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合資会社の社員の出資義務と持分払戻請求権・・・
最判昭和62年1月22日(合資会社退社による持分払戻請求、同附帯請求事件)
判時1223号136頁、判夕631号130頁、金判764号3頁
<事実の概要>
XらはY合資会社の有限責任社員であったが、昭和52年3月31日にY社を退社したため、Y社に対して持分の払戻を請求している。
本件払戻請求については次のような事情があった。
すなわち、Xらの出資の目的はY社の定款により金銭とされており、上記定款及び登記簿上は、Xらの金銭出資義務は全部履行されたことになっているものの、現実には、Xらが出資額に相当する金銭をY社に対して支払ったことはなかった。
また、Y社の定款または総社員の同意によって金銭出資義務の履行期が定められていたことはなく、Xらは退社前にY社から金銭出資義務の履行請求を受けたことはない。
原審はXらの請求を認めなかったため、Xらが上告。
<判決理由>上告棄却。
「合資会社の社員の金銭出資義務は、定款又は総社員の同意によりその履行期が定められていないときは、会社の請求によりはじめてその履行期が到来し、特定額の給付を目的とする金銭債務として具現化されるものというべきであり、かかる金銭債務となる前の出資義務は社員たる地位と終始すべきものであって、社員が退社して社員たる地位を喪失するときは、出資義務も消滅するに至るというべきであるから、右退社員の合資会社に対する持分払戻請求権は成立しないと解すべきである(大審院昭和・・・16年5月21日判決・民集20巻12号693頁参照)。
本件についてこれをみるに、原審の確定した事実・・・のもとにおいては、XらはYらに対し退社による持分払戻請求権を取得し得ないというべきであるから、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。」
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商人資格の取得時期・・・
最判昭和33年6月19日(損害賠償請求事件)
民集12巻10号1575頁
<事実の概要>
Y1~Y4の4名は、昭和24年12月始め頃、当時好況にあった石炭販売の共同事業を始めることを計画し、それぞれ労務を提供し事業資金は他から融資を申し込んだところ、担保を提供するならこれに応じる旨の返事を得た。
Yらは、Y3を通じて、Y3と極めて親密な間柄にあったXに上記共同事業をを説明し、X所有の土地家屋(以下、「本件物件」)を融資の担保として2ヶ月間借り受けたい、2ヶ月後には融資の返済をし、担保の負担を抹消して本件物件を返還する旨申し込んだ。
XはYらの共同事業の助けになるならばと、Yらの申込を承諾した。
そこで、Y1はXから本件物件の登記済証及びXの印鑑を受け取り、X名義で本件物件を売渡担保に供して、A他1名より10万円で借り入れた。
YらはAらより融資を受けた借入金を弁済期までに弁済せず、したがって、担保の負担を抹消して本件物件をXに返還することはできなかった。
AらはXに対し、担保の実行として所有権移転登記手続を求める訴訟を提起した。
Xは第1審で敗訴し、控訴審において、Xが本件物件の所有権を保有する代わりに、Aらに17万円を支払う旨の和解が成立した。
XはYらに対し、担保の負担を抹消して本件物件を返還するという債務の不履行により損害を被ったとして、損害賠償を請求している。
第1審はYらの債務不履行を認め、Yらは17万円の損害賠償債務を負担すべきところ、「右債務はY等の前記共同事業それ自体ではないが之が準備行為にして附属的商行為と認むべき行為に基因する損害賠償債務であるから商法第511条により各自連帯して支払う義務がある」とした。
原審は、第1審の判断を是認したうえで、結局営業を開始するに至らなかったのであるから本件物件の借受はYらの商行為とはならないというY側の主張を退け、「特定の営業を開始する意思を実現したものであってこれにより商人たる資格を取得すると解すべきであるから、右準備行為も亦商人がその営業のためにする行為として商行為となる」とした。
<判決理由>上告棄却。
「原判決が本件担保利用契約をY等の営業の準備行為と認め且つ特定の営業を開始する目的で、その準備行為をなした者は、その行為により営業を開始する意思を実現したものでこれにより商人たる資格を取得すべく、その準備行為もまた商人がその営業のためにする行為として商行為となるものとした判断は正当であ」る。
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商法504条の法理・・・
最判昭和43年4月24日(売掛代金請求事件)
民集22巻4号1043頁、判時515号27頁、判夕224号134頁
<事実の概要>
Xは金融を業とする株式会社、Yは毛糸類売買を業とする株式会社である。
A株式会社は、その所有するラムアンゴラ毛糸824キログラム(以下、「本件毛糸」)を、借受金の担保として、Xに対し譲渡担保に供していた。
Aが倒産したため、Xは本件毛糸を換価処分しようとしたが、Xは金融業者であって毛糸の換価は困難であった。
そこでXは、Aの代表者であったBに本件毛糸の売却を委託した。
BはXの委託に基づき、Xのためにする意思をもって、従前Aと取引があったYとの間で、代金40万余円で本件毛糸を売却する旨の売買契約を締結し、本件毛糸をYに引き渡した。
しかしBは、売買契約締結にあたり、Yに対しXの代理人であることを表示せず、YにおいてもBがXの代理人であることを知りうべき事情はなかった。
XはYに対し売買代金の支払を求めたが、Yは本件売買契約の相手方はAであってXではなく、本件毛糸に関する代金債務は、YがAに対して有する売掛債権(41万余円)と対等額にて相殺したと主張した。
原審は、商法504条は民法100条の規定を修正して立証責任の転換を図ったものであり、商法504条本文が適用されるのは、相手方において代理人が本人のために行為したことにを知り得べかりし場合に限られるとして、本件の事実関係のもとでは、本件売買契約はXに対して効力を生じていないとした。
これに対してXが上告した。
<判決理由>上告棄却。
「民法は、法律行為の代理について、代理人が本人のためにすることを示して意思表示をしなければ、本人に対しその効力を生じないものとして、いわゆる顕名主義を採用している(同法99条1項)が、商法は、本人のための商行為の代理については、代理人が本人のためにすることを示さなくても、その行為は本人に対して効力を生ずるものとして、顕名主義に対する例外を認めている(同法504条本文)のである。
これは、営業主が商業使用人を使用して大量的、継続的取引をするのを通常とする商取引において、いちいち、本人の名を示すことは頻雑であり、取引の敏活を害する虞れがある一方、相手方においても、その取引が営業主のためされたものであることを知っている場合が多い等の事由により、簡易、迅速を期する便宜のために、特に商行為の代理について認められた例外であると解される。
しかし、この非顕名主義を徹底させるときは、相手方が本人のためにすることを知らなかった場合に代理人を本人と信じて取引をした相手方に不測の損害を及ぼす虞れがないとはいえず、かような場合の相手方を保護するため、同条但書は、相手方は代理人に対して履行の請求をすることを妨げないと規定して、相手方の救済を図り、もって関係当事者間の利害を妥当に調和させているのである。
そして、右但書は善意の相手方を保護しようとする趣旨であるが、自らの過失により本人のためにすることを知らなかった相手方までも保護する必要はないものというべく、したがって、かような過失ある相手方は、右但書の相手方に包含しないものと解するのが相当である。
かように、代理人に対して履行の請求をすることを妨げないとしている趣旨は、本人と相手方との間には、すでに同条本文の規定によって、代理に基づく法律関係が生じているのであるが、相手方において、代理人が本人のためにすることを知らなかったとき(過失により知らなかったときを除く)は、相手方保護のため、相手方と代理人との間にも右と同一の法律関係が生ずるものとし、相手方は、その選択に従い、本人との法律関係を否定し、代理人との法律関係を主張することを許容したものと解するのが相当であり、相手方が代理人との法律関係を主張したときは、本人は、もはや相手方に対し、右本人相手方間の法律関係の存在を主張することはできないものと解すべきである。
もとより、相手方が代理人に対し同人との法律関係を主張するについては、相手方において、本人のためにすることを知らなかったことを主張し、立証する責任があり、また、代理人において、相手方が本人のためにすることを過失により知らなかったことを主張し、立証したときは、代理人はその責任を免れるものと解するのが相当である。」
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共同企業体の構成員会社の債務の連帯・・・
最判平成10年4月14日(精算金請求事件)
民集52巻3号813頁、判時1639号122頁、判夕973号145頁
<事実の概要>
X・Yはいずれも建築工事の請負等を目的とする株式会社である。
昭和61年6月、X・YはA病院増改築工事の請負を目的として共同企業体(以下、「本件共同企業体」)を結成し、①Yを代表者とする、②損益分配の割合を各2分の1とする、③工事に要する費用は損益分配の割合に応じて負担する旨を合意した。
昭和61年8月、本件共同企業体は発注者であるBと、請負代金3億6400万円で、A病院増改築工事の一部(以下「本件工事」)につき請負契約を締結した。
昭和62年2月27日、Xは本件共同企業体から脱退した。
翌28日、Xは岐阜地方裁判所に対し和議開始の申立をし、Yはその直後にその事実を知った。
岐阜地方裁判所は、同年7月14日、Xにつき和議開始決定をした。
Xの脱退前の同年2月20日過ぎ頃、X・Yは、施工中であった本件工事の請負代金の精算に付き、YがBから同月28日時点での出来高に相当する請負代金を受領したときに、その2分の1をXに対し支払う旨合意していた。
同日時点での本件工事の出来高は62、72%であり、同年4月28日までに、YはBから上記出来高に相当する請負代金として、1億762万余円の支払を受けた。
他方、本件共同企業体は、上記出来高に対応する費用として下請業者等に対して計2043万余円の債務を負担しており、Yは自己負担分である上記債務の2分の1相当額を弁済したほか、昭和61年12月から昭和63年3月までの間に、924万余円を弁済した。
本件訴訟は、Xが、同年2月28日時点の本件工事の出来高に対する請負代金の未払分(3426万余円)及びその遅延損害金を請求するものである。
これに対しYは抗弁として、①Xに対する貸金債権(3000万円)、②下請業者に対する弁済によるXに対する求償権(924万余円)を自働債権とする相殺を主張している。
原審はYの抗弁のうち①については全部を認めたが、②については、本件共同企業体は商行為を目的とする組合であり、本件共同企業体が下請業者等に対して負担した債務は各構成員の連帯債務となるため、YはXに対し弁済額の2分の1の求償権を取得したと認められるが、当該求償権のうちYがXの和議開始の申立を知った後に弁済したことにより取得した分については、和議法5条が準用する破産法104条4号(現行破産法71条1項4号・2項)により相殺は許されないと述べて、6万余円の限度でしか認めなかった。
これに対してYが上告した。
<判決理由>破棄差戻し。
「共同企業体は、基本的には民法上の組合の性質を有するものであり、共同企業体の債務については、共同企業体の財産がその引当になるとともに、各構成員がその固有の財産をもって弁済すべき債務を負うと解されるところ、共同企業体の構成員が会社である場合には、会社が共同企業体を結成してその構成員として共同企業体の事業を行なう行為は、会社の営業のためにする行為(附属的商行為)にほかならず、共同企業体がその事業のために第三者に対して負担した債務につき構成員が負う債務は、構成員である会社にとって自らの商行為により負担した債務というべきものである。
したがって、右の場合には、共同企業体の各構成員は、共同企業体がその事業のために第三者に対して負担した債務につき、商法511条1項により連帯債務を負うと解するのが相当である。」
「和議債務者に対して債務を負う者が和議開始の申立を知った後に和議債務者に対する債権を取得した場合は、右債権を自働債権として相殺することは原則として許されないが、右債権の取得が和議開始の申立を知る前の原因に基づくものであるときは、右債権を自働債権として相殺することができるところ(和議法5条、破産法104条4号)、連帯債務関係が発生した後に連帯債務者の一人が和議開始の申立をした場合において、他の連帯債務者が和議開始の申立を知った後に債権者に債務を弁済したときは、右弁済による求償権の取得は、右にいう「和議開始の申立を知る前に原因に基づく」ものと解するのが相当である。」
記録によれば、Xについて、和議債権の一部免除等を和議条件とする和議認可決定が確定したことがうかがわれるが、「連帯保証人の一人について和議認可決定が確定した場合において、和議開始決定後の弁済により右連帯保証人に対して求償権を取得した他の連帯保証人は、債権者が全額の弁済を受けたときに限り、右弁済によって取得する債権者の和議債権(和議条件により変更されたもの)の限度で右求償権を行使することができると解されるところ(最高裁平成・・・7年1月20日第二小法廷判決・民集49巻1号1頁)、右の理は、連帯債務者間の求償関係についても変わるところはな」い。
そして求償権の行使には、和議債務者に対する履行の請求のみならず、求償権を自働債権として和議債務者の債権と相殺することも含まれるというべきである。
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