質権の流質契約・・・
被担保債権について、債務者が弁済期に債務の弁済を行わないときは、質権者はその質権を実行することができます。
質権の実行は、民事執行法の規定によるのが原則ですが、質権については質権の種類により、特別な方法として、動産質における裁判所に請求して鑑定人の評価によって質物を弁済に充当する簡易な換価方法とか、債権質における質入債権の利息や債権そのものの取立てによる弁済充当などがあります。
問題になるのは、流質契約です。
流質契約というのは、質権設定契約又は債務の弁済期前の契約において、もし債務者が弁済期に債務の弁済をしないときは質権者に質物の所有権を取得せしめるとか、あるいは、その他法律に定める方法によることなく質物を処分させるという約定のことです。
しかし、民法では流質契約を無効としています。
(契約による質物の処分の禁止)
民法第349条 質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。
質権者は、被担保債権の額より高価な質物をとる流質契約をすると、債務者が被害を被るからです。
ただし、商行為によって生じた債権を担保するために設定された質権については、この流質契約は許されています。
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抵当権と代物弁済予約・・・
抵当権を設定する際に、同じ当事者間で、同じ目的物件につき、抵当権の設定と併せて代物弁済予約又は停止条件付代物弁済契約を結び、その仮登記をしておくことがあります。
代物弁済の予約というのは、債務者が弁済の期限が到来しても債務の弁済をしないとき、債権者が担保提供者との契約であらかじめ定めていた特定の物につき、予約を完結せしめて、これを代物弁済として取得しうる契約のことをいいます。
また、停止条件付代物弁済契約とは債務者が履行期に債務の弁済をなさないときには、それで条件が成就し、目的となっている特定の物が当然に債権者に帰属することとなる契約のことをいいます。
不動産について代物弁済の予約が結ばれた場合には、代物弁済の予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記が行われます。
そうしておけば、債権者において代物弁済によってその不動産の所有権を取得したときに本登記することにより、本登記の順位は仮登記の順位によるものとされます。
代物弁済そのものは、弁済の仕方について契約であって、債権担保の目的をもっているものではありません。
債権者、債務者間であらかじめ、債務者において将来、債務の弁済ができない場合には不動産などある物件を給付するという合意をし、代物弁済の予約をしておくことによって、債権者が弁済しないときに予約を完結する意思表示をし、その物件を取得するという流れから、債権の担保としての作用を果たします。
債権者が同一の物件について抵当権の設定をすると同時に、併せて代物弁済の予約をするのかは、担保不動産の状況や予想される売却価額等の事情を考えて、担保実行の際に抵当権の実行か代物弁済予約の完結による担保物の取得かを選択できるようにしているのです。
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仮登記担保契約書書式・・・
仮登記担保契約書
債権者株式会社山田工業を甲、債務者田中商会株式会社を乙とし、甲乙は以下の内容による契約を締結する。
第1条 乙は甲に対し、甲乙間の平成**年**月**日付金銭消費貸借契約に基づき、下記の債務(以下「本件債務」という。)を負担していることを確認する。
記
(1)元本 金***円
(2)利息 年**% 当月分を毎月末日支払い
(3)遅延損害金 年**%
(4)弁済期 平成**年**月**日(甲の本社に持参又は送金)
第2条 乙は甲に対し、本件債務を弁済期に弁済できないときには代物弁済としてその所有する末尾記載の物件(以下「本件物件」という。)の所有権を甲に移転することを予約し、甲はこれを承諾した。
第3条 乙は甲のために、直ちに本件物件につき、前条の代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記をするものとし、登記手続に要する費用は、乙が負担する。
第4条 乙は将来本件物件につき滅失、毀損があったことを理由に甲から増担保又は代り担保の提供を求められたときは、これに応じなければならない。
第5条 乙は本件物件を善良なる管理者の注意をもって使用、管理し、甲の承諾なしに本件物件を他に譲渡し、本件物件への質権、抵当権、仮登記担保権その他担保権の設定若しくは賃借権の設定等本件物件の権利関係に新たな変動を生じさせることとなる行為は一切行わない。
第6条 乙が第1条の債務を履行せず、甲が本件物件の所有権を取得しようとするときは、甲は乙に対し代物弁済を求める意思表示を下記事項を記載した配達証明付内容証明郵便で表示することによって完結する。
(1)通知が乙に到達した日から2ヶ月の期間(以下「清算期間」という。)を経過する時の見積価額
(2)前号の時の債権(元本、利息及び遅延損害金)並びに乙が負担すべき費用で甲が乙に負担すべき費用で甲が乙に代って負担したもの(以下「本件債務等」と総称する。)の額
(3)1号の見積額が本件債務等の額を超えるときは、乙に支払うべき清算金の見積額
第7条 清算期間内に乙が甲に対し、本件債務等を弁済したときは、甲は乙に対し第3条の所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続をする。その登記費用は、乙の負担とする。
第8条 乙が清算期間内に本件債務等の弁済をしなかったときは、乙は甲に対し、直ちに本件物件を引渡し、第3条の仮登記の所有権移転本登記手続をする。その登記手続費用は、乙の負担とする。
二 前項の場合、清算期間経過時の本件物件の時価が本件債務等の金額を超過するときは、甲は乙に対し本件物件の引渡し及び前条の本登記を受けるのと引換に清算金を支払う。
三 第1項の場合、清算期間経過時の本件物件の時価が本件債務等の金額に満たないときは、乙は甲に対し、直ちにその不足額を支払わなければならない。
(物件の表示)
略
この契約の成立を証するため、本契約書2通を作成し、甲乙各1通を所持する。
平成**年**月**日
債権者(甲)東京都*********
株式会社山田工業
代表取締役 山田太郎 印
債務者兼担保設定者
(乙)東京都*********
代表取締役 田中五郎 印
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