遺言執行者の同意を得た相続人の処分・・・

遺言執行者の同意を得た相続人の処分・・・

原告らと受遺者丙らとの間で、被相続人の相続財産のうち同人が所有していた不動産を除く現金、預金等の財産について、原告らは合計1600万円及び各自の相続税の支払を受ける代わりに、現金、預金から諸費用を差し引き相続財産に残余が生じても本件受遺者丙らに請求しない旨を合意し、遺言執行者も本件合意を承認し、本件合意に基づいて遺言執行者は原告らに合計金1600万円を支払い、原告らに課税された相続税を支払った事実等を総合すると原告らは合計金1600万円及び各自の相続税の支払を受ける代わりに、原告らが受遺者として本件遺言に基づき、あるいは相続人としてその財産を相続したことに基づき、それぞれが遺言執行者に対して引渡しを請求することができる被相続人の相続財産のうち現金、預金等の財産について、その請求を放棄する意思表示をしたと認定しました。

この合意の効力について、民法1013条により相続人が遺言執行者によって管理されるべき相続財産を処分した場合には、その処分行為は無効と解されるところ、本件遺言の解釈及び執行上の問題点を調整、解決するため、遺言執行者が働きかけてなされたものであるが、本件合意によって原告らが相続財産から取得する合計金1600万円及び相続税課税額の合計額が、本件遺言で原告らに遺贈された現金、預金から諸費用を差し引いた残額を超えるとすれば、本件遺言によって訴外丙らに遺贈された動産その他の財産が減少する結果となるから、本件合意及びこれに基づく金員の支払は、民法1013条に規定する相続人による相続財産の処分行為に該当すると解する余地はあるが、右民法の規定は、遺言者の意思を尊重すべきものとし、相続人の処分行為による相続財産の減少を防止して、遺言執行者をして遺言の公正な実現を図らせる目的に出たものであるから、右規定にいう相続人の処分行為に該当するかのごとく解せられる場合であっても、本件のように、相続人間の合意の内容が遺言の趣旨を基本的に没却するものでなく、かつ、遺言執行者が予めこれに同意したうえ、相続人の処分行為に利害関係を有する相続財産の受遺者との間で合意し、右合意に基づく履行として、相続人の処分行為がなされた場合には、もはや右規定の目的に反するものとはいえず、その効力を否定する必要はないと解せられるから、本件の合意は無効とはいえないとして、原告らの本件合意無効の主張を排斥しました。

(遺言執行者の権利義務)
民法第1012条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 第644条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。

(遺言の執行の妨害行為の禁止)
民法第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

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遺言執行の判例・・・

遺産分割の方法を指定した「相続させる」旨の遺言で指定された遺言執行者は、その遺言に反する共同相続人がした法定相続分による相続登記を右遺言の執行を妨げる行為としてその抹消登記手続を請求することができます。

相続登記をしたことによって抹消登記手続を請求せざるをえなくなり、そのために相続財産が支出した訴状貼用印紙代、弁護士報酬等の損害の賠償請求権は相続人に直接帰属するから、その損害賠償請求権の行使も相続人においてすべきであり、損害賠償請求の訴えについては遺言執行者は当事者適格を有しないとして却下されます。

被相続人は遺言書を遺して死亡し、その遺言には遺言執行者甲が指定され、就職しているが、相続人間で本件土地の遺産性につき争いがある場合、相続人乙は他の相続人丙に対して本件土地が相続財産に属しないことの確認訴訟を提起することは認められません。

この場合、丙がこの訴訟で敗訴すると遺言執行者に移された処分権限に抵触しこれを侵すことになるから、乙は遺言執行者甲を被告としてその所有権の存否を確定し、その判決の効力を相続人に及ぼさしめることによって紛争を解決すべきであるとされます。

遺言の執行について遺言執行者が指定され又は選任された場合においては、遺言執行者が相続財産の、又は遺言が特定財産に関するときはその特定財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し、相続人は相続財産ないしは右特定財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることはできないこととなるのであるから本訴のように、特定不動産の遺贈を受けた者がその遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記を求める訴えにおいて、被告としての適格を有する者は遺言執行者に限られるのであって、相続人はその適格を有しないとされます。

(遺言執行者の権利義務)
民法第1012条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 第644条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。

(遺言の執行の妨害行為の禁止)
民法第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

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遺言執行の判例2 ・・・

遺言執行者は、当該遺言にかかる財産の権利帰属その他遺言の執行の前提となる法律関係に関する訴訟において、その資格において自己の名をもって、他人のために当該訴訟の当事者となるから、遺言執行者が遺言執行中の場合は専ら遺言執行者だけが右訴訟の当事者適格を有し、相続人はその適格を有しないので、例えば、遺言執行の目的不動産につき被相続人の妻が他の共同相続人を被告として提起した被相続人の贈与を理由とする所有権移転登記請求の訴えは却下されます。

遺言執行者がある場合、受遺者は遺贈の目的物の所有権者として、その所有権に基づき、相続人によってなされた相続登記の抹消を請求できると解した事例があります。

相続人が遺言の執行としてなされた遺贈による所有権移転登記の抹消登記請求に先決問題である遺言の効力につき既判力のある判断を求めようとするときは、遺言執行者がある場合でも、右請求の相手方である受遺者を被告として請求することができるとした事例があります。

遺言執行者が第三債務者(倉庫会社)と倉庫賃貸借契約をして、遺言者所有の動産を同社の倉庫に管理保管している場合、遺言者の債務の連帯保証人が同債務を代位弁済し、遺言者の相続人に対する求償権を被保全権利として遺言執行者が第三債務者に対して有する倉庫契約上の動産引渡し請求権についてした仮差押命令に可否について、

①遺言執行者がある場合には、相続人の相続財産に対する管理処分権は排除されるから、相続人に対し金銭債権を有する債権者は、相続人に対する勝訴判決によって相続財産に対し強制執行をすることは許されないこと、

②被相続人に対し金銭債権を有する債権者は、遺言執行者を相手方として、相続財産の限度で金銭の支払を命じる給付訴訟を提起できること、このように解することは、遺言執行者は相続人の代理人とみなす規定に必ずしも反せず、むしろその趣旨と矛盾なく調和し、遺言執行者の地位によく適合すること、

③遺言執行者の権利義務の中には、被相続人の債権者の提起する給付訴訟に応訴し、執行債務者として行為する権限・義務も含まれること、

④相続債務は被相続人の死亡により法定相続分に従った分割債務として相続人に帰属するとしても、その実質は被相続人の負担する債務であることに変わりないこと、

⑤遺言執行者がある場合に相続人は相続財産の譲渡が禁止されるが、被相続人の債権者が相続財産に対し強制執行できないものではないこと、などの理由で申立が認められた事例があります。

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遺言執行者の適格・・・

未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができません。

(遺言執行者の欠格事由)
民法第1009条 未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。

それ以外に特に明文上の人的制限はありません。

相続人も推定相続人廃除のように絶対に相続人の資格と相容れない遺言の執行の場合は別として、遺言執行者となることができます。

相手方の遺言執行者に就任して訴えの取下げをしたことなどによる弁護士法に基づく懲戒処分を維持した事例があります。

原告は、甲から協議を受けて賛助をし、かつ、甲及び丙物産から依頼を受けてこれを承諾し訴訟代理人となったものとして、甲及び丙物産の相手方たる亡き乙の遺言執行者に就任することを回避すべき義務又は遺言執行者を辞任すべき義務があったというべきであるから、遺言執行者を辞任しないで、更に進んでA事件を取り下げるなどの行為をすることは、これが遺言執行者会議の決議に拘束されてしたものであっても、弁護士の品位を失うべき非行をしたものと解し、原告に対する弁護士法に基づく懲戒処分を維持した判決を相当とした事例があります。

自然人のほか、法人も事業目的に反しない限り遺言執行者になることができます。

信託会社等も、財産に関する遺言の執行者となることができます。

また、遺言執行者として市長又は市を指定することも有効とされています。

遺言執行者を指定する遺言は、遺言者の死亡の時に効力を生じます。

しかし、遺言執行者として指定された者がその職に就くか否かはその者の随意です。

(遺言の効力の発生時期)
民法第985条 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。

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