限定承認の財産目録・・・
相続財産の目録を限定承認申述書に添えて家庭裁判所に提出するのは、債務の引当となるべき財産の範囲を明確にして、相続人の固有財産との混合を防止し、後日の不正行為の予防を図り、相続債権者及び受遺者の利益を保護を期するためといわれています。
相続財産目録には、調製の場所、年月日及びその事由、申述人の住所、氏名、不動産の表示、動産の種類及び数量、債権の表示、債務の表示、帳簿その他の書類等を記載し、相続人が署名、押印します。
財産目録に登載すべき財産とは、被相続人の所有した一般的経済価額を有するものをいいます。
財産目録を調製する場合、相続人が、悪意で相続財産の全部又は一部を目録に記載しなかったときは、限定承認は無効となります。
(法定単純承認)
民法第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
1.相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
2.相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
3.相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
消極財産の不記載も利害関係人の権利義務に影響を及ぼすので法定単純承認事由に該当するとされています。
相続人が被相続人と疎遠な関係であったために相続財産の内容を覚知できないことがあります。
この場合、相続人が調査したにもかかわらず、積極財産も消極財産もともに不明のときは、申述書にその旨を付記すれば足りるとして、財産目録の提出のない申述を受理した事例があります。
限定承認の申述受理後に財産目録の脱漏を発見したときは、その追加補正を受理する取り扱いとなっています。
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限定承認の公告・・・
限定承認者は限定承認に申述が受理されてから5日以内に、いっさいの相続債権者及び受遺者に対し、限定承認したこと及び定められた期間に請求の申出をすべきことと、期間内に申出をしないときは清算から除斥される旨を公告しなければなりません。
財産管理人の場合は、選任審判の告知を受けてから10日以内に公告しなければなりません。
(相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告)
民法第927条 限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、2箇月を下ることができない。
2 前項の規定による公告には、相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし、限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。
3 限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない。
4 第1項の規定による公告は、官報に掲載してする。
知れたる債権者・受遺者には、各別に申出を催告します。
原告は、被相続人甲が金融を受けるためAに交付した約束手形につき手形上の権利を取得したとしてその支払を求めたが、甲は原告が正当な手形所持人でない(盗難)として支払を拒絶し、その後死亡したので、相続人は相続を限定承認しました。
管理人が原告に対し個別の請求申出の催告をしなかった点について、裁判所は、振出行為に欠けるところがない場合、その後手形が盗まれたにせよ振出行為が不成立又は無効となるものではないとしたうえで、甲が手形債務を争っている以上その相続人がこれにならうのは止むを得ないことで、その限定承認にあたり、原告を債権者と認めず、これに個別の債権申出の催告をしなかったのをとがめることはできないとし、民法927条2項にいう「知れたる債権者」とは、相続人が認めている債権者を意味し、相続人が認めない原告のような債権者には、個別に申出を催告する必要はないと解しました。
原告は、公告の催告期間内に債権の申出をしていないから、次の者に弁済した残りの財産についてのみその権利を行なうことができるとしました。
①催告期間内に申し出た債権者、受遺者
②申出なくとも相続人に知れた債権者、受遺者
③特別担保権者
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限定承認の公告の官報掲載 ・・・
公告は官報に掲載します。
公告を5日又は10日以内に、官報に掲載することは事実上不可能な場合が多いため、限定承認者又は財産管理人は、限定承認申述受理の告知があった日の翌日から起算して期間内に官報掲載の手続をとればよいと解されています。
公告の申込は、最寄の官報販売所に行ないます。
この公告・催告の費用は、相続財産が負担します。
限定承認者又は財産管理人が公告を怠り、それによって相続債権者若しくは受遺者に弁済することができなくなったときは、限定承認者又は財産管理人は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うことになります。
(不当な弁済をした限定承認者の責任等)
民法第934条 限定承認者は、第927条の公告若しくは催告をすることを怠り、又は同条第1項の期間内に相続債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。第929条から第931条までの規定に違反して弁済をしたときも、同様とする。
2 前項の規定は、情を知って不当に弁済を受けた相続債権者又は受遺者に対する他の債権者又は受遺者の求償を妨げない。
3 第724条の規定は、前2項の場合について準用する。
(相続人が数人ある場合の相続財産の管理人)
民法第936条 相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の相続財産の管理人は、相続人のために、これに代わって、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3 第926条から前条までの規定は、第1項の相続財産の管理人について準用する。この場合において、第927条第1項中「限定承認をした後5日以内」とあるのは、「その相続財産の管理人の選任があった後10日以内」と読み替えるものとする。
相続債権者の限定承認相続人に対する、限定承認の清算手続きを実施するに当たり、本件連帯保証債務の存在を認識していなかったとしても、これを認識していなかったことに過失があるとする民法934条1項の損害賠償請求が、個別に請求の申出を催告する対象を「知れたる債権者」としていることからすると、相続の限定承認に基づく清算手続きの実施の時点において、限定承認者が相続債権者あるいは受遺者であると認識していたにもかかわらず、あえて当該債権者等に対し個別の催告をせず、又は、失念あるいは法律の規定の不知により個別の催告を怠ったような場合に限られると解すべきであり、限定承認により相続人の責任が軽減され、あるいは官報への公告の周知性が極めて低いことなどからすると、限定承認者は相続債権者を調査のうえ、催告をする注意義務を負う旨の原告の主張は、前記条文の文言に反するし、官報への公告の周知の方法がとられているにもかかわらず、重ねてそのような注意義務を一般的に相続人に課すこと自体相当でないとして、その主張を採用しなかった事例があります。
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限定承認の相続債権者の請求・・・
限定承認者は、公告・催告期間の満了前は、相続債権者・受遺者に対して弁済を拒むことができます。
(公告期間満了前の弁済の拒絶)
民法第928条 限定承認者は、前条第1項の期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。
(相続人が数人ある場合の相続財産の管理人)
民法第936条 相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の相続財産の管理人は、相続人のために、これに代わって、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3 第926条から前条までの規定は、第1項の相続財産の管理人について準用する。この場合において、第927条第1項中「限定承認をした後5日以内」とあるのは、「その相続財産の管理人の選任があった後10日以内」と読み替えるものとする。
限定承認した相続人に対する相続債権者の相続債務の請求には、相続財産の限度において弁済すべき旨を留保した上で、その全額について給付判決をします。
右判決が確定しているときは、債権者は相続人に対し、後訴によって、右判決の基礎となる事実審の口頭弁論終結時以前に存在した限定承認と相容れない事実を主張して、右債権のつき無留保の判決を求めることはできません。
被相続人は生前所有不動産に抵当権を設定したが設定登記未了のうち死亡したので債権者が抵当権設定の仮登記を経由し、相続人が限定承認をした後、債権者が抵当権設定の本登記を請求した場合、限定承認の効果は相続開始の時に遡って生ずるので本登記をしてもこの抵当権は他の相続債権者に対抗することはできず、また、相続人は本登記請求に応ずれば単純承認したとみなされるのであるからこの請求に応ずる義務はないとした事例があります。
(公告期間満了後の弁済)
民法第929条 第927条第1項の期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産をもって、その期間内に同項の申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に、それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。
「優先権を有する債権者の権利」に当たるというためには、対抗要件を必要とする権利については、被相続人の死亡の時までに対抗要件を具備していることを要し、相続人が存在しない場合、相続債権者は、被相続人からその生前に抵当権の設定を受けていたとしても、被相続人の死亡の時点において設定登記がされていなければ、他の相続債権者及び受遺者に対して抵当権に基づく優先権を主張できないし、被相続人の死亡後に設定登記がされたとしても、これによって優先権を取得することはないとされています。
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