信用取引における証券会社の手仕舞義務・・・

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信用取引における証券会社の手仕舞義務・・・

最判昭和62年4月2日(株券返還請求事件)
判時1234号138頁、判夕639号120頁、金判772号13頁

<事実の概要>

Xは、東京証券取引所の会員であるY証券株式会社に信用取引口座を設定し、委託保証金代用証券として数銘柄の株券を預託していた。

昭和53年9月6日、XはY社に対し、電話により、A社株10万株の信用取引による売り付けの委託をし、Y社は同日売付委託を執行した。

その後上記株式は高騰を続け、Y社の従業員等がXに対し委託保証金の追加差し入れが必要になったことを告げたところ、Xは、当初は逆日歩をY社において負担してくれるであれば委託保証金の追加差入れに応じる等と返答していたが、後に、上記株式の売付委託をしたことがないと主張するようになり、同月19日にY社に到達した書面でその旨を告知した。

さらにXlは、21日にY社に到達した書面により、Y社との間の未決済の信用取引は一切なく、以後Y社との取引は中止するので、委託保証金代用有価証券として預託中の株券を返還して欲しいと申し入れた。

これに対しY社は、A社株の信用取引について、東京証券取引所受託契約準則所定の決済期限である昭和54年3月6日までに現渡しまたは反対売買を行い、その結果差損金が生じた。

売付委託がないことを前提にXが預託株券全部の返還を請求した(主位的請求)のに対し、Y社は預託株券の処分代金を差損金に充当し、残りはXに返還したと主張した。

第1審判決は、Y社の主張を認めてXの請求を棄却した。

そこでXは、控訴審において、Xが仮に売付委託をしていたとしても、9月11日、13日、及び19日に売付委託の意思がないことをY社に電話、書面等で再三伝えているのであるから、Y社はその時点で反対売買をして手仕舞いをしておくべきであったのに、その義務を怠り、差損金を増大させたと主張して、Y社に対して損害賠償を請求した(予備的請求)。

控訴審判決(東京高判昭和59・6・21高民37巻2号115頁)は、主位的請求を斥けたが、予備的請求について次のように判示して、請求の一部を認容した。

「東京証券取引所契約受託準則第13条の9第1項は、会員たる証券業者の顧客が所定の期限までに信用取引に関し預託すべき委託保証金の預託を・・・しないときその他の場合には、証券業者は、任意に、当該信用取引を決済するため、当該顧客の計算において、売付契約又は買付契約を締結することができるものと定め、証券業者にいわゆる反対売買権を認めているが、右の趣旨は、顧客が右の預託・・・をしない等の場合において、証券業者がそれによって損害を被ることを防止するために委託建玉の処分権限を証券業者に付与したものにほかならないのであって、もとよりそのような場合に顧客の計算において反対売買を締結すべき義務を証券業者に課したものではない。」

「しかしながら、本件においては、・・・Xの同月19日における告知の趣旨は、反対売買の委託以上に強い清算の意思表示と見ることもできるのであり、これを本件に即して合理的に解すれば、売付委託の有無を巡る紛議の結着は後に留保することとせざるを得ないとしても、売付委託の有無をめぐって係争中の右株式については、直ちに反対売買を実行して手仕舞うことによってそれ以上の事態の流動を停止させ、この間に生じた損益の負担については後日の協議等にまつこととするにあるものと理解すべきものということができる。

・・・したがって、右のような事実関係の下においては、Y社としては、Xから前記のような告知があった以上、・・・とりあえず直ちに係争株式について買付契約を締結して手仕舞うべき義務を負うものと解すべきであって・・・、これを怠ったときは、買付委託の債務の履行を怠ったものとして、それによって生じた損害を賠償すべき義務があるものというべきである。」

XY社ともに上告した。

<判決理由>上告・附帯上告棄却。

「右事実関係のもとにおいて、Y社としては、昭和53年9月19日の時点において、係争株式について買付契約を締結して手仕舞うべき義務があるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。」

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無断売買の効力・・・

最判平成4年2月28日(損害賠償請求事件)
判時1417号64頁、判夕783号78頁、金判893号3頁

<事実の概要>

Xは、昭和58年1月頃、Y証券会社A支店に口座を設けて総合取引をすることとし、昭和59年2月8日には信用取引口座設定約定書をYに差し入れて信用取引口座を開設した。

Y社はXの名義と計算において、昭和59年3月30日から同年10月17日までの間に、債券・転換社債の現物取引、及び株式の信用取引を行ったところ、差損が生じたとして、その差損金・手数料をXの口座から引き落とした。

Xは上記取引はいずれもY証券A支店のBが無断でしたものであるとして、Y社に損害賠償を求めた。

これに対しY社は、一部の売買を除きXから代理権を与えられていた妻の委託があった、委託を受けなかった売買についても、XはY社の送付した月次報告書を承認しているから事後承認した、その余はXが決済しないことによる強制手仕舞いであると主張した。

第1審判決(東京地判昭和62・1・30判時1266号111頁)は、一部の取引について無断売買の事実を認定し、次のように判示して損害賠償の請求を一部認めた。

「口座の設定契約がなされたときは、Y社は、この口座をXの注文による取引の決済にのみ用いるべき義務を負うものと解され、Y社の従業員の無断売買によってXの口座において損害が生じたときは、右契約上の義務の不履行にあたるからその損害を賠償すべきである。」

X敗訴部分につきXが控訴したところ、控訴審判決は、Y社による無断売買はXに効果が帰属しないから、計算上差損が生じ手数料が計上されても、それはXに全く関係のないものであって、それがXの損害となるものではない旨判示して、Xの控訴を棄却した。

Xは上告した。

<判決理由>上告棄却。

「証券会社の従業員が顧客の注文に基づかずに顧客の信用取引口座を利用して有価証券の売買をし、その結果生じた手数料、利息、売買差損などに相当する金員を顧客の信用取引口座から引き落とす旨の会計上の処理がされたとしても、右無断売買の効果は顧客に帰属せず、右処理は顧客が証券会社に対してする委託証拠金、売買差益金などの返還請求権に何らの影響を及ぼすものではないから、顧客に右金員相当の損害が生じたものということはできない。

これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。」

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他人の氏名による署名・・・

最判昭和43年12月12日(約束手形金請求事件)
民集22巻13号2963頁、判時545号76頁、判夕232号111頁

<事実の概要>

A株式会社の代表取締役であるYは、Aが手形交換所による取引停止処分を受けたために、昭和41年3月頃から実兄B名義の当座取引口座をC銀行に設けて、同年9月に死亡するまでに多数回にわたってB名義で手形を振り出した。

Bはいわゆる失対人夫で経済的な信用や実績のある者ではなく、実際にも手形取引をしたことがなかった。

本件約束手形はそれらのうち1通であり、受取人XからYに対して手形金請求がなされた。

第1審、原審ともにXの請求認容。

Yは上告した。

<判決理由>上告棄却。

Yは、同人を代表取締役とするAが手形取引停止処分を受けたので、おそくとも昭和41年3月からC銀行D支店に実兄B名義の当座取引口座を設け、同年9月死亡するまで多数回にわたりB名義で手形を振り出し、本件約束手形はその1通であり、一方、右Bはいわゆる失対人夫で経済的な信用や実績のある者ではない・・・。

このような事実関係のもとにおいては、Yは、自己を表示する名称としてB名義を使用したものと認めることができるから、その名義を用いた手形署名はY自身の署名とみるべきであり、したがって、Yは、本件約束手形の振出人として、その手形金支払の義務を負うものといわなければならない。」

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法人の署名・・・

最判昭和41年9月13日(約束手形金請求事件)
民集20巻7号1359頁、判時464号46頁、判夕198号128頁

<事実の概要>

AはY株式会社に約束手形を振り出し・交付した。

当該手形所持人であるXは満期に支払呈示をし、Aの支払拒絶を受けて裏書人Yに対して手形金の支払を請求した。

しかし本件手形の裏書欄には裏書人の表示として単に「福知山市京町**番地Y株式会社電話2810番」なる記名判と上記会社印、及び代表者印が押捺されているだけで、Yの代表者の署名も、これにかわる記名捺印もなされていなかった。

Xは上記表示はYの裏書として欠けるところがないと主張したが、第1審・原審ともにX敗訴。

Xは手形法13条2項の署名として要求されている法人の手形行為における記名捺印とは、法人名と法人名印のみであって、法人の代表機関の署名または記名捺印は要求されていないと主張し上告。

<判決理由>上告棄却。

「手形を裏書によって譲り渡す場合には、裏書人が当該手形に署名することを要することは同条(手形法13条)の規定により明らかであるが、その裏書人が会社その他の法人である場合には、当該法人の代表機関が法人のためにすることを明らかにして自己の署名をすることを要するものと解するのが相当である。

けだし、法人はその機関たる地位にある自然人と別個の人格を有するが、代理の場合と異なり、機関の法律行為を離れて別に法人の法律行為があるわけでなく、法人が裏書人である場合における法人の署名とはその機関の地位にある自然人の署名をいうものと解されるからである。」

「本件約束手形の第一裏書欄には、裏書人の表示として、福知山市京町**番地Y株式会社と記載され、右会社印及び代表者印が押捺されているだけで、その代表者の自署または記名捺印がないというのであるから、右裏書欄にYの署名があるということができず、右裏書はYの裏書としての効力を生じない旨の原審の判断は正当である。」

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