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未補充手形の取得者と手形法10条・・・
最判昭和36年11月24日(小切手金請求事件)
民集15巻2536頁、判時280号8頁、金判529号106頁
<事実の概要>
Yは、昭和24年9月末頃、A証券会社の代表取締役Bから、同社が大阪財務局から資産検査を受ける場合に備え、形式上同社の不足資産を補うためY振出の小切手を貸与されたく、もしこの検査に際しこの小切手を使用したときはその見返りとして直ちにAよりYに同額の小切手を振出交付する旨の懇請を受けたので、承諾し、検査の際にAが振出日を補充できるよう振出日を白地とした小切手を作成してAに交付した。
Xは、Aに対する貸付の支払確保のために約束手形を受取っていたが、昭和26年7月末にAが廃業した後、Bからこの手形と交換に本件小切手の交付を受け、Aの不動産を処分して貸付を返済するまで小切手の振出日を補充して呈示することを待って欲しいとの申入れを受けてこれを了承した。
その後Aが返済をしなかったので、昭和29年8月上旬にXは弁護士Cに取立てを依頼し、Cが8月9日を振出日として補充して11日に支払呈示をしたが、支払を拒絶された。
Xが小切手金の支払を求めて提訴。
原審判決は、Xは小切手取得にあたって小切手振出事情について善意無過失であったし、白地小切手の補充顕は5年(商法522条)の消滅時効にかかるとして請求を認容した。
<判決理由>上告棄却。
小切手法13条は、白地小切手について、あらかじめ為したる合意と異なる補充が為された場合に、その違反は、これをもって、善意で、かつ重過失なくして小切手を取得した小切手の所持人には対抗することができない旨を規定する。
このことは、既に補充権の行使によって完成された小切手を善意で、かつ重過失なくして取得した所持人の場合に適用されるのみならず、善意でかつ重過失なくして取得した所持人の場合に適用されるのみならず、善意でかつ重過失なくして白地小切手を取得した所持人が自らあらかじめなされた合意と異なる補充をした場合にも適用あるものと解するを相当とする。
けだし、同法13条の法意は、小切手の流通を円滑にし、善意で、かつ重過失なき所持人を保護することを主意とするものであるからである。」
「白地小切手の補充権は、白地小切手の小切手としての欠缺(けんけつ)要件を補充して小切手を完成する権利であって一種の形成権であるが、形成権といえども、その消滅時効については、一概に民法167条2項を適用すべきものではなく、各種形成権について、その性質に従って、消滅時効の期間を定むべきであることは既に大審院判例のあきらかにするところである。(大正5年5月10日判決民録22号936頁、大正10年3月5日民録27号493頁参照)
白地小切手の補充権は小切手要件の欠缺(けんけつ)を補充して完全な小切手を形成する権利であること、補充権は白地小切手に附着して当然に小切手の移転に随伴するものであること等に鑑みれば、補充権授与の行為は本来の手形行為ではないけれども商法501条4号所定の「手形に関する行為」に準ずるものと解して妨げなく、また白地小切手の補充は、小切手金請求の債権発生の要件を為すものであり、さらに小切手法が小切手上の権利に関し特に短期時効の制度を設けていること等を勘案すれば、白地小切手の補充権の消滅時効については商法522条の「商行為に因りて生したる債権」の規定を規定を準用するのが相当である。
従ってこれと同趣旨で、白地小切手の補充権はこれを行使し得べきときから、5年の経過によって、時効により、消滅するものとして原判決の判断は正当である。」
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手形の裏書と民事保証債務の移転・・・
最判昭和45年4月21日(保証債務履行請求事件)
民集24巻4号283頁、判時593号34頁、判夕248号118頁
<事実の概要>
Aが本件手形を振出す際、本件手形の信用を厚くするため、B信用組合が「本件約束手形に対しB信用組合専務理事Cの印が金額欄の肩に捺印されているものに限りB信用組合はAと連帯して支払期日に対しての支払金額を保証する」という保証書を作成し、本件手形の金額欄の肩にCの印を捺印させた上で、Aに交付した。
Aが本件約束手形及び本件保証書をDに交付して融資を受けた後、本件約束手形はDからE、EからXへと裏書譲渡され、本件保証書もそれに伴ってXに交付された。
XがAに手形金支払を求めたが拒絶されたため、Bに対して本件保証書による連帯保証債務の支払を求めた。
Bは、Y信用組合に吸収合併されている。
原審判決は、本件民事保証はBの事業遂行のため必要な範囲外の行為として無効であり、本件民事保証はDに対するもので指名債権譲渡の手続を履践していないから保証債務がXに帰属するいわれもないとして請求を棄却した。
Xは上告した。
<判決理由>破棄差戻し。
「約束手形の振出人のために受取人との間でその手形金債務の支払について手形外の民事保証契約が締結された後、この約束手形が裏書譲渡された場合、右保証債権は、裏書自体の移転的効力によっては、被裏書人の当然に移転するとはいえない。
しかし、一般には保証債権は、主たる債権を担保する目的上附従性を有し、主たる債権の移転に随伴する性質をもつものであるから、主たる債権の移転とともに移転し、主たる債権の譲渡について対抗要件が具備された場合には、主たる債権を取得した者は、保証債務の履行を求めることができると解するのが相当である(大判明治・・・39年3月3日民録12号435頁、明治・・・40年4月11日民録13号421頁、明治・・・42年6月29日民録15号640頁、大正・・・元年12月27日民録18号1114頁、大正・・・3年5月30日民録20号430頁、大正・・・6年7月2日民録23号1265頁参照)。
この理は、主たる債権が手形債権であり、債権譲渡が裏書による場合であっても同様であり、裏書によって手形債権を取得した者は、民事保証債権につき別段の指名債権譲渡の手続を履践することなく、右保証債務の履行を求めることができると解すべきである(なお、本件保証書の名宛人欄には、Dと記入されているが、これをもって、本件保証債権について譲渡禁止の特約があったものと即断することはできない。)」
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裏書の連続・・・
最判昭和30年9月30日(譲受債務金請求事件)
民集9巻10号1513頁、判時60号18頁、判夕52号47頁
<事実の概要>
AはBに対し、受取人を「愛媛無尽会社岡支店長」とした上で、支払地・支払場所・振出地の記載のない約束手形を昭和23年12月31日に振出し、Yはkの支払を保証した。
Bは、支払期日である昭和24年1月20日に本件手形をA及びYに呈示して支払を求めたが、手形金の支払は行なわれなかった。
X有限会社は、昭和26年4月1日に本件手形をBから白地裏書により譲渡されるとともに、同日民法上の債権譲渡の方法によって譲渡を受け、5月2日にBからYにその旨の通知がなされている。
この際の第一裏書人欄の記載は、「北宇和郡泉村岡幸恵」となっていた。
XがYに対し手形金お支払を求めたところ、原審判決は、裏書の連続ありと言えるには、受取人の記載と第一裏書人の記載とが主要な点において符合し手形外観上その両者の同一性の認識が取引社会により可能な場合に限られるべきであり、本件手形では受取人は会社と見るべきだから裏書の連続を欠くとして、Yに対する手形金支払請求を棄却した。
Xは上告した。
<判決理由>破棄差戻し。
「「愛媛無尽会社岡支店長」なる記載は、原判決のいうように、必ずしも「個人たるBに右会社の支店長たる地位を冠したものとは到底解せられない」ものではなく、個人たるBに右会社の支店長たる職名を附記して、個人たるBを指称するものとも解し得られるのである。
けだし、かように氏名に職名を付記してその個人を指称することは取引において、往々行なわれるところであるからである。
そして、本件では、その第一裏書における裏書人は明らかにB個人名をもって為されていることは前示のとおりであるから、右第一裏書の記載と対照して、本件「愛媛無尽会社岡支店長」なる受取人の記載は他に特段なる事由のない限りむしろ個人たるBを指称するものと解するは妥当であるといわなければならない。
とすれば、本件手形は裏書の連続に欠くるところはない」。
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裏書の連続のある手形による請求と権利推定の主張・・・
最大判昭和45年6がつ24日(約束手形金請求事件)
民集24巻6号712頁、判時597号78頁、判夕249号134頁
<事実の概要>
Yは、Aに対し、約束手形4通を振出し、Aは、支払期限後に本件手形を白地式裏書によりXに譲渡した。
Xは、Yに対し手形金の支払を求めて提訴し、第1審において、①Yによる本件手形のAに対する振出し・交付と②AによるXへの期限後裏書と自らが本件手形の所持人であることを請求原因事実として申し立てた。
Yは、第1審の口頭弁論において請求原因事実をいったん全て認めたが、後に、AからXへの白地式裏書による譲渡の点(②の一部)については、Xによる偽造であるなどして自白を取消して否認した。
原審判決は、この自白の取り消しを認め、Aによる裏書は存在しなかったものと認定し、Aの裏書譲渡によって適法な所持人になったことを前提とするXの請求は失当であるとして棄却した。
Xは上告した。
<判決理由>破棄差戻し。
「手形法16条1項(同法77条1項1号により約束手形に準用。以下同じ。)の適用を主張するには、連続した裏書の記載のある手形を所持する事実を主張することを要するとするのが当裁判所の判例(最高裁判所昭和・・・41年3月4日第二小法廷判決、民集20巻3号406頁)であるが、およそ手形上の権利を行使しようとする者は、その所持する手形の裏書の連続が欠けているような場合は格別、裏書が連続しているかぎり、その連続する裏書に基づき権利者となっていることを主張するのが当然であって、この場合、立証が必ずしも容易でない実質的権利移転の事実をことさらに主張するものとは、通常考えられないところである。
それゆえ、Xが、連続した裏書の記載のある手形を所持し、その手形に基づき手形金の請求をしている場合には、当然に、同法16条1項の適用の主張があるものと解するのが相当である。
そして、これによりYがその防禦方法として同法16条1項の推定を覆すに足りる事由を主張立証しなければならない立場におかれるとしても、Xの所持する手形に連続した裏書の記載があることは容易に知りうるところであるから、Yに格別の不意打ちを与え、その立場を不安点にするおそれがあるものといえないのである。
ところで、Xは、第1審の口頭弁論において、請求原因として、YはAに宛てて本件各約束手形を振出し、AはこれをXに白地裏書により譲渡し、Xは、現にその所持人である旨を陳述し、受取人としてA及びA名義の白地裏書の各記載のある本件約束手形4通・・・を証拠として提出し、原審においてもその主張を維持していることは、本件記録上明らかである。
したがって、Xは、裏書の連続する本件各約束手形の所持人である旨の主張をしているものと解さなければならない。」
「Xは、右条項の適用により、本件各約束手形の権利者としての推定を受けるものと解すべきであって、Yは、この推定を覆すためには、Xが実質的無権利者であることを主張立証すべき立場にあるものといわなければならない(最高裁判所昭和・・・41年6月21日第三小法廷判決、民集20巻5号1084頁参照)。
しかるに、原審認定の事実をもっては、いまだA名義の各裏書が同人の意思に基づかないことまでも確定しているものとみることは困難であり、かりにこれを積極的に確定したものとするならば、原審は、右裏書が同人以外の者によって記名押印されたものであることが明らかであり、かつ、右各裏書の記載が同人の意思に基づいたものであるとまでも判断したことになり、その判断の過程に経験則違反の違法があるのを免れない。
したがって、いまだ同法16条1項の推定を覆すための抗弁事実たるXが実質的無権利者であることの立証があったものということはできず、Xの請求を排斥するに足りない。」
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