遺留分減殺請求の権利の濫用・・・

遺留分減殺請求の権利の濫用・・・

遺留分の減殺請求が信義誠実の原則に反し、権利の濫用に当たるとして認められなかった事例があります。

①相続人Aが被相続人及び相続人Bに対してなした「本件土地の所有権を相続人Bに単独で相続させることを認め、相続人Aは本件土地につき権利を主張しない」旨の意思表示は、相続開始前になされた相続分ないし遺留分の放棄の意思表示に該当すると解すべきところ、

②遺留分の放棄について家庭裁判所の許可の審判を経ていないが、認定の事実関係からすれば、もしその放棄についての許可審判の申立がされていれば、当然にその許可がなされるべき事案であったと認められること、

③もし、被相続人の相続人Bに対する本件遺贈につき相続人Aの遺留分の減殺請求が認められ、本訴請求が認容されると相続人Bには、本件遺贈の目的物の価額を弁償することによってその返還義務を免れるだけの資力はないから、結局相続人Bは本件土地及び本件土地上に建築した本件建物を処分せざるを得ないことになり、同人が予期しなかった多大の損害を被ることになることは必定であること、

④以上の事情を総合して考察すると、相続人Aの遺留分減殺の請求は、信義誠実の原則に反するものであり、権利の濫用に当たるといわざるを得ないから、本訴請求は認容できないとしました。

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遺留分減殺請求と時効・・・

受贈者は贈与による取得時効を援用しても、減殺者への権利の帰属を妨げられるものではないとされています。

被相続人がした贈与が遺留分減殺の対象としての要件を満たす場合には、遺留分権利者の減殺請求により、贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者が取得した権利は右の限度で当然に右遺留分権利者に帰属するに至るのであり、受贈者が右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法162条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、それによって遺留分権利者への権利の帰属が妨げられるものではないとされています。

(所有権の取得時効)
民法第162条 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

遺留分権利者が遺贈の無効を信じていたため、遺留分減殺請求をしなかったことが、もともと肯定しえる特段の事情が認められないとして、遅くとも右遺贈に係る遺言無効確認訴訟の一審敗訴の判決時から減殺請求権の消滅時効の進行が開始するとされた事例があります。

(減殺請求権の期間の制限)
民法第1042条 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。

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遺留分の時効の贈与・遺贈があったことを知った時 ・・・

遺留分の減殺請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び贈与又は遺贈のあったことを知った時から、1年間行使しないときは、時効によって消滅します。

相続開始の時から10年間経過したときも同様です。

(減殺請求権の期間の制限)
民法第1042条 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。

被告が遺言書の検認手続において遺言の存在を知ったとしても、原告の遺贈の主張に対して遺言の効力を争っており、しかも、遺言の効力のついて確定判決が存在するわけでもない以上、いまだ、被告は民法1042条にいう「減殺すべき贈与又は遺贈があったとことを知った」ということはできないとした事例があります。

民法1042条にいう「減殺すべき贈与のあったことを知った時」とは、贈与の事実及びこれが減殺できるものであることを知った時をいい、遺留分権利者が減殺すべき贈与の無効を訴訟上主張していても、被相続人の財産のほとんど全部が贈与されたことを認識していたときは、その無効を信じていたため遺留分減殺請求権を行使しなかったことにもっともと認められる特段の事情のない限り、右贈与が減殺できるものであることを知っていたとするのが相当であるとされます。

そして、予備的にでも遺留分減殺請求権の行使は通常容易であること及び民法1042条が短期の消滅時効を規定して法律関係の早期安定を図った趣旨に照らすと、ここでいう「知った」とは的確に知ったことまでも要するものではなく、未必的に知ったときでも足りるとされます。

未必的(みひつてき)とは、必ずしも存在するとは限らないが、可能性としては存在する信用、をいいます。

遺留分権利者が訴訟上の贈与の無効を主張しているが、全く根拠のない単なるいいがかりにすぎないことが明らかであるときは、「減殺すべき贈与」を知っていたものとされます。

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遺留分の時効の起算点・・・

贈与の有効性が遺産分割審判で争われている場合、その審判において贈与が真正にされたとの判断があった時をもって時効の起算点とした事例があります。

贈与の事実が訴訟上争われている場合、贈与登記の抹消登記請求棄却の判決言い渡しの時に減殺すべき贈与のあったことを知ったものとし、この時より減殺請求権の時効は進行を始めたと解した事例があります。

贈与無効を原因として所有権移転登記の抹消登記を請求した者が贈与の事実を認定する敗訴の一審判決を受けた場合、右判決に控訴したとしてもその者は一審判決によって減殺すべき贈与があったことを知ったものとして、この時から時効期間は進行します。

遺留分権利者が贈与無効を理由として目的物の返還請求訴訟において、相手側の訴訟代理人が「贈与が仮に無効であるとするならば、右返還請求は民法708条により許されない」旨の抗弁を提出したころ、遺留分権利者の訴訟代理人は、本件贈与が減殺すべき贈与であることを知り又は知るべきであったとされ、この効果は、遺留分権利者にも及ぶとした事例があります。

(不法原因給付)
民法第708条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。

全遺産の遺贈に関し、相続人ABは受遺者に対抗すべき方策を協議し、AはBと共にあるいはBを通じて弁護士と相談している場合、Aは遅くともBが受遺者を相手方として遺留分保全の家事調停を申し立てた当時、本件遺贈が減殺すべき遺贈であることを知ったものと認めるとした事例があります。

控訴人は、本件遺言が有効であるとして遺言失効者の請求を認容する第一審判決が言渡され、その直後に右判決が送達された際に右遺贈が減殺することのできるものであることを知ったものと推認されるところ、控訴人が遺留分減殺の意思表示をしたのは第一審判決が言渡しがあった直後ころとは1年間を超えていることは明らかであり、控訴人の遺留分減殺請求権は時効により消滅したとした事例があります。

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