限定承認の相続財産 仮登記財産・・・

限定承認の相続財産 仮登記財産・・・

死因贈与を原因とする始期付所有権移転仮登記後、被相続人死亡により相続人が限定承認をし、受贈者(相続人)が仮登記の本登記をした場合、死因贈与には遺贈の規定が準用されているうえ、死因贈与と遺贈とを別異に考えるべき合理的理由はないから相続人が死因贈与を受けた財産は相続によって得た財産に含まれ、死因贈与者は相続債権者に弁済がされた後でなければ受贈を得られないとした事例があります。

そして、相続人が限定承認をしても相続債権者は相続人が死因贈与を受けた不動産に対して「被相続人の相続財産の限定内において」強制執行できる旨の執行文によって強制執行することができます。

推定相続人が被相続人との間で被相続人所有の不動産について死因贈与を受ける契約を結びその仮登記を取得しても、一種の清算手続きである限定承認の手続では、右不動産を相続財産から離脱した財産であって受贈者の固有財産であると主張することはできず、右不動産は、民法922条の「相続によって得た財産」に該当し、相続債務の引き当てになり、相続債権者は右不動産について強制競売を申し立てることができます。

(限定承認)
民法第922条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

不動産の死因贈与の受贈者の相続人である場合において、限定承認がされたときは、死因贈与に基づく限定承認者への所有権移転登記が相続債権者による差押登記よりも先にされたとしても、信義則に照らし、限定承認者相続債権者に対して不動産の所有権取得を対抗することができません。

被相続人乙所有の土地につき、甲のため代物弁済による所有権移転請求権保全の仮登記がされた後、乙が死亡し、その相続人丙が限定承認した場合に、その後甲において所有権取得の登記をなしたときは、甲はその所有権の取得をもって乙の相続債権者に対抗することができます。

被相続人は生前所有不動産に抵当権を設定したが設定登記未了のうち死亡したので債権者が抵当権設定の仮登記を経由し、相続人が限定承認をした後、債権者が抵当権設定の本登記を請求した場合、限定承認の効果は相続開始の時に遡って生ずるので本登記をしてもこの抵当権は他の相続債権者に対抗することはできず、また、相続人は本登記請求に応ずれば単純承認をしたとみなされるのであるからこの請求に応ずる義務はないとした事例があります。

相続債権者は、被相続人から抵当権の設定を受けていても被相続人の死亡前に仮登記がされていた場合を除き、限定承認者、相続財産法人に対して抵当権設定登記手続きを請求することができないと解されています。

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限定承認の相続財産 生前売却財産・・・

被相続人は生前所有土地を売却したが所有権移転登記未了のうち死亡し、共同相続人が限定承認をしてもその中から相続財産の管理人が選任されている場合、買主は相続財産管理人に対しても登記なき不動産所有権を対抗することはできないとして所有権移転登記請求することができないと解されています。

(限定承認)
民法第922条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

(共同相続人の限定承認)
民法第923条 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

(限定承認の方式)
民法第924条 相続人は、限定承認をしようとするときは、第915条第1項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。

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相続財産の処分・保存 ・・・

限定承認の申述受理前、共同相続人の中に民法921条1号に該当する処分行為により法定単純承認をしたとみなされる者がある場合には、民法937条の適用はないとして、限定承認申述を却下した事例があります。

このような場合、他の共同相続人は単純承認か放棄を選択することになります。

(法定単純承認)
民法第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
1.相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
2.相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
3.相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

(法定単純承認の事由がある場合の相続債権者)
民法第937条 限定承認をした共同相続人の一人又は数人について第921条第1号又は第3号に掲げる事由があるときは、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について、当該共同相続人に対し、その相続分に応じて権利を行使することができる。

保存行為又は民法602条に定める期間を超えない賃貸行為は法定単純承認が擬制される相続人の相続財産処分から除外されます。

(短期賃貸借)
民法第602条 処分につき行為能力の制限を受けた者又は処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。
1.樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年
2.前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 5年
3.建物の賃貸借 3年
4.動産の賃貸借 6箇月

相続人が被相続人死亡を知った以後において相続人が同人設立の会社に被相続人所有の物件を使用させた場合、民法921条1号本文但書所定の保存行為の範囲を超えるものではないとした事例があります。

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相続の限定承認申述受理審判手続・・・

家庭裁判所は申述を受理するときは、申述書にその旨を記載して家事審判官が書名または記名して押印します。

申述受理の審判には不服申立をすることはできません。

訴訟で限定承認の効力を争うことはできます。

家庭裁判所は申述を不相当と認めるときは、却下の審判をして申述人に告知します。

申述人は却下の審判に対して即時抗告をすることができます。

申述が受理された後は、公告又は催告の手続及び競売の手続を怠ったとしてもその効力に影響はないとされます。

(相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告)
民法第927条 限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、2箇月を下ることができない。
2 前項の規定による公告には、相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし、限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。
3 限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない。
4 第1項の規定による公告は、官報に掲載してする。

相続債権者の限定承認相続人に対する、限定承認の清算手続きを実施するに当たり、本件連帯保証債務の存在を認識していなかったとしても、これを認識していなかったことに過失があるとする民法934条1項の損害賠償請求に対して、その根拠規定である民法79条3項が個別に請求の申出を催告する対象を「知れたる債権者」としていることからすると、民法934条1項の損害賠償責任を負うのは、相続の限定承認に基づく清算手続きの実施の時点において、限定承認者が相続債権者あるいは受遺者であると認識していたにもかかわらず、あえて当該債権者等に対し個別の催告をせず、または、失念あるいは法律の規定の不知により個別の催告を怠ったような場合に限られると解すべきであり、限定承認により相続人の責任が軽減され、あるいは官報への公告の周知性が極めて低いことなどからすると、限定承認者は相続債権者を調査のうえ、催告をする注意義務を負う旨の原告の主張は、前記条文の文言に反するし、官報への公告の周知の方法がとられているにもかかわらず、重ねてそのような注意義務を一般的に相続人に課すこと自体相当でないとして、その主張を採用しなかった事例があります。

(不当な弁済をした限定承認者の責任等)
民法第934条 限定承認者は、第927条の公告若しくは催告をすることを怠り、又は同条第1項の期間内に相続債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。第929条から第931条までの規定に違反して弁済をしたときも、同様とする。
2 前項の規定は、情を知って不当に弁済を受けた相続債権者又は受遺者に対する他の債権者又は受遺者の求償を妨げない。
3 第724条の規定は、前2項の場合について準用する。

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