相続財産管理人の債務弁済と時効・・・

相続財産管理人の債務弁済と時効・・・

管理人が時効取得に基づく所有権移転登記の登記義務者となる行為は、その時効完成が相続開始の前後を問わず、管理人の権限内の行為であるとされています。

(所有権の取得時効)
民法第162条 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

(所有権以外の財産権の取得時効)
民法第163条 所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い20年又は10年を経過した後、その権利を取得する。

(占有の中止等による取得時効の中断)
民法第164条 第162条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。

民法第165条 前条の規定は、第163条の場合について準用する。

その理由として、管理人が相続財産に属する債務の弁済をすることは、その権限内の行為であると解されるから、時効の完成が相続の前であると後であるとを問わず時効取得に基づく所有権移転登記の登記義務者となる行為も、債務の弁済に準じ、管理人の権限内の行為として、家庭裁判所の許可を受けることを要しないとされています。

ただし、管理人としては、相続財産管理の趣旨に従い、善良なる管理者の注意をもって管理事務を処理する義務を負い、もしこの義務に違反したときにはその責任を追及されることになるので、時効完成の有無及び時効中断の必要性の判断をするについては、特に慎重でなければならないとされています。

(受任者の注意義務)
民法第644条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

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相続財産管理人の相続人捜索公告・・・

民法957条による公告期間満了後、なお、相続人のあることが不分明のときは、管理人は家庭裁判所に対して、相続人捜索の公告を請求します。

(相続人の捜索の公告)
民法第958条 前条第1項の期間の満了後、なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、相続財産の管理人又は検察官の請求によって、相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、6箇月を下ることができない。

家事審判法第9条 家庭裁判所は、次に掲げる事項について審判を行う。
甲類
1.民法(明治29年法律第89号)第7条及び第10条の規定による後見開始の審判及びその取消し
2.民法第11条、第13条第2項及び第3項、第14条並びに第876条の4第1項及び第3項の規定による保佐開始の審判、その取消しその他の保佐に関する処分
2の2.民法第15条第1項、第17条第1項及び第3項、第18条、第876条の9第1項並びに同条第2項において準用する同法第876条の4第3項の規定による補助開始の審判、その取消しその他の補助に関する処分
2の3.民法第19条の規定による後見開始、保佐開始又は補助開始の審判の取消し
3.民法第25条から第29条までの規定による不在者の財産の管理に関する処分
4.民法第30条及び第32条第1項の規定による失踪の宣告及びその取消し
5.民法第775条の規定による特別代理人の選任
6.民法第791条第1項又は第3項の規定による子の氏の変更についての許可
7.民法第794条又は第798条の規定による養子をするについての許可
7の2.民法第811条第5項の規定による未成年後見人となるべき者の選任
8.民法第811条第6項の規定による離縁をするについての許可
8の2.民法第817条の2及び第817条の10の規定による縁組及び離縁に関する処分
9.民法第822条又は第857条(同法第867条第2項において準用する場合を含む。)の規定による懲戒に関する許可その他の処分
10.民法第826条(同法第860条において準用する場合を含む。)の規定による特別代理人の選任
11.民法第830条第2項から第4項まで(同法第869条において準用する場合を含む。)の規定による財産の管理者の選任その他の財産の管理に関する処分
12.民法第834条から第836条までの規定による親権又は管理権の喪失の宣告及びその取消し
13.民法第837条の規定による親権又は管理権を辞し、又は回復するについての許可
14.民法第840条、第843条第1項から第3項まで(同法第876条の2第2項及び第876条の7第2項において同法第843条第2項及び第3項の規定を準用する場合を含む。)、第849条、第849条の2、第876条の2第1項、第876条の3第1項、第876条の7第1項又は第876条の8第1項の規定による後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人の選任
15.民法第844条(同法第852条、第876条の2第2項、第876条の3第2項、第876条の7第2項及び第876条の8第2項において準用する場合を含む。)の規定による後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人の辞任についての許可
16.民法第846条(同法第852条、第876条の2第2項、第876条の3第2項、第876条の7第2項及び第876条の8第2項において準用する場合を含む。)の規定による後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人の解任
17.民法第853条第1項ただし書(同法第856条及び第867条第2項において準用する場合を含む。)の規定による財産の目録の作成の期間の伸長
18.民法第859条の2第1項及び第2項(これらの規定を同法第852条、第876条の3第2項、第876条の5第2項、第876条の8第2項及び第876条の10第1項において準用する場合を含む。)の規定による数人の成年後見人、成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人の権限の行使についての定め及びその取消し
19.民法第859条の3(同法第852条、第876条の3第2項、第876条の5第2項、第876条の8第2項及び第876条の10第1項において準用する場合を含む。)の規定による成年被後見人、被保佐人又は被補助人の居住用不動産の処分についての許可
20.民法第862条(同法第852条、第867条第2項、第876条の3第2項、第876条の5第2項、第876条の8第2項及び第876条の10第1項において準用する場合を含む。)の規定による後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人に対する報酬の付与
21.民法第863条(同法第867条第2項、第876条の5第2項及び第876条の10第1項において準用する場合を含む。)の規定による後見、保佐又は補助の事務の報告、財産の目録の提出、当該事務又は財産の状況の調査、財産の管理その他の当該事務に関する処分
22.民法第870条ただし書(同法第876条の5第3項及び第876条の10第2項において準用する場合を含む。)の規定による管理の計算の期間の伸長
22の2.民法第876条の2第3項又は第876条の7第3項の規定による臨時保佐人又は臨時補助人の選任
23.民法第895条の規定による遺産の管理に関する処分
24.民法第915条第1項ただし書の規定による相続の承認又は放棄の期間の伸長
25.民法第918条第2項及び第3項(これらの規定を同法第926条第2項、第936条第3項及び第940条第2項において準用する場合を含む。)の規定による相続財産の保存又は管理に関する処分
25の2.民法第919条第4項の規定による相続の限定承認又は放棄の取消しの申述の受理
26.民法第924条の規定による相続の限定承認の申述の受理
27.民法第930条第2項(同法第947条第3項、第950条第2項及び第957条第2項において準用する場合を含む。)、第932条ただし書(同法第947条第3項及び第950条第2項において準用する場合を含む。)又は第1029条第2項の規定による鑑定人の選任
28.民法第936条第1項の規定による相続財産の管理人の選任
29.民法第938条の規定による相続の放棄の申述の受理
30.民法第941条第1項又は第950条第1項の規定による相続財産の分離に関する処分
31.民法第943条(同法第950条第2項において準用する場合を含む。)の規定による相続財産の管理に関する処分
32.民法第952条及び第953条又は第958条の規定による相続財産の管理人の選任その他相続財産の管理に関する処分
32の2.民法第958条の3第1項の規定による相続財産の処分
33.民法第976条第4項又は第979条第3項の規定による遺言の確認
34.民法第1004条第1項の規定による遺言書の検認
35.民法第1010条の規定による遺言執行者の選任
36.民法第1018条第1項の規定による遺言執行者に対する報酬の付与
37.民法第1019条の規定による遺言執行者の解任及び遺言執行者の辞任についての許可
38.民法第1027条の規定による遺言の取消し
39.民法第1043条第1項の規定による遺留分の放棄についての許可
乙類
1.民法第752条の規定による夫婦の同居その他の夫婦間の協力扶助に関する処分
2.民法第758条第2項及び第3項の規定による財産の管理者の変更及び共有財産の分割に関する処分
3.民法760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担に関する処分
4.民法第766条第1項又は第2項(これらの規定を同法第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護者の指定その他子の監護に関する処分
5.民法第768条第2項(同法第749条及び第771条において準用する場合を含む。)の規定による財産の分与に関する処分
6.民法第769条第2項(同法第749条、第751条第2項、第771条、第808条第2項及び第817条において準用する場合を含む。)又は第897条第2項の規定による同条第1項の権利の承継者の指定
6の2.民法第811条第4項の規定による親権者となるべき者の指定
7.民法第819条第5項又は第6項(これらの規定を同法第749条において準用する場合を含む。)の規定による親権者の指定又は変更
8.民法第877条から第880条までの規定による扶養に関する処分
9.民法第892条から第894条までの規定による推定相続人の廃除及びその取消し
9の2.民法第904条の2第2項の規定による寄与分を定める処分
10.民法第907条第2項及び第3項の規定による遺産の分割に関する処分
2 家庭裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に家庭裁判所の権限に属させた事項についても、審判を行う権限を有する。

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相続財産管理人 残余財産の国庫帰属 ・・・

民法958条の3の規定によって処分されなかった相続財産は、国庫に帰属し、管理人は遅滞なく管理の計算書を家庭裁判所に提出します。

(特別縁故者に対する相続財産の分与)
民法第958条の3 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第958条の期間の満了後3箇月以内にしなければならない。

(残余財産の国庫への帰属)
民法第959条 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第956条第2項の規定を準用する。

(相続財産の管理人の代理権の消滅)
民法第956条 相続財産の管理人の代理権は、相続人が相続の承認をした時に消滅する。
2 前項の場合には、管理人は、遅滞なく相続人に対して管理の計算をしなければならない。

被相続人は法定の推定家督相続人なくして死亡し、家督相続人の指定又は選定の手続がされていない場合、民法の相続人の不存在の手続を経ない以上相続財産は国庫に帰属することはないとして、被相続人所有の土地を時効取得したと称する者の国を被告とする所有権移転登記請求を却下した事例があります。

土地売主が所有権移転登記未了のまま死亡してその相続人が不存在の場合、当該所有権移転登記請求は被相続人の相続財産の管理人又は急を要し遅滞のため損害を受けるおそれのある場合は右相続財産のため特別代理人の選任を得たうえ右相続財産を被告として訴えを提起すべきであって、控訴人主張のように、無主の不動産は国庫の所有に属し、国が本件土地の登記簿上の名義人たる地位を被相続人から承継している旨の主張は、本件土地が控訴人所有である旨の主張と矛盾するものであって、国が本訴請求の被告としての正当な当事者適格を有する事由となし難いとした事例があります。

土地賃借権の国庫帰属は、相続ではなく民法959条の特別規定によるものであるが、もとより通常の譲渡と同視すべきでなく、財産権の従前の主体の死亡により新たな帰属主体を定める点において相続に準じて考えるべきであるから、その場合には賃貸人の承諾を要しないで、国は賃貸人に対し賃借権の国庫帰属を主張することができるとされます。

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相続財産管理人の国庫帰属財産事務・・・

国有財産法2条1項の財産とは、①不動産、②船舶及び航空機、③①及び②の従物、④地上権、地役権、鉱業権その他これに準ずる権利、⑤著作権、⑥株券、社債券、新株引受権証券、地方債証券、投資信託受益証券、外国又は外国法人が発行する証券でこれらに準ずるもの並びに出資による権利をいいます。

(国有財産の範囲)
国有財産法第2条 この法律において国有財産とは、国の負担において国有となつた財産又は法令の規定により、若しくは寄附により国有となつた財産であつて次に掲げるものをいう。
1.不動産
2.船舶、浮標、浮桟橋及び浮ドック並びに航空機
3.前2号に掲げる不動産及び動産の従物
4.地上権、地役権、鉱業権その他これらに準ずる権利
5.特許権、著作権、商標権、実用新案権その他これらに準ずる権利
6.株式、新株予約権、社債(特別の法律により法人の発行する債券に表示されるべき権利を含み、短期社債等を除く。)、地方債、信託の受益権及びこれらに準ずるもの並びに出資による権利(国が資金又は積立金の運用及びこれに準ずる目的のために臨時に所有するものを除く。)
2 前項第6号の「短期社債等」とは、次に掲げるものをいう。
1.社債、株式等の振替に関する法律(平成13年法律第75号)第66条第1号に規定する短期社債
2.投資信託及び投資法人に関する法律(昭和26年法律第198号)第139条の12第1項に規定する短期投資法人債
3.信用金庫法(昭和26年法律第238号)第54条の4第1項に規定する短期債
4.保険業法(平成7年法律第105号)第61条の10第1項に規定する短期社債
5.資産の流動化に関する法律(平成10年法律第105号)第2条第8項に規定する特定短期社債
6.農林中央金庫法(平成13年法律第93号)第62条の2第1項に規定する短期農林債

これらの財産については、管理人が当該財産の所在、種類、数量、価格及び引継事由と参考事項を記載した引継書を作成し、所轄の財務局長に引き継ぎます。

⑦国債も原則としてこれに準じます。

国有財産法2条1項に定める動産に該当しない動産は、管理人の報告に基づき、家事審判官が家庭裁判所の物品管理官に対して国庫帰属通知をします。

相続人不存在の場合における国庫帰属財産については物品管理法の適用がなく、その管理については各省の長が定めることとされています。

現金は、家事審判官の国庫帰属通知に基づき歳入徴収官の発行する納入告知書によって、管理人が歳入納付します。

郵便貯金は、現金が国庫に帰属した場合に準じ、便宜、歳入徴収官が払い戻して歳入に編入するとされていますが、実際には、管理人が払い戻して歳入納付する取り扱いがされています。

預金も同様です。

特許権、商標権、実用新案権、意匠権は、民法958条の期間内に相続人である権利を主張する者がないときは、消滅します。

(相続人の捜索の公告)
民法第958条 前条第1項の期間の満了後、なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、相続財産の管理人又は検察官の請求によって、相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、6箇月を下ることができない。

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