限定承認の弁済期未到来・・・
限定承認者(管理者)は、弁済期未到来の債権でも、次に①から④の順序で弁済することを要します。
①まず、先取特権・質権・抵当権・留置権者に、目的財産より優先順位に従って弁済し
②次に、期間内に申し出た債権者及び知れたる債権者に配当弁済し
③残余財産があるときは、申出受遺者、知れたる受遺者に配当弁済し
(受遺者に対する弁済)
民法第931条 限定承認者は、前2条の規定によって各相続債権者に弁済をした後でなければ、受遺者に弁済をすることができない。
④なお残余財産があるときは、期間内に申出のなかった債権者・受遺者に対して配当弁済します。
(期限前の債務等の弁済)
民法第930条 限定承認者は、弁済期に至らない債権であっても、前条の規定に従って弁済をしなければならない。
2 条件付きの債権又は存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済をしなければならない。
しかし、保証人は履行期が到来したものとして責任を負う必要はありません。
条件付債権又は存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済します。
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限定承認の相続財産の換価・・・
限定承認者(管理人)は、相続債務を弁済するために、相続財産を売却するときは競売手続によって換価しなければなりません。
(弁済のための相続財産の換価)
民法第932条 前3条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。
この競売手続には、担保権の実行としての競売手続に関する規定が準用されます。
限定承認の場合には先順位抵当権者等が自ら競売の申立をしないのは、現状では被担保債権の十全な満足を得ることができないため当該相続財産の価額の値上がりを待っているなどの事情があることが通常であり、先順位抵当権者等の右期待を無視して無剰余であるにもかかわらず限定承認手続を終了させるためだけの目的で相続財産の競売を進行させることは相当でないとして限定承認による相続財産の競売について無剰余取消の規定が適用されるとした事例があります。
表見相続人が被相続人の子であるものとしてなされた家督相続につき、相続の無効を主張できない者は、被相続人の妻が表見相続人の母(親権者)としてなした限定承認及び債務弁済のための競売申立につき、被相続人夫婦と表見相続人とは親子関係がなく、代理権がない者のなした不適法な行為であることを理由としてその効力を争うことはできないとされます。
競売によらない任意売却も有効と解されており、任意売却によって生じた相続債権者・受遺者の損害を賠償すれば足り、限定承認も無効となることはありません。
登記の実務は、限定承認の場合における相続財産管理人から相続人を代理してする相続財産の売買を原因とする所有権移転の登記の申請は、却下する取り扱いとされています。
この場合、民法932条の解釈上、相続財産管理人には代理権限はなく、相続人全員が登記義務者として申請すべきであり、相続財産管理人が申請するのであれば、他の相続人からの個別の委任が必要であるされています。
相続人は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価した価額を弁済して、愛着の深い相続財産などを競売によらずして取得することができます。
相続人が民法932条但書の価額弁済をした場合、持分移転の登記の申請は、相続財産管理人が、双方の法定代理人としてすべきものとされています。
この手続によって指し止めることができるのは、民法932条本文の規定に基づく競売ですから、抵当権の実行による競売まで阻止することはできません。
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限定承認の競売手続への参加 ・・・
相続債権者・受遺者は、相続財産の鑑定、競売の当否に多大の利害関係を有するので、自己の費用をもってその手続に参加することができ、参加請求をしたのにその参加を待たずに行なわれた鑑定・競売は参加請求人に対抗することができず、その結果生じた損害につき、参加請求人は限定承認者(管理人)に対して、その賠償を請求することができます。
(相続債権者及び受遺者の換価手続への参加)
民法第933条 相続債権者及び受遺者は、自己の費用で、相続財産の競売又は鑑定に参加することができる。この場合においては、第260条第2項の規定を準用する。
(共有物の分割への参加)
民法第260条 共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は、自己の費用で、分割に参加することができる。
2 前項の規定による参加の請求があったにもかかわらず、その請求をした者を参加させないで分割をしたときは、その分割は、その請求をした者に対抗することができない。
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限定承認の損害賠償責任・・・
限定承認者(管理人)は、民法927条の公告・催告を怠り、又は弁済にあたり民法に規定される所定の方法によらないで弁済したことにより債権者・受遺者に弁済することができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責任があります。
(相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告)
民法第927条 限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、2箇月を下ることができない。
2 前項の規定による公告には、相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし、限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。
3 限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない。
4 第1項の規定による公告は、官報に掲載してする。
この場合、右債権者・受遺者は、右の事情を知りながら弁済を受けた債権者・受遺者に対して求償することができます。
この損害賠償請求権、求償権は、損害を知った時から3年、不当な弁済が行なわれた時から20年を経過すると、時効により消滅します。
(不当な弁済をした限定承認者の責任等)
民法第934条 限定承認者は、第927条の公告若しくは催告をすることを怠り、又は同条第1項の期間内に相続債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。第929条から第931条までの規定に違反して弁済をしたときも、同様とする。
2 前項の規定は、情を知って不当に弁済を受けた相続債権者又は受遺者に対する他の債権者又は受遺者の求償を妨げない。
3 第724条の規定は、前2項の場合について準用する。
(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
民法第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。
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