後見開始の原因・・・

後見開始の原因・・・

家庭裁判所は、事理を弁識する能力を欠く常況に在る者に対して、後見開始の審判をします。

民法第7条

精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任します。

民法第843条

1 家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。
2 成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により、又は職権で、成年後見人を選任する。
3 成年後見人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは成年後見人の請求により、又は職権で、更に成年後見人を選任することができる。
4 成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。

相続人が精神障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあり、意思能力を欠いている場合には、遺産分割の協議をすることはできないので、この者を成年被後見人とし、その法定代理人である成年後見人との間で協議を成立させることになります。

相続人が未成年者の場合、親権者に対して後見開始の審判があると、未成年者につき後見が開始し、遺産分割の協議は未成年後見人がします。

民法第838条

後見は、次に掲げる場合に開始する。
1.未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
2.後見開始の審判があったとき。

親権者に対する禁治産宣言がなくても、親権者が心神喪失の常況にあるか又は心神に著しい障害があって親権行使ができない場合には後見開始となります。

禁治産宣言の要件たる心神喪失の常況と準禁治産宣言の要件たる心神耗弱とは、等しく精神の理性的活動を阻害すべき病的状態をいい、前者はその障害の程度が是非の弁識力を欠くにいたるものであるのに反し、後者は弁識力の薄弱なものであるとされています。

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後見開始の審判申立・・・

後見開始の審判は、家庭裁判所の甲類審判事項です。

①申立権者

本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、検察官です。

また、本人が任意後見契約を結んでいるときは、任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人です。

また、本人の福祉を図るため特に必要がある場合は、市町村長です。

民法第7条

精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

②管轄

事件本人の住所地の家庭裁判所です。

③申立費用の負担者

家事審判事件の手続及び裁判の告知の費用については、非訟事件手続法の規定が準用され、特にその負担者を定めた場合をのぞいて事件の申立人が費用を負担します。

裁判所は、特別の事情があるときは、非訟事件手続法その他の法令の規定により費用を負担すべき者でない関係人に費用の全部又は一部の負担を命ずることができます。

市町村長から後見開始の審判等の申立がされた事案においては、申立に要する経費及び成年後見人等の報酬の全部又は一部について厚生労働省の助成事業があります。

市長が申立をした親しい身寄りがなく借家で一人暮らしをしている本人に対する後見開始審判申立事件で、後見開始の審判とともに成年後見人に社会福祉士を選任し、手続費用については本人の資産状況等に照らして非訟事件手続法26条を適用して申立人が負担するのが相当であるとして同法28条に基づく費用負担の裁判をしなかった事例があります。

非訟事件手続法第26条

裁判前ノ手続及ヒ裁判ノ告知ノ費用ハ特ニ其負担者ヲ定メタル場合ヲ除ク外事件ノ申立人ノ負担トス 但検察官又ハ法務大臣カ申立ヲ為シタル場合ニ於テハ国庫ノ負担トス

非訟事件手続法第28条

裁判所ハ特別ノ事情アルトキハ本法其他ノ法令ノ規定ニ依リテ費用ヲ負担スヘキ者ニ非サル関係人ニ費用ノ全部又ハ一部ノ負担ヲ命スルコトヲ得

区長が申立をした後見開始審判申立事件で、後見開始の審判と本人の親族が就職する意思がないところから成年後見人には弁護士を選任し、手続費用については本人の財産状況等に照らして、鑑定料10万円、登記印紙代4,000円、郵便切手3,200円、申立手数料600円を本人が負担するとした事例があります。

④添付書類

申立人の戸籍謄本

本人の戸籍謄本、戸籍附票謄本、登記事項証明書、診断書

成年後見人候補者の戸籍謄本、住民票、身分証明書、登記事項証明書、等。

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後見開始の審判手続・・・

家庭裁判所は、医師その他適当な者に本人の精神の常況を鑑定をさせたうえで、事件本人が精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあることを認定します。

ただし、明らかにその必要がないと認めると場合は、この限りではありません。

なお、準禁治産宣言の申立があった場合、審理の結果、心神喪失の常況にあると認定すべきときは、心神耗弱と心神喪失とは精神障害の程度の差であって行為能力の制限の度合いに差異があるにすぎないから制度の趣旨にかんがみ、禁治産の宣告をすることができ、この場合、準禁治産宣告を可能とする事例においては、禁治産宣告申立に付随してなされた後見人選任申立に、準禁治産宣告がされる場合には保佐人の選任を求める旨の申立の趣旨を含むものと解するのが相当であるとした事例があります。

しかし、新制度では、審理の結果、本人の精神の情況が申し立てられた類型と合致しない場合、実務は、申立人の意向を確認の上、保佐相当のときは申立の趣旨の変更、又は予備的申立を待って判断し、補助相当のときは、本人の申立又は本人の同意が必要のために、審判前に、補助開始の審判に申立の趣旨を変更した上で代理権付与又は同意権付与の申立を追加するか、補助開始の審判及び代理権付与又は同意権付与の申立を予備的に追加することを促すとされています。

家庭裁判所は、後見開始の審判をする場合、本人の陳述を聴かなければなりません。

しかし、陳述聴取のため本人を呼び出しても出頭しない場合や、本人がいわゆる植物状態にあるなどの理由で陳述聴取が不可能な場合については、陳述聴取は不要と解されています。

家庭裁判所は、後見開始の審判をする場合、職権で、成年後見人を選任します。

民法第843条

1 家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。
2 成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により、又は職権で、成年後見人を選任する。
3 成年後見人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは成年後見人の請求により、又は職権で、更に成年後見人を選任することができる。
4 成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。

家庭裁判所は、後見人を選任するには、後見人となるべき者の意見を聴かなければなりません。

家庭裁判所は、成年後見人を選任するには、成年被後見人の陳述を聴かなければなりません。

後見開始の審判は、成年後見人に選任される者並びに終了する任意後見契約に係る任意後見人及び任意後見監督人に告知されます。

本人に対する通知は、後見開始の審判がされた場合に、裁判所書記官が行ないます。

本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、検察官及び任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人は、後見開始の審判に対して即時抗告をすることができます。

即時抗告の期間は、成年後見人に選任される者に告知があった日から進行します。

その期間は2週間です。

後見開始の審判と同時にされた成年後見人選任の審判に対し、独立して不服のの申立をすることはできません。

申立人は、後見開始の審判の申立を却下する審判に対して即時抗告をすることができます。

即時抗告の期間は、審判が申立人に告知された日から2週間です。

事件本人の保護のためにいったんは後見開始の審判の申立がされた場合であっても、その後、同審判が確定する前に、申立人において同審判の必要性がないものとしてこの申立を取下げることは許されると解するのが相当であるとして、後見開始及び成年後見人選任の原審判を取消して、本件は平成**年**月**日、抗告人が申立を取り下げたことにより終了した旨の決定をした事例があります。

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後見の登記・・・

後見開始の審判により開始する後見に関する登記については、後見登記等に関する法律である後見登記法に基づく登記により公示されます。

その後見の登記は、嘱託又は申請により、磁気ディスクをもって調製する後見登記ファイルに記録して行ないます。

後見登記法第四条

1 後見、保佐又は補助(以下「後見等」と総称する。)の登記は、嘱託又は申請により、磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することができる物を含む。第九条において同じ。)をもって調製する後見登記等ファイルに、次に掲げる事項を記録することによって行う。
 一 後見等の種別、開始の審判をした裁判所、その審判の事件の表示及び確定の年月日
 二 成年被後見人、被保佐人又は被補助人(以下「成年被後見人等」と総称する。)の氏名、出生の年月日、住所及び本籍(外国人にあっては、国籍)
 三 成年後見人、保佐人又は補助人(以下「成年後見人等」と総称する。)の氏名及び住所(法人にあっては、名称又は商号及び主たる事務所又は本店)
 四 成年後見監督人、保佐監督人又は補助監督人(以下「成年後見監督人等」と総称する。)が選任されたときは、その氏名及び住所(法人にあっては、名称又は商号及び主たる事務所又は本店)
 五 保佐人又は補助人の同意を得ることを要する行為が定められたときは、その行為
 六 保佐人又は補助人に代理権が付与されたときは、その代理権の範囲
 七 数人の成年後見人等又は数人の成年後見監督人等が、共同して又は事務を分掌して、その権限を行使すべきことが定められたときは、その定め
 八 後見等が終了したときは、その事由及び年月日
 九 家事審判法(昭和二十二年法律第百五十二号)第十五条の三第一項の規定による審判(同条第五項の裁判を含む。以下「保全処分」という。)に関する事項のうち政令で定めるもの
 十 登記番号
2 後見等の開始の審判前の保全処分(政令で定めるものに限る。)の登記は、嘱託又は申請により、後見登記等ファイルに、政令で定める事項を記録することによって行う。

後見開始の審判が効力を生じた場合、裁判所書記官は、遅滞なく、登記所に対し、登記を嘱託する事になっています。

成年被後見人、成年後見人、成年後見監督人の住所、氏名など、後見登記法4条1項1号から10号所定の事項が登記されます。

成年被後見人、成年後見人、成年後見監督人、成年被後見人の配偶者又は四親等内の親族は、登記事項証明書の交付を請求することができます。

後見登記法第十条

1 何人も、登記官に対し、次に掲げる登記記録について、後見登記等ファイルに記録されている事項(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下「登記事項証明書」という。)の交付を請求することができる。
 一 自己を成年被後見人等又は任意後見契約の本人とする登記記録
 二 自己を成年後見人等、成年後見監督人等、任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人(退任したこれらの者を含む。)とする登記記録
 三 自己の配偶者又は四親等内の親族を成年被後見人等又は任意後見契約の本人とする登記記録
 四 保全処分に係る登記記録で政令で定めるもの
2 次の各号に掲げる者は、登記官に対し、それぞれ当該各号に定める登記記録について、登記事項証明書の交付を請求することができる。
 一 未成年後見人又は未成年後見監督人 その未成年被後見人を成年被後見人等若しくは任意後見契約の本人とする登記記録又は第四条第二項に規定する保全処分に係る登記記録で政令で定めるもの
 二 成年後見人等又は成年後見監督人等 その成年被後見人等を任意後見契約の本人とする登記記録
 三 登記された任意後見契約の任意後見受任者 その任意後見契約の本人を成年被後見人等とする登記記録又は第四条第二項に規定する保全処分に係る登記記録で政令で定めるもの
3 何人も、登記官に対し、次に掲げる閉鎖登記記録について、閉鎖登記ファイルに記録されている事項(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下「閉鎖登記事項証明書」という。)の交付を請求することができる。
 一 自己が成年被後見人等又は任意後見契約の本人であった閉鎖登記記録
 二 自己が成年後見人等、成年後見監督人等、任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人であった閉鎖登記記録
 三 保全処分に係る閉鎖登記記録で政令で定めるもの
4 相続人その他の承継人は、登記官に対し、被相続人その他の被承継人が成年被後見人等若しくは任意後見契約の本人であった閉鎖登記記録又は第四条第二項に規定する保全処分に係る閉鎖登記記録で政令で定めるものについて、閉鎖登記事項証明書の交付を請求することができる。
5 国又は地方公共団体の職員は、職務上必要とする場合には、登記官に対し、登記事項証明書又は閉鎖登記事項証明書の交付を請求することができる。

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