支払延期のためになされた手形書替え・・・

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支払延期のためになされた手形書替え・・・

最判昭和54年10月12日(約束手形金請求事件)
判時946号105頁、判夕402号65頁、金判584号3頁

<事実の概要>

Xは、YがAに対して受取人白地で振出した約束手形(以下、「本件手形」)をAから割引き、その所持人として受取人欄を補充の上で満期に支払場所に呈示したが、支払を受けられなかったため、Yに対して手形金の支払を求めて提訴した。

Yは抗弁として次のように主張した。

本件手形については、YはAに対して本件手形を回収しないまま書替手形として受取人白地の約束手形(以下、「本件第二手形」)を振出しており、XはそれをAから取得し、満期に支払を受けている。

従って、本件第二手形の支払により本件手形の支払義務も消滅した。

このYの主張に対し、原審は、手形書替えは支払猶予の人的抗弁を生ぜしめるにとどまり、旧手形の手形債務が書替えにより消滅または免責されるものではないとのみ判示し、Xの請求を認めた。

Yは上告した。

<判決理由>破棄差戻し。

「旧手形がこれを回収することなく新手形に書き替えられ、他に特段の事情もないため、右書替は単に手形債務の支払を延期するためにされたものと認めるべき場合において、右書替によって新旧両手形の所持人となった者は、新旧いずれの手形によっても手形上の権利を行使することができるわけであるが、いずれか一方の手形によって手形金の支払を受けたときには、もはや他方の手形によって重ねてその支払を受けることができないものとなるということはいうまでもないところである。

これを本件の場合についてみるに、Yは、本件手形債務の消滅に関する抗弁として、YがAに対し受取人白地で振出交付していた本件手形について、Yはこれを回収しないままその書替手形として本件第二手形を同じく受取人白地で振出してAに交付したと主張するだけでなく、Aから本件手形及び本件第二手形の交付による譲渡を受けたXに対し本件第二手形の手形金を満期に支払ったと主張しているのであるから、もしY主張どおりの事実が存在するとすれば、Xが本件第二手形を本件手形の書替手形と知りながら取得した悪意の取得者であるときには、Xが本件手形によって重ねて手形金の支払をYに求めることは許されない筋合いとなる。

ところが、原審は、・・・本件第二手形が支払われたから本件手形債務は消滅した旨のYの主張についてはなんらの説示をせず、また、・・・原審におけるYの主張は、本件第二手形がAとYとの間においても本件手形の書替手形として交付された旨の主張を含む趣旨のものと解されなくはないのに、この点についてYの主張を明確にさせることをしないで、Yの抗弁を理由がないとして排斥し、Xの本件手形の手形金請求を認容している。

原審の右判断は、・・・法令の解釈適用を誤ったか、または審理不尽、理由不備の違法があるものというべきであり、この違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は破棄を免れず、・・・さらに審理を尽くさせるため、原審の差し戻すのが相当である。」

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支払猶予の特約と消滅時効の起算点・・・

最判昭和55年5月30日(約束手形金請求事件)
民集34巻3号521頁、判時966号110頁、判夕415号112頁

<事実の概要>

A株式会社はXに対する店舗兼共同住宅の設計料の内金支払のために約束手形3通を振り出した。

各手形はAの代表取締役であるYが受取人兼第一裏書人となっており、Xまでの裏書の連続があった。

そのうち1通の満期は昭和47年8月31日、残り2通の満期は同年12月15日であったが、各満期から4ヶ月の支払猶予を懇請し、Xはこれを承諾した。

昭和48年5月15日にXは支払場所で支払のために各手形を呈示したが、支払がなかったため、同年10月31日にA及びYに対して手形金の支払を求めて提訴。

第1審で裏書人であるYに対する請求が棄却されたため、Xが控訴し、控訴審ではXの請求が認容された。

控訴審においてYは、満期が昭和47年8月31日の手形については遡及権の消滅時効が完成しているとして争ったが、控訴審判決は、支払が猶予された場合、当事者間では猶予期間中消滅時効は進行せず、猶予期間満了の翌日から進行をはじめるとしてYの主張を退けた。

Yは上告した。

<判決理由>上告棄却。

「約束手形の所持人と裏書人との間いおいて裏書人の手形上の債務につき支払猶予の特約がされた場合には、所持人は右猶予期間中は裏書人に対して手形上の請求権を行使することができず、右猶予期間が満了した時はじめてこれを行使することができるものとなるから、所持人の裏書人に対する手形上の請求権の消滅時効は、右猶予期間が満了した時から進行するものと解するのが相当である(手形法77条1項8号により約束手形に準用される同法70条2項は、所持人の裏書人に対する請求権の消滅時効の起算日を拒絶証書に日付又は満期の日と定めているが、右は、所持人が拒絶証書の日付又は満期の日から裏書人に対する請求権を行使することができる原則的な場合のことを定めたものであって、これを支払猶予の特約がされた場合にまで適用することはできない。)。

これを本件についてみるに、・・・Xは、・・・裏書人であるYから、・・・満期(昭和47年8月31日)の直前である昭和47年8月29日ころ手形金の支払の資金繰りがつかないことを理由に右手形を呈示しないでその支払を満期から4ヶ月猶予して欲しい旨懇請され、これを承諾したので、右支払猶予の期間経過後1年以内である昭和48年10月31日本訴を提起したというのであるから、XのYに対する・・・手形上の請求権は、いまだ時効をによって消滅しないものといわなければならない。」

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手形を所持しない者の裁判上の請求と時効中断・・・

最判昭和39年11月24日(約束手形金請求事件)
民集18巻9号1952頁、判時398号29頁、判夕173号130頁

<事実の概要>

XはYより昭和30年9月27日を満期とする約束手形を拒絶証書作成義務免除の上で裏書を受けてその所持人となり、満期に支払場所に呈示したが、支払を拒絶された。

これによりXのYに対する遡及権は保全された。

その後、本件手形は受取人兼第一裏書人であるAに関する詐欺等の刑事事件の証拠物としてXより任意提出され、秋田地方検察庁において保管されていたが、同年12月25日に発生した庁舎の火災のため焼失してしまった。

XはYに対する手形債権の時効完成前である昭和31年8月2日に手形を所持しないままとりあえず手形金の支払を求める本訴を提起し、その一方、本訴の第1審口頭弁論終結前である昭和32年11月30日に本件手形につき除権判決を得て所持人たる資格を回復した。

Xの請求に対し、Yは消滅時効の完成を主張して争った。

第1審は訴え提起による時効の中断を認め、Xの請求を認容したが、控訴審は次のように判示して第1審判決を取消し、Xの請求を棄却した。

「手形はいわゆる有価証券であって、その権利を行使するについては手形の所持(占有)を伴うことを要し、手形の所持を喪失した者は、除権判決をうけない限り手形上の権利を行使することができないから、かかる者の訴訟提起は(時効期間満了までに除権判決をうけない限り)手形上の権利の時効を中断する由ないといわなければならない。」

Xは上告した。

<判決理由>破棄自判(結果として、Xの請求が認容された)。

「手形権利者は自己の意思に基づかないで手形の所持を失っても手形上の権利を喪失するものではないから、手形権利者が手形を所持しないで手形債務者に対しその債務の履行につき裁判上の請求を為した場合も、右手形債権の時効中断の効力があると解するのを相当とする。

もっとも、その裁判上の請求において、債権者が口頭弁論終結の時までに手形の所持を回復するかもしくはこれに代わるべき除権判決を得なければその請求を棄却すべきものと解されているが、その理由を手形の引換証券性(手形法39条)に求めるものとすれば、このことを根拠として、元来権利者が権利の上に眠っていない事実の存在だけでその効果を認めるべき制度である時効中断の場合に、その考えを推し及ぼすことは誤りといわなければならない。

なお、手形上の権利の時効中断のためにする請求に手形の呈示を要しないことは当裁判所の判例とするところであるから(催告につき、最高裁昭和・・・38年1月30日大法廷判決民集17巻1号99頁参照)、手形を所持しない手形権利者が手形の呈示をなしえないことを理由として右の請求につき時効中断の効力を否定することもまた理由がない。

・・・XのYに対する本件手形上の債権は、Xの提起した本訴により時効が中断せられたものというべきであって・・・、右手形の満期より1年後である昭和31年9月27日の経過と共に時効により消滅したものというべきでないのにかかわらず、原判決は、(1審の)口頭弁論終結前である昭和32年11月30日にXが右手形につき除権判決を得て所持人たる資格を回復した事実を確定しながら、なお右の理由によりXのYに対する本訴請求を棄却すべきものとしたのは、法律の解釈適用を誤った違法があり、原判決・・・は破棄を免れない。

・・・XのYに対する・・・本訴請求は理由があり、これと同趣旨の第1審判決は正当であるから、Yの本件控訴は棄却すべきである。」

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手形金請求訴訟の提起と原因債権の消滅時効の中断・・・

最判昭和62年10月16日(約束手形金、請負代金請求事件)
民集41巻7号1497頁、判時1256号25頁、判夕653号81頁

<事実の概要>

給排水・衛生設備工事の請負を業とするX株式会社はY株式会社との間で空調・衛生設備工事の請負契約を締結した。

工事は遅くとも昭和49年1月14日までに完成してYに引き渡されたが、請負代金のうち420万円の支払がなされなかった。

残代金のうち160万円については、その支払のために、YはXを受取人として昭和49年5月15日を満期とする約束手形を振出していた。

XはYに対して手形訴訟を提起して仮執行宣言付判決を得たが、Yが異議を申立て、通常訴訟に移行した。

そこでYは手形金として160万円、請負代金として260万円を請求したが、Yは本件工事の瑕疵や第三者による免責的債務引受等を主張して争った。

第1審(東京地判昭和56・3・25民集41巻7号1505頁)はY主張の瑕疵の一部(26万円分)を認め、これが手形債権と相殺されたとし、手形金134万円、請負代金260万円の範囲でXの請求を認容した。

Yが控訴し、瑕疵や債務引受の主張に加え、手形の原因債権に相当し、Xが本訴で請求していない請負代金債権160万円については遅くとも昭和52年1月15日に消滅時効が完成しているため(民法170条2号)、Yには手形金の支払義務はないとして主張した。

控訴審は免責的債務引受の合意(40万円)があったとして請負代金請求を220万円の範囲で認めるべく第1審判決を変更したが、Yの時効に関する主張に対しては手形訴訟の提起で時効の中断がされたとして退け、手形金請求に関する控訴を棄却した。

Yが、「手形債権と原因債権は法律上別個の債権であるから、手形債権についての請求行為があっても原因債権の消滅時効の進行を中断しない」と主張して上告。

<判決理由>上告棄却。

「債務の支払のために手形が授受された当事者間において債権者のする手形金請求の訴えの提起は、原因債権の消滅時効を中断する効力を有するものと解するのが相当である。

けだし、かかる手形授受の当事者間においては、手形債権は、原因債権と法律上別個の債権ではあっても、経済的には同一の給付を目的とし、原因債権の支払の手段として機能しこれと併存するものにすぎず、債権者の手形金請求の訴えは、原因債権の履行請求に先立ちその手段として定期されるが通例であり、また、原因債権の時効消滅は右訴訟において債務者の人的抗弁事由となるところ(最高裁昭和43年・・・12月12日第一小法廷判決判時545号78頁参照)、右訴えの提起後も原因債権の消滅時効が進行しこれが完成するものとすれば、債権者としては、原因債権の支払手段としての手形債権の履行請求をしていながら、右時効完成の結果を回避しようとすると、更に原因債権についても訴えを提起するなどして別途に時効中断の措置を講ずることを余儀なくされるため、債権者の通常の期待に著しく反する結果となり(最高裁昭和・・・53年1月23日第一小法廷判決・民集32巻1号1頁参照)、他方、債務者は、右訴訟係属中に完成した消滅時効を援用して手形債務の支払を免れることになって、不合理な結果が生じ、ひいては簡易な金員の決済を目的とする手形制度の意義を損う結果を招来するものというべきであり、以上の諸点を考慮すれば、前記当事者間における手形金請求の訴えの提起は、時効中断の関係においては、原因債権自体に基づく裁判上の請求に準ずるものとして中断の効力を有するものと解するのが相当だからである。

これと同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができ」る。

本判決には一裁判官の大略以下のような意見がある。

法廷意見は、手形授受の直接当事者間において原因債権が時効消滅した場合に、債務者がこれを人的抗弁事由として手形債務の支払を拒絶できることを前提とするが、かかる原因債権の時効消滅は人的抗弁事由とはならず、法廷意見の引用する判例は変更されるべきであり、法廷意見と同様の前提に立って本件手形金支払義務の不存在をいう上告人の抗弁は、時効中断の点を論ずるまでもなく失当である。

原因債権の支払のために手形の交付を受けた債権者は原因債権とは別個に手形債権を有し、その時効の完成前であれば、原因債権の消滅時効の期間とは関係なく、手形上の権利を行使することができると考えるべきである。

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