限定承認で残余財産がある場合・・・
相続債権者・受遺者に弁済して、なお残余財産があるとき、その財産は、限定承認者のときはその固有財産と混合し、相続人が数人のときは遺産分割の手続によってその帰属が決定されます。
民法926条2項又は936条3項の管理人が選任されている場合には、財産管理処分の取消、管理終了の報告を行ないます。
(限定承認者による管理)
民法第926条 限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。
2 第645条、第646条、第650条第1項及び第2項並びに第918条第2項及び第3項の規定は、前項の場合について準用する。
(相続人が数人ある場合の相続財産の管理人)
民法第936条 相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の相続財産の管理人は、相続人のために、これに代わって、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3 第926条から前条までの規定は、第1項の相続財産の管理人について準用する。この場合において、第927条第1項中「限定承認をした後5日以内」とあるのは、「その相続財産の管理人の選任があった後10日以内」と読み替えるものとする。
相続人が相続を承認して自ら相続財産を管理することができるようになったとき、管理人を選任した家庭裁判所は、相続人又は利害関係人の申立によって、命じた処分を取消すことになります。
この申立は、家事雑事件として立件されます。
この管理処分取消の審判は、事情の変更を理由にしてされるものであって、その効力は将来に向かってのみ生じ、遡及効はありません。
管理中管理人が第三者に対してした行為及び第三者が管理人に対してした行為は、相続人に対してその効力を有します。
また、相続人が相続を承認して自ら相続財産を管理することができるようになったとき、管理人は相続人に対して、相続財産を引き渡し、かつ、相続財産の収支を計算してその結果を相続人に報告しなければなりません。
家庭裁判所にも計算書を添付して、管理終了の報告をします。
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限定承認の法定単純承認事由・・・
限定承認した共同相続人の中に、民法921条に掲げる法定単純承認事由があるときは、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について、その者の相続分に応じてその固有財産に権利を行なうことができます。
(法定単純承認)
民法第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
1.相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
2.相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
3.相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
(法定単純承認の事由がある場合の相続債権者)
民法第937条 限定承認をした共同相続人の一人又は数人について第921条第1号又は第3号に掲げる事由があるときは、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について、当該共同相続人に対し、その相続分に応じて権利を行使することができる。
この場合、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときとは、次の場合に分かれます。
①相続の承認・放棄前に共同相続人の一部の者が相続財産を処分した場合をいい、このような場合も共同相続人全員は限定承認をする権利を失わないとする見解。
②相続の承認・放棄前に共同相続人の一部の者が相続財産を処分し、この処分が限定承認の申述受理後に判明した場合をいい、申述受理前に右の処分が判明しているとき、家庭裁判所はこの申述を受理すべきではないとする見解
後者による実例があります。
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限定承認の鑑定人選任審判 ・・・
限定承認があると、被相続人に属した一切の権利義務は相続開始と同時に限定承認者に移り、相続人は相続財産の限度において相続債務弁済等の責任を負い、その清算手続が行なわれることになります。
相続財産中条件付債務又は存続期間の不確定な債務は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、これを弁済しなければならないとされています。
民法930条2項に基づく限定承認者が条件付債務又は存続期間の不確定な債務を弁済する場合の鑑定人選任の申立は、甲類審判事件です。
(期限前の債務等の弁済)
民法第930条 限定承認者は、弁済期に至らない債権であっても、前条の規定に従って弁済をしなければならない。
2 条件付きの債権又は存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済をしなければならない。
民法936条3項に基づき、相続財産管理人がこれらの債務を弁済する場合における鑑定人選任も同様に解します。
(相続人が数人ある場合の相続財産の管理人)
民法第936条 相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の相続財産の管理人は、相続人のために、これに代わって、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3 第926条から前条までの規定は、第1項の相続財産の管理人について準用する。この場合において、第927条第1項中「限定承認をした後5日以内」とあるのは、「その相続財産の管理人の選任があった後10日以内」と読み替えるものとする。
①申立権者
限定承認者、相続財産管理人など、相続財産の清算手続を主宰する権限を有する者です。
②管轄
相続開始地の家庭裁判所です。
③添付書類
申立人・被相続人・相続人の戸籍謄本
限定承認申述受理証明書
相続財産管理人選任の審判書謄本
債権目録
④審判手続
鑑定人は、限定承認者の弁済すべき価額を決定するために選任されるものですから、家庭裁判所は鑑定を命じたり、鑑定の結果を提出させたり、鑑定に要した費用の支払を命じたりする必要はなく、単に評価すべき物件を特定して鑑定人を選任すれば足ります。
鑑定人の意見の聴取については明文の規定はありませんが、鑑定人の適否を調査し、鑑定の内容を説明して就職の諾否いかんを確かめるためには、選任前に審問を行なうことは差し支えないといわれています。
家庭裁判所は、申立を相当と認めるときは、鑑定人を選任する審判をし、その審判は告知により効力を生じます。
選任の審判・却下の審判のどちらに対しても不服の申立の規定はありません。
選任の審判に基づき鑑定人に鑑定を依頼する者及び鑑定結果を報告すべき相手方は、家庭裁判所ではなく、選任申立権を有する者です。
評価未了のうちに鑑定人が辞任の届出をしたときは、家庭裁判所は職権をもって別の鑑定人を選任することができるものと解されます。
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限定承認の競売差止めの鑑定人選任審判・・・
相続債権者や受遺者に弁済するため相続財産を売却する必要が生じた場合は競売の方法によらなければなりませんが、相続財産中家宝のようなものを手元に残したいという相続人は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができます。
(弁済のための相続財産の換価)
民法第932条 前3条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。
抵当権実行による競売の差止めはできません。
不動産の価格弁済をした相続人は、法定相続分による共同相続登記をした上で、他の共同相続人の持分につき「民法932条但書の価額弁済」を登記原因として持分移転の登記申請をすることができます。
民法932条の但書に基づく限定承認者が相続財産の競売を差し止める場合における相続財産評価の鑑定人選任の申立は、甲類審判事項です。
①申立権者
限定承認者、相続財産管理人、相続人です。
②管轄
相続開始地の家庭裁判所です。
③添付書類
申立人・被相続人・相続人の戸籍謄本
財産目録
限定承認申述受理証明書
不動産登記簿謄本
④審判手続
鑑定人は、限定承認者の弁済すべき価額を決定するために選任されるものですから、家庭裁判所は鑑定を命じたり、鑑定の結果を提出させたり、鑑定に要した費用の支払を命じたりする必要はなく、単に評価すべき物件を特定して鑑定人を選任すれば足ります。
鑑定人の意見の聴取については明文の規定はありませんが、鑑定人の適否を調査し、鑑定の内容を説明して就職の諾否いかんを確かめるためには、選任前に審問を行なうことは差し支えないといわれています。
動産、不動産評価のため、複数の鑑定人を選任することもできます。
家庭裁判所は、申立を相当と認めるときは、鑑定人を選任する審判をし、その審判は告知により効力を生じます。
選任の審判・却下の審判のどちらに対しても不服の申立の規定はありません。
評価未了のうちに鑑定人が辞任の届出をしたときは、家庭裁判所は職権をもって別の鑑定人を選任することができるものと解されます。
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