後見開始審判前の財産管理者の選任・・・

後見開始審判前の財産管理者の選任・・・

後見開始の審判の申立があった場合、家庭裁判所は、本人の財産の管理のため、必要があるときは、申立により、又は職権で、担保を立てさせないで、後見開始の審判の申立についての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任することができます。

これは、家庭裁判所が行なう審判前の保全処分のひとつです。

家事審判法第15条の3

1 第9条の審判の申立てがあつた場合においては、家庭裁判所は、最高裁判所の定めるところにより、仮差押え、仮処分、財産の管理者の選任その他の必要な保全処分を命ずることができる。
2 前項の規定による審判(以下「審判前の保全処分」という。)が確定した後に、その理由が消滅し、その他事情が変更したときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。
3 前2項の規定による審判は、疎明に基づいてする。
4 前項の審判は、これを受ける者に告知することによつてその効力を生ずる。
5 第9条に規定する審判事件が高等裁判所に係属する場合には、当該高等裁判所が、第3項の審判に代わる裁判を行う。
6 審判前の保全処分(前項の裁判を含む。次項において同じ。)の執行及び効力は、民事保全法(平成元年法律第91号)その他の仮差押え及び仮処分の執行及び効力に関する法令の規定に従う。この場合において、同法第45条中「仮に差し押さえるべき物又は係争物の所在地を管轄する地方裁判所」とあるのは、「本案の審判事件が係属している家庭裁判所(その審判事件が高等裁判所に係属しているときは、原裁判所)」とする。
7 民事保全法第4条、第14条、第15条及び第20条から第24条までの規定は審判前の保全処分について、同法第33条及び第34条の規定は審判前の保全処分を取り消す審判について準用する。

財産の管理者には不在者の財産管理人の規定が準用されているので、相続人に対する後見開始の審判の申立が審理中に遺産分割の協議をする必要が生じた場合、財産の管理者は家庭裁判所の許可を得て当該相続人のために遺産分割の協議を成立させることができます。

家事審判法第16条

民法第644条、第646条、第647条及び第650条の規定は、家庭裁判所が選任した財産の管理をする者について、同法第27条から第29条までの規定は、第15条の3第1項の規定による財産の管理者について準用する。

遺産分割を予定しているときは、共同相続人以外の者を財産の管理者としなければなりません。

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後見開始審判前の財産管理者の選任申立・・・

財産の管理者の選任を求める審判前の保全処分申立は家事雑事件です。

審判前の保全処分の申立人は、その申立において、求める保全処分及び当該保全処分を求める事由を明らかにしなければなりません。

家事審判規則第十五条の二

1 審判前の保全処分の申立てをするときは、求める保全処分及び当該保全処分を求める事由を明らかにしなければならない。
2 前項の申立てをした者は、第七条第一項の規定にかかわらず、保全処分を求める事由を疎明しなければならない。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、職権で、事実の調査及び証拠調べをすることができる。

申立書には、申立の趣旨として「求める保全処分」を記載し、「保全処分を求める事由」として、求める保全処分を根拠付けるだけの具体的事実関係を記載して本案審判認容の蓋然性を明らかにし、保全の必要性として、緊急に当該保全処分を必要とする具体的事情を記載します。

蓋然性とは、ある事柄が起こる確実性や、ある事柄が真実として認められる確実性の度合い。

財産の管理者選任申立の場合、本案認容の蓋然性としては、申立却下の審判がされないであろうという点の蓋然性をもって足り、また、保全の必要性としては本人の財産の管理のために財産の管理者が必要であることを要します。

①申立権者

利害関係人です。

家庭裁判所は、職権で、財産の管理者を選任することができます。

②管轄

後見開始の審判の申立が係属する家庭裁判所又は高等裁判所です。

③添付書類

財産の管理者の候補者及び指示を受けるべき者の戸籍謄本・住民票

本案審判認容の蓋然性及び保全の必要性を疎明する資料

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後見開始審判前の財産管理者の選任審判・・・

審判前の保全処分の申立人は「保全処分を求める事由」を疎明しなければなりません。

家事審判規則第十五条の二

1 審判前の保全処分の申立てをするときは、求める保全処分及び当該保全処分を求める事由を明らかにしなければならない。
2 前項の申立てをした者は、第七条第一項の規定にかかわらず、保全処分を求める事由を疎明しなければならない。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、職権で、事実の調査及び証拠調べをすることができる。

審判資料が職権で収集される原則に対する例外です。

家事審判規則第七条

1 家庭裁判所は、職権で、事実の調査及び必要があると認める証拠調をしなければならない。
2 家庭裁判所は、他の家庭裁判所又は簡易裁判所に事実の調査又は証拠調を嘱託することができる。
3 家庭裁判所は、相当と認めるときは、合議体の構成員に命じて事実の調査をさせることができる。
4 合議体の構成員に事実の調査をさせる場合には、裁判長がその家事審判官を指定する。
5 合議体の構成員が事実の調査をする場合には、家庭裁判所及び裁判長の職務は、その家事審判官が行う。
6 証拠調については、民事訴訟の例による。

家庭裁判所は、必要があると認めるときは、補充的に職権で事実の調査及び証拠調べをすることができます。

これは、申立人の提出した資料のみによって申立を判断するとした場合には、申立人の保護に著しく欠けたり、また、相手方、事件本人の地位を著しく害したりすることが避けられず、家庭裁判所の後見的機能に反する結果を招来しかねないので、このような場合をおもんばかって、家庭裁判所の前記機能を発揮させるためとされています。

審判前の保全処分の審理は、審問等による関係人に対する陳述聴取、書面審理等本案審判と同様の方法により行なわれます。

財産の管理者を選任する審判前の保全処分は、担保を立てさせないでされます。

家事審判規則第二十三条

1 後見開始の審判の申立てがあつた場合において、本人の財産の管理又は本人の監護のため必要があるときは、家庭裁判所は、申立てにより、又は職権で、担保を立てさせないで、後見開始の審判の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任し、又は事件の関係人に対し、本人の財産の管理若しくは本人の監護に関する事項を指示することができる。
2 後見開始の審判の申立てがあつた場合において、本人の財産の保全のため特に必要があるときは、家庭裁判所は、当該申立てをした者の申立てにより、後見開始の審判の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、本人の財産上の行為(民法第九条ただし書に規定する行為を除く。第六項において同じ。)につき、財産の管理者の後見を受けるべきことを命ずることができる。
3 前項の規定による審判(以下この条において「後見命令の審判」という。)は、財産の管理者に告知しなければならない。
4 後見命令の審判がされたときは、裁判所書記官は、遅滞なく、本人に対し、その旨を通知しなければならない。
5 後見命令の審判に対する即時抗告の期間は、第三項の規定による告知があつた日(複数ある場合には、そのうち最も遅い日)から進行する。
6 後見命令の審判があつたときは、本人及び財産の管理者は、本人がした財産上の行為を取り消すことができる。この場合においては、制限行為能力者の行為の取消しに関する民法の規定を準用する。
7 第三十二条第一項及び第三十三条から第三十六条までの規定は、第一項の規定により選任された財産の管理者について準用する。

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後見開始審判前の保全処分の審判・・・

審判前の保全処分の審判は、これを受ける者に告知することによって効力を生じますが、財産の管理者を選任する審判は財産の管理者となるべき者に対する告知によって効力を生じます。

家事審判法第15条の3

1 第9条の審判の申立てがあつた場合においては、家庭裁判所は、最高裁判所の定めるところにより、仮差押え、仮処分、財産の管理者の選任その他の必要な保全処分を命ずることができる。
2 前項の規定による審判(以下「審判前の保全処分」という。)が確定した後に、その理由が消滅し、その他事情が変更したときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。
3 前2項の規定による審判は、疎明に基づいてする。
4 前項の審判は、これを受ける者に告知することによつてその効力を生ずる。
5 第9条に規定する審判事件が高等裁判所に係属する場合には、当該高等裁判所が、第3項の審判に代わる裁判を行う。
6 審判前の保全処分(前項の裁判を含む。次項において同じ。)の執行及び効力は、民事保全法(平成元年法律第91号)その他の仮差押え及び仮処分の執行及び効力に関する法令の規定に従う。この場合において、同法第45条中「仮に差し押さえるべき物又は係争物の所在地を管轄する地方裁判所」とあるのは、「本案の審判事件が係属している家庭裁判所(その審判事件が高等裁判所に係属しているときは、原裁判所)」とする。
7 民事保全法第4条、第14条、第15条及び第20条から第24条までの規定は審判前の保全処分について、同法第33条及び第34条の規定は審判前の保全処分を取り消す審判について準用する。

財産の管理者には、不在者の財産管理人に関する規定が準用されます。

この結果、財産の管理者は、原則として民法103条の管理行為の範囲で代表権を有する事件本人の法定代理人となります。

しかし、事件本人は処分権を失わないと解されています。

(権限の定めのない代理人の権限)
民法第103条 権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
1.保存行為
2.代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

(管理人の職務)
民法第27条 前2条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。
2 不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。
3 前2項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。

財産の管理者を選任する審判には、対世的効力があり、第三者との関係においてもその地位、権限を有するものとして認められます。

審判前の保全処分に関する審判に対する不服申立が認められる場合、その方法は即時抗告ですが、財産の管理者を選任する審判に対する即時抗告は認められていません。

財産の管理者を選任する審判前の保全処分の審判は後見開始の審判申立についての審判確定までの間効力を有し、その審判確定又は申立の取下げにより当然にその効力を失い、改めて保全処分の取り消しをするまでもないとされます。

家事審判規則第二十三条

1 後見開始の審判の申立てがあつた場合において、本人の財産の管理又は本人の監護のため必要があるときは、家庭裁判所は、申立てにより、又は職権で、担保を立てさせないで、後見開始の審判の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任し、又は事件の関係人に対し、本人の財産の管理若しくは本人の監護に関する事項を指示することができる。
2 後見開始の審判の申立てがあつた場合において、本人の財産の保全のため特に必要があるときは、家庭裁判所は、当該申立てをした者の申立てにより、後見開始の審判の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、本人の財産上の行為(民法第九条ただし書に規定する行為を除く。第六項において同じ。)につき、財産の管理者の後見を受けるべきことを命ずることができる。
3 前項の規定による審判(以下この条において「後見命令の審判」という。)は、財産の管理者に告知しなければならない。
4 後見命令の審判がされたときは、裁判所書記官は、遅滞なく、本人に対し、その旨を通知しなければならない。
5 後見命令の審判に対する即時抗告の期間は、第三項の規定による告知があつた日(複数ある場合には、そのうち最も遅い日)から進行する。
6 後見命令の審判があつたときは、本人及び財産の管理者は、本人がした財産上の行為を取り消すことができる。この場合においては、制限行為能力者の行為の取消しに関する民法の規定を準用する。
7 第三十二条第一項及び第三十三条から第三十六条までの規定は、第一項の規定により選任された財産の管理者について準用する。

審判前の保全処分の審判が確定した後に、その理由が消滅し、その他の事情が変更したときは、家庭裁判所は、その審判を取消すことができます。

審判前の保全処分を取消す審判は、本案の申立を認める審判に対し即時抗告をすることができる者の申立により、又は職権でします。

家事審判規則第十五条の四

1 審判前の保全処分を取り消す審判は、前条第二項に規定する者の申立てにより、又は職権で行う。
2 第十五条の二の規定は前項の申立てについて、前条の規定は同項の規定による審判(法第十五条の三第七項において準用する民事保全法第三十三条の規定による審判を含む。)について準用する。この場合において、前条第一項中「審判前の保全処分の申立人」とあるのは「申立人」と、同条第二項中「本案の申立てを認める審判に対し即時抗告をすることができる者」とあるのは「審判前の保全処分の申立人」と読み替えるものとする。

審判前の保全処分の取消の申立は家事雑事件です。

審判前の保全処分取消の申立人が負う疎明責任については、審判前の保全処分申立人の疎明責任に関する家事審判規則15条2の規定が準用され、また、審判前の保全処分取消しに関する審判の不服申立には、審判前の保全処分関係審判に対する即時抗告に関する家事審判規則15条の3の規定が抗告権者を読み替えのうえ準用されています。

家事審判規則第十五条の二

1 審判前の保全処分の申立てをするときは、求める保全処分及び当該保全処分を求める事由を明らかにしなければならない。
2 前項の申立てをした者は、第七条第一項の規定にかかわらず、保全処分を求める事由を疎明しなければならない。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、職権で、事実の調査及び証拠調べをすることができる。

財産の管理者選任取消申立に対する認容、却下いずれの審判にも即時抗告は認められないことになります。

財産の管理者選任申立を却下する審判に対する即時抗告は認められません。

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