包括遺贈の承認と放棄・・・

包括遺贈の承認と放棄・・・

包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有しますから、包括遺贈の承認と放棄についても相続に関する民法の適用があります。

(包括受遺者の権利義務)
民法第990条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。

包括遺贈の放棄には、相続の放棄に関する規定が適用されて、自己のために包括遺贈があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に放棄の申述をしなければ単純承認したものとみなされることになるとして、原告の包括遺贈放棄の主張を認めなかった事例があります。

次のように、相続財産の調査を速やかに行なうことが困難で、法定期間内に承認又は放棄の意思決定をすることが難しい場合に包括受遺者は家庭裁判所に包括遺贈の承認・放棄期間の伸長を求めることができます。

①相続財産の所在が遠隔の地にあるとき

②相続財産が各地に点在しているとき

③相続財産を占有している相続人がその内容を明らかにしないとき、等

民法990条、915条1項但書の規定による包括遺贈の承認又は放棄の期間伸長審判申立事件は、甲類審判事項です。

(相続の承認又は放棄をすべき期間)
民法第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

①申立権者

利害関係人、検察官です。

利害関係人とは、包括受遺者、遺言者の相続人、相続債権者、包括受遺者の債権者など包括遺贈の承認又は放棄につき、直接法律上の利害関係を有する者をいいます。

②申立期間

包括受遺者が自己のために包括遺贈のあったことを知った時から3ヶ月以内です。

③管轄

相続開始地の家庭裁判所です。

④添付書類

遺言者・申立人・包括受遺者の戸籍謄本

遺言書の写し

利害関係人による申立の場合は利害関係を証する書面

⑤審判手続

承認又は放棄をする期間伸長の必要性が職権による調査されます。

申立を認容する審判は、包括受遺者に告知されて効力を生じます。

申立を却下する審判に対して、包括受遺者又は利害関係人は、即時抗告することができます。

申立却下の審判が確定すると、当該包括受遺者は熟慮期間が経過したときに包括遺贈を単純承認したとみなされることになります。

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包括遺贈の限定承認・・・

包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有しますから、包括遺贈の承認も、相続の場合に準じます。

(包括受遺者の権利義務)
民法第990条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。

包括受遺者は、包括遺贈の限定承認をすることができますが、ほかに相続人や包括受遺者がある場合には、これらの者と共同してしなければなりません。

(共同相続人の限定承認)
民法第923条 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

包括受遺者が3ヶ月の熟慮期間内に限定承認又は放棄をしないと、包括受遺者を単純承認をしたものとみなされます。

(法定単純承認)
民法第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
1.相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
2.相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
3.相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

民法990条、924条に基づく包括遺贈の限定承認の申述は甲類審判事項です。

(限定承認の方式)
民法第924条 相続人は、限定承認をしようとするときは、第915条第1項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。

包括遺贈の限定承認の申述をするには、財産目録を調製し、申述書とともに家庭裁判所の差し出さなければなりません。

①申立権者

包括受遺者全員です。

②管轄

相続開始地の家庭裁判所です。

③申述期間

申述人が自己のために包括遺贈のあったことを知った時から3ヶ月以内です。

④添付書類

相続人、包括受遺者及び被相続人の戸籍謄本

財産目録

遺言書の写し

⑤審判手続

家庭裁判所は、申述が法定期間内にされているか、相続人、包括受遺者の全員が申述人になっているか、財産目録が提出されているかなどを職権で調査し、また、申述人の真意を確認します。

家庭裁判所が申述を受理するときは、申述書にその旨を記載し、家事審判官がこれに署名又は記名し、押印します。

家庭裁判所は、数名の申述人による限定承認の申述を受理したときは、職権で申述人の中から相続財産の管理人を選任しなければなりませんが、申述人らはその候補者を推薦することができます。

限定承認は、家庭裁判所の申述受理により効力を生じます。

相続人・包括受遺者又は利害関係人は、申述を却下する審判に対して即時抗告をすることができます。

相続人が相続を単純承認した後に包括遺贈の遺言書が発見された場合、受遺者は、その包括遺贈を限定承認することはできず、単純承認又は放棄のいずれかを選択することになります。

遺言書発見のとき、相続につき、考慮期間を徒過している場合でも、単純承認した事実がなければ、相続人は包括受遺者と共同して限定承認をすることができると解されます。

相続人が限定承認している場合は、包括受遺者も限定承認できるとされます。

この場合、包括受遺者が包括遺贈を単純承認したときは、相続人のした限定承認は無効となるのではなく、包括受遺者が民法937条の責任を負うことになると解されます。

(法定単純承認の事由がある場合の相続債権者)
民法第937条 限定承認をした共同相続人の一人又は数人について第921条第1号又は第3号に掲げる事由があるときは、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について、当該共同相続人に対し、その相続分に応じて権利を行使することができる。

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包括遺贈の放棄 ・・・

包括受遺者は相続人と同一の権利義務をもつことから、その放棄には、相続の放棄に関する規定が適用されます。

(包括受遺者の権利義務)
民法第990条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。

自己のために包括遺贈があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に放棄の申述をしなければ単純承認したものとみなされることになるとして、原告の包括遺贈放棄の主張を認めなかった事例があります。

相続人に対して放棄の意思表示をしてもその効力は生じないとされます。

民法990条、938条に基づく包括遺贈放棄の申述は、甲類審判事項です。

(相続の放棄の方式)
民法第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

①申立権者

包括受遺者です。

②管轄

相続開始地の家庭裁判所です。

③申述期間

申述人が自己のために包括遺贈のあったことを知った時から3ヶ月以内です。

④添付書類

包括受遺者及び遺言者の戸籍謄本、住民票

遺言書の写し

⑤審判手続

家庭裁判所は、申述が法定期間内にされているか否か、真意に基づく申述であるかなどを職権で調査します。

家庭裁判所は、申述を受理するときは、申述書にその旨を記載し、家事審判官がこれに署名又は記名し、押印します。

放棄は、家庭裁判所の申述受理により効力を生じます。

包括受遺者及び利害関係人は、申述を却下する審判に対して即時抗告をすることができます。

即時抗告の期間は、審判が申立人に告知された日から2週間です。

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特定遺贈の承認と放棄・・・

特定遺贈の効力を生じた後、受遺者は、自由にこれを承認又は放棄することができます。

特定遺贈の承認に関して、その方式を定めた規定はありません。

民法987条の催告があった場合、受遺者が、その遺贈を承認するときは、遺贈義務者に対してその旨の意思表示をします。

格別の意思表示をしなくても、催告期間を徒過すれば、遺贈を承認したものとみなされます。

(受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告)
民法第987条 遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。以下この節において同じ。)その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。この場合において、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす。

特定遺贈の受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも特定遺贈の放棄をすることができます。

放棄の方式を定めた規程はありません。

(遺贈の放棄)
民法第986条 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
2 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

遺贈の承認又は放棄の意思表示は、遺贈義務者に対してされなければなりません。

遺贈義務者は通常遺言者の相続人ですが、遺言執行者があるときは、遺言執行者が遺贈義務者となります。

(遺言の執行の妨害行為の禁止)
民法第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

遺贈の放棄がされると、受遺者が受けるべきであったものは、遺言者の相続人に帰属し、その効果は遺言者の死亡の時に遡ります。

遺言者が遺言で別段の定めをしたときはその意思に従います。

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