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遺留分の減殺の意思表示の判例・・・
遺留分権利者が遺留分の減殺をするときは、まず減殺の意思表示を被減殺者に到達させることが必要です。
遺留分の減殺請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈のあったことを知ったときから、1年間これを行なわないときは、時効によって消滅します。
相続の開始の時から10年を経過したときも同じです。
(減殺請求権の期間の制限)
民法第1042条 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。
減殺すべき贈与のあったことを知った時とは、贈与の事実及びこれが減殺できるものであることを知った時をいいます。
「減殺すべき贈与があったことを知った時」とは、単に贈与があった事実を知るだけでなく、それが遺留分を侵害することを知った時であり、その場合、知るということは、必ずしも的確に知る必要はなく、未必的に知った時でも足りるとされます。
未必的(みひつてき)とは、必ずしも存在するとは限らないが、可能性としては存在する信用、をいいます。
本件では、口頭弁論期日において、被告(被減殺者)が主位的に本件不動産について売買による所有権取得を、予備的に負担付贈与による所有権取得を主張している限りではいまだ減殺すべき贈与があったことを知るに至ったとは言え難いが、後の口頭弁論期日において被告が右売買のよる所有権取得と右負担付贈与による所有権取得を択一的に主張したときに原告は減殺すべき贈与が「あったと未必的に知るに至ったというべきであり、原告がこれを否認すると否とによって結論は左右されないとして、有効な減殺請求と解しました。
遺留分権利者が減殺をすべき贈与の無効を訴訟上主張しても、被相続人の財産のほとんど全部が贈与されたことを認識していたときは、その無効を信じていたため遺留分減殺請求を行使しなかったことにもっともと認められる特段の事情のない限り、右贈与が減殺することができるものであることを知っていたと推認されます。
遺留分権利者の被減殺者に対する遺留分減殺の意思表示が被減殺者に到達することにより減殺の目的物は遺留分の限度で遺留分権利者に復帰します。
目的物の返還請求権は民法1042条の消滅時効に服しないとされています。
遺留分減殺の意思表示により確定的に減殺の効力を生じるから、その後6ヶ月以内に裁判上の請求をしなかったからといって、意思表示に基づき効力を生じた減殺の効力の消長を来すいわれはないとされます。
遺留分権利者が減殺請求により取得した不動産の所有権又は共有持分権に基づく登記手続請求権は時効によって消滅することはないとされています。
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遺留分減殺の内容証明郵便による意思表示・・・
裁判外で、遺留分の減殺をする場合には、配達証明つきの内容証明郵便の方法によりその意思表示をしておけば、遺留分減殺の効果を生じ、かつ、被減殺者に対する意思表示の内容及びその到達年月日を公文書により証明を得ることができます。
内容証明郵便が名宛人の不在により受領されない場合、郵便配達員は不在配達通知書を名宛人方に差し置き、その受領を可能にしていますが、名宛人が受け取りに来ないで所定の留置期間が満了すると内容証明郵便は差出人に返還されます。
このような場合、右内容証明郵便は特段の事情のない限り、留置期間の満了により名宛人に到達したと解するのが相当であるとし、被告が内容証明郵便を受領しなかったことにつき、特段の事情があったとは認め難く、むしろ原告に対する敵対的な態度に鑑みると被告はあえて右内容証明郵便の受領に赴かなかったとみられるとして、内容証明郵便は留置期間の満了により名宛人に到達したと解した事例があります。
認定事実によると、本件内容証明郵便の内容である遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、受遺者に了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で受遺者に到達したと認めた事例があります。
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遺留分減殺の財産給付の訴え ・・・
遺留分について、当事者間で解決しない場合には、遺留分の減殺の意思表示とともに、減殺により回復した財産の給付の訴えで請求します。
既に減殺の意思表示がしてあるときは、財産給付を請求します。
受遺者が相続人との共有関係に甘んずるか、価額弁償をしてこれを阻止するかの選択権は受遺者にあり、当然には受遺者に遺贈の目的物の返還義務はないと解して、遺贈登記の抹消登記請求及び建物の引渡し請求を棄却した事例があります。
遺留分権利者は、財産を選択特定して減殺請求した後でも、総遺産の割合的な減殺請求に変更することができるとした事例があります。
贈与後に目的物件の競売により受贈者が国に対して競売代金剰余金返還請求権を有する場合も、処分されたときと同様に受贈者は目的物の価額を遺留分権利者に弁償すればよく、遺留分権利者に競売代金剰余金返還請求権の帰属を認める理由はないとした事例があります。
裁判所は被告に対し訴状副本を送達しますから、これにより遺留分減殺の意思表示は被減殺者に到達したものとされます。
本訴請求が本件土地に対する持分4分の1の所有権移転登記手続、本件土地のうち田畑より生ずべき天然果実(金員)の返還、本件土地の山林地上に成立した立木の無断伐採による損害賠償及びこれらの金員に対する遅延損害金の支払を求めるもので、その根拠が遺留分の侵害による贈与の減殺請求にあることが疑いない。
法律は「減殺を請求する」といい、「減殺の請求権」、「遺留分回復の訴え」というが、遺留分請求権は裁判外で行使されるべき実体上の形成権であって、その行使により、贈与又は遺贈は、遺留分を侵害する限度において効力を失い、目的物の権利は当然に遺留分権利者に復帰するものと解すべく、右により復帰した所有権に基づく目的物の返還請求ないしは受贈者に対する所有権移転登記の抹消請求等が、「遺留分回復の訴え」の訴訟物であって、かかる個々の具体的請求を離れて、抽象的ないしは包括的な「遺留分減殺請求」が訴訟物として存在するわけではないとされます。
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遺留分減殺の意思表示と遺産分割協議調停・・・
遺産分割協議の申入れ又は遺産分割調停の申立に遺留分減殺の意思表示が当然に含まれるかについては、次の事例があります。
①遺留分減殺の意思表示はこれを契機に新たな権利関係を形成するものであるから明確にされなければならないこと、
②遺留分減殺の意思表示を有効にするためには、当該財産について有効に生前贈与がされていることを認識し、仮定的にせよこれを認容していることが必要であること、
③遺留分減殺の意思表示は、その結果、生前贈与の対象財産について、これを受けた者と遺留分減殺の意思表示をした者との間に遺留分に相当する部分についての物権変動を当然に生じさせるものであること、
④これに対して遺産分割の協議の申入れ又は調停の申立は、具体的な財産が被相続人の遺産として未分割の状態にあり、全相続人の遺産共有状態にあることを前提として、これらを各相続人に具体的相続分に応じて分割することを求めてされるものであって、その効果の面からみても、この申入れ又は申立によって、直ちに何らかの権利変動を生じさせる性質の意思表示でもないこと、このように遺留分減殺の意思表示と遺産分割の協議の申入れ又は調停の申立とは、その要件及び効果の面で本質的の異なり、遺産分割の協議の申入れ又は調停の申立があったからといって、明確であることが要請される遺留分減殺の意思表示が当然にあったとみることはできないとし、また、原告の遺留分減殺の意思表示に関する主張が、遺産分割の協議の申入れ又は調停の申立は黙示の遺留分減殺の意思表示であるという主張と解される余地がないではないが、そのためには、遺産分割の協議の申入れ又は調停の申立をする者において、当該包括遺贈の存在を認識した上、仮定的にせよこれを容認してすることが要件となるが、本件では、認定事実によれば、原告らは、仮定的にせよ本件贈与を容認していないものというのが相当であり、本件協議の申入れ及び調停の申立をもって黙示の遺留分減殺の意思表示と認めることはできないとしました、
被告の口頭弁論期日における遺留分減殺請求権の消滅時効を援用する意思表示を認めて、原告の請求は棄却されました。
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