遺産分割審判の保全処分の審理・・・

遺産分割審判の保全処分の審理・・・

保全処分の審理は、原則として、本案審判の手続と同様に進められます。

申立が、手続要件を充足し、本案審判認容の蓋然性及び保全処分の必要性につき疎明があったとき、申立は認容されます。

保全処分の申立人は保全処分を求める事由を疎明しなければならず、家庭裁判所は補充的に事実の調査、証拠調べをします。

遺産分割審判事件を本案として、共同相続人が他の共同相続人に対し、遺産である不動産の共有持分の処分禁止を求める仮処分を認容するには、申立債権者が本案審判において当該不動産を取得する蓋然性及び申立権者の共有持分の処分を禁止する保全の必要性を要するところ、本件においては、申立債権者において寄与分があると認めるには足りず、申立債権者が当該不動産を取得する蓋然性について疎明がないとして、仮処分申立を認容した原審判を取消、これを却下した事例があります。

保全処分は、これを受ける者に告知されて効力を生じます。

申立人は申立却下の審判に対し、即時抗告をすることができます。

本案申立認容審判に対し即時抗告権を有する者は保全処分の審判に対し、即時抗告をすることができます。

相手方は、特定物の占有移転禁止等を命じた保全処分審判に対して、この目的物が第三者の所有に属することを理由に即時抗告することはできません。

保全処分の執行は、民事保全法その他の仮処分に執行に関する法令の規定に従って行ないます。

不動産又は動産に対する債務者の占有を解いて保管人の保管に付する仮処分の執行は、執行官が行ないます。

不動産の処分禁止の仮処分の執行はその旨の登記をする方法で行ないます。

保全処分の執行には、原則として執行文の付与を要しません。

保全処分は、保全処分が債権者に送達された日から2週間を経過したときは、その執行することができません。

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処分禁止の仮登記抹消・・・

所有権につき民事保全法第53条第1項の仮処分の登記後、債権者が債務者を登記義務者として所有権の登記を申請する場合、債権者は、単独で仮処分登記に後れる登記の抹消を申請することができます。

(不動産の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行)
民事保全法第53条 不動産に関する権利についての登記(仮登記を除く。)を請求する権利(以下「登記請求権」という。)を保全するための処分禁止の仮処分の執行は、処分禁止の登記をする方法により行う。
2 不動産に関する所有権以外の権利の保存、設定又は変更についての登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行は、前項の処分禁止の登記とともに、仮処分による仮登記(以下「保全仮登記」という。)をする方法により行う。
3 第47条第2項及び第3項並びに民事執行法第48条第2項、第53条及び第54条の規定は、前2項の処分禁止の仮処分の執行について準用する。

(仮処分の登記に後れる登記の抹消)
不動産登記法第百十一条  所有権について民事保全法 (平成元年法律第九十一号)第五十三条第一項 の規定による処分禁止の登記(同条第二項 に規定する保全仮登記(以下「保全仮登記」という。)とともにしたものを除く。以下この条において同じ。)がされた後、当該処分禁止の登記に係る仮処分の債権者が当該仮処分の債務者を登記義務者とする所有権の登記(仮登記を除く。)を申請する場合においては、当該債権者は、当該処分禁止の登記に後れる登記の抹消を単独で申請することができる。
2  前項の規定は、所有権以外の権利について民事保全法第五十三条第一項 の規定による処分禁止の登記がされた後、当該処分禁止の登記に係る仮処分の債権者が当該仮処分の債務者を登記義務者とする当該権利の移転又は消滅に関し登記(仮登記を除く。)を申請する場合について準用する。
3  登記官は、第一項(前項において準用する場合を含む。)の申請に基づいて当該処分禁止の登記に後れる登記を抹消するときは、職権で、当該処分禁止の登記も抹消しなければならない。

債権者が仮処分登記に後れる登記を抹消したときは、職権で、仮処分の登記が抹消されます。

債権者が債務者を登記義務者として仮処分に係る所有権の登記をしたが、仮処分登記に後れる登記がない場合に、職権で、仮処分の登記を抹消することができません。

このように、民事保全法第53条第1項の仮処分により保全された登記請求権に係る登記がされた場合に、不動産登記法第111条3項の規定による処分禁止の登記の抹消がされないときは、債権者は、保全執行裁判所の裁判所書記官に対し、その処分禁止の登記の抹消の嘱託をするよう申し立てることができます。

不動産に関する権利以外の権利(特許権、自動車所有権等)で、その処分の制限につき登記又は登録を対抗要件又は効力発生要件とするものについての登記(仮登記を除きます)又は登録(仮登録は除きます)を請求する権利を保全するためにされた仮処分についても同様です。

不動産に関する所有権以外の権利の保存、設定又は変更についての登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の登記は、本登記したとき、保全仮登記とともに、職権で抹消されます。

民事保全規則第48条に基づく処分禁止の登記等の抹消の嘱託の申立は、家事雑事件です。

(処分禁止の登記等の抹消の嘱託の申立て)
民事保全規則第四十八条 法第五十三条第一項の仮処分(同条第二項の仮処分を除く。)により保全された登記請求権に係る登記がされた場合において、)不動産登記法(平成十六法律第百二十三号)第百十一条第三項の規定による処分禁止の登記の抹消がされないときは、債権者は、保全執行裁判所の裁判所書記官に対し、その処分禁止の登記の抹消の嘱託をするよう申し立てることができる。
2 前項の規定は、法第五十四条の仮処分について準用する。

①申立権者

仮処分債権者です。

②管轄

保全執行裁判所です。

③添付書類

登記事項証明書、当事者目録、物権目録

④審理手続

裁判所書記官は、提出された登記事項証明書により、仮処分により保全された登記請求権に係る登記がされていること及び不動産登記法の規定による処分禁止の登記が抹消されていないことを確認し、処分禁止の登記の抹消を嘱託します。

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保全処分の原状回復審判・・・

審判前の保全処分に基づいて、債権者が物の引渡若しくは明渡若しくは金銭の支払を受け、又は物の使用若しくは保管をしているときは、裁判所は、債務者の申立により審判前の保全処分を取消す審判において、債権者に対し、債務者が使用若しくは保管をしている物の返還を命ずる原状回復の裁判をすることができます。

審判前の保全処分に対する即時抗告に基づき審判前の保全処分を取消す裁判においても、原状回復の裁判を申し立てることができます。

既に支払った金銭に関する原状回復の裁判は、審判前の保全処分の取消が、事情変更によるときは保全の必要性消滅後の分、当初から被保全権利がなかったときはその全額、についてされます。

家事審判法第15条の3第7項、民事保全法33条に基づく原状回復の裁判申立は、家事雑事件です。

家事審判法第15条の3 第9条の審判の申立てがあつた場合においては、家庭裁判所は、最高裁判所の定めるところにより、仮差押え、仮処分、財産の管理者の選任その他の必要な保全処分を命ずることができる。
2 前項の規定による審判(以下「審判前の保全処分」という。)が確定した後に、その理由が消滅し、その他事情が変更したときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。
3 前2項の規定による審判は、疎明に基づいてする。
4 前項の審判は、これを受ける者に告知することによつてその効力を生ずる。
5 第9条に規定する審判事件が高等裁判所に係属する場合には、当該高等裁判所が、第3項の審判に代わる裁判を行う。
6 審判前の保全処分(前項の裁判を含む。次項において同じ。)の執行及び効力は、民事保全法(平成元年法律第91号)その他の仮差押え及び仮処分の執行及び効力に関する法令の規定に従う。この場合において、同法第45条中「仮に差し押さえるべき物又は係争物の所在地を管轄する地方裁判所」とあるのは、「本案の審判事件が係属している家庭裁判所(その審判事件が高等裁判所に係属しているときは、原裁判所)」とする。
7 民事保全法第4条、第14条、第15条及び第20条から第24条までの規定は審判前の保全処分について、同法第33条及び第34条の規定は審判前の保全処分を取り消す審判について準用する。

(原状回復の裁判)
民事保全法第33条 仮処分命令に基づき、債権者が物の引渡し若しくは明渡し若しくは金銭の支払を受け、又は物の使用若しくは保管をしているときは、裁判所は、債務者の申立てにより、前条第1項の規定により仮処分命令を取り消す決定において、債権者に対し、債務者が引き渡し、若しくは明け渡した物の返還、債務者が支払った金銭の返還又は債権者が使用若しくは保管をしている物の返還を命ずることができる。

①申立権者

審判前の保全処分の債務者です。

②管轄

審判前の保全処分の取消申立を審理する裁判所です。

③添付書類

債権者が債務者から給付を受けていること、その他申立理由を疎明する資料

④審理手続

原状回復を求める裁判の申立は保全処分取消申立に付随して審理されます。

債務者は、申立の基礎づける事情について疎明義務を負います。

債務者は、原状回復を求める裁判の申立を却下する審判に対して、即時抗告することができます。

原状回復の審判は告知によって効力を生じます。

裁判所は、保全処分を取消す審判において、一定期間を経過しなければ審判の効力を生じない旨を宣言することができ、その期間は、審判の送達を受けた日から2週間をこえないものとされています。

債権者は、原状回復の審判に対して即時抗告をすることができますが、原状回復の審判に対して独立の不服申立はできず、原状回復の審判に対する不服を理由として保全処分取消の審判に対してするとされています。

原状回復の審判は給付の裁判ですから、これを得た債務者は、債務名義として執行文の付与を要しないで強制執行することができます。

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支払保証委託契約による立担保・・・

民事訴訟の担保又は強制執行停止若しくは仮差押、仮処分の保証は、支払保証委託契約を締結する方法によって供することができます。

民事執行法上の担保についても同様ですが、審判前の保全処分の保証も支払保証委託契約による方法によって供することができます。

支払保証委託契約を締結する方法によって担保を立てる場合において、担保提供義務者である申立人以外の第三者が保証委託者として契約を締結するときは、第三者は、担保提供義務者に代わって、銀行等に対し、担保提供義務者が担保権利者に対して損害賠償義務を負うに至ったときにこれを支払うことを委託するものであり、右契約によって銀行等が支払を約束する債務の内容や、担保権利者による権利行使の方法は、担保提供義務者自身が契約を締結した場合と何ら異なるものでなく、担保権利者である執行停止の相手方が銀行等に対して支払を請求するに当たり提示すべき債務名義又はその請求権の存在を確認する確定判決若しくはこれと同一の効力を有するものは、申立人本人を当事者として成立したものであることを要すると解されています。

支払保証委託契約を締結できる受託者は、銀行、損害保険会社、農林中央金庫、商工組合中央金庫、信用金庫、労働金庫です。

立担保を命じられた申立人が支払保証委託契約の方法によって担保を立てようとするときは、支払保証委託契約の方法によって担保を立てることの許可を申立て、裁判所が許可した場合、裁判所書記官は、許可決定の謄本を作成して申立人に交付します。

申立人は、許可決定の謄本を銀行等に提出して支払保証委託契約を締結します。

申立人は、銀行等から支払保証委託契約締結の証明書の交付を受け、これを裁判所に提出して保全処分の発令を受けます。

担保権利者が担保にかかる訴訟費用等の償還請求権を行使する場合には、被担保債権の確定を証明する書面を銀行等に提出して、銀行等から直接支払いを受けます。

この証明文書は、請求権についての債務名義又はその存在を確認した確定判決若しくはこれと同一の効力を有する調停調書等に限られています。

支払保証委託契約は、担保取消しの決定が確定した時に、その効力が消滅します。

申立人は、銀行等に支払保証委託原因消滅証明書を添えてその旨の届出をし、預金等の返還を受けます。

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