとされます。
遺言書の検認には立会人を要しないとされますが、そのように解すると、封印のない遺言書の検認の場合、相続人に対して、検認期日の通知を要しないことになります。
しかし、実務上は、相続人に対して検認期日を通知しています。
家庭裁判所は、遺言書の検認をしなかったときは、これに立ち会わなかった申立人、相続人、受遺者、その他の利害関係人に対して、その旨を通知しなければなりません。
その他の利害関係人とは、遺言で、認知された者、後見人や遺言執行者などに指定された者その他当該遺言に関して法律上の利害関係を有する者をいいます。
検認期日に出頭しなかった相続人に対して検認の告知をしなかったとしても、遺言を無効とすべき理由はありません。
遺言書は検認が終了したとき、申請に基づき検認済みであることの証明分を付して申立人に返還します。
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検認を経ない遺言執行・・・
遺言書の検認を経ないからといって遺言の効力が左右されるものではありませんから、検認を経ないでされた遺言の執行も有効です。
しかし、相続を原因とする所有権移転登記の申請が検認を経ていない自筆証書である遺言書を相続を証する書面として申請書に添付してされる場合には、不動産登記法により却下することが相当とされています。
手続違背の制裁として、遺言書の提出を怠った者、検認を経ないで遺言を執行した者、家庭裁判所外において遺言書を開封した者は、5万円以下の過料に処せられます。
(過料)
民法第1005条 前条の規定によって遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処する。
過料の裁判は、違反者の住所地を管轄する地方裁判所がします。
遺言書の保管者が過料に処せられた場合でも、なお、検認の請求する義務があります。
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